シリアスは似合わないかも
この家の状況だけ見ると、ケニーが保護者なのかな。
けどな、わかっていると思うけどお前だけが下げても意味がないんだよ。
「ケニー、判っていると思いますが、これはあなただけの問題ではありません。それはわかりますよね?」
ケニーは何も言わずに、ただ頭を下げ続けている。
この無言こそが肯定の証だ。
確かにケニーは無愛想で無鉄砲だ。
しかし、それでも冒険者ギルドで真っ当に依頼を受け、そして報酬を貰っていた。
「トニーだっけ? 君は兄のこの姿を見て何を思う?」
無言でケニーを見つめている。
何を思っているかはわからない。
けど、子悪党で終わって欲しく無いのは確かだ。
「ご……」
ご?
「ごめんなさい! 嘘をついてました。この姉ちゃんから盗んだ物でした!」
うん。
その言葉を待っていた。
けど、ケニーに謝るよりも俺が先じゃね?
「トニーよ、どうしてそんな嘘を?」
うん、そうだね。理由が聞きたいね。
「俺って足が速いだろ? だからこの辺りのことを知り尽くしている俺なら、こっちの方が手っ取り早いかなって……」
思いっきり駄目な方へ、向かって行ったわけか。
これはもう魔が刺したなんてレベルじゃ無いしな。
「じゃあ取り敢えず向かいましょうか」
「「?」」
ハテナじゃないでしょ。行くところなんて一つじゃないか。
「何をボサッとしているんですか、警務隊の詰所ですよ。泥棒なんですから」
「姉ちゃん頼むよ! 俺が悪かったから、勘弁してくれよ! 捕まったら一生鉱山働だ!」
何を今更必死になってるんだよ。
それが嫌なら初めから真面目に働けよ。
こら、足にしがみつくな! セクハラか!
「トニー、君は先ほど自分が言った言葉を覚えてる? 証拠を見せろと言った言葉を」
「あぁ、覚えているよ、それでナイフとか出してきたんだろ?」
「じゃあケニーが言った言葉も覚えている?」
「同じことだろ?」
違うんだよ、言った言葉の真意と重みが違うんだよ。
歳は十、二三かな? この年じゃまだわからないか。
「トニーよく聞きな? 君が言った『証拠を見せろ』は、自分が逃れたいばかりに言った言葉だ。けど、ケニーが言った『証拠を示せ』は、トニー……『君が盗んだのでは無い事を最後まで信じたい』と言う願いを込めて言った言葉だ」
「え?」
ようやく判ったか。
ケニー、君は兄の思いを踏みにじったんだよ。
「それとケニー、貴方は以前私と巡回警備した時、泥棒がトニーかもと思ってわざと私を路地に迷わせ、見失ったフリをしましたね?」
「あぁ……そうだ。それも済まないと思っている」
この兄弟は……。
その時に問い正してちゃんと諫めてくれれば、こんな事態にはならないと言うのに。
過ぎたことはいい。さて、本格的にどうしてくれよう……?
俺には何も権限は無い。このまま警備隊の詰め所に連れて行っても後味悪いだけなのも確か。
いや、無くてもいいのか。
「二人とも、現在の所持金は?」
「あったら、こんなことしねーよ……」
それもそうだ。
なら次に聞くのは余罪か。
「今までどれだけ泥棒したのか全て教えてください」
「聞いてどうするんだよ?」
警備隊まがいの事をしているから不審にもなるか。
「トニー、君に更生の余地があるのか確認するためよ。私は警備隊じゃないから君を裁くことはできない。けどこのまま詰所へ突き出したところで、また同じ過ちを繰り返すと思ってる。それは絶対に駄目だよ」
とりあえず、俺が今何をしたいのか、そして何を思っているのかをトニーにぶつけて見た。
これをぶつけた真意は、ケニーを見たときの眼差しが、まだ腐りきっていなかったためだ。
これがもし腐りきっていたら、あの場面でまだ白を切り通していただろう。
「君はまだ戻って来れると……私は信じている」
トニーがじっと俺を見つめる。
ケニーのきつ目な目に対してトニーは優しい感じだ。十年後には周りの女の子が放って置かないだろうな。
長いのか短いのか、感覚が狂うくらいジッと見つめられたあとふとトニーが言葉を漏らす。
「十回、これ以上は絶対にやっていない。それと主に狙ったのは、買い物した奴の食料品で総額は大体三万前後だ。これに嘘は無いよ……」
「そっか、ありがとう」
これ以上の叱責は要らないだろう。
全て自白してくれた。今はそれだけでいいんだよ。
「ケニー立って。まずはこれを飲んで」
そう言ってポーチから回復ポーション出して渡す。
そこいらに売っている、普通のだ。
「いいのか? 貰っても返す物がないぞ?」
「出かけるのに、満足に歩けないんじゃ駄目でしょ」
「出かける? どこへ?」
それは行ってからのお楽しみだ。
まぁ悪い様にはしないよ。
今回は短めに切りました。
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