メリッサ最強伝説……
「おかわり!」
初めに言おう、やけ食いである。
今日は朝からお上さんの爆弾発言から始まって、ソラグとの気不味い空気や自分の自惚れ発言、そしてここに来て、言わされたとはいえ、恥ずかしい台詞をメリッサに聞かれる始末。
事情を知ったメリッサにマスター室に入れてもらい、慰めにケーキ用意されて食べたが、だんだん腹が立ってきて五個目を用意してもらった所だ。
「はい、瑞樹さん。次はチーズケーキですよ」
そう言ってメリッサが次々と用意してくれる。
いいね。甘過ぎず、口の中で解ける様な味わい。さっきから随分高そうなのばかり出ているけど、どうなってるの?
「ギルマスが応接用で出されるものなんですけど、今日は好きなだけ食べてください。費用は全てギルマスが出して下さるので」
「そんなぁ……メリッサちゃん、あんまりじゃよぉ……」
「おやデンちゃん。さっきのセクハラ発言を、ケーキで水に流そうと言う瑞樹さんの心優しい提案があんまりと言うのですか? 本来なら更迭もしくは左遷となる所を、ケーキと言う温情で済まそうと言うのです。終わるまで黙ってそこで座っていてください、デンちゃん」
「そんな怖い声で言われても……」
自分の半分も生きていない女の子に、床に正座させられているギルマス。
凄くシュールな光景だ。
「あぁ因みに、デッドラビットの追加報酬も、ギルマスの給料から引かせて頂きますので」
「うそん……」
メリッサって怒らせると怖いな……俺も気をつけないと。
そう思いながら出された紅茶で喉を潤し、一息付いてメリッサにお礼を述べた。
「メリッサさん、もう大丈夫ですよ。まだ報告も終わっていないので、そろそろ進めようかと思うのですが」
「瑞樹さんがそう言うのなら、でももし何かあればすぐに言ってくださいね。すぐに駆け付けますから」
そう言うと、マスターを床から席に戻させてメリッサも記録簿の準備を始めた。
メリッサはひょっとして裏のマスターじゃなかろうか……。
「さて、こちらも話すことが幾つかあるのじゃが、まずはそっちの報告を聞こうかの」
まぁそっちの案件は予想出来るから、まずは俺からだ。
「ギルマスは、ホーンラビットはどこを生息地としているかわかりますか?」
「今回、瑞樹ちゃんが行った依頼かの? あれは普段は近くの林や地面に穴を掘って暮らしているんじゃろ。普通のウサギと変わらんの」
俺もその意見で間違い無いと思う。
「じゃあデッドラビットは?」
「あやつらはそこいらの林とかじゃ無理じゃの。亜種なだけに、瘴気が濃いところじゃないと生きて行けん体質じゃからのう」
それも同じく同意だ。
けど、今回の依頼にデッドラビットが現れた。
しかも近くの林には瘴気を溜め込むような淀んだ林ではなかったはず。
更に言えば、大森林は今回の農場とはほぼ間反対で遠い。
瘴気が濃いところじゃないと生きていけないデッドラビットには、到底無理なはずだ。
数日で、死ぬことだってある。
「けど、現れたんじゃろう?」
「しかもホーンラビットを十体ほど先導してきました」
その時の状況を事細かく説明すると、ギルマスは唸り始めた。
きっとこの間の事件との関連性があるか考えているんだろう。
「瑞樹ちゃんは今回のはこの間のと関係あると思うかの?」
やはり俺に振ってきたか。
けど、流石にこれだけじゃ判断材料に困る。
だから。
「それを聞く前に、ギルマスが依頼した、集落の調査以来の結果を伺いたいのですが」
「ほほっ、さすがじゃのう瑞樹ちゃん」
何が流石なのかわからないが、普通に考えるなら関連性は薄いかもしれない。
それに、関連付けるには材料が足りなさすぎる。
「そうじゃのう、結論から言えば、真っ黒じゃの。理由は二つ、一つ目はさらわれた娘たちじゃがの、聞けば初めは人に拐われたと言っておった。その後目隠しをされて、気づけばオークたちに囲まれていたらしいのじゃ。それで一方の話し方が片言だった事から、恐らく瑞樹ちゃんが聞いたオークキングじゃろうな」
人に拐われたのに、オークに手渡された?
人と魔物が繋がっている? どう言う事だ?
「そして二つ目じゃが、これが決定的での。オークの集落の建物の一つに転移魔法陣があった」
「転移魔法陣? って移動できる魔法? それって」
「あれは、ダンジョンとかでトラップや、まれに階層移動できるものがあるのじゃが、基本的に失われた技術としてそこに残っているだけじゃ」
それをオークが作った?
あいつらにそんな知性があるとは思えない。
となるとじゃあ誰がって話になるな。
「瑞樹ちゃんの言いたいことはわかる。あれを作ったのは恐らく南方に位置する国、『リザイン帝国』じゃな」
リザイン帝国。
確か初めてマルトに会った時に聞いたっけ。
確か魔法の開発に熱心な国だとか。
「転移魔法陣の開発に成功したと?」
「暫定的なものの見方をすればそうじゃな」
大森林を越えて遥か向こうの国がこんな所まで何の実験だ?
まさか侵略の足掛かりか?
「して、どう見る?」
「穿った見方をするなら、関連性ありですね。 魔物を使役して指揮系統を作ると言った意味で考えれば、その種の上位種を使役するのは有効だと考えます」
けど、これも当然、どうやって? と言う疑問に行き着く。
「そこは帝国に乗り込んでも、わからんことじゃろうな」
だろうね、流石に機密事項だろう。
今回の関連付けで、何か見えて来ればと思ったんだけどな。
仮に集落の転移魔法陣で攻めたとしても、このハルトナの街とリザイン帝国の間にはもう一つ大きな街が間にある。
こっちが防衛に回っている間に挟撃に遭うだろうな。
「まぁもう少し判断材料が欲しい所じゃからのう。集落には引き続き偵察を張り付かせておるわい」
あぁそうか。まだ転移魔法陣があるなら、誰かしら来るって可能性があるのか。
そこから出てきた奴ら次第で方針も固まるってことか。
「わかりました、まぁその辺りはギルマスのお仕事ですしね。私が口を挟む事じゃないので」
「急に突き放してきたのう。心配せんでもあまり瑞樹ちゃんに迷惑はかけんぞい」
よく言うよなぁ……。
街に来て直ぐの人間に、重要な案件を振ってくるって普通しないと思うぞ?
「もう少ししたら、領主の指名依頼から戻ってくるランク『S』パーティが戻ってくるからのう」
おぉそれが戻ってきたら、俺もお役御免だな。
そしたら俺ものんびりと過ごせそうだな。
「あと、瑞樹ちゃんにはこれを渡さんとのう」
そう言ってテーブルの上に出されたものを見て納得した。
「家の候補ですね、見させてもらいますね」
そう言って外観のイラストと間取りと場所が記載されている紙を手に取る。
何々? 30LDK庭付き領主館から徒歩一分。次、15LDK庭付き領主館から徒歩五分。次……10LDK庭付き領主館から徒歩十分。
「何か、領主館から程近くて豪邸ばかりなんですけど?」
「選んだのが領主じゃからのう」
何でやねん!
庭付きなのは嬉しいけど、俺は冒険者なんだからもう少し小さくていんだよ。
しかも、貴族様に囲まれた家に住めというのか!
「ちなみにまともなのはこっちじゃ」
あるなら初めから出せ!
「さすがに領主が選んだのを初めに出さんとのう。それを瑞樹ちゃんが候補から外したと言う体が欲しかったんじゃよ」
まぁそう言う事ならしょうがないか。
流石にこっちはまともだな。
5LDKで庭付き市場から五分、いいね。7LDKで庭は無いけどギルドの直ぐ近くだな。7LDKで庭付きで問屋街に近くて、ついでに言えばマリンの武器屋にも近い。
ここが良いかな。
「これにします」
俺は最後の候補のやつをギルマスに渡す。
これでも部屋が多いくらいだけど、市場や問屋、ギルドからもそんなに離れていないと言う好立地なだけに、多少の事は目を瞑ろう。
「じゃあここの手続きを進めるからの。住めるようになったらまた連絡するわい」
取り敢えず今回の面会はこんなもんかな。
気が付くと外は陽が傾いて一階の食堂も賑わい始めていた。
「ではよろしくお願いします」
「ふむ、瑞樹ちゃんは読みが良いんじゃろうが、トラブルを呼び寄せるのかのう?」
そう言ってギルマスは俺が出て行った後に、選ばれた物件の書類を眺めた。
俺のいないところでまたトラブルの種が芽を出しそうだ。
読んでくださりありがとうございます。
いつか誰か誰かが面白いレビューを書いてくれることを願いますw




