エレンの世界
適当に投下しま〜す
俺が地上へ『落ちる』少し前。
「クソッ数が多い!」
「おやっさん、馬車を走らせて先に逃げてくれ!」
「いや、荷物が重い。それにこの数じゃすぐ追いつかれる」
街道から少し外れたところに荷物を積んだ馬車と、それを守る様に四人の冒険者が狼の集団の前に立ち塞がっていた。
普段の冒険者稼業がどうかは知らないが、馬車を守りながらだと不利だろう。
と言う状況を、俺は転移された上空から見ていた。
転移先が空とか適当だが、まぁ海や土の中とかよりはマシなのか。
「ピンチなのは間違い無いか」
そう思うとまずは一番最後尾の狼に狙いを定め、背中の上に着地する。
スカートが少し短めなのが気になるが、突然の事だから誰も見てないだろう。
ブーツ越しに背骨の折れる嫌な感触が伝わる。
しかし、そこは気にせず声をかける。
大事なのは第一印象だ。
「援護いりますか?」
努めて笑顔で言ったのに反応が皆無だ。
冒険者や御者、それどころか狼までこっちを見ながら固まっている。
俺の笑顔におかしなところあったのか?
「お、おう! 援護な、援護! 是非頼む!」
やっと正気に戻った冒険者のリーダーらしき男が、援護を申し出た。
「わかった」とばかりに俺も、近くの狼に斬りかかる。
結構切れ味いいな。
武神ガレルから貰った武器は片刃剣。所謂『日本刀』と言うやつだ。
片っ端から切り倒し、気づけば魔法を使う事なく一人で半数を倒していた。
そして、俺と言う思わぬ奇襲を喰らった狼はパニックを起こし、ロクな反撃もできないまま退治されてしまった。
うん、思った以上に体も動くな。そりゃそう…………か、元の体が二十数年に対し、この体で百年も一緒にいるんだもんな……。
「おう、助かったぜ! ってどうした? 怪我でもしたか?」
思わぬ事実に膝を落とし涙を流していると、後ろから声がかかった。
気を取り直して声の主に向き直ると、俺の姿を見て口笛を吹いた。
「こんな美人のお嬢ちゃんに助けて貰うとは、俺らの運もまだまだ尽きてはいないって事だな! 俺の名はベリットってんだ。おーい、全員来てくれ!」
そう言うと、ベリットは狼の処理をしているメンバーを集めてくれた。
「【盾屋】のガリュウだ」
「【弓手】のユミルよ」
「【癒手】のマルトです。危ない所をありがとうございます」
「俺……じゃ無くて私は、瑞樹と言います」
一人ずつ挨拶を交わして行くが、概ね第一印象は悪くなかった様だ。
そして、私って言う俺もキモイわ。
「で、どうやって上から降ってきたのよ?」
だよね〜〜。
聞くよね〜〜。
さてどうしよう、ここがファンタジーな世界なら……。
「えっと……遺跡探索で変な魔法が発動して、ここへ飛ばされちゃって…………」
苦しいか⁉︎
「なる程、瑞樹は探索依頼の途中だったのか」
「そうです。で、ここがどこかも判らず、荷物もほぼ無いので、出来れば近くの街までご一緒できればと……」
嘘ついてごめんなさい。
本当は初めから無一文です。
「初めまして。今から行く街の商人のモールと申します。危ない所をありがとうございます。そう言う事なら是非ご同行ください。」
よし、馬車ゲット!
初異世界人とのファーストコンタクトはまずまずだ。
けど、ほぼ手ぶらだから、先ずは当面の住む所と仕事を探さないとな。
「瑞樹は随分幼い様だけど幾つなん?」
「い、いきなり不躾ですね……て言うか幼い?」
道中、ユミルが随分突っ込んだ質問をしてくる。
胸はそこそこあるが、身長はベリット達のパーティー全員と比べても一番低いか。
それでも百五十センチ以上はあると思うが。
「どう見ても成人したかどうかって所ね。と言うことは十五くらい?」
「お察しの通りです」
その位でどうか察して下さい!
これ以上は苦しいんだって!
「ユミル、それ以上は失礼だよ。瑞樹さんごめんね」
「いえいえ」
マルト、ナイス!
「皆さん、もう少しで着きますよ。」
その声で前方を見た俺の目には、巨大な防壁が並ぶコッテコテのファンタジーな街だった。
「大きいだろ、これでも地方都市なんだぜ?」
ごめん、比較対象がないから判らん。
それでも俺が言葉を失って眺めていると、あっという間に防壁まで辿り着いてしまった。
「ようこそ、ハルトナへ」




