リスタのこと
「リスタの事が知りたい?」
「えぇ、あと数日で当日を迎えるのに当たって、相手の性格などを知れば対策も練れるかと思いまして」
「なるほど……」
候補者の一人であるリスタのことを知るのに一番警戒なく探れるのは、やはりフィールデンしかいないだろう。
腹違いとはいえ曲がりなりにも兄弟ではあるし、同じ学園にも通っているのなら人となりくらいはわかっているものだと思っていた。のだけど、帰ってきた答えは予想外のものだった。
「僕としても渡せる情報があるのなら色々と教えてあげたいんだけど、生憎ほとんど知らないんだよね」
「……」
この返答には俺も絶句するしかなかった。
フィールデンが言うには、幼少期にエギルとで中庭で剣術の稽古をしていた記憶があるのだが、リスタはその傍でいつも本を読んでいたらしい。
そこから大きくなるにつれ接触が減り、エギルとはたまに会えば段々と横柄な態度になり。逆にリスタとは会っても当たり障りのない会話をいくつか交わすだけの状態になり、現在の形になったそうだ。
「ごめんね。何か有益な情報があれば良かったんだけど」
「いえ、そんな事はございません。今の会話だけでもわかった事はありますので」
「今ので何かわかったのか、凄いね」
わかったのは、リスタには直接的な戦闘力がほとんどないって事くらいだ。これでも対策が練れないってわけじゃないけど、もっと有益な情報が欲しいところだ。
ならばと次に足を運んだのは隣の部屋に控えていたアレイアの元へ向かった。
「お茶をどうぞ。話しは聞こえていました。リスタ殿下の事ですね?」
フィールデンの部屋の隣に位置する使用人の控え室にて、お茶を出しながらゆっくりとアレイアが答えた。彼女の耳がいいのかそれとも部屋の壁が薄いのかわからないけど、質問する手間が省けたのは丁度いい。
「うん。人となりとか、特技とかわかる事なら何でもいいんだけど……」
「そうですね、これはあくまで予想の範囲の話しなのですが。先日の夜襲の件はリスタ殿下が企てた可能性があります」
「……は?」
「いえ、先日の件のみだけではないですね。恐らくここ王都に来てからの一連の出来事にはリスタ殿下が絡んでいると思います」
何か少しでもいいから情報が手に入ればと思ってたら、とんでもなく衝撃的な回答が返ってきたぞ。
本当にいきなり過ぎて理解が追いつかない俺は、眉間を押さえながら頭の中で今までの事を整理し始めた。
えっと、一番初めはカナンに連れられて王都に来てから裏路地で絡まれたろ? それと後宮でサモンらと一悶着あったな。それに貧民街に呼び出されて暗部っぽい奴らに襲撃されたっけ。その後に夜襲を受けたその翌朝に、エギルの護衛に突っかかられたな。それら全部がリスタが絡んでいるって事か?
あ、何かやたらとギャルゲーの学園イベントっぽいのもあったけど、あれもそうなのか? いくら何でもあれは関係なさそうだけどな。
やっと頭の整理が一区切り着きそうなタイミングで、待っていましたとばかりにアレイアがその根拠になりそうな説明を始めてくれた。
「恐らくですが、リスタ殿下の特技は情報収集とその操作、そして人心掌握です」
「人心掌握?」
「人心掌握と言えば聞こえはいいですが、要は言葉巧みに人を操る事に長けていると言う事ですね」
なるほど、そう考えるとフィールデンの護衛やエギルの護衛が俺に突っかかってきたのも、リスタが裏で手を引いていた可能性もあるって事か。
「これが実はエギル殿下の仕業ってことは?」
「彼の方がそんな器用な方に見えますか?」
「……」
見えんわな。ここへ来て一週間かそこらの俺でも見ればわかる。
エギルはそんな器用な男じゃない。裏で画策するより、気に入らない奴を正面から蹴飛ばすような男だ。ある意味一番父親に似た男だろう。
「となると、やっぱりリスタ殿下って事になるのか。何故こんな事をって……って考えるまでもない事か……」
「そうですね。やはり決闘日にあたって、戦力を削ぐためでしょう。ですが、こちらの被害はほとんど無いですけどね」
確かに。あったと言えば、出会った当初にサモンとその一味が暴走したくらいか。
どうやって近づいたのかはわからないけど、選民思想が強かったサモンがそれにつけ入れられた形になったんだろうとは予想がつく。
「これで、これはセレナ様と私との会話での事なのですが……」
目線を逸らして、アレイアが随分と言いにくそうにしている。普段から強気な彼女にしては珍しい仕草だ。年は二十歳そこそこくらいだろうか、強気な彼女が見せる仕草としてはすごく可愛らしく見える。
そんな彼女が意を決して発した言葉といえば。
「セレナ様が、『結局、最後に立っているのが瑞樹なのだから問題ないわよ。あの場は道理を折ってでも無理が通る場所なのだから』だそうです……」
出されたお茶は程よい渋みでいい感じだったはずなのに、今はとても苦々しく感じる。きっと今の俺の表情は、言葉にしにくいだろうな。
何せ俺の正面にいるアレイアも多少の申し訳なさは感じているはずだけど、『何とかなりそうですね』と言わんばかりの表情だ。
「言っておきますが、私は自分の力で我儘を押し通したことはありませんからね?」
「重々わかっております」
本当かなぁ?




