もう少しで
「そうか……ありがとうアルジェ」
「いえ、この位お安いご用。しかし、全てを完璧にとはいかなかったもの事実です」
「いや、そっちは可能ならと言う程度だから。ワイズを連れ出せたなら完遂だよ。ご苦労さま」
長いアルジェの説明を聞くと、俺は深く長いため息を漏らした。
それは、俺の予想が少なからず当たってしまったからというものだったからだ。
一年前のオニルタン戦線のもう少し前、リザイン帝国の帝城へ入りあの研究施設に入った経験があり、奴らの実験の惨状を目の当たりにした事があるからだ。結果、ワイズも実験台にされてしまったいた。
そして、更に気になる事も出てきた。ワイズが異形化してしまったと言うのもそうだが、帝都で世話になったナオの父親が見つからなかったと言う事だ。あの時檻に入っていたナオの父親がいない。
一応僅かに残った特徴を書いて渡したけど、どうやら合致する人物は見当たらなかったようだ。ひょっとしたら、もっとひどい状態になっていて、他の異形と見分けがつけれなかったか。それとも、連れ出されて他の場所で実験を繰り返されているのか。それとももう……。
「瑞樹……大丈夫ですか?」
最悪のパターンを想像してしまい、それを掻き消すように頭を振る様子を見てアルジェが覗き込む。どうやら不安が顔に出てしまっていたようだ。
「いや、大丈夫だよ」
ナオには申し訳ないが、ここはワイズを救出しただけでも良しとしないと。
それに、アルジェが資料を持ち出してくれたおかげで、エンガイア王国で解毒剤を作れないか研究してくれるそうだ。なら俺ができることは、待つことだけだ。
いや、違うな。俺の目標はハルトナに帰る事だ。通信玉で皆の顔を見れたとは言え、やはり直に会って再会を分かち合いたい。それに、今はまだ忙しいのか領主であるメルにも会えてないしな。
「さて、アルジェ。これで一つ大きな山は越えた。次は数日後にやって来る義兄弟喧嘩だ」
そう、実はあと数日で新たなバレジア国の王を決める決闘が始まるのだ。何せフェルダス五世が勝つ気満々で攻め込んで来て負けた挙句、戦死してしまったのだ。
まだまだ現役を続ける気だったのは、当時戦場で見たフェルダス五世の口ぶりや振る舞いを見ても明らかだった。
そんなバレジア国王がまさか戦死したんだから、王族のみならず王宮内は大混乱だっただろう。その証拠に、今回やっと次の国王が決まろうとしているんだ。
「王族以外に護衛が一緒に出て来るんですよね?」
「そうだね、自分の家臣なら何人かは一緒に出れるね。だからこそ私が選ばれたって事なんだろうけど」
「ならその時に瑞樹か私が皆殺しにすれば良いので?」
何でだ、そうはならんだろ。さすがに他の王子たちも殺すことまでは考えてないと思うぞ。
でないと、乗っけから『血塗れ王子』やら『鮮血王子』なんて不名誉なあだ名を付けられかねないさ。
「その必要はないよ。必要があれば召喚するし、それまでは自由行動でいいから」
自分の実力を過信するつもりは無いけど、他の候補者の周囲の護衛たちの実力からすると俺一人で十分勝てる連中だ。
もしあるとすれば、奴らが結託して一斉に俺に向かって来る事だ。ぶっちゃけ被害を度外視すればそれですらどうにでも出来るけど、殺さずに無力化と考えるなら少々厳しい。
そんな時こそアルジェを召喚し、フィールデンを守りながらでも何とかしてもらおうと考えている。
他力本願かと思うかも知れないが、使えるものは使えばいいと思う。
とは言え、俺としてはもう少しだけ情報が欲しい。候補者の一人であるエギルの方はある程度揃っているが、俺が欲しいのはもう一人の候補者であるリスタの情報だ。
今わかっている事は、一学年下で裏で何かコソコソしている事くらいだ。いや、情報少なくね?
フィールデンに実害がないなら暗躍されようと、決闘で蹴散らせばいいんだけど。そう言った不確定要素をなるべく排除したいからね。
取り敢えず、ここからは情報収集に勤しむとするか。




