そろそろ依頼に向かいたいんだけど?
今回はほんの少し長めです。
「二人とも、私とパーティを組もう」
二人とも固まっている。
いきなり言われたら、そうなるわな。
だからもう一度言う。
「私とパーティを組もう」
「ちょっと待って瑞樹、いきなり何の話し?」
「そうだよ瑞樹、いきなり過ぎるよ?」
二度目で覚醒した二人が、いきなり過ぎて説明を求めた。
俺もそう思う。
「二人はランク『E』に上がったよね。なら討伐依頼を受けれるって事じゃない。なら私と三人で討伐依頼に行こうよ!」
主に女神エレンの加護で、いや恩恵で、いや、ご都合主義だな。
言っても信じないだろうし、わざわざ言う必要もないから黙っておく。
二人の折角の喜びに水を刺したくないしな。
「討伐か、でも瑞樹のランクはまだ……」
「大丈夫だよ」
「もうランク『E』なの⁉︎ ずるい……」
聞かれてカードを見せたのに、文句を言われるとは。
ちょっと理不尽を感じたぞ?
「緊急依頼で頑張ったからね、それに以前から魔物は狩ってたし」
俺の言葉に、一応納得してくれた様だ。
見た目だけなら二人と変わり無いくらいの歳格好だから、一足飛びで上がった様に見られてもしょうがないか。
「わかった。俺達もランクが上がったら、実入の良い依頼を受けたいと思ってたし。そうなったら孤児院の皆にも、良いもの食わせれるだろうしな!」
「二人ともこの街で生まれ育ったの?」
「あぁ、俺は孤児院でマリンは……」
「私は孤児院じゃ無いけど、父は鍛冶屋やってます」
なる程、アレンはわかったけど、鍛冶屋の娘のマリンがなぜ冒険者を?
「鍛治の才能無いから。せめて、毎日火傷や怪我をする父の為にと思って薬草を摘んでたんだけど……今じゃ冒険者の才能があるんじゃ無いかってね」
人の数だけ事情があるって奴か。
才能があるないはこれから見ていけば良いし、今日は軽くでいいか。
「わかった。とりあえず、今日のところは街の周辺でやれる奴を探そうか」
そう言って、掲示板に貼り出されている依頼書を一通り眺める。
流石にこの時間帯だと、残り物ばかりでロクなものがない。
けど俺らはまだ下位ランク冒険者。ぶっちゃけ街の周辺の依頼なら、どんなのでも構わないと思っている。
「瑞樹、これなんてどう?」
マリンから手渡されたのは、ホーンラビットの討伐。
街から離れた農場で作物が荒らされると言う事案があり、目撃者の証言だと犯人はホーンラビットだ。
体長は角まで合わせて約五十センチと比較的大きく、油断すれば大怪我につながる。
活動が昼間という事だから、見張りも昼間だけでいいんだけど。
じゃあ何でこの依頼が残っているか。見張っている時間や期間の割に、報酬が少ないのがネックだ。
どうしよう、これでもこの二人の今までの日当よりは良いのかな? 何故って? 二人の目がやる気に満ちているからだ。
「瑞樹、これにしよう!」
「わかった、じゃあメリッサさんに渡しに行こうか」
ちなみにあの依頼の貼り出し日を見たら、一週間前だった。
そのせいか受付に行ったら、成功報酬が多少上乗せされていた。
依頼者の方が先に痺れを切らせたか?
「ちなみに二人の武器は?」
「私は【癒手】だよ」
そう言って、いつも持ってる杖を見せて来る。
薬草採取だろうが何だろうが、怪我をした時に回復魔法を使える人がいれば助かるしな。
「俺は【剣士】だ。武器はマリンの親父さんから中古の武器を手直しして安く譲ってもらったんだ」
なる程、確かに使い込まれた感はあるのにちゃんと手入れしてある。
「わかった。それで、二人とも戦闘経験は?」
俺が判っている範囲だと、採取の時のオークと、街の中に魔物が入り込んだ時の二回だけだ。
どちらも格上だったから参考にならないんだよな。
「ほんの数回だけだ。採取に行く途中でスライムだな。この辺りにいるスライムは体格の割に核が大きめで狙いやすいし、動きも速くないから雑魚の分類だ」
草原の草をゆっくり溶かして食べるだけだから、ダンジョン産のより弱いって事か。
「私もアレンと同じだね。その時アレンが傷ついたのを治したりしたから」
うーん、戦闘経験はスライムだけか。
格上相手に逃げない度胸があるから戦闘に向いていないって事はないと思うけど、今回の相手は多分すばしっこいんだよな。
「二人とも、依頼先に行く前に武器屋に行こうか」
折角だし、マリンのお父さんのお店に案内してもらおう。
欲しい物はどこの武器屋でも売っている物だけど、どうせなら友達の家の売り上げに貢献しようじゃないか。
「ここだよ!」
そう言って向かった店は、大通りから一本外れた場所に建っていた。
店自体はそんなに大きくないけど、何ていうか老舗って感じで入り難い雰囲気があるな。
「ただいま〜!」
「お邪魔します!」
あぁ二人は慣れてるから、いとも簡単に入っていくんだ。
俺の様な新参はこう言う門構えされると、入り辛いんだよ。
「瑞樹も入って〜」
はいはい行きますとも。と言うか俺が連れて行けって言ったんだし、君ら何買うか判らんでしょう?
「あれ、マリン? アレン君も。今日はもう終わりなの?」
「いえ、ちょっと寄り道です」
「お母さん、紹介するね。この人が、この間話してた瑞樹だよ」
「初めまして、瑞樹と言います。マリンとアレンの三人で討伐依頼へ向かう前に寄らせてもらいました」
長身の美人が、カウンターの向こうから現れ、俺の顔をまじまじと見てきた。
この人がマリンのお母さんか。
「ふむふむ、君が瑞樹ちゃんだね? 家の娘を助けてくれてありがとね」
あまりにもまじまじ見るから、自然と俺は頭を下げてしまった。
これ、日本人特有の性じゃなかろうか?
「今も凄い可愛いけど、これは将来も期待できるね」
美人のあんたに言われてもね。
「改めてありがとう、マリンの母のエリンよ。って事は、アレン君とマリンはランク『E』になったって事かい?」
「「はい!」」
「そっか、それで何の依頼なの?」
「ホーンラビットで二人のダガーを……」
エリンに今回の依頼の内容を簡潔に話すと、「それはダガーが要るね」と苦笑いされた。
エリンにまで同意されて、不思議に思ったアレンが俺に聞いてきた。
「瑞樹、何でダガーが必要なんだ? しかもマリンまで」
そっか、説明してなかったな。これはうっかりだ。
ならアレンは実際にやってみるといいかも。
「アレン、そこの広い場所で、自分の剣を振ってみて」
俺はそう言って、アレンに剣を振らせる。
ブォンと音が鳴るけど正直速くない。余計な力が入っているせいもあるけど、まだまだ要修行って感じだな。
「うん、ありがとう、剣を収めて。今回の依頼はホーンラビット。と、言う事は?」
「「と、言う事は……?……何?」」
うぉぃ
「今回、その剣は邪魔になるって事さ、アレン君」
俺の言うべきセリフを、エリンに奪われた。
「アレン、今回の依頼は、農場でホーンラビット狩りだよ。正直言って、君の剣の振るう速度はそんなに速くは無い。それじゃあすばしっこいホーンラビットに当てれない。なら、選択は二つ。矢で射るか、取り回しが良く小回りの効くダガーで確実に当てに行くか」
「そっか。アレンが弓を使っているの見たことないから、自動的にダガーだね」
そう言う事だ。
もし使えるとなれば、もっと確実に仕留めれるんだけど。
まぁ三人で追い詰めれば、倒せるさ。
いざとなれば、俺がちょっとだけ頑張ればいい。
けど、なるべくあの二人にやって貰いたいけどね。
「それ以上に、そんなの振り回して農作物に当てたら、逆に買い取りでお金取られるよ」
それはと二人して顔を見合わせる。どうやら納得してくれた様だ。
「ダガーはそっちの棚に並んでるからね」
そう言ってエリンが店の一角を差す。なら早速見させてもらおう。
店の外観通りなら中も結構玄人志向だ。防具は少なめだけど、武器は一定の性能以上が揃っている。
「結構良いのありますね……」
手に取って色々見ていくけど、多分ここで打った物だろう。
良い仕事してますね〜……ごめん、一度言ってみたかっただけだから。
「ありがとう。そう言って貰えると、ウチの旦那も喜ぶよ。瑞樹ちゃん若いのに良い目利きしてるね」
ごめん、若く無いです。本当は百歳超えてます。
百年間色々積み重ねれば、それなりに目は肥えるからね。
「ありがとうございます。じゃあこれを二本と腰鞘を一緒に貰えますか? あ、やっぱりダガー三本でお願いします」
「三本?」
「えぇ、私もお揃いで欲しいので」
「なるほど、ありがとう。じゃあ鞘の方はサービスしとくね」
エリンはピンときたのか、ベルトの調整までやってくれた。
察しの良い人は好きだよ。
「さて二人に……私からランクアップのお祝いだよ。もちろん受け取ってくれるよね?」
「こ、これ結構良いダガーじゃ無いか。本当に良いのか?」
「勿論。そして、今回の依頼のメイン武器になるよ」
だから受け取ってくれ。
今回の依頼にはダガーは結構重要だ。
それに安物を買うより、良い物を長く使って欲しいのもあるけど、二人の手持ちは心許ない。
ならここは祝う気持ちを込めて、二人にプレゼントしちゃえば受け取って貰えるだろう。
「瑞樹、ありがと〜!!」
「うわぁ! マリン、わかったから離れて、苦しい!」
こら、抱きつくな!
くそう、胸があまり無いと思ったけど、結構柔らかいな。
「そう言う事なら、有り難く頂くけど。瑞樹もお揃いか? いい武器使っているから必要なさそうな気がするが」
「アレンは一言余計!」
「いてっ」
アレンよ、そう言う余分な一言は思っても言わない方がいいと思うぞ。
まぁ確かに持ってはいるけど、やっぱりお揃いって言うのが良いんじゃないか。
取り敢えず俺のフル装備を見せとくか。
「私はちゃんと持っているよ。ほら」
そう言って腰のポーチから取り出す。
修行中に手に入れた、ちょっと大きめだけど氷属性のダガーとこの間結構活躍してくれた、スローイングナイフ。
それをさっき買ったダガーと左右対称に腰鞘で留めて、スローイングナイフを太腿で留める。
「アレン見ちゃダメ! 瑞樹も油断しすぎ!」
あぁごめん少しスカートが捲れたか。
アレンには少し刺激が強かったか? 顔が赤いぞ?
今回の依頼にはこんなに装備は要らないけど、付けたことだしまぁいいよな。
「ゴメンね。じゃあそろそろ行こうか?」
「ちょっと瑞樹ちゃん待って! そ、それ、それ見せて!」
エリンが血相を変えて俺を呼び止める。
それそれって何? と思ったら腰に刺してるダガーと刀か。
いやでも、そろそろ出発したいんだけどね?
「お願い! 後生だから〜!」
この人武器マニアだったのか……。
ここに来たのは失敗だったか?
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