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ハルトナの事情

「今なんと言った?」


「お答えするのは難しいと言ったのです」


 俺がキッパリと言い放つと、通信玉の向こうの相手は頬やらこめかみやらをヒクつかせていた。

 当たり前だ。そろそろ風呂に入って寝ようかって時に何かと思えば、バレジア王国の内情を教えろってんだから舐めてやがる。


「そこを何とか……瑞樹の護衛する派閥と内情を教えて欲しいだけなんだ。それによって戦後交渉の仕方がずいぶん変わってしまうんでね」


 引き攣った笑顔で俺から何とか情報を得ようとしていたのは、何とエンガイア王国近衛騎士隊長のソレイユだった。

 俺もデンから聞かされていなかったんだけど、どうやら戦後一年以上経っても交渉日が決まらずエンガイア王国の国王も困り果てていたそうだ。

 そりゃバレジア王国内が王位継承争いしてるんだから、戦後処理の話し合いなんて二の次だよな。

 それとは対照的に、エンガイア王国側は賠償責任の話し合いをしたい。けれど最短ルートであるオニルタンからの街道は地割れで封鎖されているし、ガレット山の向こう側にあるマニルカの街からバレジア王国に入る事も出来るそうだが、迂回するのに日数がかかり過ぎてしまう。交渉の度に一々山を越えて行くのも馬鹿らしいだろう。

 だからだろうか、何とオニルタンの地割れに橋をかけてしまおうと言う事業が始まっているらしい。

 これには俺も驚いたけど、これはエンガイア王国にも利益があっての事らしい。

 そうなると後はバレジア王国との交渉だけになるが、王宮内でもどうしたものかと行き詰まってデンに愚痴を溢したところ、何と俺がバレジア王国にいると聞かされ、着の身着のままハルトナまですっ飛んできたソレイユが、デンを叩き起こしたと言うわけだ。


「いくら戦勝国と言えど、内政に口を出していいわけないですよ。前国王であるフェルダス五世が討たれた以上、交渉が出来ません。ですので、次のバレジア王国国王が決まるまではお待ちいただくしかありませんね」


 ソレイユの後ろには眠そうなデンが映っている。デンも俺と同じように休もうとしてたんだろう、普段は見せないような眉を顰めた表情が見てとれた。

 少しでも情報が欲しいって言う気持ちはわからんでもない。けれど、王都との間にある危険な森を単騎で抜けたとなると、ちょっと周りが見えなさすぎると思うぞ。


「それはわかっている。デンからも王位継承争いも佳境に入っている事も聞かされた。が、それ以上はな……」


 どうやら俺が王位継承候補の誰かの側にいることはデンから聞いているようだ。その上でデンはあえてどの派閥にいるかは伏せていた。

 って言うか、そう言った情報を軽々しく他人に話すなとデンに怒られたくらいだ。

 だからだろうか、ソレイユの口からは派閥の内部情勢や王宮内の事情なんかの詳しい話は出てこなかった。


「マイバッハ様の事情はわかりました。ですが、こちらも冒険者としての信用問題もありますので、おいそれと雇用主と周囲の事情をお話しすることはできません」


「ムッ……」


 俺が頑なに首を縦に振らないせいか、それとも以前はフランクに名前で呼んで貰えたのを仰々しく家名で呼ばれたせいか、ソレイユが一瞬だけ嫌な顔をする。

 以前は気にしなかったけど、腹芸があまり上手くないのかもしれない。それでも公爵家の娘であり、近衛騎士として王宮内でそれなりにやってきた自負からか、すぐに取り繕うと更に自身の出せる手札で俺の説得を続けた。


「実はな、こっちも悠長なことを言ってられない事情があるんだ」


「その事情を聞いて、もう一度考えてくれってことですか?」


「そうしてくれるとありがたいな」


「…………」


 本来ならそんなのは向こうの事情だから、聞く理由もない。相手の事情がどうであれ、雇用主を裏切ることはできない。

 さっきも言ったように情報が渡ったと知られたら、冒険者としての信用も落ちるしバレジア王国からスパイ容疑として指名手配すらかかるかもしれない。

 それに何より、カナンが信用して紹介してくれたのを全て潰すことになる。この世界で築いた絆を崩したくはない。

 だから、ソレイユの話を切り上げて一方的に通信玉の接続を切ればいい

けど、これを一蹴しては行けない気がする。


「…………聞きましょう」


 俺の一言に希望を見出したのか、一瞬だけ笑顔を見せるがそのまま背筋を正し説明を始めた。


「実はな、リザイン帝国がきな臭いんだ」


「あの、それって以前からですよね? それで私はベルムさんとミーリスさんと共にリザイン帝国へ調査に向かったのですから」


「あぁその事はもちろん聞いている。瑞樹がオニルタンへ向かった後、残った調査隊のうち冒険者の二人はハルトナに急遽残ることになったが、ベルムとミーリスは王都まで戻って来たんだ。そこでギルドへ報告し、こちらにも最終報告をしてもらったわけだ」


 そうだ、当初は自分の身体能力を大きく飛躍させる薬として密かに出回っていたんだけど、それと同時に行方不明者とおかしな魔物が徘徊するようになった。

 それがリザイン帝国で何かあるという事で冒険者ギルドとエンガイア王国で手を組んで調査に向かう事になったんだ。

 そして調査の結果、リザイン帝国は人間を魔物に変える薬を作り、その試作品を闇で冒険者たちに流していたと言うわけだ。

 その証拠にリザイン帝国で協力関係になったナオが帝都の城の地下で、変わり果てた父親と再会することになったんだ。


 そこまで頭の中で回想に耽るが、ある事に気づいた。


「そう言えば、ハルトナからも偵察に向かわせた冒険者からの連絡が途絶えたと聞いているのですが、それと関係は?」


 それはワイズの事だ。前回通信玉でデンやと話した後、あいつならいの一番に顔を出すと思っていたのにいなかった。それをデンに尋ねれば、再びリザイン帝国に偵察に出したはいいが予定した期日になっても戻ってきていないと言う事だった。


「関係ないとは言い難いが……それすらわからない」


「…………」


 リザイン帝国が人を魔物に変える薬を開発していたのは、俺もこの目で見てきたから疑いようもない。そして偶然とは言え、それにはバレジア王国が大きく関わってきたのも事実だ。

 なのに……。


「証拠としてサンプルも回収していましたし、オニルタンでの一件でダンクと言う男も協力している筈ですが」


「あぁ、そちらは滞りない。リザイン帝国から奪ったサンプルとダンクと言う男が持っていた薬の解析にはエンガイア王国の魔法局と言う機関が解析している」


 ふむ、途中でオニルタンへ行ってしまった手前、そう言った報告を聞くのは嬉しさと申し訳なさがあるが、俺が曖昧な表情をしているとソレイユが再び口を開いた。


「それと、ダンクと言う男には捕虜と言う形にはなっていたが、瑞樹の知り合いということと我が国への防衛に貢献してくれたと言うことで、ベルムの部下ということで騎士団に入ってもらっている。ダンクから採血された血液とサンプルで我が国も何かをしているようだが、危害を加えないことだけは保証しよう」


 恐らく打算で話している事だろうけど、俺がダンクへの処遇を気にしていると察して色々と話してくれたのは嬉しいことだ。

 しょうがない、ならこっちも多少は譲歩するしかないか。


「ありがとうございます。さて夜も更けてきました。決闘日が間近に迫っているので、これ以上の会話は仕事に差し支えるのでそろそろ通信を終えたいと思います」


「そ、そうか……」


 俺の態度にあからさまに肩を落とすソレイユ。まぁそんなにがっかりするな、俺もそんなに鬼じゃない。スパイ容疑がかかるようなあからさまな情報は渡せないけど、ぼかし程度ならどうとでもできるさ。


「あ、そうそう。私の雇い主って結構食わせ者なんですよ。息子は平和主義の優しい方なんですけどね。母親も基本は優しい方なんですが裏で何を考えているのやらって感じですね。あっと無駄話が過ぎました、では私はこれで失礼しますね」


「っっっ瑞樹! すまない、恩に着る!」


 通信を切る直前、俯いたままのソレイユが俺の言葉を耳にすると、表情が一変し椅子を跳ね上げて立ち上がった。

 ソレイユのあの様子だと、恐らくそのまま再び馬に跨って王都に戻るだろう。


「んじゃあ、やるか」


 誰もいない寝室で一人で呟くと、俺は通信玉から離れてテーブル横の広いスペースに立つ。

 背中にしたテーブルの上で再び通信玉が光る、十中八九はデンだろう。が、そんなのは無視だ。俺には先に確かめたいことがあるのだ。


「『来たれ来たれ誓約の従者であり我が半身よ 今こそ来たりて我が剣となれ 汝の名はアルジェ』」


 床一面に展開された魔法陣が眩く光り、それが長身の女性を形作ると部屋の中は元の落ち着いた雰囲気へと戻っていった。

 今使った魔法は召喚魔法だ。と言っても、何でもかんでも召喚できるわけじゃない。出来るのは、俺自身が契約を結んだ魔物だけと言う制限がある。要するにアルジェだけってわけだ。

 その代わり、どれだけ遠くに離れていてもこの魔法があれば一瞬で自分の手元に呼び戻せると言うわけだ。

 しかし、欠点がないわけではない事を今知った。それが今俺の前に広がっているこれだ。


「アルジェ……何してるの?」


「おぉご瑞樹よ、ちょうど今終わったところでな」


 それは、召喚相手の都合を全く考慮しないと言うことだった。

 召喚されたアルジェは一糸纏わない素っ裸の状態なのに恥ずかしげもなく堂々と立っていて、まるで予定調和のように俺に笑顔を向けてきた。

 いた、何でお前は全裸なんだ? 終わったってなんだ? 何かいかがわしいことでもしてたのか?

 その見事な肢体に若干目を奪われながらも、それを悟られないように努めて冷静に聞いてみたが、返ってきた答えは要領を得ないものだった。


「終わったと言うのは、頼んでおいたワイズさんの捜索のことで合ってる?」


「あぁ、もちろんだ。少し待ってくれ」


 俺が答えを性急しているのを見抜いてか、アルジェは悪戯っぽい笑みを浮かべながら手に魔力を込めたと思ったら、人間の状態になった時と同じように着物を着た状態になった。

 どうやらアルジェの服は魔力で出来てるっぽいな。どう言う構造になっているのか詳しく聞いてみたいけど、それはまた今度にしよう。

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