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決闘数日前

「もう、何でそうなるのよ……」


「申し訳ありません……」


 そう言ったのは、フィールデンの母親であるセレナだった。

 俺が今いるのは、王城のさらに奥にあるセレナの住まう場所。つまりは後宮だ。

 盛大にやらかした俺はフィールデンと共に速攻で呼び出され、早々に雇い主に頭を下げることになった。ちなみにまだ昼下がりで、あれから数時間しか経ってない。


「元はと言えば、エギルの護衛が無能だって言う事が起因ですけどね。瑞樹はただお茶していただけですから」


「んもぅ〜……」


 フィールデンは一応俺のフォローをしてくれているしセレナも文句は言うが、そんなに怒った様子はない。

 けれど、セレナの後ろで控えているアレイアの目は違った。セレナの耳に入れたのも彼女だろう、その目は「余計なトラブルを起こさないでください」と言っている様だった。アレイアも、自分の主人であるセレナが本気で怒っているわけじゃないとわかっているからこその無言の抗議なんだろう。

 うん、本当に悪かった。


「まぁいいわ、エギルが数日以内で解放されたのも一応想定済みよ。大まかな流れ自体は何も変わっていないわ。それ以上に瑞樹やフィールデンが大々的に行った事の方がむしろ面白そうだわ」


 俺らのトラブルを面白そうになってきたと言わんばかりに弾んで返すセレナだが、俺が感じたのはこの一連の襲撃には関わっていないのかと言う疑問だった。

 そうなると、自然に別の疑問が浮かんでくる。じゃあ誰がエギルの誘拐を企てたのかと言う事だ。

 エギルの自作自演の線を消すと、当然リスタかリスタの母親って事になるが、流石に明確な根拠や証拠がないから俺からは何もできない。いや、根拠は王位に着くためってのがあるか。

 しかし、実は俺に言ってないだけで、フィールデンやセレナは何かしら情報を掴んでいるかもしれないし。自爆した身ではあるけど、もっと楽に護衛をしたいから敵は減らしておきたいところなんだけどな。

 とは言え、決闘の日はすぐそこまで迫っている。自分で言い出した事もあり、フィールデンも了承し公のものとなった俺とフィールデン対エギルとその他大勢の護衛たち……のはずだったんだけど。





 発表からわずか一日で講義という名の便乗者が現れた。

 何とこの話にリスタ勢まで「ずるいから僕らも」と乗っかってきて、それをセレナが了承してしまったのだ。どう考えても、向こうの二つの勢力は結託しようとするよな。

 確かに一対多数の戦闘は修行時代からずっとこなしてきたけど、今回はフィールデンと言うおまけ付きだ。いくら俺が強くても、護衛対象がやられてしまっては元も子もない。

 ハルトナで護衛依頼を受けていた時はマリンやアレン達とパーティーだったから、実質単独での依頼は初めてと言うわけだ。


「セレナ様、安易に引き受け過ぎでは?」


「あら、貴女なら余裕ではなくて?」


「現状での判断では問題ないと考えますが、それでも無駄なリスクは背負うものではないと考えます」


「瑞樹なら大丈夫よ。それに、もう了承しちゃったものはしょうがないわねぇ」


「わかりました」


「……」


 一応格好の上で避難めいた言葉を発したけど、セレナの後ろで「お前がいうか? 余計な事は言わずに働け」という目で返されてしまった。最近アレイアからの無言の圧が何だか辛い。

 でもなぁ、確かに俺から振った話ではあるんだけど、セレナこの余裕は一体何だろう? 

 初めて会った時からおっとりしたその裏に強かさを持っているとは思っていたけど、今はそれ以上に何かあると言う不気味さを感じる。



「瑞樹……決闘の話だけど、本当に大丈夫なのかい?」


 後宮から戻った次の日、フィールデンから何のことのない事を聞かれた。

 数日後には決闘がある為、今日からから体調などいろんな事を考慮して学園を休んでいた。そんな中でセレナに呼ばれておかわり的なものを貰ったんだから、不安にも駆られるだろう。


「君の活躍はほとんど見たことがないし姉上の手紙からしかわからないが、この決闘はいくら何でも多勢に無勢ではないのだろうか?」


 それは誰しもそう考えるだろう。

 自分の一生に関わる事なのに護衛がやらかし、その上さらに自分の母親がおかわりして煽ってくるんだから堪らんだろうな。

 うん、真面目にすまんかった。


「今更ながら、カナン様やセレナ様からどう紹介されたのか気になるところではありますが、どうぞ鉄壁の城塞の頂上から眺める気持ちでいて下さい。貴方を一歩も歩かせるどころか、その腰に帯びた剣を抜かせずに勝利に導きましょう」


 俺はスカートの裾を指で摘んでカーテシーをしつつ言い放った。

 フィールデンはイケメンだけど、王位に着くにはちょっと頼りない所がある。けれど、根はいい奴なんだ。

 フェルダス五世はろくでもない男だったが、これからはフィールデンのような優しい奴が平定して穏やかな国づくりをしていって欲しい。


「それは……信じてもいいのかい?」


「もちろんでございます。当日はオニルタンで発揮されたこの力の一端をお見せしましょう。その代わり、私からもお願いがあります」


「何だい?」


「フィールデン様が即位した暁には、エンンガイア王国との戦後交渉を穏便に終わらせていただく様お願いしたい所存です」


「それは僕自身も考えていたことだ。父がやった事とはいえ、その責任は重い。誰かが背負わなければいけない。瑞樹が是隊に勝つと言うなら、これからの平和のための足掛かりに、まずはその責任を父親の代わりに背負うとしよう」


「あ、ありがとうございます」


 フィールデンの言葉に一瞬きょとんとしてしまったが、言葉に詰まりながらも俺は改めてお礼を言った。

 こんなにもすぐに返事を貰えるなんて思ってもみなかった。もの凄い不安とプレッシャーだろうに、俺の言葉を信じて真正面から答えてくれたフィールデンの為。そしてハルトナにいるみんなの為に、久しぶりに気合を入れてがんばるしかないよな。


 それからフィールデンと別れ自室に戻り決闘に向けて色々画策していると、不意にポーチの中から魔力反応を感じた。

 何だろうと思ってその正体を確認すると、そこには以前渡された物が出てきた。


「ん、通信玉かな?」


 以前アルジェがハルトナに赴き、その際デンから俺へと渡された物だ。こいつが光っているってことは、対になっている通信玉で俺を呼びかけているってことだ。この呼びかけに答えるには、こちらも魔力を流さなきゃいけない。

 通信玉を机の上に置くと、手をかざして淡い光と魔力を放つそれに俺の魔力を流した。


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