俺より暴走する奴
だいぶ遅くなって申し訳ありません。
なかなか両立って難しいですね。
「懸命な判断ですね」
そう答えたのは、アレイアだった。
結局何もせずに戻った次の日、朝食を摂る傍ら何の気もなしに首謀者の捜索の協力を申し出たところ、さっきの返事が返ってきた。
いや、ちょっと言葉が違った。「何もしない方がいいか?」と聞いたら、そんな返事が返ってきたのだ。
これはいよいよ何かあると考えるのが自然だろう。そして、アレイアはそれを知っている。って事は、やはりこの事件はセレナが関わっている。
いやそれどころか、息子であるフィールデンすら利用しようとしているのかも知れない。何せ、国民の間にも王妃達の権力が強いことが知れ渡っているのだから。
「わかりました。では今日から通常通り、フィールデン殿下の護衛任務に戻ります」
「はい、よろしくお願いします」
それ以上俺が何も追求しないと分かったからか、アレイアは先ほどの突っぱねるような感じではなく、柔らかく返ってきた。
それと同時に、朝食と一緒に出されたティーカップに新たな紅茶が注ぎ足された。
「うん、やっぱり可愛い女の子が側にいると場に花が咲くよね。このまま僕の側付きとして雇われる気はないかい?」
「今のところ予定はありませんね」
「じゃあ考えておいてくれないかい?」
「故郷に帰りたいので、無理です」
「残念だなぁ」
「…………」
王妃であるセレナに続き、フィールデンにまでアプローチされる。まるで緊張感のないこのやり取りに、ちょっとだけエギルに同情するよ。
フィールデンのこれが昼行燈なのか、それとも素なのかはわからない。けど、教室に来てまでやられると、さすがに周りの目があるからやめてほしいってのが正直な感想だ。
エギルが攫われてから二日目、さすがに学園中に知れ渡っている。恐らく今頃は城下の民にも知れ渡っているだろうな。
そう考えると、昨日あそこで引いたのは正解だったんだろう。あの場面で侵入した事が敵側にばれれば、セレナは火消しに乗じて一度は断ったフィールデンの縁談をまた俺に吹っかけるだろう。
そう考えると、決闘当日までこのまま大人しくしておいた方が賢明だろう。
「うん、さすがは貴族を相手に商売しているだけあって美味しい」
そうなると、俺の日常はまた学園内のカフェ通いになる。この間と違っておかしなナンパ野郎も、取り巻きを連れたお嬢様もいない。
席につくなり、店主から謎のお詫びと称したケーキセットが出されたが、そこは知らないふりして黙って受け取った。うん、美味しい。
よくよく考えてみたら、俺は腕を買われた冒険者なだけであって、それ以上もそれ以下でもないわけだよな。それにここで雇われたとは言え、俺の最終目的はハルトナの皆の所に帰ることだ。
ならここは波風を立てず穏便に過ごすべきじゃないかと思う。……今更な思うこと勿れ。
それは俺だって思うんだよ。トラブル体質なのか、そう言う案件が望まなくても向こうからやってくるんだってさ。
だから、平穏ってのもほんの僅かで終わってしまうんだって。
「瑞樹・渡良瀬だな?」
サービスで貰ったケーキセットを堪能していると、背後からテーブルに大きな影を落とし俺の名を呼ぶ奴が現れた。振り向かなくても、この気配は知っている。
「貴方は昨日の?」
「エギル様の護衛隊のナダルだ! エギル様をどこへ攫ったか吐いてもらおう!」
そう言うと、ナダルという男は剣を抜いて俺の首筋に添えた。昨日から寝てないのか、眼孔が落ち窪んで目が血走っている。
「落ち着いてください。昨日も言った通り、私はそんな事していません。先ほども言いましたが、こんな事をしては無事に済みませんよ?」
「うるさい! これだけ探しても見つからないんだ、お前らが上手い事隠したに決まっている! 吐かないと、このまま晒し首にするぞ!」
どうやら相当追い詰められているな。エリート志向なのか、昨日の失態と上からのプレッシャーで正常な判断を欠いているような気がする。だとしても、昨日からのこのやり取りもいい加減うざい。
追い詰められているとは言え、護衛の騎士といえども昼間の学園内で剣を抜くなんてのは非常識だ。
この場を収めるのに何か助言をすべきか? だとしても何て言おう? 下手な事を言ってさらに疑われても面倒だしな。
首筋に剣を添えられながらそんな呑気な事を考えていると、突然事態が思わぬ方向へ進んだ。
「ガラド、こんな所にいたのか! お前も早く来い!」
「ザイン、どうした?」
ガラドと呼ばれた騎士が振り向くと同じ格好の騎士がやって来たが、さすがにこの異様な光景に焦ったが、自分の用事が先と思い出した様に話し始めた。
「エギル様が見つかった!」
その一言は、のんびり構えていた俺も驚くべき内容だった。
俺が昨晩見つけたのは間違いなくエギルだ。それに見張りも言っていたように、今度の決闘が終わるまでは解放させるつもりが無いはずだったのに、これはいったい何のつもりなんだろうか。
「それは本当か! 容体は!? 無事なのか!?」
「外傷はないが、気を失っていてまだ目が覚めていないそうだ」
俺の目の前で二人の男が話しているのをよそに【探索魔法】を展開させると、男が言ったようにエギルが保護されたらしく学園寮に俺が付けたマーカーがあった。
となると外傷もないって言ってたし、このままエギルに問題がなければ決闘に現れるって事か。
それならそれでも良いか。なんて考えていると、午前中の授業を終わらせる鐘が鳴ったからフィールデンと合流すべく席を立とうとしたら、背後から再び俺の首筋に剣が添えられる。
「で、お前は何をしている?」
「いや、こいつはエギル様の誘拐に絶対に関与しているはずだ、だから!」
ザインってやつは比較的常識的なのか、この状況が良くないことがわかっているんだろう、剣を抜いているガラドに抗議を始めた。
「何を言っている、昨日無闇に疑うなと言われたはずだろう!?」
俺の背後で同僚が必死に止めようとしているが、耳を貸さずにいろいろ喚いている。どうしても俺を犯人にしたいらしい。
鐘も鳴り止み、もう暫くすればこのカフェも生徒達で溢れかえる。そうなれば、主人の首を絞めるのはどちらかなのは明らかだ。
それでも構わないけど、エギルが無事なら堂々とフィールデンを王座に着かせるべきだ。
それに、ね……。
「昨日から……少々無礼すぎやしませんかね?」
そう言いながら俺は、自分の首筋に添えられた剣の先を摘んだ。
「無礼だと? 冒険者ごときが何を……剣が動かない!? 貴様何をした!?」
「何も?」
摘まれた剣の切っ尖を両手で引き戻そうとするが、微動だにしないことに焦りを覚えエギルの護衛が語気を荒げる。
が、そんな事で手を離してやらない。だから俺はそのまま言葉を続けた。
「ただ邪魔な剣を摘んで退けているだけですが? 所で我々は何もしていないと昨日も言いましたよね? これはそちらの隊長の指示ですか? それとも貴方の独断ですか?」
どちらにしても流石に腹に据えかねた俺は。いやもっと俗物的に言うと、ムカついた俺は殺気を放ちながら淡々と言葉を向ける。この時には剣を向けたガラドは俺の殺気に恐怖して腰を抜かし、呼びにきたザインもその余波を受けて膝を崩していた。
これだけで自分らの目の前にいる少女をいかに舐めていたかわかる光景だが、どうせだからとそのままの勢いで言葉を放った。
「まぁどちらでも良いでしょう。が、落とし前は必要でしょう」
「な、何を言ってる……?」
「あなた、今この学園内で剣を抜いたことを後悔してください」
「ひっ!」
そう言うと俺はガラドが離した剣を石畳に突き立てると、高らかに宣言した。
「丁度いいです、今度の決闘ではあなた方護衛の方全員参加なさい。そこでの完全敗北を落とし前としましょう」
この頃になると昼食を摂りに訪れた生徒たちも続々と集まっており、俺たちのやり取りを何事かと恐々と離れた所から見守っていた。
それと同時に、瑞樹の背後から聞きなれた声がかかってきた。
「瑞樹、何をしているんだい? この状況を説明してくれるかい?」
「フィールデン殿下……」
この状況に驚いた様子がないところを見ると、トラブルに慣れしているのかそれとも一周回って落ち着いているのか。俺にはわからないが、取り敢えず事の経緯と勝手に約束してしまったことを詫びた。
「申し訳ありません」
「ふむ、それは確かに軽率だね。そう言うことは一度腹に収めて、僕なりアレイアに言って欲しかったかな」
「返す言葉もありません」
もし俺の言葉を無かったことにするには、俺とフィールデンとの雇用契約を無しにする。
厳密に言えば、昨日の時点で雇用契約は終えており一介の冒険者が勝手に言ったこととされ、発言に効力は無いと言うことにさる。
そう考えると俺の発言は迂闊だったわけで、こればかりは俺が勝手に約束していい事じゃないし、護衛対象を危険に晒すことになるしな。
そう思って覚悟を決めて次の言葉を待っていると、フィールデンの口から思いもよらない言葉が発せられた。
「がしかし、既に終わったことを蒸し返し、あまつさえ剣を抜いたのは向こう側だ。理由も短絡的なら動機も短絡的だ。これは決して許されることではない。なら、瑞樹の言葉を正式に僕の言葉とし、その提案に乗ろうじゃないか」
衝撃の発言で誰もが言葉を失った。
言い出しっぺは俺なんだけど、まさかただの一介の護衛の言葉をそのまま採用するなんて思わなかった。もう一回言うと、言い出しっぺは俺なんだけどな。
「この事は追って書面にて記す。もちろんこの場にいないリスタにも同じ条件を付けよう」
そして人が言葉を失っていると、さらに衝撃発言を繰り返す。いや、俺より暴走してるじゃないか。
これは、ちょっとだけ作戦を考えた方がいいかな。




