押し入り騎士
前回削除したものを、修正して再投稿します。
「王位継承件候補の一人であるエギル様が失踪しました」
一夜明け、無事に乗り越えた朝日にありがたみを感じながら朝食を摂っている俺に対して水を刺すように告げたのは、さして焦ってもいないアレイアだった。
「え、どう言うこと?」
「今朝同じフロアのエギル様の部屋が騒がしいので探ってみたところ、どうやら昨晩の間に消えてしまっていた様です。部屋の窓が開いていたらしくそこから出入りした様ですが、争った形跡がないので自分から出て行ったのか攫われたのかわからないそうです」
「なるほど……」
アレイアから説明されて、それは大変だとどこか他人事のように俺は呟いた。だって知ってるもん。俺たちのことが片付いたあと展開されたままの【探索魔法】を確認したところ、エギルの部屋であろう場所の反応が見事に無くなっていて、代わりに三つの反応は一緒に離れて行った。ちなみにリスタのところに向かった刺客は、二人で離れて行ったことからこっちは失敗したと思う。
俺たちの方は無事だから呑気に構えているけど、決闘まで残り日数はそんなに多くない中でこれはエギル陣営にとっては痛手だ。俺への嫌がらせはあれど、フィールデンには何も実害がなかったからてっきり残りの二人の王子たちもそんなもんなのかと思っていた所でこれだ。
「でもこれは私たちには有利なのでは? エギル様がこのまま決闘の日まで見つからなければ、不戦敗という事になりません?」
どこの誰がエギルを攫ったのか、それとも自分からついて行ったのかわらないけど、このまま当日までいなくなっててくれれば簡単に終わりそうなんだけどな。
「表面上だけで捉えればそうですが、事はそんなに簡単じゃありません」
「あ、はい……」
そんな俺の浅い意見をアレイアが真っ向から否定してきた。いや、俺もそうなったら良いな程度で口にしたのも悪いけど、そう正面切って否定されると流石にくるなぁ。
「もしかして、私ら疑われてる?」
そして頭によぎった可能性を思わず口にすると、今度は首肯しその直後に部屋のドアを激しく叩く音がした。
「開けろ! いるのはわかっている、お前らに嫌疑がかかっている! 開けるんだ!」
「早速来ましたね。まったく、あの連中は外面を整えようともしないんですかね」
まぁ言いたい事はわかる。いくら自分たちの主人が攫われたとはいえ、王太子であるフィールデンのいる部屋を不躾に訪れるとは失礼な話だ。
「私も一緒に出ましょう」
本当は対応もしたくないと言った表情を隠しもしないアレイアの背中を押すように扉を開けると、そこには鎧を着た大柄な男たちが立っていて俺たちが何も言わないうちにゾロゾロと入ってきた。
ってあれ、この間貴族街で盗み聞いた話だと、エギルの護衛は使い物にならないって言ってたけど、こいつらはそれとは別なのか? それとも、報告者がでっちあげたのか? どちらにしろ、今は目の前のことか。
「いきなりやって来て、フィールデン殿下の部屋へ押し入るとは何事ですか?」
「シラを切るとは良い度胸だな小娘。我らが主人であるエギル様を攫ったのは貴様だろう? 例えフィールデン殿下が知らずとも、お前らが殿下の為にやったとなれば筋は通る!」
「今なら国外追放だけで許してやらんこともない。だからさっさと白状するのだな」
「要するに、全面的に事を構えてよろしいと判断しても?」
さすがに酷い物言いにこいつら全員をぶん殴ってやろうと思っていたら、俺の後ろで黙って控えていたアレイアが一段低い声で騎士たちを睨んだ。
「何だと、斬られたいか!」
そう言いながら男たちは自分たちの腰に下げた剣に手をかけて抜こうとするが、それより先にアレイアが更に言葉を続けた。
「そうしたければどうぞ。その代わり、その後はどうなるかおわかりですよね? 言いがかりをつけ押し入った挙句にセレナ様付でありフィールデン殿下の世話係を斬ったとなれば、当然こちらの瑞樹様があなた方を全員殺すか取り押さえるでしょう。まさかエギル様の護衛ともあろうお方が、瑞樹様の活躍が耳に入っていないとは言わせませんよ? それに言いがかりだけで刃を向けたとあれば、……あとはお分かりでしょう。後々のことも考えて動かれた方がよろしいかと」
それだけ一気に話すと、アレイアは一礼してまた俺の後ろで控えた。そして俺とアレイアを交互に見る騎士たち。
アレイアの言う通り、俺のオニルタンでの事は耳に入っているんだろう。それなのに押し入るって事は、よほど頭に血が登っていたのか。 もしくは、元々俺たちが気に入らない所にこの騒動で、俺たちと決めつけた上で行動に出たんだろう。
それにしても行動が短絡すぎるってもんだ。
「ぐっ……世話人ごときがこの俺たちに説教をするつもりか?」
まぁその世話人ごときと言われるアレイアの立ち位置が、それなりに問題何だけどな。
だけど、俺としてもここで流血騒ぎは更に事態を重くしかねないから避けたい所だから、一言だけ言わせてもらう事にした。
「行動が浅はかすぎると言っているんですよ。そう言うのは根拠だけじゃなく、明確な証拠を持って来てから尋ねてください。なぜ継承候補者たちがこれまで大ぴらに事を構えなかったのかおわかりですか? それは自分たちの立場を揺るがしたくなかったからに他ありません。それなのに護衛であるあなた方が一方的に押しかけ、私たちに向けて剣を抜こうとする姿勢。もう一度言いましょう、あなた方の首だけで済めば良いですが、事の次第では身内にも事が及びかねないと考えてから動いてください」
「くっ……」
忌々しそうにを睨みつける騎士たちに、俺とアレイアは毅然と立ち尽くす。
見た目がこんなんだから全然強そうに見られないってのもあって舐められがちだが、どうやら戦争の事がそれなりに正確に伝わっている様で騎士たちはその先の一歩を踏み出せないでいるようだ。
ならもう一押しだな。
「今引き返すなら、この事は目を瞑りなかった事にします。ここが引き際なのでは?」
「ぬぅぅぅぅ!!…………戻るぞ!」
よし勝った!
恐らく脳裏に自分の家族が浮かんだのだろう。隊長であろう男は、悔しそうな表情を隠しもせずに部下を引き連れて部屋を後にした。
まったく、徹夜明けでこれは疲れる。エギルが失踪したことは衝撃の展開だけど、事実こちらに有利な展開である事には変わりない。
乱暴に閉められた扉の向こうでは、騎士たちにあれこれと指示を出すさっきの隊長の怒号が響く。
「瑞樹様、ありがとうございます。あの騎士、この騒動が終わったらただじゃ済みませんね」
「穏やかじゃないですね。でも……」
そう言われればそうかもしれない。
普通、一度や二度の失態ではいくら騎士とてそう言われるものじゃないだろう。けれど、今回に限っては王族が絡む。無事に見つからなければ自分だけじゃなく家族の命にすら関わるだろう。
そう考えれば、さっきの焦りようも納得できるってものだ。
「この事をセレナ様へ報告に行きますので、瑞樹様は今日一日はお休みください。お疲れ様でした」
それだけ言うと、アレイアは身支度を整えて部屋を後にした。
この騒動、ひょっとしてこの間襲われたのと何か関係があるのかな?




