閑話休題 困った少女たち4
開け切ってますが、おめでとうございます。
年末は全く更新できずに、申し訳ありませんでした。
今年も遅筆になるとは思いますが、確実に一歩一歩進めていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
「はい、マイル様ネクタイが曲がっていますよ」
「あ、ありがとうございます。あの、でもこれは……」
「何を慌てる必要があるのです、私と貴方の仲じゃありませんか」
翌日、いつも通りフィールデンを学園に送り届けると、俺はそのまま隣の初等部の校舎へ移動しマイルの隣にべったりと寄り添っていた。
あたふたするマイルを優しく諭しながら少し曲がったネクタイを優しく直し、周囲に仲の良さを見せつけるように俺は振る舞う。
「だ、だとしてもこれはちょっと……」
「何を言うのです、数日前にも私の胸の谷間に顔を埋めて甘えてくれたじゃありませんか!」
「えぇぇぇぇ!?」
言いながらマイルを引き寄せて俺の腕の中に収めると、身長差のせいかさっきのセリフの通りマイルの顔はちょうど胸の谷間に挟まれた。
俺の行動に周囲は驚き、当の本人のマイルに至っては頭のてっぺんから湯気でも出そうなくらいに真っ赤だ。うん、可愛いやつめ。
「ふふふふ、不潔です! 何なのですか貴女は!?」
周囲へのアピールついでにマイルを揶揄い愛でていると、俺の背後から耳に刺さるような金切り声が飛んできた。
振り返れば一人の少女。いや、お前こそ誰だよ?
「私の事をご存知ありません? 高等部にてフィールデン殿下の護衛役を賜っている瑞樹・渡良瀬と申します」
「そう言う事じゃなくて! 貴女とマイルのご関係を伺っているのです!」
大丈夫かこの子。若いうちにイライラしていると、性格が顔に出やすくなるぞ? ってまぁ、わかってて聞いているんだけどね。
で、関係なんてはっきり聞かれたら答えない訳にはいかないよな。
「そうですね、はっきり言えば恋人です。とは言え、自称ですけどね」
「……」
目の前の少女どころか、マイルのクラスメイト全員が何も言えないでいた。気持ちはわかるぞ。言ってる本人も、とんでもない女が来たもんだと思うしな。
けどこれもある意味作戦のためなんだ、諦めて巻き込まれてくれ。
「では昼食前に迎えに来ますから、一緒にお昼を頂きましょう。マイル様、ではまた」
そう言って俺は、ウィンクをして初等部を抜け出した。俺の抜けた教室からはマイルへの質問攻めの声が聞こえるけど、ちょっとの間我慢してくれ。
マイルにとって今は苦痛かもしれないけど、これは後々のための布石だ。そしてそれに食いつく奴は、俺からの選別であり罠だ。そしてそいつにとって、そこからが地獄の始まりだ。
「アレイアさん、戻りました」
「瑞樹様、お待ちしておりました」
初等部から出てそのまま学生寮へと戻って来ると、そこには待っていましたと言わんばかりにアレイアが立っていた。
実は昨日マイルを帰したあと、セレナにお目通をしてに今回のことを話し、仕込みの準備をお願いしていたのだ。その際に、アレイアにも忙しく動いてもらい、もの凄い速さで準備が整ったってわけだ。
「急ではありましたが、こちらも準備ができましたのでこのまま実行に移らせていただきます」
まぁ仕返しと言うにはちょと大掛かりすぎるけど、いい加減鬱陶しいからな。決闘の日も近づいているし、こんな所で煩っている場合じゃないんだよ。
「わかりました、よろしくお願いします」
「それとセレナ様から伝言です。『私の提案を断っておいて、よくそんな案が出せるわね。とは言え、それとこれとは別案件と考えて動きましょう。あと、この件が片付いたら一度ゆっくりお茶をしましょう』だそうです」
あーうん、出来ればその日が来ないことを願いたいけど、雇い主相手の言葉を無視できる訳ないからな。今は考えない様にしておこう。
それはそれとして、事態は動き出したし俺が何かしなくても勝手に進んでいくはずだ。
しばらくの間フィールデンの事はアレイアがやってくれるし、俺はマイルに着いておこう。早ければ数日中には変化があるはずだ。
「マイル様、放課後はどこに行かれます?」
そうしてその後はマイルの元で見せつける様に常にベタベタしていると、今朝の一件のせいだろうクラスの男子からは羨望の眼差しで見られ、同じく女子からは奇異の目で見られる様になった。
けどこれでいい。これだけ派手に動けばマイルの姉には俺がマイルに靡いたと思われて、作戦が上手く行ったと思われるだろうからな。
けど、そこからが地獄の始まりだと思え。
三日後の朝、いつもと同じ様にマイルの教室でベタベタしていると、廊下から異様な魔力の存在がズンズンと近づいて来るのがわかり扉の方に顔を向けると同時にもの凄い勢いで一人の女生徒が入ってきた。
「そこの雌豚ぁぁぁ! 私の取り巻きに何をしやがったぁぁ!?」
うん、誰って事はない、マイルの姉だ。にしてもこの間と打って変わってもの凄い言葉遣いだな、ひょっとしてこっちが本性か?
「え、私何もしてませんよ? どうかしましたか?」
「『どうかしましたか?』じゃねぇよ! 私の取り巻きたちが全員離れていったのよ!? あいつら全員『リスタ様の応援辞めます』って言い出したんだぞ! それに、雇ったナンパ野郎やチンピラたちもどこにも見当たらねぇし! こんな事今までなかったのに、絶対てめぇが何かしたに決まってんだ! どうしてくれるんだ、あぁん!?」
おーおー、捲し立てるねぇ。何があったかって尋ねただけなのに、一から十まで全部話しちゃってくれて。まぁ大方予想はついてたからいいけど。
けれどマイルのお姉さん、一つ肝心なことを忘れているよね?
「一つ大事なことを言わせて頂きますと、私はただ相談しただけです」
「相談だぁ? 誰によ?」
「もちろん、私の雇い主です」
「雇い主だぁぁ?」
「えぇ、そうです。貴女は私がどう言った経緯でこの学園にいるのか知っているのですよね?」
「あぁ学園で知らない奴はいねぇくらいだ。って雇い主って……」
そこまで自分で言ってようやく自分が何をしたのか理解し、置かれた状況が理解できた様だ。
「い、いや、私はそんなつもりで……」
彼女の顔にはびっしりと脂汗が張り付き辿々しく何かを言おうとしているけど、そんなのは後の祭りだ。
「マイル様、お嬢様が! ってお嬢様!?」
そこに都合よくマイルたちのメイドまで血相を変えて飛び込んできた。どうやら二人のお屋敷にも何やら変化があったそうだ。
「お嬢様、何をなさったんですか!? お嬢様を国家反逆罪で捕縛するとか言って、王国の機関と言う方がお屋敷に来られているんです! 直ちに戻って説明をして下さいませ!」
「な、何よそれ!? 私、そんなの知らないわよ!?」
「知らないのであれば、その方たちの前で弁明して下さいませ! さぁ、行きますよ!」
「ちょ、ちょっと離しなさいよ! そこの女、何とかなさいよぉぉ!?」
メイドの怒涛の襲来によって、マイルの姉は有無を言わさずに連れ去られてしまった。
いやぁ、なんか凄い事になってるな。俺を誑かそうとしただけで国家反逆罪とか、どう考えてもこじ付けが過ぎるわ。
俺自身がセレナに頼んだこととは言え、流石にここまでやるとは夢にも思わなかった。精々が、ちょっと脅してちょっかいを出さない様にする程度だと思ってたからさ。
そう考えると、今日はいつもの定位置にいるはずのナンパ野郎や不良どもが【探索魔法】に引っかからない。これもセレナが何かしら手を回したんだろうと予想する。
何だか王妃としての闇の深さを垣間見た気がする。雇われ期間は大人しくセレナに従っておこう。
「はっ……あ、あの、お姉さん……? えっと、あの……」
「マイル様、何も言わなくてもいいのですよ。ああ言うのは、自業自得と言うものですから」
「お姉さん……」
あっという間だった一連の出来事に呆気に取られていたマイル君。だけど、教室に静寂が訪れてからやっと正気に戻ったようで、何から聞いたらいいのか分からずしどろもどろになっていた。
けど、俺は一言だけ言って、何も言わせないし聞かせない。もしそれでも何か知りたければ、家に帰れば何かしらわかるだろう。
ただ、結論だけ言えばその一言に尽きると言うだけだ。
それからさらに数日、結果だけ言うとマイルの姉(名はメリルらしい)は学園を自主退学させられ、父親の遠縁にあたる地方へ飛ばされたらしい。
どうやら本気で国家反逆罪で断罪させられそうになる所だったらしい。ではそれをどう回避したかと言えば、娘を放置していた父親が当主の座を降りる事と当の本人であるメリルが地方へ隠遁させる事で手打ちにしたと言う事だ。
とは言え、これも半分は見せしめだろうな。落とし所をつける為の建前って所だろう。
ちなみにメリルが雇った奴らの事だけど、不良どもはほんまモンの裏社会の連中に連れ去られ、ナイスミドルなオッサンはけばいババアに纏わりつかれ、ナンパ野郎は美人局に引っかかりこれまた裏社会の連中に連れ去られたそうだ。
「で、瑞樹は私に何か言う事はないのかしら?」
「……あ、っはい。今回は大変お世話になりました……」
ちなみに俺はと言うと、現在後宮にてセレナと向き合ってお茶している。全く味がしないのは、目の前の笑顔に緊張しているだけだと思いたい。
「そうね、お世話したわね。これも雇い主のお仕事ですもの。でもね……」
あああその笑顔の奥にある黒いモノがががが…………。
「あのですね……私としても作戦としてのカモフラージュのつもりだったんですけど……」
「そうね、そうでなくては私のお顔が泥まみれよ……?」
「えぇ、も、もちろんそんな事ない様にですね……なので、その後すぐに作戦だと伝え関係を断とうとしたのですが……」
「なのになぜ?」
「本当、なぜなんでしょう……」
何が言いたいのかって、その後の話なんだけどね。うん、懐かれちゃったんだわあの少年に……。いや、そんな生やさしいものじゃないなこれは。
「お姉さんに、いえ瑞樹さんに相応しい男になって見せます。だから僕と婚約して下さい!」
なんて言われたんだわ。
信じられるか? お付き合いの告白を飛び越えてプロポーズだぞ? これなんてエロゲ?
確かに優しくした記憶もあれば、ちょっと勘違いさせる様なこともした覚えはある。だからってそんな一足飛びにプロポーズする奴がいるとは思いもしなかったんだよ。
「大変申し訳ございません、マイル様。私を陥れようとするメリル様を炙り出すために騙していたことをお詫びいたします。ですので、あなたの告白を受け入れることは出来ませんので、諦めて下さいませ」
「嫌です。きっかけが騙し騙されの関係であろうと、あなたの思惑がどうであろうと、今の僕の心にはあなたしかいません。ですので!」
って事があって、俺がいくら断っても終始こんな感じだった。
余りにもしつこいからいったん保留にしてその場から逃げてきて、現状セレナの所で途方に暮れているのである。
「もうあの子もついでに断罪してしまおうかしら?」
いや、いくら何でもそれはやり過ぎでは?
「なら貴方が私の提案を受け入れてくれて、発表してしまえば良くなくて?」
「私のような身元の知れぬ者では王家の血が汚れてしいますゆえ、何卒ご容赦を」
「そんなのどうにでもできるわ。侯爵家の養女にでもしてしまえば問題ないのですもの」
あーこれ以前どこかで俺が吐いたセリフだわ。まさかブーメランで刺さると思わなかったわ。
だからと言って、はいそうですかとはならないんだよ。
「問題ありますよ。私は一介の冒険者で、さらに言えばエンガイア王国の民でもあります。そもそも私にその気がありません。悪しからずご了承下さいませ」
「もう、頑固ねぇ……」
俺がそう言ってこの話を無理やり終わらせるように、残りのお茶を飲み干してから一礼をする。
一人の将来有望そうな貴族とその上に立つ王族からの求婚。確かに夢をみる女からすれば、この誘いは破格なのかもしれない。
俺の色んな部分を加味してもし出てくれるのはありがたいんだけど、男の心を混同させている俺にとってその申し出は何も響かない。
そんな俺を見て渋々と言った感じでセレナが引いてから俺はほっと胸を撫で下ろして、残り少なくなったティーカップの中身に映った自分を見つめる。
結局のところ、今回の一件周りに振り回されて何一つ自分で解決はできなかった。それは雇われている以上、勝手に暴れてしまってはセレナやフィールデンに迷惑がかかると言った思惑もあったが、もっとスマートに色々できたのではないかとしこりが残る形にもなった。
「雇っておいてこう言うのはどうかと思ったのけど、冒険者と言うのはもっと好きに暴れるものだと思いましたわ」
そんなふうに思っていると、意外だとでも言うようにセレナが切り出した。
うん、それは間違っていないと思う。
「その認識で間違っていないと思います」
ただその中で上級冒険者と呼ばれる一部のパーティーは、貴族を相手にするが故に顔役として礼節を学ぶ者もいる事いる事を説明した。
ハルトナの冒険者で言えば、ランク『A』パーティーの『猫の手』のアイラだ。
「じゃあ瑞樹もそう言う立ち位置なのね?」
「いえ、私はそもそも上級冒険者ですらありません」
「あら、管理者の見る目がないのかしら?」
いや、単純にあの戦争からいまだにハルトナに帰れてないだけなんだけどな。流石に頑張った功労で、ランク『B』位には上がれるだろうと思うけど。
そう考えると、この間の報告では一言も触れてなかったな。次に話す機会があればぜひ聞いてみよう。
マイルの求婚を断るも再びされると言うことを数度繰り返すと同時に、マイルのクラスメイトの女子に因縁をつけられると言うハプニングもあったが、それはそれ。
私的なことで仕事に影響が出てしまうのは何とも遺憾し難いことなんだけど、既にセレナの世話になっているんだから今更な事だな。
なら俺のできる事は、オネショタハマりそうになっているマイルを早めに覚させてあげる事だな。




