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閑話休題 困った少女たち3

(やっぱりいた……)


 一夜明け、俺は昨日の出来事を思い出して身震いしながら図書館に入り浸っていた。

 昨日の出来事とは、もちろんカフェでのナンパ野郎や校舎裏の不良学生の事だ。それらを回避する為に今日はフィールデンを送り届けた直後から図書館に向かっていたのだ。

 そして念の為に【探索魔法(サーチ)】を使って学園全体を探ってみると、予想通りカフェに一人と校舎裏に数人の人間が確認された。

 もちろんこの魔法だけじゃ昨日の奴かどうかなんてわからないけど、この授業の最中にそんなところにいる奴なんて、俺たちのように暇を持て余してる護衛以外は碌な奴がいないだろう。

 わからないからと言ってわざわざ確認なんてするはずも無く、午前中はおとなしくここで本でも広げて時間が過ぎるのを待つとしようか。






「お姉さん、お姉さん……」


「ん……あれ……」


 囁くように呟く耳障りの良い声と、人を不快にさせることなく気を配ったような揺さぶりにより、俺はいつの間にか寝てしまっていたことに気づく。

 どうやら適当に本を選んで開けたはいいが、内容が俺好みじゃなく早々に意識を手放してしまったようだ。


「あれ、君は……」


 俺を起こしてくれたのは、昨日廊下でぶつかり図書館まで案内してくれた少年だった。


「はい、昨日はどうも。それで本を返しに来たら、その……寝ていたので。起こして良いものかと迷いましたが、もうすぐお昼でしたので」


 そう言われて壁にかかっている時計を見ると、確かにそろそろ起きてフィールデンと合流する時間のようだった。

 内容がつまらないからと言って即寝する俺もどうかと思うが、この少年も……ね。


「そっかぁ、起こしてくれてありがとう。それで、私の寝顔はどうだった? 随分と覗き込んでいたようだけど」


「そ、それは……」


 実は起こされるほんの少し前、俺の真横に気配があるのは察していたんだけど、特に悪意のあるものじゃないから無視していたんだ。

 特にいたずらをするわけじゃ無く俺の横でじっとしていたんだから、ばっちり寝顔を観察してたんだろうさ。

 その証拠に、少年の顔は真っ赤だ。相変わらずそう言う仕草がかわいいね。

 おっと、見惚れている場合じゃなかった。せっかく起こしてくれたんだし、遅れるわけにはいかないね。


「冗談だよ、でも女の子の寝顔はあまり覗き込むものじゃないかな。起こしてくれてありがとう、じゃあ私は行くね」


 図書館で寝ていた俺が言うのもどうかと思うけど、きっと酷い寝顔だったろう。ちょっと気恥ずかしいのを隠しながら少年のおでこを突いて図書館を後にした。

 俺は後を振り返らなかったけど、その時の少年の顔は俺が突いたおでこを押さえながら顔を真っ赤にしながら惚けていたが、すぐに何かを決意したような顔になったそうだ。





 そして翌日、俺は【探索魔法(サーチ)】で探りを入れつつ今日も図書館で過ごすしかないと至りのんびり歩いていると、正面から見知った顔が歩いてくるのが見えた。

 けど今日の少年はどことなく雰囲気が違う。

 って言うか、既に見た目が違った。小等科とは言え身なりはそれなりに整っているし、言葉遣いも丁寧なことから考えれば貴族なのは間違い無いだろう。

 なのに、目の前から来る少年は昨日やその前の姿とは程遠く、泥に塗れるどころか膝や頬が擦りむいていた。


「お、お姉さん……ご、ごめんなさい……」


「ちょ、ちょっとどうしたの!? 何があったの!?」


「お姉さん……ぼ、ぼく、い、今まで……今まで……本当に……ごめん……なさい……」


 駆け寄って少年の元に辿り着くと同時に倒れ込んでしまう所をすんでのところで少年を受け止め、何があったのか聞こうと声をかける。が、俺の顔を見て安堵してしまったのか要領を得ないことを譫言(うわごと)のように何度も呟くと、そのまま気を失ってしまった。


「誰がこんなことを……」


 そんな事よりまずはこの少年の安全の確保か。

 誰がこんな事をしたのかわからない以上、学園内にはさすがに厳しい。なら俺の部屋まで連れて行くしか無いか。


「纏え纏え白亜の衣 纏て我が身空虚なれ【存在遮断(クロウディング)】」


 誰かに見られる可能性も考慮して、姿を隠しベッドに寝かせると、泥を拭き取りポーションを使って怪我を治療した。

 まさかフィールデンを送り届けた直後に自分の部屋へとんぼ返りをするとは思わなかったけど、お昼までには時間があるからこのままにしておこうか。





「ん……ここは……?」


「お、気が付いた?」


「お、お姉さん!?」


 それから少年が起きたのは、お昼前だった。目が覚めた当初は自分がどこにいるかわからず戸惑っていたけど、怪我をして俺の目の前で気を失った事を説明すると、またしてもひどく申し訳ない表情で俺に謝ってきた。


「そう言えば自己紹介がまだだったね。私の名前は瑞樹・渡良瀬。フィールデン殿下の護衛を仰せつかっている者だよ」


「あ、はい、改めまして。マイル・フォン・エイレンスと言います。殿下の護衛役が冒険者だと言うのは噂に聞いていましたが、お姉さんだったんですね」


「あはは、どんな噂か気になるけど、それはまた今度で。じゃあマイル君、いえエイレンス様とお呼びしたほうがいいですか?」


「い、いえ、僕は家督を継いだわけではないので、普通に名前で呼んでいただければ!」


「わかったわ。じゃあマイル君、話を聞かせてくれる? なぜ君があんな怪我をして、そして私に謝るのかを」


「はい……実は……」


 マイルと名乗った少年から聞かされた話なんだけど、実はとんでもない内容だった……って訳でもなかった。

 いや、内容自体はとんでもない事なんだ。実はこの少年、二日前カフェで話しかけてきた女生徒の弟だったのだ。

 どうやら二日前の話し合いの時、俺が話し合いに乗らなかったどころか、気付けばいなくなっていたことに気に入らなかったらしく、それならばと新たに三段構えの作戦で取り込もうとしたらしいのだ。

 それで当初自分らが提案した内容を自然な形かつ、手を汚さないように考えられたのがアレだったと言うことだ。

 それで本題のマイルが怪我をしていたのかなんだけど、マイル自身は元々この作戦に乗り気じゃなかったらしく、それでも立場的に上の姉に逆らえず渋々やらされていたそうな。

 確かにマイルにはちょっとだけグッと来るものはあったけど、俺は別にショタって訳じゃないんだけどね。何かグッと来るものはあったけど。


「けど、お姉さんは優しくていい人なので……そんな人を騙すだなんて。それでやっぱり嫌だと言ったら……」


「断ったら……って事ね。うん、よく頑張ったわね」


 にしても、気に入らないな。自分の手を汚さずに身内の、しかも年下の弟の手を汚させるとか。これはちょっと、お仕置きを兼ねて意趣返しをしてやらないといけないかな。なら早速行動だ。


「お、お姉さん?」


 どうやら黒い笑みを浮かべていた俺に不安を抱いのたか、マイルが心配そうに俺を覗き込んできた。

 心配するな、君にも手伝ってもらうことになるけど悪いようにはしないよ。そう思いながら俺は早速行動に移ることにした。

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