閑話休題 困った少女たち2
遅れて申し訳ありません!
ちゃんと生きてます!
『リスタ応援隊(仮称)』の襲撃があった翌日、昨日と同じようにオープンカフェで紅茶を味わい、カフェのオーナーから謎のサービスでケーキを差し出されたが遠慮なく頂いていた。
昨日も語ったが、ここでの寛ぎが日課になっている俺にとって昨日の出来事はかなりのイレギュラーだったと言うことだ。
大した説得もせずに少女たちのよくわからない円陣での作戦会議中に勝手に離脱した俺は、かなり薄情だとは思うが付き合う義理もなかったから、あれはあれで正解だったと思う。
「あの……」
「ん、何だい? 可愛らしいお嬢さん」
だから丸テーブル向かいに座って微笑んでいる優男は、昨日の事とは完全に無関係だと俺は信じだたい。制服ではなく、貴族特有の服装で俺の前を陣取る金髪の優男は、何を言うのでもなく優しい眼差しで俺を見つめているだけだ。
俺がこの時間にここにいる事を一部の人間なら当然の如く知ってはいるが、授業中の生徒は知るはずもない。当然ながら目の前の優男も初対面だ。
「あの、何のご用でしょう? 貴方とは初対面のはずですが……」
「これは失礼、可愛さと美しさの両方を備える女性を見るのは初めてで見惚れてしまいまして。実は噂が流れてましてね、ここに来れば絶世の美少女に会うことが出来ると」
「は、はぁ……誰がそんな噂を?」
「噂とは何処からともなく流れてくるものですよ。ですが、その噂も真実とわかれば話しは早い」
いや、噂の出所がどこかが非常に気になる所だけど、それより今は目の前の自分に酔ってるこの優男をどうしたものかと思ってると、更に酔っているとしか思えないセリフを垂れ流した。
「僕の伴侶になって欲しい」
「は?」
「貴女が殿下の護衛を仰せつかっているのは知っております。道ならぬ恋というのは燃え上がるもの。なれば愛の逃避行として手を取り合い、どこまでも逃げようではありませんんか!」
顔は良いかもしれないけど、自分に酔ってる奴はなぁ。いやそれ以前にそういうの求めてないんだけどなぁ。
「い、いえ、今のところ、特定の男性を作ろうだなんて考えていませんので」
「大丈夫です、初めは皆戸惑うものです。私に寄り添ってさえくれれば、障害は全て払い除けましょう」
「ひぃぃ!?」
いやいや、何背筋の寒くなる事を言ってるんだ。しかも、しれっと俺の手を握るんじゃない。そんなに優しく握られても、今頃嫌な汗でベタベタだと思うんだが。
「いえ、本当に貴方に興味がないので! 失礼します!」
あまりの想定外な出来事に、思わずその場を飛び出して校舎の中に駆け込んで息を整えた。
いや本当なんだったんだ? あぁ言うタイプが貴族女子に受けるんだろうか? 手を握られて歯の浮くようなセリフを吐かれた所で鳥肌と嫌な汗しか出てこないんだけどな。
確かにフィールデンの護衛がただの冒険者だから多少は目立っているとは思うけど、こんな事をされる覚えはないんだけどな。
とりあえず、暫くはカフェには近づけないかな。結構気に入っていただけに、ほとぼりが冷めるまでは様子見だ。
そうしてカフェから脱出し、少し早いけどフィールデンと合流して昼食を過ごした。
しかし、さっきのは一体何だったんだ? 確かにフィールデンを護衛しているのが冒険者って事は珍しい事なんだろうけど、求婚されるような事をした覚えは無いんだけどな。
「瑞樹、エギルたちの護衛の事は聞いているかい?」
他の生徒とは離れたテーブルでフィールデンと昼食を摂っていると、少し難しい顔で突然話題を振られた。
まだ数日前のことだけど、危害を加えられまいとここ最近の送り迎えは少し緊張し、尚且つ昨日の少女たちや今朝のことも相まって何やら顔に出ていたんだろう。護衛対象に不安を与えてしまった自分を少し反省しながらフィールデンに謝罪した。
「はい、殿下に不安を与えまいと事を伏せていましたが、私の顔に出ていましたか。申し訳ありません。」
「いや、さすがに学園に来ているいつもの面子が違えばね。少し探りを入れれば事情がわかるってものさ」
「そうですか。数日前に私も何者かに襲われましたが、幸いにも撃退に成功しました。授業中は校内を巡回して怪しい者がいないか見て周りますが、不測の事態になった場合は護衛たちが使っている待機室で合流しましょう」
「そうだね、その時は戦わずに逃げるとしよう」
「よろしくお願いします」
日和っていると思ったけど、案外見てるとこはちゃんと見てるんだな。
実際巡回はそこまでやっていないけど、【探索魔法】は使っている。が、さすがに暗部の連中を返り討ちにしたせいで警戒されてるのか、それとも目立つ所では避けたいのか、今のところ何かしてくる様子はないな。
そうして巡回と言う名を出した以上、一応見て回らなきゃと思い校舎の内外を回っている最中におかしな連中に絡まれた。
「あれ、めっちゃ可愛い子じゃん!」
「本当だ、学園の制服じゃないって事は誰かの護衛ってとこか?」
「お姉さん、誰かの護衛? なら今暇っしょ、俺たちと遊ばない?」
うわ、こう言うのって異世界にもいるのか。校舎裏までくまなく見ておこうと、いらない気を回したのが裏目に出たな。
俺が嫌そうな顔をしているのを気にも止めずに、三人の不良っぽい学生が下品な視線を全身に浴びせてきた。
「いえいえ、そう言うのは興味ありません。それに私はフィールデン殿下の護衛ですので、そう言った顔に泥を塗る行為は出来ませんので悪しからずご容赦を」
「まぁまぁそう言わずにさ、殿下だって授業中に誰が何してようと自由だって思うさ」
「そうそう、それにこんなの俺たちだけの秘密にしておけば、大丈夫だって!」
「それにお姉さんの体気持ち良さそうだから、ここで逃すはずないっしょ」
「いくら殿下の護衛だからって女一人じゃ何もできないだろう。それに所詮は平民、れたち貴族に刃向かえばどうなるかくらい……な?」
うっぜぇぇぇ、どこの貴族だこいつら。これじゃあ路地裏のゴロツキと何ら変わらないじゃないか。
そんなこと思っている間に、俺の方に近寄ってくる。おまけに親の傘を着て脅す始末だ。バレジア国内が大変な時に、下半身でしかものを考えれない連中がいるのってなぁ。次期王位が誰だろうと結構苦労しそうだ。
尚も下卑た視線を隠しもせずに俺に寄ってくる三人にため息を吐き、このまま殴り倒してフィールデンの前に突き出そうかと考えていたら、俺の背後から渋めの声が掛かった。
「それ以上そのご婦人に近寄るのはおやめなさい。あなた方には過ぎたお人です」
そこに現れたのは、白髭を蓄えた長身の初老だった。この人もどこかの貴族の護衛なんだろうか、体格といい立ち振る舞いといい、恐らく年齢以上に動ける人だ。
「なんだぁジジィ?」
「オメェこそお呼びじゃねぇんだよ」
「ここは見なかった事にしてどっか行きな!」
こう言うのはお約束の流れってものでもあるんだろうか、三人が三人ともテンプレ通りの台詞を吐いて初老に絡んで行ってしまった。
「少し痛い目を見ないとわからないようですね」
いや貴方もテンプレかよ。殴りかかる三人を相手に擦りもせずに躱すと、それぞれの通り過ぎざまに鳩尾へ一撃つつお見舞いし、一気に片がついてしまった。
「お嬢さんお怪我はありませんか?」
「ありがとうございます。絡まれていて困っていた所ですので、助かりました」
「いえ、お気になさらず。それに、本来なら私の出る幕でもないでしょうが、綺麗なご婦人を見るとつい勝手に体が動いてしまってね」
うーん口が上手い。でもこんな渋い人に言われたら、満更じゃなく聞こえてしまうのはずるいよなぁ。
「あら、お口が上手ですこと。そうやって何人もの女性を泣かせてきたのですか?」
「泣かせてきたなんてとんでもない。私は真実のみ語りませんから」
「悪いお人です」
どこまで本気かわからないけど、俺自身が暴れてフィールデンに不利に働くよりは、助けられた形の方が穏便に働くだろう。
その後、この場の処理は任せてほしいと言われ、その言葉に甘えて校舎内に戻ってきた。
しかし、今日は何かといろんな奴に絡まれる日だ。カフェの一件はまだしも、ちょっとやる気を出して校内をふらついただけでおかしな奴に絡まれるとか、一体どんな厄日なんだ。
今日は迂闊に動かないほうがいいかもしれない。なら放課後まで図書館だな。あそこなら余程のことがない限りは大丈夫だろう。
そう思って歩き出した瞬間、廊下の死角から勢いよく誰かがぶつかってきた。
「うわっと、大丈夫? 怪我はない? 廊下を走ったら危ないよ?」
「うぅぅ、ごめんなさい……ってあわわわわ!?」
どうやらぶつかったのは、俺より更に背の低い少年のようだった。
しかも勢いよくぶつかったせいで、俺の胸に顔を埋める格好で倒れてしまい、更に起き上がる際に少年の小さな手は俺の胸を鷲掴みしてしまったようだ。こんな所でラッキースケベられるなんてことが起きるとは。
それは置いといて、少年はどうやらこの学園の裏手にある小等部と言う校舎から用事で来たらしく、その帰り道で俺にぶつかったようだ。
「私は大丈夫……って、どうしたの? どこか痛い?」
慌てて横にどいた少年は俺の顔を見た瞬間、惚けるように硬直したら何事かと尋ねると、顔を真っ赤にして俯きながら言ってくる。
「い、いえ大丈夫です。お、お姉さんがとても綺麗だったので……」
「あ、あはは、そう言われると照れちゃうね。でもありがとう、君も気をつけてね」
思いがけない所で容姿を褒めらた俺は、照れながらもお礼を言って立ち去ろうとしたら、後ろから少年に呼び止められた。
「あ、あの、謝るだけでは気が済まないので、何か出来ることはありますか?」
何か、か。どうやら少年は律儀な性格なのか、ただ謝るだけじゃ気が済まないらしく、自分に出来ることはないかと尋ねてきた。
と言っても、俺もカフェから逃げてきて暇を弄んでいる身だからな。ふむ、ならちょっとだけ案内をお願いしよう。
「うーん……ならこの学園の図書館を知ってるかな? そこまで連れて行って欲しいんだけど」
「は、はい! 大丈夫です! こっちです!」
場所なら初日に地図を渡されて大体覚えているけど、この少年がそれで気が済むのなら存分に案内されよう。
そう言って少年が俺の一歩先に立ち、手を出してくる。これはあれか、手を添えろってことか。ならここはお言葉に甘えておこうか。
とりあえず好意に甘えるようと少年の手の上に俺の手を乗せると、強すぎず弱すぎずの加減で俺を図書館まで導くために歩き出した。
これは貴族の男性の嗜みなんだろうか? こう言う事をされる性分ではないけど、誰かに手を引かれて案内されるってのも案外悪くないのかもしれない。
(うーん、まだまだ未熟なのかもしれないけど、この少年なりに女性をエスコートしようとしているのが伝わるね。あれかな、こう言う少年が行き過ぎるとさっきのカフェの男みた……いに…………ん?)
目の前で一生懸命俺の手を引いて案内する少年を見て微笑ましく考えていると、ふと何か引っ掛かるものを覚えた。
(何かわかんないけど、少しモヤモヤする。喉の辺りまで出かかっているけど、よくわからんな)
もう少しでわかりそうなんだけど、そのあとひと押しがわからない。自分でも解決策がわからないから、きっかけも作れない。
(くそっ、まどろっこしい! 何だこの感覚は)
「お姉さん? 大丈夫ですか?」
「う、うん大丈夫。ありがとう、私はここで大丈夫だから」
「あ、あの!」
「ん、何かな?」
「ま、また会えるでしょうか?」
「え……」
校舎から少し離れた場所の図書館に案内されようやく一息つけると思い、少年にお礼を言って別れようとしたら思いがけない言葉で思わず言葉を詰まらせてしまった。
ただぶつかって図書館に案内されただけの縁で、そんなことまで言われるとはな。
俺の容姿に惹きつけられたのか、それとも何か他の要因でもあったのか。そればかりは目の前の少年にしかわからないことだけど、勇気を出して言ってくれたことに手荒い返事は返さないでおこう。
「うん、そうだね。私はいつもこの辺りをうろついているから、君が良い子にしてたらまた会えるかもね。じゃあ案内ありがとう、またね」
ちょっと意味深な事を言いつつお礼を言って俺は図書館の中へ入って行った。そして、窓の外から少年が立ち去ったのを見送ると俺は大きなため息をついた。
それから受付を済ませたあと、体裁を整えるためだけに適当な本を広げながら、冷静になるために今日の出来事を頭の中で纏めた。
「ふぅ……」
色々頭の中整理して改めて、いや改めなくてもわかる。今日は色々ありすぎじゃないか?
ナンパ男から始まって、校舎裏の不良どもに初老の渋いオジさん。最後はおめめウルウルの初等部の少年。一日にどんだけイベントを詰め込んでるんだって感じだ。
これじゃあ乙女ゲーのヒロインじゃないか、どんだけ王道イベント満載なんだ。
俺が完全な女ならこれからの展開に期待する所なんだけど、残念ながら中身が元男なだけにウザさと面倒臭さしか残らない。特にカフェでナンパしてきた男な。いかん、思い出したら鳥肌が立ってきた。
さすがに残りの二人は不可抗力だからそんなに嫌悪感はないけど、勝手にカテゴライズさせて貰おう。
とりあえず明日から暫くはカフェには近づけないから、図書館か元の待機部屋で時間を潰すしか無いね。




