閑話休題 困った少女たち
俺は今、ちょっとだけ困っている。と言っても俺自身は最近のルーティンに不都合は感じないし、昨日やその前の日の出来事も依頼の一環としてだからこれと言って胃を痛めるほどじゃ無いと思っている。なら何が困っているのかといえば、今目の前にいる女性陣にだ。
手紙の差出人を割り出してから数日、あれから何の騒ぎもなく常連になりつつある学園のオープンカフェで寛いでいると、俺の目の前に少女が立っていた。
「相席よろしいでしょうか?」
「え?」
学生服を着ているからこの学園の生徒なのは確かだが、俺がここでお茶をしているってことは今は授業中なんだけどいいのか?
「相席よろしいでしょうか?」
俺が突然の事で驚いて声が出せないでいると、目の前の少女は再度訪ねてきた。
もう一度言うと、今は授業中だ。って事はこのオープンカフェには俺しかいない。って事は他の席にも空きは沢山あり、どこでも好きなところに座れるってことだ。
「あの、他に沢山席が……」
「あ・い・せ・き、よろしいでしょうか?」
俺が言い切る前に被せてきやがった。要するに俺に用事があるって事じゃん。この迷惑な客をどうにかしろとカフェの方を見ると、オーナーが露骨に目を逸らした。俺を助けるつもりはないらしい。
「空いてる席にどうぞ」
三度の懇願に折れて席を促したが次の瞬間にそれを後悔した。
「皆さん、了解を得ましたわ。各々で椅子を持っていらして!」
「な!?」
目の前の少女がリーダなんだろう。一言発した瞬間に、どこに隠れていたのか現れるわ現れるわ。リーダーの娘を含めて総勢十一人が瞬く間に俺を正面に捉えて半円を描く様に座った。
そこから数分の無言の間が開く。何なんだと思いつつも、口にした紅茶がぬるい事に気付いた。
「オーナー、紅茶を淹れ直して下さい。あと、お嬢様方に同じケーキと紅茶を、ね?」
「ははははい、ただいま!」
有無を言わせないように目で講義する俺に対してオーナーは速攻で取り掛かった。俺を助けなかったんだ、このぐらいはね。
それから程なくして全員に行き渡ったのを確認して、俺からリーダー格の少女に話を切り出した。
「では改めて自己紹介を、私はエンガイア王国で冒険者をしている瑞樹と申します。この度はセレナ王妃様の依頼で、フィールデン王太子殿下の護衛に抜擢されました」
「自己紹介が遅れました。わたくし、この学園の一年のエレン・アヤガ・マクドナルドと申しますわ。こちらは私のご友人の方々です」
『よろしくお願いします』
「は、はぁ」
余計な事を言う事なく無難に自己紹介をすると、正面に座る少女も自己紹介をしてくれた。ご両親は代々ハンバーガーでも売っている家系なのか?
しかも娘の名前も、どこぞの女神と似たような名前からして絶対にあやかってつけたんだろうと想像がつく。
話が逸れた。それでこの娘らは、どうやらエギルと並ぶ王位継承候補の一人であるリスタの取り巻きだと言う。なるほど、よくよく見れば胸のリボンはフィールデンのネクタイの色と違う。ちなみに学年によって色が違い、男女によってネクタイとリボンと分かれている。
で、なぜ俺の目の前に来たのかと言えば、何やら切実なお願いがあるとの事だが。
「今朝、リスタ様が元気がない様でしたので話を聞きましたところ、リスタ様の護衛が何者かに襲撃されてしまったらしいのです。どうやらその方は、リスタ様の側近の中で一番腕が立ち今度の決闘の際も代表で参加される予定だったとか……」
ふむ、情報ありがとうございます。ある程度知ってる情報だけど、学園内の近しい人間から聞けるってのは信憑性が高くていいね。
「私たちの情報ですと、どうやらエギル殿下の護衛の方も少なからず負傷している模様」
「ですが、今こうしてあなたを見る限り負傷している様子は見られません」
「そして貴女は、去年の戦争で武功を立てられたやり手と聞いております」
「そうなると、リスタ様の王位の可能性がほとんど無くなってしまうんです!」
「私たちは、リスタ様を王位に就かせたいんです!」
エレンを始めとしてどいつもこいつも方々で話すから面倒な事この上ない。せめて誰か一人で纏めて話せや……。
そう思ってうんざりしながら聞き流していると、更に全員でアホなことを言い放った。
『今度の決闘でどうか負けて下さい!!』
「無理です」
だから俺も笑顔で返してやった。
どこの世界に真昼間のカフェで、政敵の護衛に八百長を持ちかける奴がいるんだ。しかも相手の護衛が謎の襲撃で負傷して、こっちが有利になっていると言うのにだ。
「そもそも私はエリス王妃に雇われた身です。私が八百長をすると言う事は、エリス王妃やフィールデン殿下に叛意する事になります。そもそもなぜリスタ殿下を王位に就かせたいのですか? これだけの数で来ると言うことは、どなたかが婚約者と言うわけではないですよね?」
リスタとは殆ど話したことがないし、詳しいことは聞いてもいない。だから今言った事は当てずっぽうだけど、効果はあったようだ。
「はい、その通りです。一応私の家の家格が最上位なのでこの場は代表として話していますが、実質横並びと言っても良いでしょう」
「そして私たちがリスタ様を推す理由は単純に好いているからです」
「逆にリスタ様も私たちを好いてくれています。そしてリスタ様は言って下さいました」
「『僕が王位についた暁には、君たちの中から王妃を決めよう。だが、そんなの関係なく君らを平等に愛すと約束するから仲良くしてほしい』と!」
「元々は誰がリスタ様の隣に立つか虎視眈々と狙っていた私たちですが、リスタ様のその一言で手を取り合い団結したのです!」
あーうん、この親にしてこの子ありだな。ただのハーレムじゃん。リスタってのもドロドロの修羅場に巻き込まれたくないから、耳障りの良いことを言って美味しいところを頂こうって腹づもりかねぇ。
まぁまだ王位は決まっていないから絵空ごとにしか聞こえないんだけど、その夢見がちな発想で俺を巻き込まないでほしいんだけど。
そもそも雇われの末端とは言え、俺も一応は継承争いの敵なんだけどなぁ。
「あなた方がリスタ殿下を王位へ就かせたいのと同じ様に、私も依頼ではありますがフィールデン殿下を王位に就かせるために依頼主を裏切る事はありません」
そう言い切って会話をぶった斬る。
もし俺がエリスからじゃなくリスタやその母親から依頼されていたらそっちで動いていた可能性もあるね。いや、無いか。女の子に言い寄って自分の都合のいいように動かそうとする奴にまともなのがいるわけがないな。
さて、そろそろ授業も終わるだろうから教室に向かおうかなと思った時、一人の女生徒が不意に言葉を発した。
「あ、あの、不躾ながら、渡良瀬様には思い人や婚約者はいらっしゃいますでしょうか?」
「ん? いえ、特にそう言った特定の人はいませんが」
俺は特にそう言った質問は気にしないから気軽に返事はしたけど、いたら脅す気でもいたのか? ま、まぁ、確かに気になる人はいる。けど、何をしでかす気だ?
質問の意図が読めないが表情に出さずに返事を返すと、少女の口からとんでもない言葉が出てきた。
「えっと、見たところ渡良瀬様は私たちと近い年齢か年上かと思われます。な、なので、あなたの好みの男性をご紹介しますので、どうかその方と駆け落ちをして下さいませんでしょうか!」
「………………は?」
「も、もちろん報酬も駆け落ちの費用もこちらで払いますし、誰にも情報は漏らさないとお約束します!」
「………………え?」
「今の反応は!?」
「効果ありでは!?」
「ナイスですわ!」
「この方向で攻めれば!」
「皆さん作戦を練りますわよ!」
「あ……いや……あの……」
少女の言葉に俺の脳が完全にフリーズしてしまい何も反応しないでいると効果があったと思ったのか、エレンたちは席を離れた所で何やら作戦会議を始めてしまった。
単純に俺にとって突拍子もない発言で驚いているだけで、紹介してくれる事に浮かれているわけじゃないんだけどね。
けど、作戦会議で熱くなっている少女たちに俺の言葉が届くわけもなくしどろもどろしていると、午前の授業を終える鐘が鳴ってしまった。
「はっ……では私は護衛任務がありますので失礼します」
鐘の音で正気を取り戻した俺は、多分聞いていないだろうけど少女たちに一応断りを入れてこの場を後にする。
まさかあんな言葉で動揺するとは、俺自身も驚きだ。自覚症状がないだけで、本当は結婚願望でもあったんだろうか。確かにこの体になってからの方が圧倒的に時間が長いし、何なら男だった時の顔は全く思い出せないくらいだ。
「今日は少し遅かったね、何かトラブルでもあったかい?」
「すみません、少しのんびりしてしまった様です……」
「ん? 僕の顔に何か付いてるかい?」
「いえ、では食堂へ行きましょうか」
遅れた事に謝罪をしつつフィールデンの顔をまじまじ見たけど、特に思う事はなかった。心はまだ男のままだと思っているけど嫌悪感を抱くことはなければ、逆にときめくことも無かった。
単に顔が好みじゃなかったのかもしれない可能性もある。となると守備範囲の問題か、そんな事考えたことも無かったな。
まぁ俺の好みの問題は横に置いといて、カフェに置き去りにしたあの『リスタ応援隊(仮称)』たちが今後何かしそうなのは確かだ。
単純に武力で来てくれれば話が簡単なんだけど、そうじゃない分ある意味不気味だ。
頼むから俺の悩みの種を増やさないで欲しいな。




