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惨状と懸念

 最初に顔を顰めた理由は、鼻につく異臭。そしてそれに混じる血の匂い。この感じからして中はろくな事になってないと思いつつ、魔法をかけた手紙の後に続く。そして廃屋に入って目にしたのは、その想像を超えるものだった。

 人、人、人、幾重にも重なる人の山だ。見た瞬間わかってはいるけど、異臭の元はこれだ。当然ながらそれらは全てもの言わぬ骸だ。

 手紙がその山に近づき一体の骸に止まる。そいつが手紙を研究所に渡した奴だろう。格好からしてこの貧民街の住人だとわかる。主犯がこの骸にいくばかの金を握らせ手紙を届けさせた後、口封じに殺されたんだろう。


「ここまでは予想していたけどね」


 アルジェからある程度聞いていたからこれは予想の範疇だ。

 それから骸の上をゆっくり回転する手紙を見続けると、まるで差出人が死んでいるのがわかっているかのようにその場から離れて行った。

 そう、【追跡者(チェイサー)】と言う魔法の最大の特徴は、渡ってきた人を辿りながら最終的に書いた人まで必ず辿り着くと言うところにある。

 要するに故人ですら追うことが出来ると言うのだ。俺も魔法大全を読んで知ったクチだから、この魔法がどう言う構造しているのかが全くわからないんだよな。手書きってところを見ると、魔法神アレフが書き溜めていたってことなんだろうけど。ひょっとしなくてもとんでもない物を貰ってしまったんじゃないだろうか。


「次はあっちか」


 まるで生き物のように路地を進み飛んでいく手紙の後を追う事暫く、そこは貴族街だった。

 まぁ王位継承絡みなんだから貴族が絡むし、何ならあの二人の王子の近しい奴が指示を出しているってことはなんとなく想像がつく。だから言わばこれは最終確認だ。


「纏え纏え白亜の衣 纏て我が身空虚なれ【存在遮断(クロウディング)】」


 存在を消す魔法を俺と進みつづける手紙にかけた。ここからは貴族でもない俺が堂々と歩くのは目立ちすぎるから、隠れながら進もう。

 普段の商店や露店が並ぶ大通りと違い、こちらは歩く人や道の真ん中を進む馬車は本当にまばらだ。それは貧民街でも同じなんだけど、時折俺の存在に気づかずに通り過ぎる貴族の顔は向こうと違い幸せに満ちていた。

 継承権争いをしていると言うのに、何がそんなに余裕そうなんだろうか。まだ数日だけど、間近で見ている俺にとってこの状況は少し異様に感じてしまった。

 けどそんな理由も、何の気もない一人の貴族同士の会話から判明してしまった。


「なぁ新しい陛下はどうなると思う?」


「どうなるも誰が即位しても結果は見えているだろ」


「だよな、結局は誰がなろうともそれぞれの母親が実権を握るんだ。今までと変わらんさ」


「前王の時もだったしな」


「結局それぞれの母親が裏で繋がっているって噂だろ? 今回のこれも出来レースって噂だぜ。ま、俺らに実害がなければ何でもいいさ」


「それが一番だな」


 おいおい、手紙の出所どころじゃ無い話が出てきたじゃないか。

 けれど、この話が本当だとしたら、前王フェルダス五世はセレナ王妃の傀儡だったって事になる。

 しかも、セレナ王妃とそれぞれの側室は敵対しているどころか繋がっているって事だ。これだけの情報だと、どの側室とどれだけ繋がっているのかはわからない。これが今争っている二人の側室だったなら本当に茶番だ。

 そうなると、例えカナンからの紹介だとしても、結果が見えている筋書きなら俺をフィールデンの側に置いておく必要はない筈だ。

 うむ、謎がまた一つ増えたじゃないか。こんなモヤモヤを抱えたまま明日もフィールデンの護衛をするのは精神衛生上あまり良くないな。セレナに直接聞くのも悪くないけど、この手紙の行き着く先でこの手がかりも見つけれたら上々なんだけどな。




 そのまま手紙を追う俺は貴族街の最奥に近い一つの大きな屋敷へと辿り着いた。かなり大きい、さっきまで貴族街を歩いて見てきた中でも別格だ。

 どうやらここが本命っぽいな。バレジアの貴族の派閥なんて全くわからないが、少なくとも王位を狙う誰かと言う事になるんだけど。

 門を閉められたお屋敷を【気配遮断(クロウディング)】のお陰で悠々と飛び越えて入り手紙の後を追うと、向かう先は本館を外れて大きな庭の隅だ。そしてその奥に見えたのは、まるで隠すように建てられた離れだった。

 壁には蔦が張っており、その外観を見る限りではあまり手入れをされているようには見えない。


(いかにもって雰囲気が漂っているな。さて、鬼が出るか蛇が出るか)


 離れに誰もいないのか、どの窓にも明かりが灯っていない。更に敷地の隅にひっそりと建っているのと、夜の帷が既に降りているのも相まって薄気味悪さを引き立たせていた。

 そこでふと気がつく。俺の目の前にいる手紙がここへ行き着くって事は、ここに誰かいるってことだよな?

 一見誰もいないように見えるこの離れのどこかに差出人がいる。単に灯りを消しているだけのか、それとも外からじゃわからない部屋があるのか。

 庭から見える方とは真逆に回ると、一つの扉がある。音を立てずにゆっくりとノブを回したら簡単に開いてしまった。やっぱり誰かいるのか。

 【追跡者(チェイサー)】のかかった手紙は迷いなく一階の最奥へ進むと、そこには地下へ進む階段があり、降った底から光が漏れていた。


 (なるほど、外からじゃわからないよな)


 貴族の屋敷に入るなんて事はそう無いけど、メルトリアの屋敷にも地下に降りる階段があったな。男心にそういった隠し階段的な物にワクワクするけど、現実に直面すると中々に面倒なことが多いな。そんなくだらない事を考えながら足音を立てずにゆっくりと階段を下る。そんなに長くない階段の中頃に差し掛かると、奥から人の声が聞こえる。

 さていったい誰がいるやら。声の数からして最低二人で、共に男だ。

 俺の姿は見えないはずだけど、反射的にこっそり覗き込むようにして部屋を覗き込む。そこにはテーブルを挟んで二人の男が話し合っていた。


「計画の方はどうだ?」


「フィールデン殿下の護衛の冒険者の方は、残念ながら失敗に終わりました。情報によるとカナン王女の紹介で、昨年のオニルタンでの戦争でバレジア側で活躍したらしく、腕が立つようです」


「何だと? 暗部数人と、確か魔獣もいたはずだぞ」


「残念ながらその……呆気なく……」


「チッ、そんなに腕が立つのか。そっちはまた考える、他の奴らはどうなんだ?」


「はい、……そちらも結果は芳しく無いようで、それぞれの王妃や殿下に手傷は負わせれたものの、護衛に阻まれて決定打には届かなかったようです。ですが、エギル殿下とリスタ殿下の護衛は使い物にならなそうです」


「そうか……」


 部下の報告を聞いて、男はそこからしばらく黙り込んでしまった。

 これ以上は待っていても有益な情報は聞き出せないかなと思った時、ふと気になったことがあった。こいつらが言っているそれぞれの殿下ってのにフィールデンも混ざっているんだよな? って事は、あいつも昨日襲われたってことか。

 いや、あの言い方だと誰が主犯かって事だけど、エギルとリスタが襲われたってことは、この犯行はフィールデンって事になるのか? もしくはエリス王妃って事になるか。

 貴族街で聞いた噂だと、裏で王妃同士で繋がっていると言っていたけど、その更に裏ではこの有様か。

 この後に控えている決闘で有利に働くけど、このやり方は気に食わないな。


(こいつらは、このまま泳がせるか)


 本当ならここで色々問い詰めたいけど、エリス王妃が絡んでいるとなると話しがややこしくなりそうだ。俺まで襲われたのには納得はいかないけど、泳がせることで何か掴めそうな気がするから暫くは内緒で通ってみようかね。

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