表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/237

脳筋とのんびり屋さん

適当に投下〜

「この脳筋め! この華奢な体に筋肉がつくわけねーだろ!」


「む、まだ余裕がある様だな! なら追加で二万回だ!」


 女神エレンが紹介してきた神様はとんでもない脳筋だった。

 武神ガレルと名乗った筋骨隆々な神様は、俺が来た早々に火山の麓で走り込みをさせられた挙句、そのまま腕立て伏せをさせた。

 こんな無茶振りなんて早々に潰れてしまうと思っていたのだが、そうはならなかった。

 これが女神エレンの言った特典と言うやつだろう。


「不思議と全く疲れない」


「そうだろう! だから二万回なんてのは余裕だな! ワハハハハハハ!」


 俺の独り言に答える武神ガレル。

 確かに疲れないんだけど、どちらかと言えば精神的苦痛の方が酷い。

 ならばとガレルが息抜きに出した課題が、木剣を持った泥人形達の攻撃をひたすら避ける訓練だった。

 ちなみに俺は素手だ。更に言えば、防具も何も付けていない。


「何、当たらなければ、どうと言うことはないぞ! 取り敢えず十時間ほどやってみるか!」


 これはあれだ、神様基準ってやつか? それとも武神ガレルの脳筋仕様が故なのか……。

 これなら女神エレンに言われたときに、素直に向こうの世界に行っとけば良かったかもしれない。

 

 走って、筋トレして、避ける、瞑想

 走って、筋トレして、避ける、瞑想

 走って、筋トレして、避ける、瞑想

 そしてたまに休む


 それをひたすら繰り返している時、武神ガレルが呟く。


「良くそんなに飽きもせずに同じ事出来るな。瑞樹はひょっとしてマゾか?」


 今の俺ならこいつを殴っても許されると思う。

 アンタがやれと言ったのになんて言い草だ。


「いやいや待て、俺も言葉が過ぎた。そろそろ武器を握らせてみようと思ってな」


 なら早よ言えよ。

 と言うか、一言余分だ。

 俺もこのルーティーンに飽き飽きしていた事だし、次の段階に行けるなら望むところだ。


「よし、ならそこにある好きな武器を選べ、一から十まで教えてやる! 武神が教えるんだ、何だって使えるようにしてやるよ! ワハハハハハハ!」


 一々声が大きいな。

 まぁやっとここまで来れたんだ、遠慮無く学ばせて貰おう。

 いつもの訓練に武器の扱い方と、実戦訓練を加える。

 休みのルーティーンがものすごく遠くなった気がするが、この頃になると全く気にならなくなってきた。

 寧ろ休みの日が無駄だと思う事が多くなった。

 俺の脳もいよいよ脳筋になってきたな。


 そんなある時。

 武神ガレルと泥人形を相手に実戦訓練をやっていると、何もない空間から見覚えのある扉が現れた。


「あ〜〜! まだやっているんですか⁉︎ ガレル様、約束の期間が大幅に遅れているんですよ⁉︎」


 声と共に現れたのはやはり女神エレンだった。

 どうもこの修行にも期間が決められていたらしい。

 そもそも時計やカレンダーが無いから、どれだけ経ったのかもわからないぞ。

 

「そうか、瑞樹の筋が良いからついつい熱が入ってな。まぁ大方仕上がったから構わんぞ?」


「何だ? 仕上がっていたのか。これで女神様の作った世界に行けば良いのか?」


「いえ、まだです。あと一箇所残ってます」


 まだあるらしい。

 と言うか、結構強くなった気がするんだが、これでも足りないとはどんだけ物騒なところなんだ?


「ガレル様、瑞樹君連れて行きますね! 失礼します!」


 扉を潜る瞬間、武神ガレルから武器が投げ渡された。


「お前の故郷にあるのと同じ型のだ。餞別に持っていけ!」


「ありがとうございました〜〜ぁぁぁ」


 別れを惜しむ暇もなく、腕を引かれ次へと連れ出され、武神ガレルの耳には遠ざかる声だけが残った。



「次はここです」


 ここも天界の筈なんだが、まるで森の中のように木々に覆われていた。


「アレフ様〜〜! アレフ様〜〜!」


「相変わらず騒がしいね、エレン」


 女神エレンが何度か叫ぶと、何もない空間から突如可愛らしい少年が現れた。

 この少年が次の先生なんだろうか?


「そうです。この方が瑞樹君の魔法の先生になってくれる魔法神アレフ様です」


「ガレルからある程度のことは聞いているよ。基礎が出来ているっぽいし、そこそこ短期間で済むかも」


 そうなのか? あの脳筋仕様の鍛錬で、魔法の基礎ができているとは考えにくいんだが。


「走り込みや瞑想をやっていたでしょ。あれで十分基礎になっているから」


「そうなのか?」


「あれの殆どが今の身体に慣れるのと、魔力との親和性を上げるためだしね」


 そうだったのか、それならはよ言えや。


「ではアレフ様よろしくお願いしますね〜」


 そう言いながら女神エレンが来た扉で帰って行った。

 次はいつ迎えに来るとか言わなかったが、大丈夫なんだろうか。

 まぁ知ったことじゃないか。


「では始めようか、瑞樹君。いや、この場合瑞樹ちゃん……かな?」


 どっちでも好きに呼んでくれ。



 こうして始まった修行は武神ガレルのときとは違い、実にゆっくりとした時の中で過ごして行った。

 森の中で住んでいるだけあって魔法神アレフは自然と一体化し、流れに逆らうことなくその身を委ねている。俺もそれを見様見真似でやってみたが。


「何かおかしい……」


「初めはそんなものだよ」


 そう言いながらケラケラ笑っていた。

 これが魔法と何が関係あるのか疑問しかないが、まぁ武神ガレルの時とは違って穏やかだから楽なもんだ。


「コツはね、大地に寝転ぶことだよ」


 なら寝よう。

 ………………わからん。

 

 「魔法の四大元素をその身で感じると良いよ。背中の大地、頬に触る風、肌に感じる湿気、そして木漏れ日から来る陽光………」


 なる程。

 …………時間かかりそうだな……。


「エレンはおっちょこちょいだからしばらく来ないよ。じっくりやろうか」


 ドジで助かったわ。





「アレフ様! 瑞樹君の修行まだ終わらないんですか⁉︎」


 やっと来た。

 自分の事を棚に上げて良く言うな。

 と思ったら、やはりと言うか魔法神アレフからお叱りを受けていた。


「まぁでもこっちも大体仕上がっているから良いけどね」


 武神ガレルの時もそうだったけど、時間の経過が全くわからん。



「瑞樹君、修行の成果は〜〜……見た目全然変わってませんね?」


 俺もそう思うが、特典のお陰で随分鍛えられたんだと思う。

 そう考えれば、お礼の一つも言うべきなんだろうか。


「そんな事ないよ、特典のお陰で大分強くなっている……と思う。ありがとう」


「い、いえいえいえ。そ〜んな事ないですよ? それよりモニタリングのことをお話しましょう」


 お礼を言われ慣れないのか、あたふたしながら、本来の目的であるモニタリングの事を話し始めた。

 それ、すっかり忘れていたな…………。


「と言っても簡単ですよ。ただ、向こうの世界を過ごしてもらってくれれば良いだけです。それを私が天界から観察して、調整するだけですので〜〜」


 それ、俺は要らなくね?

 自己否定したくないが、どうにも俺の必要性を見つけれない。


「そ、そんな事ないですよ。瑞樹君と言う要素で変化が起きれば、私が楽しいです!」


 やっぱ考え無しだったか。ってか楽しむためなのか?

 まぁ鍛えて貰ったんだし、俺も楽しむとするか。


「そうですよ〜〜! せっかく百年以上も鍛えたんですから、無駄にはなりませんよ!」


 …………なんですと?

 …………百年以上?

 

「そうですよ! 本来ならもっと早く終わるところだったんですけどね!」


 勝手にプンスコ怒っているが、全部自分のせいだと気付いてないんだろうな……。


「終わったことは気にしない様にします! では瑞樹君、私からの餞別に向こうの世界に合わせた服をあげます」


 そう言って出した服は黒を基調としたちょっと格好いい服だった。

 今の俺の髪が銀髪だから映えて良い感じかもな。


「なら僕からも選別を」


 聞きに徹していた魔法神アレフも餞別と言って指輪を出した。

 別に求婚とかじゃなかろうな?


「魔法媒体だからどの指でも良いよ」


 そう言いながら左手を見るのはやめてくれ。


「では準備良いですか?」


「あ、ちょっとまってって……うわっ⁉」


 そう言いながら俺の返事を聞く前に目の前が真っ白になって、エレンの作った世界へ送り込まれてしまった。

 遠くに「行ってらっしゃ〜い」と聞こえる。

 これ、どこの国へ行って、どのあたりに下されるのか聞いてないな。


 最後の最後までポンコツだったなあの女神様は……いや、だからこその候補生か。






「で、エレンさん。瑞樹ちゃんに言ってないことありますよね?」


「え、え、なななな何の事ですか?」


 あからさまに動揺する女神エレンに魔法神アレフはそのまま言葉を続ける。


「いくら天界でも人間が時を重ねれば老化が進むはずですけど、瑞樹ちゃんは少なくとも百年以上修行している筈なんですけどね? …………もしかしなくても種族変えましたね?」


「………はい。ちょっとした入力ミスです………」


 深いため息をつく魔法神アレフだが、彼もあまり細かい事を気にしないタチなので怒ることはしなかった。

 代わりに「どんなミスなんですか?」と内容に方に興味がある様だ。


「えっと………『人族』から『亜神族』にしちゃいました……」


「あ〜〜なる程…………ま、いんじゃない? 寿命が長いのはいい事だし!」


「ですよね〜〜!」


 こんなのは些細な事と言わんばかりに二人は笑い飛ばしてしまった。

 女神エレンシューエルを育てたのは武神ガレルと魔法神アレフ。

 ならばその弟子の性格も推して知るべしだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ