ブレないねぇ……
「門で戦っているあれはオークロードです……」
ベリット達は声が出なかった。
そりゃそうだろう。女性を救出して、この後は背後から攻めて混乱を起こしつつ俺がキングを倒せば終わりだと思っていたんだから。
「待ってよ、じゃあキングは、オークキングは一体どこにいるの?」
「可能性は三つ。一つ目はオーク達も別働隊で街を攻めに向かっている事。だからワイズさんに急いでギルマスに報告に行ってもらいました」
「ギルマスが出れば何とかなるって所か? 後二つは?」
「二つ目は、今門を攻めているオーグさん達の背後から、私たちの作戦と同じように挟撃しようとしている事」
「クソッ!」
「そして三つ目は……それら二つを同時に展開……です」
「どこにキングが出るかわからないって事か。どうする瑞樹……」
どうする……考えろ俺……オーク達の目的は何だ?
せっかく捕まえた女性達を放ってまで別働隊を組んでやる事……
「オーグさん達を挟撃して足止めもしくは痛手を負わせる。その間に街を襲って、女性を略奪……」
俺が呟いた憶測に、『雀の涙』達の目が驚愕で見開かれる。
これはあくまで俺の憶測だ。
それにキングと取り巻きが百体いたと考えよう。
ギルマスと緊急に間に合わなかっただろう中堅冒険者と、街の駐屯兵は千人位いるとして、それだけいれば防衛には十分事足りると思うだけど……まだ見落としていそうだ。
「瑞樹、考えるのは後にして、取り敢えず目の前の敵を叩こう!」
確かに。恐らく既にキングはこの集落にはいない、ならやる事は一つ。
「ベリットさん達はオーグさんのところへ戻り、相手の挟撃の準備を! 私はオーク達の背後から攻めます!」
「一人で大丈夫か?」
「ガリュウさん、任せてくださいよ」
心配してくれるガリュウさんにサムズアップし、俺はポーチから自分の装備を追加する。
いつもの刀に加え、スローイングナイフとダガー。それとポーションも幾つか腰のベルトに刺しておく。
「おぉ、瑞樹ちゃんのフル装備格好いいね!」
ユミルはブレないね。
けど、場を緊張させ過ぎないその心遣いもありがたいよ。
「ユミルさんも幾つか持ってください」
「瑞樹ちゃんの愛が詰まったポーション。確かに受け取ったよ!」
訂正、緩ませすぎだ……。
「じゃあ頼んだぞ!」
そう言ってベリット達は崖を駆け上り来た道からオーグ達の方へ向かっていく。
さて、俺も開始するかな。
集落で一番大きい建物、キングの住んでいた小屋の屋根に移動して門の方を見る。
意外とオークファイターが多めで殲滅にも時間がかかっているって所か。
「オークロードは……あそこか」
範囲魔法を使うのに条件は悪くない。
ロードとその周りを狙うだけだから味方に当たる事もないよな。
じゃあやろうか!
「風よ風よ空に巻け 空に巻いて雲を生せ 雲よ雲よ空に巻け 巻いて巻いて光を生せ 光よ光よ雲と巻け 巻いて光よ我と有れ!」
天に伸ばした掌から魔力が大量に失われるのがわかる。
それと同時に空には巨大な魔法陣が展開して、風が渦巻き、雲が生まれ、次第にその雲の中には帯電が起こる。
完成だ。
「喰らえ! 【ユーピテルシュトローム】!」
オークロード目掛けて掌を振り下ろす。
その瞬間、空から轟音と共に雷が降り注ぎ、目の前が真っ白になった。
修行時代にも使ったけど、やっぱ結構派手だな。
しかも範囲魔法だから短縮も難しいし、不意打ちにしか使えん。
「何だあの魔法陣!」
「僕にもわかりません!」
「凄まじいな……」
「さっすが瑞樹ちゃん!」
オーグの所へ向かっている最中に、俺の魔法を見て口々に言葉を発する。
恐らく誰も見たことが無いんだろう。
「ベリット! あの魔法はなんだ⁉︎ 瑞樹は?」
「オーグさん落ち着いてくれ、実は……」
オーグ達も突然の魔法で驚いていたが、ベリット達の報告でそれどころじゃ無いと言う事を聞かされた。
そして直ぐに配置を変えようとしたが、僅かの差で討伐隊の方が後手に回ったようだ。
「オーグさん背後から奇襲です! オークジェネラルです!」
先程の範囲魔法で挟撃が失敗すると踏んで、急いで出てきたのだろう。
混乱させると言った意味じゃ確かに半分成功だけど、作戦をここまで読まれるとは思わなかったんだろうな。
ジェネラルが怒り狂ってやがる。
後方にいるのはランクの高くない『D』がメインだ。
普通のオークで精一杯なのに、そんなジェネラルの相手ができるわけもない。
オーグも防御に徹する様叫ぶが、挟み撃ちに遭った事でパニックを起こし、耳に入っていない。
「ベリット、後方に下がる! ここで残りのオークを倒してくれ!」
「わかった、任せてくれ!」
オーグは、指揮官なのに読みきれなかった事を悔やんでいた。
ロードがいる事は確認出来ていた。だが、それを疑う事なく、後から出てくるものだと勘違いしていた。
それを一番最年少である瑞樹がいち早く気づき、知らせてくれたにも関わらず、対処に間に合わなかったでは済まされない。
「間に合わせるぞ! アイラ!」
「任せなさい! 風よ!」
アイラに号令を掛けると同時に、オーグも【身体強化】をかける。
その直後、アイラが唱えた風の魔法で背中を押され、一気に加速した。
「全員どけぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」
そう叫びながら挟み撃ちを仕掛けてきたオークの集団の真ん中に降りてきた。
降りて来た勢いで何体か吹き飛ばし、そのままジェネラルまで迫る。
突然空から降って来た敵に驚いたオークジェネラルだが、敵中にオーグ一人だけと言う状況に不適に笑うと、そのまま肩に担いだ棍棒を勢い良く振り下ろす。
「ソイヤァ!!」
オーグも初めから狙いはジェネラルだけだから、そのまま自分の武器を振り上げ対抗する。
パニック状態だった他の冒険者達も、オーグの登場により士気を取り戻し、もう一踏ん張りとジェネラルの取り巻きに襲い掛かる。
これで何とかなるかな。
俺がベリット達と合流する頃には、オーグもジェネラルを倒して残り僅かとなった。
「皆さん無事ですか?」
「あぁ、貸してくれた武器の性能が良すぎて、随分と楽をさせて貰ったよ」
それは何よりだ。
だけど、これで確定した。ここにはキングはいない……。
俺たちが集落に来て既に数時間が経っている。
キングが俺たちが来るのを見越して更に数時間早く出たとしたら、街までの道のりもそこそこ進んでいるだろう。
そうなると、ワイズが上手く見付からずに街に辿り着けたとしても、ギリギリになるな。
「これで……最後だ!」
丁度オーグが最後のオークを倒した所だ。
しかし、オーグもこれがまだ終わりじゃない事を理解していた。
殆どの冒険者は、歓びに溢れて手を握り合っていたが、状況を知っている一部の者は次の準備を始めていた。
「どうする?」
「ベリットさん、私たちで追いかけましょう。今から行けばキングの背後を獲れます」
「なる程、俺は指揮官だから一緒には行けないから他に何人か付けよう。それで馬車二台で行けばベースも上がるだろう。瑞樹、頼んだぞ!」
話しを聞いていたオーグが気を利かせてくれた。
俺達は返事をすると、そのまま馬車まで全速力で戻った。
月が頂天に差しかかって来たが、雲行きも少し怪しくなって来た。
「街はまだ無事でしょうか……」
マルトが独り言のように呟く。
皆んなも同じ気持ちだろう、けどワイズやギルマスを信じるしかない。
こんな事なら、攻撃魔法以外の魔法もきちんと習得しておくべきだった……。
「大丈夫、こっちには瑞樹ちゃんがいるもんね! 無事に終わったら、一緒に美味しいもの食べに行こうね!」
待って!
それ、死亡フラグだから!




