これは……まずいな
「おはようございます……」
「瑞樹……ちゃんと眠れなかったのか?」
オーグが訝しげな顔で訪ねてくる。
途中まではいい感じで眠れたんだけどな。
見張りになった途端、「フフフッ……瑞樹ちゃんの愛の結晶……」なんて呟きと言うか、囁きが聞こえてくるんだよ!
不気味だよ! その内襲われるんじゃ無いかってくらいだ。
二徹、三徹くらい問題無いけど、これから戦闘って時に勘弁して欲しいわ。
「いや、大丈夫ですよ」
「ベリット達も今日は頼んだ。って武器が新調されてるな。奮発したのか?」
「まぁ、借り物ですけどね」
そう言ってベリットは俺の方を見る。
まぁオーグになら出所を知られても、大丈夫だろう。
オーグの装備している武器も見れば、それなりの性能を持っていそうだしな。
成る程って顔してるよ。終わった後に色々聞かれそうだ。
「よし、これから森に入り、オーク共の集落の手前まで進行する。道中は周囲の警戒を怠るな! では出発!」
オーグの号令で、進軍を開始した。
偵察隊が先行し状況を確認して、その後を俺たち本体が進む。
補給班は他の班に任せて、『雀の涙』と共に俺は先頭付近で一緒に進む。
「瑞樹、この進行具合どう思う?」
「ベリットさんはどう思っていますか?」
「取り敢えずは順調だな、って感じだ」
「私も瑞樹の意見を聞きたいわね」
ベリットと話し合っていると、オーグと一緒に前を歩いていたアイラも会話に混ざって来た。
皆、気楽に歩くなぁ。
俺が一人で修行していた時は、片時も気を許せなかったぞ。
と言うか今も気を使っているのに……。
「私の意見ですか。そうですね……恐らくですが、既に向こうには知られていると思って間違い無いと思います」
そう、さっきから散発的にオークが出現している。
それ自体はこれと言って問題ない。
寧ろ普通のオークならランク『D』のパーティで問題無く倒せてしまうのだから。
「その根拠は?」
「オークが自分たちの縄張りの森であるにもかかわらず、『一体ずつ』でしか現れないからです」
「そうか、本来ならあいつらも集団で襲って来てもいいはずなのに、逸れのように一体で来るということは……」
「捨て駒を襲わせて、俺たちの位置を探らせている……と言う事か」
そう言う事だ。
「アイラ、【探索魔法】の範囲はどこまでいける?」
「五百メートルはいけるわね。ただ今後のことも考えて、そう何度も使えないわ」
結構広いな。
昨日までのマルトだったら恐らく百メートルが精々だったろう。
「なら僕もカバーします」
「あら、マルト君だったかしら。新調した杖で頑張っちゃう?」
「ええ、良いところ見せませんとね」
今のマルトなら杖の効果もあるから、アイラに引けを取らないだろう。
「ならお手並拝見」とばかりにマルトに【探索魔法】を展開してもらった。
「まばらですが、点々と居ますね……」
「数と場所はわかるか?」
オーグがすぐに聞き返して、偵察隊の他に隠密に長けた冒険者に対象の殲滅を促した。
敵に知られているのなら、先行して倒しちゃった方が良いだろう。
一定の距離を進む度に、アイラとマルトが交互に【探索魔法】を使って敵の位置を探る。
俺達が慎重に進んでいる間に、偵察隊から順次討伐報告が入ってくる。
どうやらうまく行ったようだ。
「よし、もう少し行った場所で進軍停止だ。残りの時間は交代で仮眠するぞ」
陽はまだ傾きかけたばかりだけど、俺たちの作戦はここからが本番だ。
そう、ここからは夜の間に進軍し、集落に奇襲をかける作戦だ。
「おさらいするぞ、俺達が集落の正面から派手に奇襲する。それから瑞樹と『雀の涙』と『猫の額』は時間を置いて集落の東側から忍び込んで、オークキングと捕まっている女性達を救助するんだ」
オーグとベリット、そしてワイズの三人で作戦のおさらいをした。
って言うかワイズ達いたんだな。
「姉さんそりゃ無いっすよ⁉︎」
「ワイズさん、大丈夫ですか? 着いて来れます……?」
「大丈夫っすよ! 地の果てまで着いていきますって!」
そう言う意味じゃ無いんだけど、まぁ良いや大丈夫だろ。
仮眠も終わり、集落を目前に控えた手前で、オーグ達本体とは別る。
そして俺たち別働隊は、集落を東側の崖の上から見下ろしていた。
偵察隊の直前の情報だと、中央付近の大き目の建物がキングの居住でそのすぐ裏手が、女性達のいる小屋だ。
「姉さん、始まりましたっす」
集落の中の配置を確認していると、ワイズから開戦の一報が来た。
程なくして集落の門らしき場所から火の手が上がる。
と同時に門が吹き飛んだ。
ワァァァァァァァ‼︎‼︎
多分、アイラが門を吹き飛ばしたんだろうな。
そしてオーグが先頭に突入して行った。
「ワイズさん、そこから敵がどれだけ居るか確認取れますか?」
そう言うと、単眼鏡を覗いて数を数え出した。
「んー、普通のが百五十って所ですかねぇ。その中に混じってメイジとアーチャーとファイター。あとは……げ、既にキングがいるっすよ! 銀の飾を着けてるから間違い無いっす」
「もう居るんですか……早いですね」
オーグが先頭で突っ込んで行く気持ちもわかるなぁ。
自分が頑張れば被害が少ないもんな。
「では、私たちも行きましょう」
俺の一言で全員が頷いた。
この奇襲が成功すれば、オーク共も一気にパニックに陥るだろう。
崖を降りて集落に入ると、見張りは少数で、ほぼオーグ達の方へ出払っているらしい。
チャンス、まずは掴まっている女性達の救出だ。
助けて集落から離れるまでは、成るべく見つからない方が良い。
「姉さん、あの小屋ですぜ」
よし、見張りはいない。あとは中の確認だけだ。
「ユミルさん、中の確認を!」
当然、男には入らせれないな。
まぁ嬌声は聞こえないから大丈夫だとは思うけど……。
「瑞樹ちゃん、ちょっといい? マントとか羽織るもの持ってないかな?」
あ、そうか。
中に入ると四人の女性がいた。
これが全員なのかわからないけど、取り敢えず連れ出さないと。
「もう一人いたらしいけど、大きなオークに連れて行かれたらしいわ……キングかしら?」
俺とユミルが考えている時に捕らえられていた一人の女性が疑問に答えてくれた。
「あの……キングかわかりませんが……大きなのと……一回り小さいのが二体……」
ん? ファイターか? あれ?
俺はユミルに適当にポーチからマントを渡して、小屋の外にいるワイズにもう一度確認を取った。
「ワイズさん先程の確認なんですが、キングがいた集団にはアーチャーとメイジ、あとはファイターだけだったんですね?」
「間違い無いっすね。普通のより一回り大きいだけでしたんで、見間違えることは無いっすよ。それに銀の飾りも着けてたっすからね……」
まずい……。
俺は大きな見落としをしていた。
直ぐに紙とペンを出して書き綴る。
「ワイズさん……中の女性四人を連れてすぐに馬車まで戻って下さい。これは気休め程度ですが、予備武器としてダガーとポーションです。そして馬車で街まで戻って、この手紙をギルマスに!」
「どうしたんっすか急に⁉︎」
「早く! 間に合わなくなる前に! 私とのあの時の条件は、街まで必ず手紙と女性を送り届ける事! いいですね⁉︎」
「……オーケィ姉さん。そんな条件無くてもこの重要な任務、やり遂げて見せるぜ! お前ら行くぞ!」
『おう!』
「頼みました!」
俺がそう言うと同時に、ワイズ達『猫の額』のメンバーが女性達を抱えて集落を離脱し始めた。
お、ちょっとだけ頼もしく見えるぞ?
「瑞樹、どう言うことか説明してくれるか?」
「何があったんですか?」
ベリットとマルトが訪ねてくる。
確かにここからは俺一人だけじゃどうにもならない。
「皆さん緊急事態です。 私たちは大きな勘違いをしていました……」
そう、ワイズの見たあれはオークキングじゃ無い……。
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