お前まで脳筋なのか……?
「俺は納得いかないぜ、ギルマス。確かに相手はオークキングで俺たちの手にも余る相手かもしれない。だけどなぁ……だからってこんな名前も素性も、ましてや冒険者に成り立てのランク『G』の小娘に任せるなんて出来るわけないだろ⁉︎」
ギルマスの執務室に来て早々、吠えられましたよっと……。
それも『名前も素性も』知らないおっさんにね? まぁ予想はつくけどね。
あれだ、昨日俺が言った、討伐の指揮者だ。
鍛え抜かれた体と、歴戦を物語る無数の傷が、この男が幾多の激闘を潜り抜けてきたのかがわかる。
けど、それとこれとは別だ。すぐに熱くなるような奴が指揮者で大丈夫か?
こんな状況見せられたら、俺じゃ無くても疑うぞ?
「瑞樹ちゃんや、これでも頭は切れる方だぞ?」
「え? 血管が切れてる方じゃ無いんですか?」
「上手い!」
俺の後ろの方で合いの手が入る。
吠えてる男の相方のようだ。
見たところ、この女性は後衛かな?
「改めて紹介しようかの、ランク『A』パーティの『猫の手』じゃ」
可愛い名前だなぁおい!
この世界どうなっちゃってるの⁉︎
いや、これひょっとしてあの女神のセンスが影響しているのか?
ギルマスが紹介すると、男の方はそっぽを向いて舌打ちだけした。
愛想悪いなぁ。
「ウチの相方がごめんな、私はアイラ、そんでこっちが、オーグ」
「いえ、大丈夫です。改めまして、瑞樹と言います」
「どっかの誰かより、余程大人じゃの」
「わかったよ! ……俺がオーグだ……」
渋々って感じだな。
でもまだ目が疑ってるぞ、一発殴っとくか?
いや、それじゃあ俺も脳筋と一緒だな。
「先に言っとくぞオーグ。決して実力を試そうとか思わんことじゃな。何せ昨日ワシが立ち合ったが、手も足も出んかったからのう……」
「「マジで⁉︎」」
ギルマスナイス!
これで、無駄に挑まれる事もないだろう。
「瑞樹よ、ぜひ私と立ち合ってくれ!」
何、アイラって方も脳筋だったか。
てっきりオーグのストッパーかと思っていたんだけど、実は煽る方だったのか?
「いえ、これからミーティングと準備ですよね? そんな時間も有りませんし、何せ私にその気がありませんよ」
「むぅ、しょうがない。なら次に時間が取れた時にお願いしよう」
取り敢えず引いてくれたか。
俺たちの話が付いたのを見計らって、ギルマスが討伐時に於ける俺のポジションを説明してくれた。
まぁ何人か見知った顔がいると言っても、ランク『G』が前の方にいるのは違和感しか無いしな。
そういう意味でも出発時は、最後尾で補給班として行動するのがいいだろう。
「わかった。なら瑞樹には補給班として、そして現地までは『雀の涙』を一緒に付けよう。知り合いと一緒に行動する方が、安心感も増すだろうしな」
おぉ、考えてくれているのか。
脳筋の割に気が効く奴だな。
パーティの相方が女性だからその辺りの機転は聞くのかな?
何にしてもありがたい事だ。
「お気遣いありがとうございます」
「フンッ、これも指揮者の務めだ……」
「瑞樹、気にしないでくれ。オーグは照れているだけだ」
「アイラ!」
本当だ、耳が赤いぞ。
ならここは笑顔で返すってのが定石かな。
「明日はよろしくお願いしますね!」
「わ、わかった……」
意外と照れ屋さんだな。
可愛いところあるな。
まぁ何にせよ、ギスギスしたままじゃ無くて良かったよ。
ギルドホールの脇にある広めの階段から2階に上がった大会議場に、緊急依頼と指名依頼を受けた冒険者が一堂に集まったんだけど……。
それでも百人もいないかな?
オークが少なく見積もっても二百体とか言ってたから、結構厳しい依頼になるよな。
「皆、集まってくれてありがとう! 今回指揮を取る『猫の手』のオーグだ!」
オーグが皆の注目を集めて説明を始めた。
こう言うのはてっきりアイラがやるものだと思っていたんだけど、結構上手いもんだ。
上位ランクになると、こう言う経験も積むのかな?
「……今回の最大の敵は、これらを纏めている『オークロード』だ! これは俺とアイラが相手をする。その際の戦闘は、邪魔が入らないよう他の者には露払いを頼みたい。」
『オークロード』? 俺は目立たない様一番角で聞いていたけど、それでもオーグの声ははっきりと聞こえた。
……情報規制か。
クラス『A』が指揮を取っているのに、敵のボスがクラス『S』じゃ不安だもんな。
なら当日まで黙っていた方が良いだろうよ。
それか、発覚する前に俺が先に倒しちゃうかだよなぁ。
「あ、瑞樹ちゃん! 今回はよろしくね!」
ユミルが俺を見つけた途端、大声で呼んだ。
相変わらずテンション高いな。
ミーティングで各割り振りが決まった後に解散となったんだけど、補給班は一度馬車の確認で集合した。
所謂物資の確認だ。
必要最小限の物は個人で持ち歩くが、今回は緊急な為に食糧や水は全てギルド持ちだ。
前に会ったのは、調査指名からの帰還の時だったか。
一応一晩寝て、すっきりって感じかな。ベリットやガリュウ、マルトも元気そうだ。
「瑞樹ちゃんはもしかして、指名依頼で?」
「そうですね。昨日ギルマスにあった時、そのまま指名依頼を受けました」
すすっと寄ってきて小声で何を話すのかと思いきや、依頼のことか。
今回の依頼はランク『D』以上限定だから、冒険者同士、きっと見知った顔ばかりなんだよなぁ。
そんな中、新参の俺が入り込んでいるとそこそこ目立つんだよ。
ミーティングの時でも端っこにいたのに、横目で見ている奴らがいたしな。
「やはり、あの時の実力は只者じゃなかったんだな。がしかし、お互い頑張っていこう」
ベリット達と挨拶し、残りの時間は、個人の装備の準備となった。
出発は翌朝。俺も流石に今の装備だけじゃ心許ないし、一度宿へ戻って準備し直そうか。
やっぱりあった……。
もしやと思ってポーチの中を詳しく調べたら、出てくるわ出てくるわ。
修行時代に手に入れた武器や杖が全部詰め込んであった。
確認してないけど、俺が集めた物全部入っていると思って間違い無いな。
これなら万が一があっても大丈夫だな。
「あとは、街で買い出しか」
俺の独り言だ。
同居人がいなくても声には出す。
別に寂しくて言っているわけじゃ無いからな?
と、取り敢えず買うもの買って、明日に備えるか。
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