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これは面倒な奴だ

気付けば百話を超えていました。

マイペースではありますが、頑張って書き続けて行きます。

 俺は接敵する地点に先回りし、身を低く屈めて魔物が来るのを待つ。

 まずは何故、あの魔物達が集団で移動するかを見極めたいからだ。たまたま強い個体がいて、他がそれに寄り添っているのか。それとも明確な指揮者がいて、そいつの指示で動いているのか。この二つの可能性なら結局頭を潰せばいい事は共通するけど、後者の場合はさらにその背後まで気にする必要がある。これが考え過ぎなだけならいいけどな。


 そんな事を考えていると、程なくして魔物の集団が地平の向こうから現れる朝日と共に姿を表す。そのシルエットは大小様々だが、それらは二年前の鉱山、帝都に向かうときに現れた魔物、そして実験施設にいた実験体達に酷似していた。

 酷似というのは、明らかに実験体から生まれた存在だと言うのはわかるんだけど、その姿が洗練されているせいだ。

 人の姿のまま両腕部が異常に発達した個体、両足が動物の後ろ足の様に逆関節に曲がっている個体もいれば、全身が鱗に覆われた個体などもいて様々だ。

 そして決定的に違うのは……


「なぁ、人を殺し放題って本当かよ?」


「らしいぜ、この先の街道を通る奴らを片っ端から襲ってもいいと言う話だ」


「ならば早いもん勝ちって事だな」


 こいつらの殆どが人の言葉を話し、意思を持っている事だ。

 鉱山で戦ったやつは、薬を飲んだ後に自我が崩壊した。街道で襲ってきた奴はそもそも自我なんてなかった。実験施設で会ったナオの父親は僅かに自我があったけど、そもそも動ける体じゃなかった。

 じゃあ何でこいつらはあの姿で無事でいられるんだ? 薬は完成していると言うことか?

 取り敢えず、この話は後にして今は目の前の敵の排除を考えよう。

 敵の数はざっと見ただけで三十体位だ。この数なら範囲魔法で一掃したいけど、今回はそうもいかない。

 何故なら、俺達が隠れながら行動しているせいだ。追手が来ている可能性があるのに、派手に動いたらそれこそ目立ってしまう。

 なら、あれこれ考えるのは止めにして、片っ端から斬るしかないだろう。


 ポーチから、いつものダガーとスローイングナイフを装備し、フードを深く被り直して【身体強化】の魔法を自分にかける。

 そして、奴らの背後に素早く回り込み、最後尾の魔物に躊躇なくダガーを首筋に突き立てた。


「がぁっ……」


 何が起きたかわからず絶命する魔物を尻目に、すぐさま隣の魔物の喉元も切り裂く。


「なっ……」


 ひとつ、ふたつ、みっつと、周りが騒ぐ前に素早く殺していく。

 日が登り始めたとはいえ、まだまだ周りは薄暗い。魔物達の身長は比較的高めだから、奴ら自身の足元の暗さを利用して間を縫いながら確実に仕留めていく。


「全員広がれ、何者かが潜んでいるぞ! ぎゃぁっ……」


 しまった、ワンテンポ遅かった。

 十体を超えたあたりで、敵に感づかれ警戒を許してしまった。

 今までの戦いは、修行時代も含めて大体が魔法で牽制して敵に殴り込むスタイルだった。だから、今回のような薄闇に乗じて暗殺する様な戦闘スタイルはほぼ初めてだ。

 やっぱり、ギルモアに着いてきて貰えばよかっただろうか。今更ながら後悔だ。

 とは言え、ここまでやれているのは、単純に戦闘力の違いだ。囲まれながらも敵の気配を読んで躱し、正確に急所へダガーを突き刺し、スローイングナイフを投げ込む。

 個々の強さは、俺にとって大した事はない。感覚的にだけど、一番弱いのでランク『C』って感じだ。そして未だ手を出さずに遠巻きに様子を見ているのは、ランク『A』って所か。

 数はそこそこいるけど、オークキングの様なランク『S』がいないからこのまま白兵戦でも何とかなるだろう。


 そう考えながら次々と倒していると、遂に残りは十体を切り、さっきから様子見をしている奴らだけになった。


「あなた方の中に、私の質問に答えてくれる方がいれば良いのですけど。『人を殺し放題』なんて言葉を聞いている以上、見過ごす訳にはいきませんので」


「女か……随分と腕が立つ様だが、俺らをそこらに転がってる一般兵と一緒にするなよ? そうだな、お前が俺らに勝てたら質問に答えてやろう。その代わり、負けた時には覚悟しとけよ」


 なる程、あいつがリーダー格で、口が軽くて頭の弱い奴だと判明する。こいつらは、メルの屋敷の時と同じで、帝国兵だと言う事か。

 これだけ口が軽そうだと、追い詰めれば色々聞かせてくれそうだ。


「何を覚悟しなきゃいけないのかわかりませんが、色々教えて貰う必要がありそうですね」


「お前ら構えろ、俺らの連携を見せてやるぞ!」


「「「おう!」」」


 そうか、こいつらはさっきの奴らと違って連携が得意なんだな。

 その辺りは、普通の魔物と違って人間としての意思があるから、連携と言う発想もあるのか。

 などと感心していると、一番最初に見た足が逆関節の魔物が猛然と突進して来た。


「特攻隊長はこの俺、ドゥルガー様だ!」


 連携と言いながら単騎で突っ込んで来るのを見据えた俺は、その場で構えてカウンターを狙おうとしたが、次の瞬間に違和感を覚えて、咄嗟にバックステップで大きく後ろに後退する。


「気付くのが遅い!」


 そう言いながら、俺の前でジャンプしながら手にしている剣を大きく振りかぶる。

 違和感の正体がわからないまま上段から振り下ろされる剣を迎撃しようとした時、足元から銀色の光の反射を見て全てを理解した。


「そう言う事ね!」


 それだけ判断すると、そのままドゥルガーと呼ばれる魔物まで一瞬でジャンプして、その勢いで心臓にダガーを刺す。


「ぐあ! なん……だと」


 俺の注意を上に向けておいて、足元への攻撃。良い連携だけど、気合の割りに単調すぎないか?


「ドゥルガー! やりやがったな、全員フォーメーションZだ!」


 リーダーがそう叫ぶと、残りの全員が一斉に動き出した。

 地面に足をつけた俺に、足の速い敵から順番に俺に襲いかかる。魔物の特徴である爪や牙で襲い掛かる者もいれば、それが表面に現れないけど、身体能力が異常に発達し、高速で剣を振るう者もいる。

 要するに、息を吐かせぬ波状攻撃だ。


「あ、これ面倒なやつだ……」


 俺は攻撃をあしらいながら、思わず口ずさむ。

 今更ながら気付くが、正直この状況は以前、街道沿いでベリット達を襲撃した状況に毛が生えた程度だと想像していた。

 けど、現実は違った。単騎で破壊力はあるけど、連携を取らないランク『S』のオークキングよりも、連携の取れたランク『A』の方が何倍も厄介だ。

 ドゥルガーって奴を倒したことにより、残りの敵に一切の油断が無くなり絶妙な均衡が生まれた。

 【身体強化】を掛けた俺一人対、薬を取り込んで人としての能力を超越した帝国兵。


「今更気づいても遅いぞ、そのまま切り刻んでやる。ドゥルガーの仇だ! フォーメーションZツー!」


 このリーダー、ドゥルガーとそんなに仲が良かったのか、一々名前が出てくるな。そしてZツーとは?

 と思ったら、その速度が今までより更に上がり、攻撃も苛烈になった。


「いてっ……」


 その速度はどんどん速くなって、遂には二の腕に切り傷を付けられた。何気にこの世界に来てから、初めての怪我かもしれない。

 けど、これは自分に対する良い戒めだ。武神ガレルの修行でひたすら避ける練習が無かったら、今頃なます切りにされていたかも。


「ほう、見た目も身体つきも悪くないな。どうだ、俺の女にならないか? ベッドの上でいい思いさせてやるぞ。それに、それだけの実力があれば、バレジア王国軍でもかなりの地位に就くことができるとお思うがどうだ?」


 ……知らない国の名前が出てきたぞ。

 ってこいつら、帝国の兵じゃなかったのか。ちゃんと考えればそうだよな。いくら帝国兵でも、自分の国民を殺して回れなんて指示を出さないよな。

 マントが破れて露わになった俺の体に、幾つもの嫌らしい視線を叩きつけてくる。この二年で、この手の視線に慣れたとはいえ、嫌悪感を感じない訳がない。寧ろ男だった時の感覚が残っている分、人一倍強いんじゃないんだろうかと思う程だ。


「いえ、そう言うのには興味はありません、化け物の仲間にはなりたくはありませんので。それに、イキって吠える人ほど、早くて下手というじゃないですか。そんなのじゃ満足できませんので悪しからず」


 ちょっと、いや、かなりビッチっぽい煽り方だけど、そんな経験も無いからこんなので引っ掛かるか怪しいもんだが……

 それに、人の身体目当てで勧誘とかマジでごめんだ。ましてや、化け物の仲間入りなんて冗談でも笑えない。


「言うじゃねぇか。本当にそうなのか、テメェを組み伏せてわからせてやるよ!」


 うん、俺のわかりやすい挑発にあっさり乗ってくれるとか、やり易くて助かるよ。

 リーダーがリーダーなら部下も部下だ。全員が頭に血が上った状態だから、さっきの連携はどこへやらと言った感じで、がむしゃらに突っ込んで来るだけだ。


「その服も引き裂いてひん剥いて……ぎゃぁっ」


「なら、隊長より俺が先にぐえっ」


「なら俺が一番乗り……ごふぅ」


 とまぁ、連携も繊細さも持ち合わせない個々の能力なんて、ただの足の速い魔物程度だ。

 向かって来る相手に合わせてカウンターで迎え撃って、確実に仕留めて行く。


「さて、これで後は貴方だけになりましたね」


「ぐっ……」


 あれだけいた魔物の集団は、朝日が完全に顔を出す頃にはリーダー一人だけになっていた。

 ナオ達はもう移動を開始している頃だろうし、俺も時間をかけすぎたと思う。

 それでも目の前には、何やら重要な情報を持っていそうな奴もいるんだ。ここで逃さない手は無いだろう。


「さて、貴方には二つの選択があります。一つは、私に全ての情報を渡して大人しく逃げ帰る。もう一つは、何もせずにこのまま殺されて朽ち果てるか」


 何だか悪役っぽいセリフだけど、一応譲歩案を出す。

 流石に向こうも殺されたくはないだろうし、何かしらのリアクションはあるだろう。

 最悪、殺す事になっても最低限の情報は手にしているし、それを持ってベックとギルモアに相談に乗って貰うさ。

 さて、どうする?


「あ……」


「あ?」


 プルプル肩を震えさせながら何かを言おうとしているけど、どうした?


(あね)さんの下についていきます!」


「いらんわ!」



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