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事情はわかったけどさぁ

 指名依頼?


「指名依頼される程、実績を積んだ覚えはありませんよ?」


 まだこの街に来て数日だし、依頼も採取と街の巡回の二回のみ。

 そこへ来て、ギルマス自らの指名依頼など請けようものなら、『身体を使った』などと下衆な勘繰りで騒ぎ出す奴もいるだろう。

 そんな下世話な騒ぎになど巻き込まれたくないわ!

 だからこの依頼は却下だ。


「まぁ待て、先ずは内容を聞いてからじゃ。お主も知っておろうが、逸れオークの件で、複数のパーティに指名調査を出した」


 そのうちの一つがベリットがリーダーの『雀の涙』だな。


「その複数のパーティ全てが戻ってきての、持ち帰った調査報告を精査した結果、丘の向こうにある大森林に入ってたった二日の地点で集落が見つかったそうじゃ」


「大森林?」


「そうじゃ、その森は少々特殊でのう。どう言うわけか、森が瘴気を溜め込む習性があってのう、それで魔物がホイホイ生まれるわけじゃよ。しかもそこそこ強いのがの」


 なる程、それでメリッサが慌てていたのか。

 なら緊急依頼でも何でも出して討伐すればいいだけじゃないか。


「問題はここからじゃ。先ずは一つ、あの集落には少なく見積もっても二百体はおる。」


 結構な規模だな、それなりに部隊を組まないといけないな。


「次に、あ奴らは他所から来て集落を作ってるから、この街以外で捕らえた女性が何人かおると言う報告が入った」


 マジか、こうしている間にも女の子が乱暴されている可能性があるのか……


「ここが肝心じゃ。あれだけの規模じゃ、長はおそらくオークキングじゃろう。オークキングのクラスは『S』じゃ」


 オークキングってオークのバカでかいので、金の装飾を着けてたやつだっけ?

 そうか、なら同じクラスのパーティをぶつければ良いじゃないか。


「そしてこの街にも『S』クラスの冒険者はいるのじゃが……生憎今は出払ってての、現状倒せる奴がおらんのじゃ」


 ダメじゃん。

 詰んでるじゃないか。

 って、ちょっと待て。


「ひょっとして、そのオークキングを私が倒せとか言いませんよね……?」


「ひょっとしなくても、お主しか倒せるものはおらんぞ?」


「何で私が倒せると言う結論が出るのでしょう?」


「そりゃあのう。わし自身がランク『S』だからじゃ!」


 あーうん……事情はわかった。

 けどなぁ、俺としてはもう少し穏やかにランクを上げて行って、大人しく暮らして行こうと思ったんだけど……。

 ん〜〜……まぁしょうがない。


「わかりました。まずは後方支援部隊として列に加わらせて下さい。その上で、ギルマス自身で、この討伐の指揮者へご説明をお願いします」


「おぉ受けてくれるか! わかった説明はわし自ら行おう。して、報酬は全部終わった後で構わんかのう?」


「えぇ、それで構いません」


「緊急依頼の掲示はこの後張り出して、明日の昼過ぎにはミーティングを始めるから、それまでには顔を出す様にの」


 こう言うのをなし崩し的とでも言うのかね。

 ちなみに、『雀の涙』と『猫の額』のパーティはランク『C』だそうだ。まぁ中堅どころって感じか。


「あ、話終わりましたか? 素材買い取りの査定が終わってますので、お渡ししますよ」

 

 話が終わってロビーに戻ってくると、カウンター越しに声を掛けられた。

 そう言えばメリッサに預けたと言ってたっけ。危うく忘れる所だった。


「え、っと……な、何とですね……白金貨三枚と、金貨五枚になります……」


 メリッサもこんな大金扱った事ないのか、少し手が震えている。

 俺もカードの中には結構入っているのはわかるが、実際に目にすると流石にこれは怖いな。

 地球にいた時でもこんな大金なかなかお目にかからない。

 相場としては、白金貨が一千万、金貨が百万、銀貨が十万、銅貨が一万、鉄貨が千で、その下が鉄貨に穴の開いたデザインなどで小銭を分けている。

 地球をモチーフにしたのだろう、市場に回っている食べ物を見ても大体同じくらいだ。


「あ、金貨だけこちらで貰うので、後は預かってください」


 銀貨や銅貨の小銭に分けて残りは預金だ。

 しかし、この世界に来ていきなりお金持ちなのは良いけど、今の所使う当てがない。

 いや、宿じゃなくて、家を買うのも悪くないかも。

 今回の依頼が終わったら考えてみようかな。



 外へ出ると日は傾き、辺りは結構薄暗くなってきた。

 今日一日何もしていないはずなのに、結構疲れた気がする。

 気疲れという奴だな。


「あ、瑞樹さん! こんばんは!」


 声がして振り返ると、アレンとマリンがギルドから出てきた。

 どうやら明日の巡回警備の受付を済ませてきたそうだ。


「二人ともお疲れ様。これから晩ご飯をどうしようかと考えていましたけど、ご一緒にいかがですか?」


「良いですね。と、言いたい所ですが、私たちの身入りではそんなに……」


「私の懐が少し暖かいので、今夜は奢りましょう」


 二人が難しい顔をしているが、俺の『奢り』と言う単語に速攻で笑顔になった。

 現金な奴等め。

 まぁ俺もこの二人は気に入ってるし、たまには良いかな。




「今はランク『F』以下の依頼は、外に出るのを自主制限を強いられているからね」

 

 マリンのおすすめの食堂で、アレンが現状を教えてくれる。

 逸れオークの一件で、オークに対抗できない冒険者の一部は、街の外に出るのを制限されている。

 当然、商人など街から街へ渡り歩いている者も、護衛無しでは出る事を許されず、困り果てていた。

 それでも出ると言う人などいれば、一筆書いて貰おうと。

 そりゃそうだ、安全のために出るなと言っているんだ、残りは自己責任だわな。


「それでも冒険者は自由業ですから出られるのではないのですか?」


「そう、だから『自主制限』なんだけどね。それと、ギルド出る前に見たけど緊急依頼でオークの集落を襲うってさ」


 俺が出るときに入れ違いで貼り出されたのか。

 それと同時に指名依頼も出されたそうだ。当然、パーティ単位で出されたところもあるが、俺の様にソロで受けている人もいるだろう。


「ランク制限さえなければ瑞樹さんなら、今回の依頼は活躍できるんじゃないかな?」


 うん、指名受けてるし、問題ないよ。


「アレン君、何言ってるのよ! 危険なのよ? 簡単に言ったらダメよ!」


 マリンが目の色を変えてアレンに怒る。

 実際に自分が危険な目に遭っただけに、簡単に言うアレンに対して思う所があったのだろう。


「あ、うん。そうだね、瑞樹さん、ごめんよ」


「いえ、大丈夫ですよ。マリンさんも心配してくれてありがとうございます」


 心配してくれてるんだしね。


「それと、瑞樹さんは妙に他人行儀過ぎます。」


「そうでしょうか?」


 それを言ったらお互い様なんじゃぁ……


「だから、瑞樹さん。じゃ無くて、瑞樹と呼び捨てにするから、私のこともマリンと呼び捨てにして! あと、敬語も禁止! アレンもね!」


 どうしちゃったんだ急に……

 思わずアレンの方を見ると、苦笑いしている。

 どうやら事情を知っている様だ。


「今朝、ギルドで瑞樹の事情とかを知っちゃってね。それでもっと友達にならないとと思っているらしくて」


 あー俺の身の上話しでも聞いたのか? 発信源はユミルか?

 健気だなぁ。

 でも、年の近いこの二人から見て他人行儀に見えると言う事は、それ以外の人にも堅苦しく見えると言うことなのか?

 でも、そうやって打ち解けてくれる人がいると言うのも悪くないかな。


「えっと、マリン、アレンありがとう。私のために気を使ってくれて。じゃあ改めてよろしくね」


「もちろんだよ。私こそよろしくね!」


「俺もよろしくな」


 俺の笑顔に、もちろん笑顔で返しくれた二人。

 よし、決めた!

 何を決めたかはまだ二人には言えないが、まずは明日以降のオーク討伐に集中しよう。


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