CHAPTER9ー4 狙い通り
こんにちは、川田です。
今年も残すところ、今日を入れて3日になりました。皆さんにとって2010年はどんな年ですか?僕はなかなか嫌な年でした(笑)
さて今話も急展開となっており、術師の戦いが激しさを増して行きます。
非日常と日常が入れ替わってしまうのではないか…
なんてね(笑)
大富豪同好会の活動が徐々に全校へと知れ渡ることになります?
てな訳で今話を読んでくださってありがとうございますm(__)m
ー3年A組教室ー
「やけに賑やかだな。俺達以外にもケンカしてるやつがいんのか?」
「吉田君と後藤君だ。」小橋は窓から教室の外を見て言った。
「何?お前の味方か?」小林は変術師に聞いた。
「…………………違う。」
「お前の単独行動か?」 「…………ああ。」
「ほう。ではなぜ俺らを狙った?俺は一般人だぞ?いきなり斬りつけてきたからには気分で、なんて言ったらそれこそお前を障害者にしてやるからな。」
「……………命令された。写真がある。」
「あ?」
「襟の裏だ。」
「気をつけろよ。」小橋が割り込んできた。襟の裏に猛毒が塗ってあるかも知れん。」
「なるほど、なら。」小林は変術師の腕を捻ったまま持ってきた。
「何か言い換えることはあるか?」
「ない。」少々イライラした声であった。
小林が写真を取り上げた。
「なんだこれは。」 「依頼主に頼まれてお前ともう一人を殺せと言われたが……」
「言われたが?」
「逆探が聞かない電話ごしにだ。依頼料は家の郵便受けに直接入れられていた。」
「だが、失敗したわけだな?依頼主は知らんと。じゃあ用無しだな。」
小林は変術師の首にナイフを少し刺した。変術師は微動だにしないが、血が滲んだ。
「始末するか。」小橋は鼻を鳴らした。
「だが」
「?」
「変身の力を無くさせるだけでいい。こいつの場合、どうやって周囲の景色に同化しているか分かるか?」
「分からないな。だが、大抵の場合は頭に猛打撃を与えて記憶ごとしばらく飛ばすのが一番よかろうな。」
「そうか。そうと決まれば。」小林は襟首を掴んでひっくり返させた。
「小橋、邪魔が入らぬ内に早く。」
「やめろ!!!」怒声が響いたが、変術師は全く動けなかった。
ボコッといやな音がして、変術師は頭から血を流してのびていた。
「死んでないよな?」
「ああ、こめかみを触れば分かる。」
小林は触れてみた。動いている。
「こいつを引きずりだそう。まあ、廊下の交戦が終わってからだな。」
「助太刀に行かないのか?」小林が驚いたように聞いた。
「彼らは1対1や1対3の方が殺りやすいんだよ。味方の事を案じなくて済むからな。」
「へえ~~」
「だから、しばらくは待機。ベランダから飛び降りるなら話は別だが…………ん?」
今までに聞こえなかった、叫び声が唐突に聞こえてきた。
「……………」小橋は静かに移動し、教室のドアの小窓から外を見た。
「しまった!!!」
「えっ?!」
「鈴木君を忘れていた!!」
ー3階廊下ー
「ヌアアッ!!」気合いの掛け声と共に、高く跳躍して、踵落としを仕掛ける吉田。上久保はそれを腕を交差させて受け止めると、蹴りあげようとする。
吉田が自由な右手でそれを止める。上久保は構わず脚で押すようにして突き飛ばそうとするが、やや後退しただけで吉田は停止。
タタッ、と上久保は間合いを再び詰め、斬りにかかる。吉田も避けようとせず、日本の短刀でお互いに切りあいになる。
ガキン!!ガキン!!と激しい金属音が響いていた。
「フム。なかなか扱いずらいな、短刀相手も。」上久保は一旦退いた。
「近づきたいが、短刀の斬撃範囲に入るのは厄介だな。」
「だろうな。」
「この刀も重いからな。体力的にはこちらが危ない。」
「あっそ。」
「だからこそ、お前は私を寄せているんだろ?自ら間合いを埋めないから気付かれないと思ったら大間違いだ。」
「………………」
「とは言っても」上久保は刀を見つめた。
「こいつの斬撃範囲に入らなきゃならないからな?肉を切らせて骨を絶つ、か……………」
「お前らの目的はあくまで監視だろ?一時休戦にしないか?僕が嫌々戦ってるのを知ってんだろ?」
「遠回しに『自分は本気を出していない』とでも言うつもりか?どちらにせよ、『まだ』退かない。」
「まだ?」吉田が顔をしかめた。
「ああ。」上久保は一瞬後藤に対して2人でかかる清水の手下を見た。
「決まった時間に報告せねばならんのでな。」
「お前らって組織化してたっけ?」吉田が嘲るように言った。
「黙れ。」チャッと刀を吉田に向けた。
「結束力や団結力はこの際関係ない。個々人が実際に戦う以上、私が強ければなんの問題もない。」
「浅はかだな。」吉田がせせら笑った。
「理論武装によって自分を保身する。要は現実から目を背けるって訳だ。」
「お前に言われたくないな。下手物にしか興味のないオタクに。」
上久保が言うと、吉田の目が殊更に冷たくなった。 「オタクを見下す一員か。ではオタクに前回踏まれ、斬られ、蹴られ、殴られ、挙げ句の果てに殺されかけたお前は一体なんなんだろうな?」吉田がそう言って嘲笑する。
「だから」もう上久保は喋るよりも武力に物を言わせようとしていた。
「お前に復讐に来た。」刀を握りしめる。
ダダダと走り出した。
「ほうほう、厄介だね~」吉田は待ち構える体勢を取った。
「ハアッ!!!」気合いの掛け声と共に上久保が刀を降り下ろした。吉田が右剣で軽く受け止め、左剣で刺そうとする。
だが。
上久保は次の瞬間、刀を振り回すように、楕円を描きながら力任せに叩きつけ始めた。さながら剣道未熟者が竹刀を振り回すのに似ていた。
だが、上級者たる上久保がやるからこそ、吉田は完全に不意をつかれた。
「おっとっと、っと、っと、っと!!」
吉田は後ろに跳躍するが、上久保は走りながら振り回すという、自分もなかなか危なげな行動を取りながら攻撃してくる。
「このっ!!!」壁際に追い込まれて、 吉田もかなりの大振りで対応せざるを得ない。
より激しい金属音が響き渡った。
「フム。たまには、こういう大振りみ悪くない……な!」
吉田の短刀が弾かれた。
「!!!」
「そこ!!」上久保は空いた左手目掛けて刀を振る。吉田が、右剣で庇う。
狙っていたかなように上久保は右腕を空いている左手でつかんだ。
「!」右腕を引っ張る。そして襟首を掴んで、吉田を有らん限りの力で投げ飛ばした。
「危なっ!!!」吉田が受け身の体勢を取って事なきを得たが、剣を再び拾い上げた時には息を切らしていた。
「ハッ。私の投げに転がらないのか。流石だな。」 「なんだその余裕は。ったく、気に食わないな。」
「私はただ誉めただけだぞ?それを………」
それ以上、言葉はいらなかった。
吉田は一瞬なぜ、上久保が話すのをやめたのか本気で分からなかった。だが、事態に一瞬遅れて気が付いた。
清水の手下2人と戦う、後藤。目を瞑り、手を前で胸の合わせて何かを唱える、清水。後藤に倒され気絶するもう1人の手下。吉田と対峙する上久保。それ以外に動くものがあった。いや、今まで居たのにまるで気が付いていなかった。
上久保はこれまでにない勝ち誇った表情を浮かべていた。
鈴木が目を覚ました時には、周りには誰もおらず、しかし見知った顔が日常ではありえない行動をしていた。
吉田が何者かと交戦している。
よく見ると、少し離れた所で小柄な少年も2人を相手に戦っている。
さらによく見ると、吉田が対戦してる相手は自分を斬りつけた相手…………
「ッ………」傷口がじわりと傷んだ。
起き上がった。
途端、吉田とその対戦相手の動きが止まった。それも数秒、対戦相手がこちらに向かって突進してきた。
「逃げろ隆徳!!!」どこからか小林達也の掛け声がした。
「えっ………」
気がつくと対戦相手が目の前に居た。日本刀を振り上げて。
「!!!!」
「隆徳!!」
ザバッ!!!!!!
嫌な音と共に何かが覆い被さってきた。痛みはない。だが、ヌメヌメとした生暖かい何かが腹に伝った。
「うぉおおおおおおあああああああああ!!!!」吉田が吠えながら、対戦相手に突進し、引き離した。
覆い被さってるものは一向に動かない。
「!」どかしてみようとして気付いた。
小林だった。
脚から尋常でない出血を起こしている。あまりの出来事に脳が現実として映像を受け入れる事を拒否している。
「ごっつぁん!清水を殺れ!!助けを呼ぶんだ!!」
「てめえ!!それは無しだと始めに言っただろうが!!!」吉田と対戦相手がそんなやり取りをしていたが、そんなことは鈴木には関係なかった。救急車を呼ばねば。
後藤は対戦相手が鈴木に気を向けた一瞬をつき、1人を倒して1対1にもちこみ、ようやく計3人を倒した。
「フッ!」
後藤が投げた氷細工が一直線に凄い速さで清水に向かう。
「このっ!!!グッ!!!」
「余所見の余裕があるとは見上げたもんだな!!!」上久保が氷細工を払おうとしたが、吉田が阻む。
グサッ!
「痛ぇ!!!!」清水の額に当たった。
「…………ん」清水は一瞬ふらつき、気を失った。
途端、階段を上がる音が大量に聞こえてきた。
「おや?」
「先生、大変です。達也が大怪我をしました!!見てください!」鈴木が訴えた。
彼らの担任、川北先生その人は冷静に小林を見た。
「鈴木君も怪我してますね。救急車呼んだ方がいいかも知れませんね。」
「そうしてください!!」
「でもどうしてそんな大怪我を…………ああ。」吉田と上久保を一瞥してから頷いた。
階段を上がってきていた3年生達の声も急に止んだ。
きこえるのは金属音だけ。
小橋が、変術師を引きずりながら後藤、小林、鈴木の元にやって来た。
「誰か殺られたか?!」血を見るなり言った。鈴木が目を見張った。
「お前どこから………そいつは誰?」
変術師を指差す。
「さて?小林君!」
「大丈夫ですよ。死んではいません。」後藤が脈を取っていた。
「私が小林君を運びましょう。警察と消防署に連絡しときましたので。」
「消防署?………あ救急車か。」生まれてこの方、救急車など呼んだことのない鈴木が言った。
「いい加減、去れ!」
「誰が!!!」吉田と上久保が激しく戦っていた。
「さ」川北先生は小林をおぶった。
「先生!あれなんなんですか?!」
「助けなくていいんですか!!」それまで固まっていた生徒達が騒ぎだした。川北先生は鈴木と変術師を引きずる小橋を連れて立ち去って行った。
後藤は3年生の前に立ちはだかり、上久保の奇襲に備えた。
「チッ!!!」それから二人は疲れを知らないかのように戦い続けたが、上久保が間合いを取って時計を見ながら舌打ちをした。
「クソッ………」
「時間か?ちょうどいい。去れ去れ去れ~」吉田が嘲笑うかのように手をふって追い払うふりをした。
上久保は非常階段付近に倒れている清水をむんずと掴んだ。
刀はもう鞘にしまっていた。
「仕方ない。とんずらしてやるよ。」
その一言に吉田がニヤリと笑った。
だが。
階下の声に上久保が反応した。
野次馬ばかりかと思って階下には誰もいないはずだった。
「そうか。」上久保は清水を放り出し、非常階段をかけ降りた。
「上久保!!!!」吉田が吠えたが遅い。猛スピードで追うが、間に合わなかった。
しかし悲鳴も何も聞こえない。
「…………………」吉田がゆっくり2階の自分の2年G組教室前にたどり着いた。
「!!!!」
「いやっ!!!」悲鳴がした。
上久保が岩本の背後から首を絞め、刀を突きつけていた。
蛯原と黒澤と金子と海老澤もいるが、4人とも、壁に体を預けていた。
金子に至っては腰を抜かしている。
「動くな火術師。」上久保が言った。
「何が目的だ。」吉田の声には紛れのない怒りが籠っていた。
「取引しようか?」せせら笑って岩本により刀の切っ先を突き付けた。軽く頬に触れた。岩本が足を踏みつけようとした結果、上久保は警戒を強めたらしい。
「武器を捨てろ。」
「断る。」即答。
「貴司…………」岩本が絞り出すように言ったが、上久保が黙らせる。
「時間稼ぎは通用しない。お前の考えはせいぜい膠着状態を続けて時間切れ狙いだろう?見え見えだ。」
「動くな!!」吉田が海老澤に向かって言った。海老澤はこういう体験が始めてではないので、助けを呼びに行こうとしたらしい。そのまま海老澤は凍りついた。
「何が狙いだ。」
「武器を捨てろと言ったのだが?」
「…………殺す気か。」
「さあ?急がないと…………」
「いっ………………」岩本の肩に刃をあて、そこから血が伝っていた。
「私は本気だ。早くしろ。」
「貴司………ダメ………私は大丈夫………」
「グッ……………」
「そこだ!!!!!」
突如、上久保が吉田に岩本を投げた。
「なっ!!!」抱き止めた。
「貴司!!!!」岩本がなぜ叫んだのかほんの一瞬分からなかった。
「ハアッ!!!」上久保の気合いの掛け声で事態に気付いた。
「!!」吉田は岩本を強引に退かして、短刀で応戦
できなかった。
勢いを殺しきれなかった。ほんの一瞬、事態を把握できなかったミスが最大の皺寄せとなった。
ゴバッ!!!
文字で表すならこのような音がした。
「くあっ………!!!!!」吉田が歯を食い縛る。左脇腹を刀が貫き、切っ先から出ていた。
上久保は刀を一気に引き抜いた。
失血。
一気に気が遠くなり、バタリと倒れた。
「これで終わりだ!!!!」トドメを刺そうとする上久保。
が
ボフッ、と音がして上久保の顔に黒板消しが当たった。
「ウエッ、ゲホッ!!」目に粉が入る。鼻から口から粉が入る。立ち往生した。
海老澤はよしっ、と言うと上久保に体当たりを食らわした。目の開かない上久保には防ぎようがない。
「ぐああっ!」
吉田が立ち上がり、逆に背中に短刀をグサリと刺した。
「お前っ!!!」上久保は刀を落としてしまった。
「先生こっちです!!」
「!」
蛯原と黒澤と金子を先頭に教師達が駆けつけていた。もう勝負はついた。
「くっ!!」上久保は刀を拾い上げ、微かに目を開けて逃げ出した。
「動くな!!」先生達が、猛スピードで追って行ったが、上久保は清水を掴み、2階から飛び降りると、一目散に校門へと走っていった。
吉田は動けず、徐々に意識が薄くなっていた。 「貴司!!死ぬな!!おいっ!!起きろ!!」
「貴司!!!目を開けて!!!貴司いいぃィィイ!!!!」
海老澤と岩本の声ももはや届かない。吉田の肘から上も完全に床にくっつき、吉田は動かなくなった。