CHAPTER9ー3 狙い通り
こんにちは川田です。
今年もあと3週間程になりました。あっという間の一年でした。投稿もなかなかままならなくて、残念でした…(´・ω・)
ですが、ここまで書き続けていられるのは、他ならぬ読者の皆さんが居たからです!
本当にありがとうございますm(__)m
さて、今話からは安泰だと思われていた大富豪同好会メンバーの予想外の出来事にみな翻弄され、少々厳しい情勢に立たされます。
果たして、学校の行事の最中に起こる事件に無事対処できるのか?
どうか、今後ともよろしくお願いしますm(__)m
ー屋上ー
「おい………」
「ん…」上久保は清水が口を開いて話だそうとするのを首を振って止めた。
「ケンカか……?」
「ちょっと見てくる。」上久保はスッと立ち上がった。
「おい、あれ。」清水が下を指差した。
二つの影が校舎に入って行った。
「火術師………それに氷術師も。」
「ひどく急いでんな。それに…………」清水はガキン、バキンという金属音に眉を潜めた。
「今日は私達以外に居ないよな?」上久保が言うと、
「ああ。居たら『感情の流れ』でわかるはずだ。特に俺らは流れが一般人より遥かに強いからな。」
「だよな……………」
「奴等を攻撃すんなって命令されてんのに危険を冒してまで破る奴がいるか?」
「……………」上久保は何も言わず、屋上の階段を降りていく。
「上着を脱ぐのが当たり前だと思ったら間違いだぜ。」
「!!!!」上久保は一人の男子が床に倒れ、緑術師と先程から話題に出ていた火術師の親友……小林がナイフと戦っているのを見た。
そのうち二人は教室へと戦場を変えた。
そこにタッチの差で火術師と氷術師がやってくる。 「さっきから小橋の声がしてたが………」
「どっかの教室に入りましたかね?」
「別校舎に逃げたかも知れない。」
「手分けして探しましょう。見つけたら、叫んで知らせあいましょう………」
「そうするしかないか……」吉田は顔をしかめながら別校舎へと移動した。後藤はこちらへと向かってくる。
ちなみに、校舎は
A B C
H G F E D
非常階段 ←後藤 ↓吉田
別校舎
となっている。
非常階段から微妙に上久保が覗き込み、A組の教室に小林達が居る。後藤はそれに気付かず、D組から探し始めた。
上久保は今こそ、氷術師を倒すべきかどうか迷った。命令とはいえ、1対1の滅多にないチャンスである。
「……………」上久保は目を閉じた。氷術師を見ていると、命令云々より、沸々と沸き上がる殺意を優先して斬りかかってしまいそうである。氷術師達が自分達の存在を知りながら放置していることを忘れてはいけない。
「そこに居るのは誰です?」
「!」上久保は慌てて全身を引っ込めた。しかしそれこそが仇となった。
ガシャン!!!!氷の塊が飛んできて、上久保は不意をつかれた、
塊が弾けたかと思うと、鋭利な無数な針のようになり、上久保を襲った。全く何の防御も出来ずに、上久保は晒していた両手足に傷を負った。顔は幸い、無傷だ。
「貴様ああああああ!!!」上久保は激昂して、非常階段から姿を表した。
「貴方でしたか。オーイ!!!!!」後藤は小さい体からは想像もできない大音量で叫んだ。
ーA組教室ー
「っと!!」小林が机に手をつき、跳躍してナイフをかわす。ナイフは鍵を閉めた扉をかけ上がり、恐らくはバク天して、向きを変え突っ込む。小橋がかわして、後ろから特攻する。ナイフが振り向き、バキンガキンと攻め合いになる。
「フッ!!」小橋が蹴りを入れる。腕で受け止められる感触がして、さらに足に力を入れる。
「おっ?!」小橋が足をはらわれ、バランスを崩して転倒。
「うおおっ!!」小林が斬りかかり、ナイフが受け止めた。そしてもう一方のナイフが小橋に斬りかかる。胸を狙っている。
小橋が何とか避け、ナイフが床に刺さった。抜こうとするが、なかなか抜けない。
「どうっ!!!」小林がナイフの柄よりやや上の部分を蹴ろうとする。
「と見せかけて……………」小林が突如足を止める。
「ここだ!!!!」それより左に右手でパンチを打ち込む。
「ぅぁっ……」初めて聞く声がして、ロッカーに激突した。棚の上から、黒板消しやらチョークやらが落ちてきて、変術師の頭に当たった。
端から見ると、黒板消しやチョークが突如軌道を変えているように見える。
「だああああああああああああ!!」小橋が叫んでナイフで特攻する。受け止められた。
ニヤリ………小橋が凶悪に笑った。
「くらえ。」小橋は背に隠していた物を左手で………………ぶちまけた。
「!!!!!!!」
「よくやった!!」小林が叫んだ。
「!!………!」変術師は真っ黒になって姿を完全にさらしていた。
「なかなか落ちにくいぞ、この墨滴は………」
書道に使う墨の液を誰かのロッカーからだして、全部をぶちまけたのだった。
「さあて…………」小林はもはやナイフすら1本失った変術師に近寄る。
変術師は立ち上がり、まだ戦うという意志を示した。
二人はそれを見て、気を引き締め直した。
ー体育館ー
「達也はまだもどってないのか?」
「……ああ。そういや貴司が呼びに行ったみたいだが、遅いな。」大塚が答えた。
質問した大塚と同じサッカー部の館は顔をしかめた。
「ったく、遊んでやがるな。今日の練習フリーだから来るかどうか確認したいのによ……」
「メールしたのか?」
「1回だけだがした。困るなぁ、何人来るか分かんないと、参加するべきかどうか分からん………」
「ま、少人数だからって、筋トレも面倒だからな。」
「川北先生。」館は担任教諭を呼んだ。
「この後は…………もう俺らは試合ないんですが、解散でいいんすか?」
「………………」川北先生は答えない。
「先生?」
「…………………」
「先生~~~~」館は見かねて川北先生の前で手を振った。
「………ん」
「先生、聞いてますか?」
「いいですよ。」
「えっ?」
「だから、いいですよ。」
「どういう意味ですか?」館は困った顔をした。
「解散していいか、と聞いたのは館君じゃないですか。」
「気付いてたのか!」無視された事に怒る館。
「解散するのは構いませんが、全員に伝えて下さいよ。」
「分かりまし、た」館は皮肉っぽく言った。
川北先生は気にせずスタスタと去っていった。
ー校舎3階ー
「久しぶりだねぇ、火術師に氷術師。」上久保は薄く笑いながら二人と見えた。二人は冷たく見返した。 「再会を喜びあうような仲じゃないだろ。」吉田が冷たく言うと上久保は更に薄く笑う。
「なんでかねぇ………私は嬉しいよ。最も、色沙汰より、『ここであったが100年目!』という感じはするけどね。」
「お前、戦闘目的に来てたのか…………」
「…………………7つの大罪って知ってるか?」
「は?どうした急に。」吉田が不愉快な笑い方をした。
「知ってるかと聞いたんだが?」
「ハガ○ンで散々読んでるから知ってるよ。人間が生まれた時から持っているとされる、罪………犯罪の際には必ず何かが作用するらしいな。」
「私はその中でも『憤怒』の感情が強いのさ。他の感情がないわけじゃないがね。」
「へえ…………それがどうしたって?」吉田は冷たく言った。対する上久保も無感情に言う。
「だから、たとえ上から命令が出ていて戦いを禁じられていたとしても、自分の感情に流されることが稀にあるんだよ。稀に、な。」
ドタッ。
何かが着地する音がして感術師、清水が姿を現した。
対峙する、火術師氷術師と剣術師感術師。
誰も口を開かず、時間だけが経過していく。
ー3年A組教室ー
「ふぅんっ!!!」小林が正確な蹴りを変術師に入れる。変術師がなんとか交わし、横に跳ぶ。
小林はフッフッと言いながら、パンチを、蹴りを、反撃を全く許さずに放つ。
変術師は徐々に隅へ追い詰められる。
壁に背が触れた時、一か八かでナイフで小林を狙った。
だが、かわされ、むしろ小林にナイフを持つ腕を掴まれる。
「!」
小林は腕を自分の方へと引っ張り、変術師を手繰り寄せる。襟首を掴むと、後方に思い切り投げた。
机をいくつかなぎ倒し、椅子をどかし、大きな音をたてて、変術師は机の中に埋もれる。
傍観していた小橋は鼻で笑った。
「姿が見えるようになった途端、目に見えて弱くなったな。2対1でやってたのがバカらしい。」空になった墨汁の容器を弄びながら嘲笑する。
姿を見せてからというもの、一般人たる小林に一発のパンチすら入っていなかった。それどころか、息をきらすことさえ儘ならない。
「降伏しろ。手をつきだしてひれ伏せ。」小林は冷たく投降を呼び掛ける。
「……………」無言でナイフを構え直す、変術師。
目にはまだ諦めていないように見える。小林は鼻を鳴らした。
「アホだな。」単純に言い切る。
「そもそも、お前は何が目的で来たんだ?何で強行手段に出た?そしてお前はなんなんだ?」小林は一気にまくしたてる。
「答えれば、休戦にしてやってもいいのだが。答えないなら、お前が誰も傷つけられないように、最低でも腕一本くらいはいただくぞ?」
「話した方が得だぞ?」小橋も冷たく言う
「…………………」
「…………………」
「…………………」沈黙が訪れた。変術師は窓や、ドアに素早く目を走らせていた。小橋や小林は全く焦っておらず、逃げられるものなら、逃げてみろ、のオーラを放っていた。
「……………チ」変術師がナイフを落とした。
「まだあるだろ?」小林は殊更に冷たく言った。
「…………ッ!!」変術師は諦めず、胸元からナイフを更に出して小林に襲いかかる。
「ハッ。」小林はナイフを持つ手をガシッと掴み、一気に背負い投げする。
ドンッ!!と痛々しい音がして、小林は変術師にのしかかる体勢になった。
「グアア………」変術師の肩を小林が切り裂き、さらに首を狙った。
「終わりだ!」小林は叫び、変術師が無我夢中で叫んだ。
「話すからやめろ!!!!」と。
小林はのしかかったまま、ナイフを首を突きつけたまま、変術師にニヤリと笑いかけた。
ー校舎3階廊下ー
唐突に、感術師が動いた。清水が、口笛を吹いたのだ。
途端、清水と上久保の背後から、3人の男子生徒が、包丁を振り上げて、襲いかかってきた。
「!!」吉田は短剣を取りだし後藤は水道に走る。 ガキン!!!バキン!!!と激しい音がした。
吉田が3人を一気に相手取り、かつ冷めた顔で感術師清水に呼び掛けた。
「お前に部下がいたとはな。驚きだ。」
「まあ、どちらかと言うと『下僕』だな。火術師を殺したい、若しくは怪我させたいと感情を操作すりゃあ簡単さ…………」下卑た笑いをする、清水。
「さて。」上久保は刀を鞘から抜いた。清水は壁にもたれ余裕の表情。
「いつまでも遊ばせはしないよ?」
「…………………」
後藤が水から錬成した氷刀を両手に構えた。 「!!!!!」途端、上久保が飛んできた。そうとしか思えない敏捷さで後藤との間合いを一気に詰めた。
後藤は大太刀を両刀で受け止めたが、腹ががら空きとなった。
「うっ!」後藤の腹めがけて上久保の蹴りが放たれた。後藤は左手の氷刀を下ろしたが、衝撃を殺しきれず、バンッと鈍い音と共に飛ばされた。
「ッ………」
「フッ!」上久保が斬りかかる。吉田がすかさず斬撃を受け止めた。
力を入れて押し返す。上久保が後方に跳んだ。
「ごっつぁん、こいつら頼む。」吉田は上久保から目を離さず、後藤に清水の部下3人を指差しながら告げた。
「はい。」
「こいつは僕に。」
「いいねえ、火術師。」上久保はクククと笑いながら言った。
「非常にいいね。純粋に本気で戦える相手は久しぶりだよ。」
「本気出すのかよ………いい迷惑だ。」吉田は笑ったが、苦い笑いだった。
「ああ。お前の筋がいいことは知ってるし、見くびったところで、得るものなんて何も無いしな。ああそれと。」
「あ?」
「こいつは」清水を親指で指差した。
「ここに一般人が立ち寄ることのないように、『感情操作』してるからな?ここの近くに来ると、急に帰りたくなるように操作してるから、誰も来れない。どうだ?被害者がでなくて万歳だろ?だから、間違ってもこいつを攻撃するなよ?清水も攻撃しないことを誓う。」
それを聞いて、吉田の笑いはさらに苦くなる。
「被害者が出ないと言うより、助けが来ないようにしたんだろうが。まさか殺しまでさせるつもりなのか?だったら今すぐ断る。」
「火術師としての力を奪うだけさ。だがその過程でもしかしたら、私の手が『滑る』かもしれないだけさ。」
「言ってくれるな…この戦闘狂いが…ッ!」
清水の部下の一人が後藤との戦いをすり抜け、斬りかかってきた。
相手にこちらの短剣に触れることすら許さず、蹴りを入れて、突き放す。
だだだ、と音がして上久保が突進してくる。
「!!」吉田が、上久保の一振りを二刀流で止めた。
上久保は力みもせず、声も出さず、無言で頭をめがけて次々と刀を振るう。
受けることすらできず、吉田は避けることに専念する。
刀が空を切る音がいやというほど聞こえてきた。
「っと!」上久保は足蹴りも入れてくる。吉田がかわす。上久保は全く休まず、次々と蹴りと突きを入れてくる。
「!」吉田が壁際に追いやられた。
バキン!!と音がして、上久保の剣が吉田に蹴られた。そしてあろうことか、天井に突き刺さる。
「ム!」上久保は吉田の上がった脚を掴むと、プロレス技より更に軽々と投げ飛ばした。
「ほっ、ほっ。」吉田は背中を丸めて首を経由して、地面を転がって一回転して立ち上がる。全く無傷のようだ。
「なるほど。」上久保は天井から刀を抜いた。
「流石だな?なかなかダメージを与えられない奴は久しぶりだ。」
「どーも。」吉田はぺっと、唾を窓から吐いた。
後藤が後方で一人を倒し、1対2となっているのが見えた。
「さて。」上久保がチャキッと刀を構える。
「今度は踊ってばかりもいられないよ。」上久保が再び突進してくる。
「少しは休ませろよな……」
ガキン!バキン!と激しい金属音がした。
「ぬおっ!」上久保は脚めがけて刀を振るったかと思えば、ジャンプしてかわした所を腹めがけて突きを入れてくる。仕方なく、両剣で受けるが、手が痺れた。
「フヌッ………」上久保が刀を一旦寝かせ、突っ込んで来た。
「チッ……」吉田は刀に構わず、上久保の腹部めがけて短剣を滑らせる。
上久保はサッと避けて、飛び上がり突きを入れる。左の短剣で受け、右の短剣で頭部を狙う。
「甘い!」上久保は一連の動作を読みきっていた。
頭を引っ込めてかわすと、頭突きをしてきた。
「!!」意外な行動に動きを止めた吉田の腹に上久保の頭突きが入った。
「ぐっ………!」
上久保の背中めがけて短剣を振り下ろすが、上久保は後ろに跳躍して、あっさりとかわした。
「痛いかい?」嘲笑うように上久保が言った。
「ピンでもつけときゃよかったか?鳩に入らなかったのは残念だ……。」
「やってくれるな、全く。」吉田は腹を押さえていたが、立ち上がった。
ズキズキという痛みは徐々に退いていたが、隙が出来やすくなっていた。
「さあて、回復しちゃう前にどんどん行こうか。」
「く…………」吉田は上久保が突進してくるのを見て、無理矢理自分を奮い立たせなければならなかった。
激しくぶつかり合う金属音が校舎中に響いていたが、誰も三階に姿を現す者はいなかった。