CHAPTER9ー1 狙い通り
川田です。
皆さん久しぶりです!また投稿が空いてしまった……(´・ω・)
リアルが忙しすぎるんですよ、この季節!
とはいえ、いよいよ書きやすい部分である、クラスマッチや戦闘シーンに入ったので、ホッとはしているんですが。
それにしても、今年は季節が怪しい。なんか寒いですぞ。夏が過ぎたら、秋が無くて、冬にいきなり突入した感じがします。
皆さん季節の変わり目は風邪に気をつけましょう!
では今話もよろしくお願いします。
ー体育館ー
体育館では既に第2試合が始まっていた。
「来ーーーーーーーーーーい!!!!!!」G組のサーブを受ける、2年B組が声を張り上げていた。
美術部の清水が入れるだけ、といった感じの緩いサーブを入れた。
と。
B組女子のコートのちょうど中間に落ち、1点が入った。
「おお~~~~」小橋と鈴木が拍手する。
「明らかに予想外と言った顔してんな。」吉田が苦笑した。
「うん、してるしてる。」小橋は対照に面白くて仕方ないといった感じだ。
G組チームは運動部と文化部をわざと混合してあった。それでいて、トスとサーブだけを特化させたのが、文化部員で今のように緩いサーブときついサーブを混ぜて打たせたため、B組は当然文化部員か運動部員かで判断していたので、サーブを受けることが困難な状況であった。
そんなわけで、試合開始10分でスコアは12ー2。サーブだけで点数が決まると言ういかにも高校生らしいバレー試合が展開していた。
清水がまた引っかけサーブを打ったが、今度はB組女子が反応した。
「おっ……………」 拍手が向かいのB組から上がった。岩本が黒澤にスパイクを打ち込み、真っ向勝負に黒澤は怯むことなく受けてボールは相手コートに返ったが、勢いがよすぎた。結果アウトになった。
「ほお………やるね、岩本さん。」
「さすがはハンドボール部。ジャンプ力が凄いから球を打つ力も強くなるわな。それにしてもよく跳ね返したな、黒澤さんも…………」吉田がまた苦笑した。 「恐るべきだ。」
「全くだな。」小橋も頭を振った。
B組は岩本の周りでハイタッチが行われてるのに対してG組ではただ、頷き合う だけ。
女子のやることとは思えなかった。
「美しいですね。」スッ
「おっ、先生。」吉田と小橋が頭を下げ、川北先生も頭を下げた。
「美しいです。」
「何がですか?」
「あれですよ。」川北先生はそう言ってコートを指差す。
「戦う女性とはあんなにも美しきものなんですね。」
「うつくしいですか?」小橋がやや吹き出しそうに言った。
「はい。特に…………………」黒澤を指差す。
「美しい。」
「さっきからそれしか言いませんね。」
「勝敗なんでどうだっていいんですよ。いかに美しくなれるか………」
「勝敗は気にしますよ~~~明後日は絶対勝って見せますから。」
「私が言ったのは女子の話です。男子は勝たなければ美しくありません。」
「差別だ!」
「それに。」川北先生は二人に背を向けて歩き出した。
「君達に4万円懸けました。」
「教師がやることじゃねEEEEEEEE」
「私だって人間だもの。」
「みつをww」川北先生はスタコラ去ってしまった。気付かないうちに、G組が20点を挙げていた。
「B組強いかなと思ってたけど、岩本さん以外機能してないね。」
「うん。相手が強すぎて戦意喪失だよ。」吉田が首を振った。
その時。
「おーい。」小林だった。
「どったの?」吉田が聞くと小林は目の前に紙を突きつけた。
「Dグループ組み合わせ表………」
「たった今、野球の抽選をやって来たんだ。」
「ああ。そういや、リーグ戦予選+決勝トーナメントだっけか。」
「俺達は2年A組、3年C組、3年E組とあたることになった。」
「なんだその片寄ったリーグは。」
「仕方ないだろ、くじ引きなんだから。シードも調整もないの。」
歓声に消されないよう小林は声をやや大きくした。
「1位通過で決勝トーナメントだ。決勝トーナメントは6チームだが、そのうち上位2チームは失点率が低い順に決まるみたいだ。」
「失点率?」小橋が首を傾げた。
「2006年のWBCで採用されてたじゃん。第2R1組が日本、アメリカ、メキシコが1勝2敗で並んでさ。失点数をイニング数で割るわけよ。日本とアメリカは同じ失点数だったんだが、日本が後攻が多かったから、失点率がアメリカを下回ったんだよ。そして優勝したわけだ。」吉田が淡々と説明した。
「へえ~~~来年だっけWBC?」
「そういや来年3月だったな。まあ2連覇できるかね?それより北京五輪に期待する。」
「どうだっていい!」小林が割って入った。
「どうだってよかねえよ。3年だろうが負けないように練習させてきたんだろ?」
「当たり前だ。だが小橋が使えない以上…………」小林は小橋の右手を見た。
「一抹の不安はあるんだよ。」
「おっ、勝った。」G組がハイタッチしていて、クラスメートの男子達が拍手していた。
「こうしちゃいられない。隆徳と作戦を整理しないと。」小林は少しだけ拍手すると、足早に去っていった。 「瑞穂……凄かったよ。」金子が幼なじみの黒澤に声をかけた。
黒澤はパイプ椅子に座りながら、アクエリアスを飲んでいたが、金子の声にやや面倒くさそうに答えた。
「まあね。弱い相手じゃなかったけど、練習量の違いが明らかだったよ。レシーブを思うようにできてなかったみたいだし。」口元は満足げに緩んでいた。
「ウェーイ!!」サッカー部の館や大塚はテンション高く、女子とハイタッチしたりしていた。その脇で、春日をはじめとする男子たちが女子達をうちわで扇いでいた。
「あ……………蛯原さん。」吉田が黒澤の元にやってきた蛯原をみて呟いた。
「あ!貴司君!みててくれた?」
「はい………体調は大丈夫なんですか?」吉田は少し顔を曇らせながら言った。
「もう、気にしすぎだよ、みんな。昨日はちょっと寝不足も絡んだと思うし………」
「そうですか………第2試合も頑張って下さいね。」
「うん、ありがとう!」蛯原はニコリと笑うと黒澤の隣のパイプ椅子に座った。
吉田はしばらく蛯原と黒澤の会話の様子を眺めていた。
昼休みを挟んで第2試合が行われていた。
吉田と後藤は棋道部室にいた。
「つい先程、心術師が校内に入り込んだそうで。」 「感術師だっての。なるほど、随分と大胆に来たもんだな?ケンカうってんのかね?」
「そうですね、考えられます。」
「まだ、敷地内にいるかな?」
「いますね。出ていったら、形跡が残りますので。どこにいるかは分かりませんが、間違いなくいます。」
「今のところ攻撃してこないようだが、牽制しておくか?動き出されたら厄介だぞ。」
「場所が分からないんだから、無駄骨ですよ。我々が動き出すのを待っていて、誰も居なくなった体育館を襲撃されたらそれこそ厄介ですよ。」
「そうか………しばらくはここを動けないわけか。」
「この部室からなら体育館に10秒で行けますからね。しばらくはここで待機しましょう。それにしても…………」後藤は吉田を見た。
「G組は強いですね。」
「えっ?………ああ………」吉田は苦笑した。
「モチベーションの問題かもな。賞金目当てではないみたいだし、単に勝利に固執している。」
「マジですか?そんな風に勝利に拘っているようには見えなかったんですけどね。」
「それでいて極めて冷静だったな。あの女子達はなかなかの精神力だな。」
「ハハ………それなら心…いや感術師が現れても大丈夫そうですね。」
「確かに。」
「それより応援に行かなくていいんですか?」
「この後の試合でベスト8かどうか決まるさ。その次でベスト4をかけて………んまあ、今日の日程はそれで終わりだ。」
「なるほど………しばらくは気が抜けませんね。」
「厄介な時に来てくれるよな………」吉田と後藤は苦笑した。
小橋が、「それ」を見かけたのは、第2試合が始まってまもない頃だった。
「あの女…………」小橋は目を細めた。
「なんでここに?」小橋はスッと立ち上がり、屋上に通ずる外階段を見た。長髪、長身の女が階段を上がっていく。
「………………」小橋は眼鏡をずらして目をこすった。
小橋が今すぐに行くべきかどうか一瞬悩んだ。だが、霊術師の幻影にすら完敗といっていい、敗北を喫した後だし、何より屋上においては植物がないので、剣術師の圧倒的優勢は初めか決まっていた。
小橋は吉田の姿を探した。だが、当然見つからない。
「……………チッ。」ひょっとして、もっと前から気付いていたのか。だからもう行動を起こしているのか。
小橋はやや迷った後に、そっと体育館を抜け出した。校舎の方に来ると、屋上に通ずる外階段へは近づかず、校門へと向かった。
どうやって侵入したのか、興味があった。霊術師が堂々と校門から侵入して以来、吉田と後藤と小橋は、M高の学生証を持たない徒歩の人間を映像で残せるよう、小型カメラをしかけていた。
その映像は後藤の携帯に届くようになっていた。だから、後藤を探すより直接テープを見た方がよかった。
小橋は校門に着くと、直ぐ様チェックを始めた。持参した別のビデオカメラで映像を2倍速で見はじめた。
ー屋上ー
「そろそろ気付いたかね?」感術師清水が言った。 「………………」上久保は顎を細い指で掴んだ。
「……おい!」
「気付いているが、無視してる。」
「なんだと?なぜ気付いているといえる?」
「緑術師が私を見たはずだ。」
「緑術師が?」
「あぁ。わざと見せたから間違いない。」
「なんだってわざと見せた?まさか居場所も知られたんじゃないだろうな。」
「我々の存在に気付くかどうか………私の容姿を知っているかどうかを調べるだけだ。居場所もここはばれているはずだ。」
「お前な!」清水が怒って立ち上がった。
「俺らを確実に殺るために、数十人で来られたらどーすんだ!!大富豪同好会以外にも敵がいるって言ったのは誰だよ!!」
「騒ぐな。私はそんな浅はかではない。何のためにこの日を選んだんだよ?そして我々がここにいる理由を思い出せ。そして、そんなに戦うのが嫌なら今すぐ帰れ。」
「チッ………」清水は座り直し唾を吐いた。
「…………………」
「なぜ、無視してるんだ?無駄な交戦は避けたいからか?」
「そうだろうな。だからと言ってこっちがわから仕掛けるつもりもない。冷戦状態がしばらくは続くな。」
「…………………」清水が黙り込んだ。上久保も無表情なその裏に苛立ちを隠しながら、体育館を見つめていた。
ー体育館ー
「じゃあ、最初のサーブは田中さん、よろしく。」
「分かった。」黒澤の指示に、吹奏楽部の田中はてきぱきと答えた。
試合が始まり、G組にとっては第2試合が始まった。
田中がサーブを打つ構えをする。
ぐっと構える相手チーム。相手チームは3年C組であり、一番背の低い選手が、G組で一番背の高い田中と同じである。不利極まりない最中、サーブを放つ田中。田中のサーブがネットを超え……すぎ………
ようとした所で、ギリギリのラインでコート内に落ちた。3年C組チームはアウトだと思って眺めていたので、誰も取れなかった。
「オウェーイ!!」G組の男子が、盛んに相手を威圧するような声を出した。
続いて、田中のなんでもないサーブを、3年後方のライトが受けたものの、真横にずらして、センターの女子の顔にぶつけた。
ヒャヒャ………とG組男子から冷たい笑い声が盛んにした。
「ドンマイ!ドンマイ!」負けじと相手チームの男子達から声が沸いた。
相手チームは仮にも先輩なのに、全く躊躇のないG組である。
10分後………
3年C組がタイムを取ったところで、G組も選手を交代する。
スコアは9ー1……………田中がサーブを6回目にミスした後、4点連続で相手のスパイクミスを誘ったとき、たまらず相手はタイムを取った。
ー校門付近ー
「………見つけた。」小橋はビデオカメラを握りしめた。長髪長身の女が校門から堂々と入ってきていた。M高は共学で自由な校風が売りなので、校門付近に警備員がいたりはしなかった。今回の監視カメラ設置も誰にも言っておらず、「盗撮」と言われればそれまでではあった。
「…………………」小橋は念入りにテープを確かめた後、直ぐ様監視カメラを元の位置に戻すと、校門から離れた。
「むっ……………」上久保が運良くその様子を見ていた。
「おい、見ろ。緑術師だ。」
「ん、どれどれ。あの眼鏡の奴だな。」
「手に何か持ってなかったか?今は背中に隠してしまっているが。」
「俺はお前より目ぇ悪いのになんでそんなんが見えるんだよ。」
「…………武器とかそういう類ではなさそうだが…………」
「ならいいじゃねえか。お前の足跡でも探してたんじゃないのか?」
「違うな。既に我々の潜伏に気付いていながら、なんでそんな面倒なことをする。まさか、校門を封鎖したとかじゃないだろうな?」
「なんだってそんなに気にするんだよ。さっきお前が言っただろうが。『無駄な交戦は避けたい』ってよ。」
「戦いを挑んで来ないとしたら…………なんなんだ、この胸騒ぎは。」
上久保は長身長髪に似合う、豊かな胸に手をやった。
「……………少し撤退の時間を早めるか?」
「…………………………………………………………………………………………そうだな。」
「滅茶苦茶に悩みやがったな。」
「15分だ。」
「早めるってことか?」
「あぁ。」
「まあな、これだけ時間を与えておいて、残り15分でどうこうするってことはないだろうよ。」
「………そう願いたいな。」上久保は苦々しく言った。
ー部室ー
ガチャ!!っといきなり鍵が回り、扉が開かれた。
「?」吉田がすき家の牛丼を頬張りながらこちらを向いた。
「吉………田。」
「来たついでに茶取って。」吉田がやや手前の500mlペットボトルを指差した。
小橋は何も言わずに渡した。
「騒々しいな。なんなんだよ。」
「気付いてるか?」小橋は指で天井を指した。
「あの二人のことか?へえ、屋上に居たんだ。それ以外は知って………」
「違う!奴等の背後だよ、背後!」
「背後だと?」吉田は冷たく小橋を見た。
「何の話をしてるんだよ。」
「これだ………ほら。」小橋はビデオカメラを差し出した。吉田が無言で受け取り、再生させた。
「ほう………正門から堂々と………!!!!!!!!!!!」
「見たか?いや、見えたか?!」
映像には上久保が移動する様子がよく映っていた。そしてその背後に……………
「こいつは確か…………………3Gの三柱臣の一人か?」
「三柱臣ではなかった。確か、俺と後藤が前に戦った、「変術師」だ。」
「だが、7人の術師の中にはそんな奴は居なかった。」
「利用してるんだ。独立した術師だが、お世辞にも俺らの味方とは言えまい。まずいぜ。」
「体育館に戻った方がいい。」吉田は牛丼を一気に掻っ込んだ。
「小橋、お前は屋上の二人の監視を頼む。万が一変術師が二人と交戦して感術がこちらに影響するようなら、早めに対策を打っておかねば。」
「分かった!」吉田と小橋は、部室棟から飛び出し、熱狂する体育館へと走って行った。