CHAPTER8ー5 開戦、クラスマッチ
川田です。なかなか書く時間が取れないのに、構想(妄想ともいう)が膨れて爆発しそうになります。
早く、本格的な戦いを書きたいと思いつつ日々の日常を綴るのは難しいことでした。
今回久々に恋愛もようを取り入れました。
ん?確かこの小説のジャンルに小説が入ってた気が………
てな訳で今話もよろしくお願いしますm(__)m
ーグランドー
「ん?あれ小橋じゃねーの?」
「本当だ。貴司もいるな。」鈴木の疑問に小林が即答する。二人の他にもサッカー部員の大塚や館、バスケ部員の海老澤と金子もいる。
「本当だ。何遊んでんだあいつら。こっちを手伝わないか。」海老澤がイライラと言った。
やがて向こうから小橋と吉田が歩いてきた。
「おい!!」小林が叫ぶ。吉田と小橋が振り向いた。
「ライン引き手伝ってくれ!」
「………あぁ、今日朝練か。」小橋が言った。案の定、忘れている。
「そうだ。だから集まる前に、ベースやら、設置しなけりゃならんのだよ。」
小橋は吉田と目配せした。
「残って大丈夫だ。僕が連れてくから。」吉田がそう言うと、小橋は背負っていた老人を吉田に引き渡した。小橋の属する軟式野球部部室は側にあるので速攻で着替えに行った。
ー棋道部室ー
「しかしな、いつ目を覚ますんだ?目を覚ました時がチャンスならそれなりに調整の必要が出てくるよ。」
「かなり波がありますよ。」後藤が椅子に老人を腰かけさせながら言った。
「何時間から何年間とか?」
「30分くらいから、1日くらいですかね?」
「大波だなおい。今回はどれくらいか予想つくか?」
「それが全然。」
「参ったな………無理矢理起こすしかないか。」
「ですね。でもそれだと本来の力の半分しかだせないんですよ。」
「……………何で」
「寝起きが気持ちいいから力を発揮できるんですよ。それを無理矢理妨げたとなると………」
「だってこれって気絶してんだぜ?」
「そのうち、鼾かきはじめますよ。」
「厄介な霊能者だな。」 「霊媒師です。」
「あ、そ。」吉田はジャージに着替え終わってから言った。
「なるべく早く済ませたいから今日の放課後、僕とごっつぁんとお祖父さんで行こう。」
「分かりました。」
「あ、そうそう。岩本さんにはくれぐれもバレないようにな。」
「ああそう言えば………岩本さんも霊感が強いんでしたっけ。」
「それが逆効果だったな。まさかあんなに霊気が強いとはね。逆に神経を参らせてしまったかもしれないな……」
「まあ……大丈夫だとは思いますが、注意しませんとね。家に入っていたらもっとヤバかったでしょうから。」
「そうだろうな。僕らも用心しないとダメだな。」
「これから朝練ですか?」後藤が老人を床に寝かせながら聞いた。
「ああ。ごっつぁんは野球出んの?」
「出ますよ。」
「やっぱりね……」
「野球はあんまりやったことないんで、自信ないですよ。」
「とか言いながら、スタメンだったりして。」
「スタメンですよ。」
「何気無く誇らしげに言ったな。B組と当たったら、容赦は無用だな。」
「ハハハハ。そうですな、私としては、G組と当たらない事を願います。施錠任せて大丈夫ですか?」
「ああ。お疲れ様。」
後藤が去っていった数分後、吉田も足早に立ち去った。
ー教室棟ー
「えっ、居なかった……………」
「うん、来てなかったって美樹が……」
「おかしいなあ、だって今朝駅で見かけたよ。教室に居なかっただけじゃない?」
「貴司君の席、荷物なかったよ。」
「部室かなぁ……」
「ついさっき舞からメールが来て、棋道部室の施錠がしてあったって。中もいつものサイン出しても無反応。」
「え~~どこ行ったのかな、貴司は。」
「貴司君に何の用があるの?」
「う~ん、ごめん言えない。」
「あっ……」三次は慌てた。私的な事以外の依頼や、部活の内容は他人に話すな、と吉田が前に言っていたのを思い出したのだ。
「いや、そんなことじゃない。」三次の話し相手がようやく顔を上げた。岩本が苦笑している。
「ちょっと話したいことがあっただけ。」
「ふ~~ん。まさか……」三次が悪戯っぽく笑った。
「?」
「脅迫?」
「何でそうなるの!」
「えっ、だって人には話せないって言ってたし……………」
「何であたしが犯罪者みたいなことしてんのよ?」 「違うの?」
「違うに決まってるでしょーがー!!」
「フフフ、3日前のことを入れても?」
「な、何を………?」
「駅で男を3人も殴ってた。」
「あ、あれは……!」
「しかも救急車来てたよ~~~~」
「仕方ないでしょ!」岩本が立ち上がった。顔が真っ赤だ。
「あいつらがしつこいんだもん!一緒にカラオケ行かないとか、映画行かないとか!しつこいし、お尻触られたから、そいつを殴ったら気絶したゃうし、他の奴らは逆ギレするし!」
「でもそれって男子とかがやることでしょ?怜衣は格好良すぎだな~~~去年バレンタインデーに女の子から本命もらったりして」
「あたしは百合じゃなああぁあああぁああぁああぁああああぁあぁぁあぁあああぁあああぁああぁああぁああああぁあぁぁあぁあああぁあああぁああぁああぁああああぁあぁぁあぁああい!!!!!!!!!」絶叫。
「耳が痛い~~~~何て声出してんの!!」三次が怒っていった。
「フン!志穂が変なこと言うからでしょ!!」
「百合なんて一言もいってないでしょ!!」
「人を同性愛みたいに言って……あたしには彼氏だって……………………」岩本が突然黙った。
「あっ………」三次も黙った。嫌な沈黙が流れた。
「ごめん…………」三次がやがて言った。
「ううん、大丈夫。」岩本が椅子に座った。
「………………」
「ごめん、ちょっと手洗い行ってくる。」岩本が立ち上がって教室をなかば走るように出ていった。
「怜衣………」三次は罪悪感に苛まれた。
ー体育館ー
「じゃあ、美樹一緒にやろうか。」
「うん。お願い。」蛯原は快く山口の申し入れを受けた。
「最近、なんか美樹テンション高いよね?」リベロ役の低身長の二人が、トス練習を初めてからしばらくして、山口が言った。
「え?どうしたの、急に?」
「ちょっと気になってね。なんか良いことがあったの?」
「良いことがあったって言うか…………悩み事がなくなったかな。」
「へぇ……良かったね!それでテンション高いんだ。」
「別にそんな大袈裟じゃないから。」蛯原は微笑んだが、トスをミスって、顔にボールが直撃した。
「いたっ。」
「うわっ、美樹、大丈夫?!」山口が急いで駆け寄る。蛯原が鼻を擦った。
「イタタタ……大丈夫だよ。」蛯原はボールを取りに行ってしまった。
「ねえ、美樹。」
「何?」再びトス練習を始めた所で、
「悩み事ってあの事………………?」山口が小指を立てた。
「!!!!!!!」この行為が蛯原にとんでもない変化をもたらせた。突然、目の光が失われた。そしてワナワナと震え始めた。
「えっ?!!!美樹!!!」これには山口だけでなく、黒澤も走ってきた。
「美樹、どうしたの?!」黒澤が聞くが、何も答えない。
ただ一言
「いやあぁああああぁあぁああぁあぁああぁああぁぁああああぁああああぁあぁああぁあぁああぁああぁぁああああぁああああぁあぁああぁあぁああぁああぁぁああああぁああああぁあぁああぁあぁああぁああぁぁああああぁああああぁあぁああぁあぁああぁああぁぁああああぁああああぁあぁああぁあぁああぁああぁぁああああ」絶叫し、バタリと倒れてしまった。
「ん?」吉田はグランドに向かう途中、体育館からその絶叫を耳にした。
「なんだ……………?」吉田は体育館を凝視した。
「退いて、退いて!」
「むっ。」吉田の目の前に影が飛び出してきて凄まじい勢いで走っていった。
「???」
「?あれ、吉田君?」吉田が振り返ると、山口が立っていた。
「あれ?えーーーっ、山口さん、おはようございます。」
「……………………おはようございます」
「今のは黒澤さん?何かおぶっているように見えたんですが…………」
「美樹を背負ってたの。」
「み……誰を?」
「………………」山口は吉田を冷たく見た。
「蛯原さんです。」
「………なるほど。しかし、何故?保健室にでも行くんですか?」
「ちょっと貧血かな…………気が遠くなっちゃったみたいで………」
「貧血……」吉田は空を見上げた。晴れてはいるが、今日は風があって涼しい。ちらりと体育館を見ると、上階の窓も、本階の窓も開いている。
「どうしたの?私も様子見に行くから、またね………」
「山口さん、ちょっと。」吉田が呼び止めた。
「?」
「何か、蛯原さんが貧血を起こした原因に心当たりは………………?」
「………ない。」
「本当に?」
「………………」
「………………」
「……そう言えば……………」山口は重い口を開いた。
「……………美樹に彼氏がいるんだけど………彼氏の事聞いたとたんに、叫んで……倒れちゃった。」
「え?」吉田が訳が分からないという表情で山口を見た。
「だから……んもぅ、本当なんだから仕方ないでしょ?私も行くからまた後でね。」山口はそう言って吉田の脇をすり抜けて行った。
吉田はしばらくその姿を見つめていた。
が。
「っと、練習、練習。」吉田は素早くグラウンドに移動した。
「ん?」吉田ははたと足を止めた。何やら練習している様子ではない。
「貴司、おせえよ。守備には間に合ったから許してやるが。」吉田が声のした方を見るとグラウンドの脇のベンチに小林と鈴木、館などがいた。
「あれ?練習は?」
「なんだかF組の奴らが俺たちも使いたいとか言うからさ、口論になったら、誰かが合同演習にすりゃよくね?みたいな事言ってな。今攻撃中だ。」小林が言った。
吉田はスコアボードを見た。
1回表で既にG組が2点を先制していた。
「俺がヒット打ったらあっさり隆徳(鈴木)がランニングホームラン打ってな。」
「すげえな……」吉田が言うと鈴木は満足げにニヤリと笑った。
カキン!!
快音がした。見ると、小橋が一塁に向かって走っている。が
「こりゃ外野をも抜けたな。」小林がベンチにふんぞり返りながら言った。確かに小橋は2塁ベースをまわった所で、早あるきのペースになった。
「今何番?」
「6番。4番の山田もヒットで出塁してたから2点だな。」
「ああ………そう………」小橋がホームインしながら山田とハイタッチするのを見ながら吉田が言った。次の長身の春日が打ち取られ、守備交代。
先発のマウンドにはサッカー部の大塚が上がった。小林がライト、小橋がサード、吉田はショートについた。
「打たせるぞぃ!」大塚が高らかにいい放つ。
F組の先頭バッターは大塚のゆるゆるな球をカキンと打った!いい当たりだ。抜ける!
バシッ!
と思いきや、サードの小橋が飛び付き、サードライナーで1アウト。
「ナイス!!」大塚が歓喜した。小橋が親指を突き立てた。
結局、2人目3人目をすべて内野安打に打ち取り、2回に入る。
まず、堀江があっさりと2塁に進んだ。ピッチャーの大塚が足で稼いで内野安打し、小林が四球で歩き、鈴木が犠牲フライで1点、吉田がバスケ部金子に代わり3番に入り、シングルヒットで1点、4番のバドミントン部山田が犠牲フライでもう1点、館がランニングホームランで3点を入れ、小橋が適当に空振り三振でチェンジになった。
2回裏も3人で終了。
3回までという取り決めだったので、小林は10ー0という大差を考えて、2軍(文化部が中心)を出した。
小橋と鈴木、バスケ部の海老澤以外は文化部員か無所属である。
吉田はベンチに腰かけて野球を眺めながら小林に言った。 「なあ、小林?」
「あん?」
「小林には彼女いるか?」
「ん?!」小林はたちまちベンチにふんぞり返るのをやめた。
「何だって?!」
「彼女いないの?」
「なんか、ムカつく言い方だな。てか、いきなりどうした?」
「いや、男が女に与える影響を知りたくてな。」
「はぁ?」
「えっ?」
「さっぱり意味が分からんぞ。本当に大丈夫か?」
「いや、だから例えば………」
「ちょっと待て。」小林は無造作に吉田の首に触れた。
「なんだよ。」吉田がはらった。
「いや、狂ったかと思ってな?正常なだけに気持ちわるいな。何かあったなら話して?」
吉田が山口から聞いたことを話した。小林は話し終わってもしばらく何か考えているようだった。
「どう思うよ?気絶は偶然かね?」
「ないな。」小林は3者凡退でチェンジになるのを見ながら言った。
「嫌なことでもあったんじゃないか?彼氏と。」
「だから、それくらいで気絶するものなのかね?それを知りたい。」
「う~ん、分からない。どうなんだろうな?しかし、蛯原さんが彼氏いるとは知らなかった。」
「…………お前が?」
「うん。てか、俺が知らないのに山口さんが何故知ってるんだろう?変だな。」傲慢な言い方だが、確かに小林はこの手の情報には強い。ファールボールが跳んできて、吉田がベンチから立ち上がって拾ってF組ピッチャーに投げ返した。 「それにてっきり俺は蛯原さんは貴司の事が好きなのかと思った。」
「…………は?」
「だってなんか積極的じゃないか?席が隣だというだけな割にはよく話かけてくるし。」
「それだけで分かるもんなの?」
「……………お前なぁ、せっかく女の子に好かれてるって言われてんのに少しくらい嬉しく思わんの?」
「だって小林の意見だろ。」
「俺の意見=結果だ。俺が太陽が三角だと言ったら三角なんだよ。分かったか?」
「………流石だな。」吉田は肩をすくめた。
「とりあえず、本人に聞くしかないだろ?保健室にでも後で行ってきたら?」
「どうせしばらくは起きないぜ。」
「なんだなんだ?そこを利用して襲うつもりか?」
「斬るぞ貴様。」
「冗談だ?まあ、教室に帰ってきたら聞いて見ろよ。俺が聞いてやってもいいんだが、蛯原さんは貴司に聞いて欲しいかも知れないから自分でやれ。」