CHAPTER7ー3 火術師×霊術師
すみません、遅れました。待っていた方々がいらっしゃった場合はすみません、そしてお待ち頂きありがとうございます。
高校生最後の学園祭の準備で忙しくなりました。しかし、これからは週一で投稿できるよう頑張ります。皆さんのアクセス履歴に毎日勇気を頂いております。どうか、大富豪同好会の軌跡、完結までお付き合い下さい。
棋道部室
三次志穂は別に行く用がないのに習慣上来てしまい、棋道部にいた小橋と後藤と話していた。小橋は三次とは初対面だったため、後藤の紹介を経る必要があった。
「霊術師がね……………」小橋が話を聞き終えて呟く。後藤は小橋が知らなかった事を責めたりはしなかった。
「吉田君が処理に当たるとはまた珍しいな。普段なら俺達に押し付けるもんだ。」
「場合が場合ですから。霊的相談はいつもそうでしょう。」
「そういう霊的相談は結構多いの?」
「多いですね。警察なんかはそういう事には無能ですから。」後藤がさばさばと答えた。
「今日は貴司君は………非番?」三次がおずおずと言う。
「非番ですね。でも学校には残ってるかも。」
「ああ、エミュレータか…………」小橋がガックリと項垂れる。
「エミュレータ?」
「気にしなくていいです。珍しい物じゃないですから。」
「仕事?」
「…………………」
「…………………」
二人は押し黙ってしまった。
ー屋上ー
吉田が南京錠を簡単に破り、屋上の広い空間に出た。誰もいない。しかし、吉田は屋上に足を踏み入れたその途端に強い怨念のような物を感じた。吉田は乱雑にドアを閉めた。
「ぁぁぁぁあぁあぁああああぁぁあ!!」突如、奇声を発しながら、白い顔をした男児が走ってきた。吉田の冷たくかわし、男児に向けて火球を放った。
「ぐわああああああああああああああっっっっっっっ!!!!!!!!!!」 男児が叫び、体が燃え上がった。身体中があっという間に火に包まれ、人体が焼ける匂いとは違う、海草が焼ける匂いに似ている。
男児はあっさり燃え上がって消えた。
「やるな。まさかのための番犬をこうもあっさり焼身死させるとは。」声がした。
「…………………名前忘れた。」
「ウソぉ!!」
吉田が入り口に立ち、屋上の奥に男子が立っていた。吉田と同じくらいの男子でニヤニヤ笑っていた。
「前道………前道一也なんだけどな。忘れんなよ。俺はお前を覚えてるっつーのに。」
「雑魚は知らん。追い込まれたのに、遺言は書かなくていいのか?」
「おいおい、殺しは勘弁だぜ。だが、お前はどうしてここが分かった?」
「裏切りの幽霊がいたな。」
「誰がだ…………まあ、いい。」前道は吉田とな間を少し詰めた。吉田は微動だにしない。
「吉田、お前は少々お節介が過ぎる。もうとっくに気付いているだろうから言うが、三次を俺は殺すつもりはない。三次の霊封じを封じなければこちらが困る。」その言葉に吉田が微妙に頷く。
「三次さんがお前にとって不利益な存在になり得るとは分かっていたが………霊封じとはなんだ?」
「霊封じとは………俺が遣う亡霊を霊眠させることだ。安らかに眠らせるのではない。言わば睡眠薬や麻酔を使って眠らせるのようなものだ。無理矢理、怨みを奪いさるのだ。三次の場合は三次の眼球を直視すると、霊達は見事に成仏してしまう。そんな力は早く奪わないとなぁ。」
「ああ、それで三次さんが見た霊は皆顔を隠してたのか。」吉田は一体一体を三次の話を聞いたように思い出した。
青いレインコートの奴……フードを深く被る。老婆は髪で目を覆い、赤ん坊は決して目を開けなかった。テケテケも老婆同様、髪で目を覆っていたし、白衣の奴は最初は俯いて歩いていた。
「何も殺すつもりはないぜ。だから取引しよう。俺はお前とは戦いたくない。」前道が立ち止まった。
「どんな。」吉田が言った。前道はわざとらしく咳払いした。
「うるせえよ。」
「ゴホッ、バフッ!!」何か咳き込み始めた。10秒ほどそうしていた。
「……………あのなぁ、三次と交わる必要がある。」前道が言った。
「………………は?」吉田は理解するのに数分かかった。
「だからキスさしてくれ!!!」前道が真剣なので、吉田は呆れた。
「したけりゃ三次さんに言えよ。好きだって。」
「三次は…………俺とは絶対そんなことはしない。」前道がボソボソと言った。
「何でそんな事が分かる?…………って僕は何で敵を慰めてんだ。」
「俺は三次の元カレだ。」
「ほう?」
「三次とは同じ中学校だった。あの娘は中学時代から人気が高かった。お前も好きなんだろ?だから、こんなに一人の依頼者に付きっきりなんだろ?」
「さあ?どうだろうなぁ?」
「フン、で三次に告白したがフラれた。そういう訳で元カレだったのよ。」
「…………………カレってそういう定義なの?」
「とにかく!三次に頼んでも無駄だ。だから無理にでもキスさせようと誘拐を試みたが、悉くお前に邪魔された。だから、お前が手を引けばそれでいい。三次とキスさえすれば俺ももう三次をつけ狙いはしないし、お前も負担は減る。どうだ?うまい話だろ?」
「……………………」
「…………………なっ、どうだ?」
「……………………」
「おい……………」
「……………………」
「キレんなよ………」
「ZZZZZZZZ…………………」
「寝るな!!!!」
「わぁ、なんだなんだ。」
「話聞いてた?」
「帰ろ。」吉田は背を向ける。
「おっと。逃がすかよ。」霊術師がパチンと指を鳴らすと、屋上の出入口に数え切れない程の霊体が現れた。
「何のマネだ?」
「さあ、取り引きに応じるな?応じたら、俺は帰るし、霊も払うさ。」
「ふっ。」吉田は鼻で笑うと、霊体に火球を放った。霊が苦しみ出した。
「到底乗れない相談だな。お前については………………」
吉田は霊術師に近寄る。そして近距離から火球を放った。霊術師はかわし、吉田に向かって腕を振る。
すると燃えていた霊が一気に吉田に向かってきた。吉田は距離を詰められない。肉弾戦になれば間違いなく吉田が勝つであろうが、距離を詰められないよう、霊術師の戦い方はあくまで間接的だった。
「焼き払うのが、間に合うかなぁ?」霊術師は嘲笑うかのように吉田に向かって腕を振るいつづける。
「………………うっ。」吉田を数の暴力が捕らえた。霊体の腕が、吉田の腹に命中していた。
「クソッ。」吉田が一旦霊術師から距離をとる。霊術師の足元から湧き出ているので、距離を取れば、数が多くても問題はない。しかし、それでは膠着状態が続き、体力的に吉田がダウンするであろう。
「オラオラァ!」そんな事を知ってか知らずか、霊術師はひたすら霊体を出していた。………………………と思いきや、霊体を出すのを止めた。急に何かを唱え始めた。
「ぅおらっ!」吉田が 火棒を作り、次々と焼き払う。霊体に聖火があたるだけで引火し、体が炎上していく。しかし後から後から敵は向かってくる。吉田は前道に向かって吠えた。
「銃弾はいつか尽きるぜ。日本刀は折れない限りは攻撃力が持続するがな!」そう言って片端から霊体を焼き払う。
前道は無関心にずっと何やら呟いている。その様子を見て、吉田はハッとした表情で霊体に背を向け、落下防止のフェンスに向かった。
「よっ。」吉田は火球を上空に放った。火球は最高到達地点に達すると爆発した。
ー棋道部室ー
「?!」
「これは……………!」後藤と小橋が慌ただしく立ち上がった。吉田が書いた部誌を読んでいた三次も顔を上げる。
「何の音?」
「…………あれは!」後藤が部室の窓を開けて校舎の屋上を見ながら言葉を失う。
「三次さん!」
「はい………?」三次が後藤の迫力に押されながら言った。
「三次さんを狙ってた奴が分かりました。あれは合図です。急いで行きますよ!」
「私を狙ってた人……………!」三次も顔を強張らせる。小橋が先頭をきって飛び出し、後藤と三次がそれに続く。
小橋が軟式野球部で鍛えられた俊足を飛ばし、1分ほどで、校舎にたどり着く。だが。
「鍵かかってる!!」
「任せてください!」後藤が素早く玄関の鍵穴にヘアピンを差し込む。カチャッと音がして、入ろうとする。
「グハッ。」後藤が開かないドアにぶつかった。
「上にも鍵がある。」小橋が見上げながら言った。
「届きませんよ…………」身長164と小柄な後藤には無理な相談だった。小橋でも無理だ。よって………………
「よっこらせと。軽いな後藤くん。」小橋が肩車する。数秒で今度こそ開く。
階段をドスドスかけ上がり、屋上のドアを一気に開けた。 そのとたん、火球が後藤を掠めた。
「おぅ。」後藤はやはりというように、冷静に避け、吉田を見る。吉田が一旦、戦闘から離脱する。
「ごっつぁんに小橋、それに三次さんも。」吉田がのんびりと言った。
「霊術師はどこに?」
吉田は霊術師を指差す。未だに、瞑想中のようだ。
「チャンスですな。どれどれ……………」後藤が敷居を跨いだ。
そのとたん、全身が真っ白な男児が後藤に向かって走ってきた。
「ハッ。」後藤は一瞥しただけで、中指で人差し指のように男児に向かって突きつける。後藤が手首を捻った。ピキピキピキ…………………………
男児が凍りついた。小橋が感心した声を上げ、三次が驚愕の声を上げた。 「今のどうやったの?!」三次が男児を恐る恐る見ながら言った。
「企業秘密です。」後藤がさらりと答えた。
「しかし、厄介ですな。」後藤が吉田の傍らに立ち、霊の群れを見つめた。霊たちは今、吉田達の出方を窺っているようで、何もしてこない。
「ああそう。言うの忘れてた。ここに入ると霊術師が張ったバリケードがあるから、三次さんは入ってこな……………」吉田は三次を見つめる。三次はコンコンと固まった男児を叩いたり、足でつついたりして男児で遊んでいた。吉田が呆れてため息をついた。
「小橋、援護を頼みたい所だが、三次さんの保護をよろしく。」
「できっかな。屋上は植物がほとんどないから嫌いだ。」
小橋はとりあえず、三次の周りに立った。
「じゃあ、行くよごっつぁん。」
「はいっ。」後藤が袖を捲った。吉田と後藤が霊達に一歩踏み出したとたん、霊達が一斉に襲いかかってきた。
「うぅおらぁ!!」吉田が火棒を振り回し、凪ぎ払う。後藤は霊体に蹴りを入れて倒し、霊体に近距離で中指を近づけ、何か呟いてはカチコチと固まらせていく。吉田の火棒を勇敢にも掴んだ霊体が、吉田にパンチを入れようとした。吉田はかわして、火棒をその霊体の腹に突き刺し、あっという間に引き抜く。霊体は奇怪な声を出す暇もなく、煙と化していく。仲間を倒されて激怒した霊体達が吉田と後藤に殺到する。しかし、その数はかなり減っていた。吉田と後藤はなおも、敵を倒し続けていた。
と、あらぬ方向から奇怪な声がした。小橋が後ろに三次を庇い、金属バットで敵を倒していた。
「木製バットだったらこんなこと出来ねえよなぁ。」小橋が向かってきた敵を一通り倒してから吉田に親指を突き立てる。金属バットから湯気がたっている。
「なるほど、金属バットを熱したんですか。単純で効果的ですな。」後藤がバットをちら見しただけで確認し、今は目の前の敵を倒し続けながら言った。
「小橋に直前に頼まれてな。流石は3番バッター!!」
「誉めてんのか?」
「当たり前だのクラッカー!!」
「死語w」そんなやりとりが交わされ、ほとんどの霊体が消えた。
あと10体をきったという所で、それまで黙っていた前道が歓喜の叫びを上げた。
「ハッハー!!間に合ったァ!!」前道が叫んだ方向を吉田、後藤が上着を揺らしながら見る。
「なっ…………?」
「えっ……………」吉田、後藤が見た先には体長5メートルはある大男が立っていた。
「巨人?」
「………………」巨人の腕の太さは後藤の胴廻りより太い。
「ケッケッケ。」前道は愉しそうに笑った。
「こいつ、大丈夫か?」吉田が素で言う。
巨人が吉田と後藤の真ん前に立つ。
「動かない方がいいな。こいつの腕の長さじゃ何処に逃げても捕まえられる。それなら、待ち構えてた方が賢い。」
「……分かりました。」後藤も待ち構える体勢に入る。
だが。
「やべっ。」吉田の後ろから霊体が襲いかかる。吉田が振り返り、3体まとめて焼き払う。
「吉田君!」後藤の珍しく焦った声が聞こえ、吉田は振り返る。
「はぁっ?!」吉田は大男に首を掴まれ持ち上げられる。後藤が大男に蹴りを入れる。何も感じない様子で逆に後藤に蹴りを入れる。後藤はかわす。
「このやろう!!」吉田が上着の内ポケットから刃渡り20センチはあろうかという刃物で腕を斬った。
腕が落ち、吉田も落ちた。
「ふっ。せいぜい頑張りたまえよ。」前道がスタスタと退散する。
「小橋、三次さんと一緒に追え!」吉田がつかみかかろうとする大男の腕を切り落としながら叫んだ。
「分かった。」小橋は怯えている三次を立たせ、前道を追いかける。
「なっ…………?」後藤が唖然とした声を出した。切り落としたはずの腕を拾い、くっつけたのだ。
「クックック…………」吉田が笑い出した。
「吉田君?」後藤が吉田を見て不審そうに問う。 「クックック……………楽しめるぜぇ。久しぶりに本気を出せるぜぇ。ごっつぁん?こいつなら殺しても『殺人』にはならないよなぁ?」吉田の目がギラギラ光る。後藤も目が鋭くなり言う。
「ですね。どうせ死んでるんです。『もう一回』死なせてやりましょう。」
吉田は火棒を捨て、刃物を握り、後藤も氷術で短剣をつくる。
「ウアアアアアアア!!!」
「ぅん!!」吉田が襲いかかってきた大男に構わず、そして怯まず刃物をフルスイングして、腕を切り落とそうとする。大男がかわした。しかし、勢い余って、屋上の出入口にぶつかった。
が。
出入口は無傷だ。
「厄介だな………また例の奴だ。」
「例の奴とは?」
「体の具現化した部分を自由に変えられるんだ。急に触れられなくなったりするから、ウザイぞ。」
「なるほど…………」
二人は起き上がった大男とにらみ会う。
「これは…………?」
「後藤君から。護衛用のもの。早くここから逃げて。」小橋が校門で言う。三次がどうしたものか悩んでいると、前道がやってきた。
「おや?こんなとこで何してンの?」
「前道…………君?」三次が自分の目を疑うというような言った。
「そうだ。覚えてたか。」
「あなただったの………?この何週間も、私や私の友達に迷惑をかけてきたのは………………」
「フッ、今ごろ気付いたか。お前が大人しくあの時に付き合ってればこんなことにはならなかったんだよ。」
「………何言ってンの?ふざけてンの?!」
「悪いのはお前だ。」
「…………………フフフ…………」
「?」
「フフフフフフフフフフフフフフ!!!!!!!!!」
三次が笑いだした。前道の傲慢な表情が崩れ、小橋の涼しげな顔も強張る。
「分かったよ。付き合ってあげる。」
「…………え?」
「アンタが望んだことだよ。」三次がこんな声を出す日が来るとは小橋には思えなかった。
「『拳の付き合いかた』をたっぷり教えてあげる…………………」三次はそうして、右手をまくりあげた。