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第2章 稀有な依頼2

「…………9から7」後藤が扉に向かって言った。

「7から5」扉の向こうで合言葉をすらすら言う声がした。吉田がよく知り、他の二人はキョトンとしている。

「大丈夫だ。入れよう。先公ではない。金子という僕の仲間だ。」吉田が言った。

後藤は頷いて、扉を開いた。やはりそこには金子がいた。しかし一人ではなかった。

「吉田………厄介な事になった。」金子は後ろの女子生徒を見ながら言った。女子生徒に関しては、その場の3人全員が1年生の時同じクラスだったので知っていた。

「…………黒澤さん…………」後藤がボソッと言った。

そうだ。金子と幼馴染みで部活も一緒という、冷やかしの為に存在するような関係だった。

しかし今の金子は深刻な表情だった。黒澤は泣いてはいなかったが、震えていた。

「なにが…………」吉田はこう言おうとして、やめた。部室棟の大富豪同好会会室から少し離れたところで、複数の声を聞いた。

「顔を見られちまったか?」

「間違いなく見られた。電灯のちかくだったしよ…………」

「じゃ拉致るしかねーな。」

複数の低い声が聞こえた。


カタンカタンカタンカタン。

複数の足音が聞こえた。階段を上がってくるようだ。

「自販機荒らしの奴等だ!!見つかる!」金子が言った。吉田は状況を素早く理解した。

「田子、電気を消せ!」

田子が音を発てずに明かりを消した。

「出窓の死角に移動しよう。もし、ドアを開けたら、不法侵入で一気に取り押さえる。」後藤が早口に言った。



「……………誰もいないぜ。」

「もう、警察に通報されてるかもな。」 「ヤバイな。今日はもうバクレようぜ。」

「だな。」ガサガサという音と共に、階段を下りる複数の足音がした。

金子がドアを開け、飛び出そうとした。が、かなわなかった。吉田が金子の足に自分の足を絡ませて、転ばせた。

「止めろ。捕まえたとしても何の証拠もないぞ。」

「そうです。それより、何があったか話してください。」後藤が吉田の意見に同調した。


「………俺は、瑞穂に会ったのは、瑞穂が逃げてくるところだったから何も…………」金子が言った。瑞穂というのは、黒澤の下の名前だ。

「何があったか詳しく聞かせて下さい。」田子は黒澤を椅子に座らせながら聞いた。

黒澤は深呼吸して語り始めた。

「はい………私が帰ろうとしたら偶然、自販機荒らしにあったんです。ビックリしてかくれようとしたら、後ろから美樹に声をかけられて……………それで自販機荒らし達に気付かれて、追われたんです。」黒澤は一気に言った。

「美樹って誰です?」吉田が言った。金子はせせら笑って言った。

「蛯原さんの下の名前だよ。まぁ、お前が女子の下の名前を覚えてるはずがないしな。」

「じゃ、蛯原さんはどうしたんです?」

「連れ去られました…………たぶん。」

一瞬間が空いた。

「何だと?じゃあ、依頼ってそれ?荒らし達から守ってもらうことじゃないのか。」金子は呆れたように言った。

「荒らし達が来たのは全くの偶然。お願い………………美樹を助けて…………」

吉田が考えながら口を開いた。

「蛯原………さんは本当に連れ去られたんですか?その瞬間をあなたは見たんですか?」

「見ました………そこで助けを大声で呼んだら、バールの様なものをもちながら、走ってきて………逃げ出したところを偶然匠に会って………」

「金子って下の名前匠だったけか?」 吉田が言った。金子は呆れたように頷いた。

「……………では、蛯原さんは本当に連れ去られた。」田子が納得できないといった感じで言った。

「だがな……………」吉田が口を再び開いた。

「さっき、階段を上がってきた時は誰かを連れている感じではなかったな。黒澤さん………君が見た犯人グループは何人組でした?」

「私を追ってきたのが二人、美樹を押さえてたのが、一人…………です。」

「そういえば、最近、三人組の自販機荒らしが出没してると聞きましたよ!!」後藤が思いだし、歓喜して叫んだ。

「確かにそんなポスターを見たような…………」吉田が言った。

「でもさっきの奴等は三人だったよな?」金子が、誰かにというより、自分を安心させるために言うような口調で吉田に聞いた。

「声は3通りだった。間違いない。」答えたのは吉田ではなく、田子だった。

「ああ。黒澤さん……………」吉田は初めて黒澤の目を見ながら話した。黒澤が若干頬をピンク色に染めた。

「はい……………」

「恐らく、蛯原さんは何とか抜け出したんだと思います。携帯で確認を…………」吉田が促した。 「あっ………!!私どうかしてる………そんなことに気がつかないなんて………」黒澤は携帯を取り出すと素早く電話をかけた。

10秒は経ったろうか、応答があった。

「もしもし、私だけど、美樹、無事?」黒澤は必死の様子で言った。

「お前は……フンフン黒澤瑞穂というのか。俺たちを見ていてタダで済むと思うなよ………あの女なら、逃げちまった。足の速い女だ………それに………」

「ヒッ!!!!」黒澤は電源ボタンを連打した。

「携帯を取り上げられたんですね………それより………」後藤が言った。 「非常にまずいですよ………奴等の顔を見たのが君だってばれましたよ。声も聞かせちゃったし…………」田子が深刻な表情で言った。

「………奴等は瑞穂を殺しに来るのか?」

「それはないな…………今は…………。何時かは殺しに来ますよ。不利な状況を見られたんですからね。」吉田が言った。

金子は心配そうな顔で黒澤を見た。

「私………怖い。どうすれば………」

「そうだ!!!!依頼を変える!!!!瑞穂を保護してくれよ。奴等が捕まるまで。」

「後藤も田子ももう各人保護しなければならない人がいるんだ。」吉田が言った。

「じゃ吉田。お前が守ってくれ。」金子が素早く言った。

「お願いします。きちんと代金も払うから………」黒澤が言った。

「依頼ですからね。分かりましたよ。犯人が捕まれば終わりですね?」

「ああ。」金子が言った。


「黒澤さん、これからは帰るときは、複数で帰って下さい。これさえ守れば、大丈夫です。」吉田が言った。


「分かりました。ありがとう。吉田君…………」





………第3話に続く

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