CHAPTER2 クラスマッチ
6月の連休にクラスマッチがある。その内容を決めるため、各クラス1名、選出するきまりであった。
G組から選出されたのは、ハンドボール部の大高勇気であった。
各クラスから3種目を提案し、1学年8クラス、2学年8クラス、3学年9クラスということで、25クラスの多数決、僅差の場合は話し合いである。
大高はため息をついた。男女別な種目が一つずつと男女混合の種目をきめるのだ。
昨日の話し合いでは、女子はあっさりバスケに決まり、男女混合はバレーと1分かからずに決まった。
問題は男子種目だった。
「サッカーだろう!」サッカー部の小林が叫べば、
「バスケに決まってる。サッカーなんて人数が多く必要だから、3年の姫クラはどうすんだよ?!」海老澤が怒鳴る。3年生の事を考えている訳ではなく、ただバスケをやりたいから、理論的な事を言ったまで。ちなみに姫クラとは男子より女子の数が多いクラスのことである。
「ああ?バスケだ?サッカーだ?技術持ちが独占してクラスマッチになんねーよ。合唱で争うべき!」合唱部に一時期所属していた堀江が吠える。
「中学校に帰んな。やっぱり体育館で一斉にできる、バドミントンだろう。」バドミントン部の山田が言う。
「バドミントンなんて、みみっちい。バドミントンの漫画とかが盛り上がるか?どうせやるなら盛り上がるもの…………テニス!!」テニス部の春日が叫ぶ。
「どうせなら、全員リレーとかは?」女子陸上部の皆川が言った。
「俺、休むわ。」50メートルを15秒で走る白玉が言った。
「やはり、サッカーだろう。全員で参加できる。試合時間を短くすれば効率もあがる!」
「2面しかないだろう。バスケなら3面取れるし。雨関係ないし。」
「は、笑わせるな。バドミントンなら9面だ。やはり効率の面からバドミントンにすべき!」
あーだこーだで決まらない。仕方ないので、女子の投票で決めてもらうことになった。
大高としては、当然ハンドボールが良いのだが、味方は自分一人だった。
そして女子の投票の結果……………………………
「野球」
になった。
軟式野球部の岩崎、小橋、さらにボクシング部と兼部している鈴木が春の地区予選のため、公欠なので、野球の意見は出なかった。ある意味、普通すぎるこの意見は、しばらく誰もを黙らせた。
大高は6月のクラスマッチのために何故、新学期早々、と思う。
大高の認識が甘かった。岩崎は今アメリカに留学していて、5月31日に帰国予定。
それなのに彼は単なる公欠だと思っている。
放課後になると、会議室に大高は重い足を引きずり、参加しなければならなかった。
ー同時刻の棋道部室ー
初日を終え、吉田が棋道部室にやって来ると、同学年の部員の川又太一がいた。
「ちはーー。」川又は吉田に手を上げた。
「うい。」吉田は片手を上げてそれに応じた。
「指そうか。」
「ちょっと待った。弁当食い終わってない。昼休み本屋行ってたから。」吉田は悪びれる様子がない。普通、学校を途中で抜け出すなどあり得ないが、M高では普通だった。
「3分間待ってやる!!」
「速いな。てか、食いきれない。」
「悔いきれない?」
「まあ、確かに食いきれてないからね………悔やむ所もあるけどさ。」吉田は棋道部室に来ると少し雄弁になる。 「嘘だ!!」
「事実だっつうの。またネタかよ。」
「うるさい。うるさい。うるさぁい!!!」
「最近15巻辺りからそれ言ってないんだけどね。ていうか、電撃文庫の『灼眼のシャナ』(高橋弥七郎作)の宣伝だよね。」
「いいんだよ、マリアンヌ。君のせいではない。」
「川又君のせいだからな。確かに。」
「うるさい。うるさい。うるさぁい。」
「まさかの、繰り返し?斬新だね。」
「そうそれ。」
「……………………えっと、エルメス?」
「そうそれ。」
「微妙に会話になってるような、なってないような………てか、読者分かってます?」
「時間だ。答えを聞こう!!」
「まだ食べ終わってません!」
「君も男なら聞き分けたまえ!!」
「なんか、頭に来るなぁ。よし、食い終わった。」吉田がやっと言う。
「おK。指そうか。」川又が言う。吉田はコンビニ弁当のからをゴミ箱に投げ入れる。
「はあ、何か疲れたよ。」吉田が後手になる。
「そう言えばさ、クラスマッチの種目何にした?」川又が聞いた。
「え…………えーーーーーー………忘れた。」
「はあ、俺らのクラスは女子がバスケ、男子もバスケ。共同が野球」
「…………ふっ。」
「何か今、鼻で笑った?!」
「ナンノコトヤラ。」
「ごまかすつもりすらないのかよ。」
「ソンナコトナイヨ。二歩していい?」吉田が言う。
「何気無く反則しようたって、騙されないんだから!!」
「幼なじみみたいな反応しおって。」吉田は思案し始めた。
と、コンコンとドアを叩く音がした。
「ん」川又はドアを開けた。
小柄な男子が入ってきた。
「あの、すみません。棋道部に入部したいんですけど………」緊張しているようだ。 吉田は将棋盤から目を離し、その子を見た。
「一年生?」
「はい。」川又の問いかけに、一年生が答えた。
「名前は?」
「大澤一代です。」一年生が言った。
「じゃあ、駄目。」川又が言う。
「駄目なんですか?!」素で驚く大澤。
「おK。入部を許可します。」吉田が言った。
「え…………何かあるんですか?」
「君のノリのよさを試しただけさ。早速指してみる?」川又が言った。
「あ、はい。お願いします。」
「ゆっくりしていってね!!」
「ネタですか?」
「おお!」吉田と川又がニヤリと笑う。
「すばらしい!!最高のショーだと思わんかね?将棋わかる?強い?」
「わかります……でもあんまり父親以外指したことないんで、強くないです。」
「まるでゴミのようだ!!!」
「え!!何かひどいです!!」大澤が嘆く。
「とまあ、ネタはこれくらいにして。じゃあ君、先手でいいよ。」川又が言う。
「はい。お願いします。」
「お願いします。」
吉田はその対局を見守る。
「東方とかやる?ライトノベルとか読む?」
「やりますし、読みます。」大澤は吉田の問いに難なく答えた。
「イタイね。」吉田が言う。
「ぐはっ!!!でも…先輩は………あ、すみません。先輩のお名前は………」
「教えて欲しいか?」吉田がヒャヒャと笑う。
「はい。」大澤は答える。
「ならば……………………」
「膝まずけ!!!命乞いをしろ!!」吉田が言った。
「なんか、名台詞ばっかり………」
「何をボヤバヤしとる!」
「ネタだけで会話するなんて!!!凄すぎる。」
「駄目だコイツ…………早く何とかしないと………」今度は川又が言う。
「助けてください。」大澤がそう言ったところで、吉田はようやく自己紹介する。
「吉田。そちらは川又君。」呆気なく終わる。
「吉田先輩に川又先輩ですね。よろしくお願いします。」
改めて大澤が言った。
サッカー部では、新入部員は見学するだけだった。
「達也、俺達の時って4月何人くらい入ったっけ?」同じG組の大塚が小林とグラウンドを軽く走りながら聞いた。
「えっと、10人はいたよな?合流したのは5月だけだし、うん。10人位だな。」小林が言った。
「じゃあれをどう思う?」大塚が顎でしゃくる。 「ふむ。面白くなってきたんじゃない?」
ずらりと30人くらいが並んでいた。
バスケ部でも新入部員は当然いる。 しかし、男子は0。それに対し、女子は4人。
金子と海老澤は終日ため息をついていた。
5時を回ってようやく、全クラスのクラスマッチ委員が集まった。
大高は委員の中には知り合いもいないので、適当に携帯をいじっていた。
そのなか、委員長が声を張り上げる。 「はい。静かに!!これから第1回クラスマッチ委員会を始めます。礼!!」
そんな定型句で始まった。
翌日。
ボクシング部兼軟式野球部の鈴木がいち早く登校してきた。教室には誰もいない時期に来た。
鈴木は何もすることがないので、携帯をいじり始めた。
むなしく携帯をいじる音が響く。
カチカチカチカチ。
カチカチカチカチ。
10分もした頃、鈴木はふと視線を感じた。第6感的なもので、何かの気配を感じた。
視線を感じた後ろを確認するが誰もいない。
急いで周りも確認する。しかし、何も異常はない。
気のせいか。鈴木はそう思い、携帯に向き直る。携帯は長時間動作をしてないので、暗くなっていた。ふと携帯を見て仰天する。
鈴木の後ろに何やら黒い紐の集合体があった。髪の毛に見えなくもない。
「む?」鈴木は冷静だった。
辺りを確認するが誰もいない。鼻を鳴らして携帯画面に戻る。今度は何も反射していなかった。
カチカチカチカチ。
カチカチカチカチ。
ミシリ…………………
カチカチカチカチ。
カチカチカチカチ。
ミシリ………………
カチカチカチカチ。
カチカチカチカチ。
ミシリ……………
「………………」鈴木はイライラが高まった。何故か教室の床が軋んでいる。そもそも教室は新しい。軋む筈がない。
鈴木が周りを確認する。誰もいない。
鈴木が盛大にため息をつくと、ようやくクラスメイトが何人か入ってきた。
その内の一名は、黒板にデカデカと文字を書き殴った。
クラスマッチについて
と題名を書いた。
女子………バレー
男子………野球
共同………サバゲ
「ふう。」茶髪のその男子………大高は、手についたチョークの粉を払い、席についた。
「なあなあ。」小橋がまず言った。
「うん?何だ、小橋。」
「サバゲって何?」
「サバイバルゲームの略。」大高はすらすら答える。
「いや、そうじゃなくて、何でサバゲをやるの?」
「クラスマッチだから。」
「逆だって。何でクラスマッチの種目がサバゲなんだよ。」小橋は慌ただしく言った。
大高は答えようとしたが、ドアの開く音に飲まれた。
「うぃーす。わわわ忘れ物~~~~~~~」白玉がネタを言いながら入ってきて…………
「ぬおっ?!」ネタかと思いきや、黒板を見て素で驚いている。
「すまん。ごゆっくり!!」白玉はそのままでて行った。
「何あれ?」大高が首を傾げ、小橋も分からないというふうに肩をすくめた。
「大高君。」鈴木が初対面なので、君付けで呼ぶと、大高は手をふった。
「大高でいいよ。で、何?」
「本当の本当にサバゲ?」
「そう。これ証拠。」大高はそう言いながら、書類をバンと机の上に置いた。
軟式野球部の小橋と鈴木は書類を凝視する。
第60回クラスマッチ
種目・開催日・会場・ルール・その他
女子………バレーボール・4月27日~28日・M高体育館・1セット25点の1セットマッチ。40分の時間制限がある。トーナメント方式で行われ、準決勝・決勝は時間制限なし、3セットマッチとなる。ルールは日本バレー協会が定めているものにのっとる。・尚、バレー部員は参加を許されない。引退から3ヶ月を経ていれば可。 男子……硬式野球。・4月29日、5月3日、5月4日。・N川大競技場・ルールは日本プロ野球連盟のルールにのっとる。リーグ戦→ダブルエルミネーション方式で行う。
1R…リーグ戦(25クラス16クラス)
2R…ダブルエルミネーション方式(16クラス→8クラス)
2時間の時間制限がある。5回まで行う。3回の時点で15点差がついていればコールドとする。1Rでは、全クラスをくじ引きで8ブロックにわける。2Rでは、4ブロックに分け、1位通過2チーム、2位通過2チームとし、初戦は1位通過と2位通過が当たるようにする。ブロックはくじ引きで決める。
各ブロック上位2チームが3R進出。 3R…ダブルエルミネーション方式。(8チーム→4チーム)
3時間の時間制限がある。ゲームは7回まで行う。5回時点で10点差がついた場合はコールドとする。2Rと同様、2R1位通過と2位通過チームが2チームずつ入る。初戦は1位通過チームと2位通過チームがぶつかる。上位2チームが決勝R進出。 決勝R…トーナメント方式(4チーム→優勝)
3R1位通過チームと2位通過チームが準決勝を行い、勝者が決勝を行う。ちなみに、たすきがけとし、αブロック1位通過×βブロック2位通過のように、違うブロック同士が準決勝を戦う。
時間制限とコールドはない。9回まで行う。
その他に1R、2R、3Rで時間制限が経っても、同点の場合、(失策の少なさ→安打数)で区別する。それで決まらない場合は
、主審を抜いた5人でより多くの好守備がでた方を判断し多数決とする。硬式野球部の参加は認められないが、軟式野球部の参加は認められる。主審は自分のクラスに当たらないよう、硬式野球部員が行う。
共同種目…サバイバルゲーム・5月5日~5月6日・M市内全域・殺し合いではありません。怪我ならおK。・警察に捕まらないように。詳細は当日発表。
各種目優勝チームには10万円、準決勝チームには3万円、3位チームには1万円ずつが配給される。
(主に学園祭費用)
では頑張りましょう。
「これだけ?」小橋は企画書を裏返したが、何もない。
「やった。軟式野球部ならセーフか。バレーの企画書読んだときは肝が冷えたぜ。」鈴木が言った。読むのに没頭していたため、周りに人が増えた事に気がついてなかった。
周囲からは、野球かよ~とか、バレー3週間後だよ!とか聞こえてくる。こうして、クラスマッチが始まった。