第15章 激化2
エリアEー4
走りに走った後藤は服部が追ってくる気配が無くなってから停止した。
岩本がゼイゼイ言いながら、スポーツドリンクを飲んでいた。
社長令嬢とはいえ、ハンドボール部に入っているから、何とか後藤に着いてこれた感じだ。後藤は蛯原を肩から下ろした。
「美樹、怪我してるんでしょ。手当てしないと………」岩本が息を整えながら言う。1分程でもう落ち着いている。後藤は内心感心しつつ、言う。
「どこも怪我してません。気を失っているだけです。」
「え?そうなの?さっきと言ってる事が違くない?」岩本が言った。
「はあ。私が気絶させたんですよ。蛯原さんが危険を省みず、服部を倒そうとしたんですよ。」
「美樹が?」岩本は今は寝息を立てている蛯原をみた。
ポツリ。
朝なのに明るくないと思えば雨が降ってきた。後藤は近くに民家がないか捜索しようと立ち上がる。
「ねえ、後藤くん。貴司とはぐれちゃったけど大丈夫なの?」岩本が言った。後藤が固まる。
「どうし」
「うーーん………」蛯原が岩本の言葉を遮って起きた。寝てたわけではなく、どうやら気を失った状態から回復する段階だったらしい。 後藤が硬直する。
蛯原が目を後藤にやり、岩本にやり、周りを素早くみた。
後藤が何か言おうとしたが、蛯原は意外にも項垂れて、声もなく泣き出しただけだった。
「ちょっと美樹?!どうしたの?どっか痛いの?」岩本がすぐに駆け寄る。
蛯原は首を振り言った。
「ゆ………夢じゃ………なかったんだ………なかったんだ。」蛯原が言う。
岩本が混乱していると、蛯原は膝に顔を埋めた。
「う~~~~~~~貴司く~~~~~~ん。うううううううううううううううううううう。」号泣する蛯原を抱き締めながら、岩本は後藤に聞いた。
「ねえ、何があったの?貴司は?!まさか、美樹に何かしたんじゃ………」
盛大な勘違いだ。後藤は目が細くなった岩本を見ながら、やや呆れた表情になった。
「何もされてないの………貴司君が、貴司君が…………死んじゃった……死んじゃったんだよ~~~」言葉にして言うとますます現実味が増した。
岩本は当然混乱した。
蛯原にではなく、後藤に聞く。
「貴司が………死んだって?!嘘だよね?!間違いだよね?!だって………貴司は、貴司はいつも死をスレスレで凌いだし………」
「マシンガンで撃たれたんですよ。倒れたのを見ました。」後藤が断言した。
絶句する岩本。蛯原の泣き声がした。
岩本の目からも涙が溢れた。
「そんなこと信じられるわけないじゃん!!嘘に決まってる!貴司は死んだりしないもん!!後藤くんも美樹も撃たれたのをみたかも知れないけど、致命傷にならなかったかもしれない!!!!」
岩本はどうだと言わんばかりに後藤を見た。
なかなかの説得力だ。しかし岩本は大事な事を忘れていた。
「岩本さん………私だってそう信じたい………でもダメなんです……」
後藤が沈んだ声で言う。岩本は激昂する。
「何で!!そんなに貴司を殺したいわけ?!」
「岩本さん………何でさっき全速力で走ったと思います?」
しばし岩本は黙り込み、答えた。
「服部から逃げるため。違う?」
「…………………」後藤は黙って首をふった。
「違うの…………?…………………………………………………………………あ………………ああっ!あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………」絶叫と言うより、絶望の余り、頭を抱えて座り込む。
「あそこは…………禁止エリアだったんですよ………」後藤もまた天を仰いだ。
エリアFー6
大原が見張りを始めてから、2時間が経過した。まもなく正午だが、雨が降り始めたら、大原は意外にも3人の縄を解き、銃を突きつけて、民家のカーポートの下に移動させた。縛り直さずに、3人に壁を背に、体操座りさせ、自分は距離を少しおいて面と向かう感じで、立っていた。
その手前の林の中から突如、絶叫がしたのは移動後、10分も経過していない時だった。3人はもちろん、大原も林を見た。
小林は足の腿を撃たれたが、掠めた程度ではや歩きなら出来た。
しかし、馬渕と保坂から逃れるのに忙しく、銃も失ったあの時、小林に逃げる以外の選択肢はなかった。
小林は打ち合わせておいた通り、エリアFー6の金子らと会う予定だった。すると誰かに銃を突きつけられて、移動している3人を見た。
小林が慎重に林をぬけようとした時、後ろで小枝が折れる音がした。
小林はすぐ振り向いた。
服部がまさにマシンガンを向け、撃たんとしていた。
小林は駆け出す。
服部がニヤリとして、マシンガンを撃つ。
パラララララララララララララ……………………
のはずが。
パラン。
1発だけで弾切れ。服部が驚き、マガジンを変えようとするが、小林が余りにも速すぎた。
小林が服部の両足を抱え込むレスリングの一本技を繰り出す。マシンガンに頼っていた服部はなすすべなし。
小林は情け容赦せず、服部を押し倒す。
そして
包丁を出し、服部の眼球にぶっ刺した。
耳をつんざく絶叫を服部が出した。文字では書けない。
小林は躊躇せず、服部の首を包丁を横にして刺す。
何度も何度も。
刺す。
刺す刺す。
刺す刺す刺す。
刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す。
服部の首が分断され、首輪がポロリと外れた。
小林は悪人にのみ見せる最凶の冷笑を浮かべ、林を出た。