第15章 激化
川田です。
読んでいただきありがとうございます。評価して頂けると、参考になりますので、よろしくお願いします。
エリアF-3
海老澤、黒澤、金子の3人は捕まり、きつく縛られていた。大原が銃の手入れをしているだけで、横山、木田の姿はない。
3人は猿轡を噛まされ、会話を遮断されていた。腕もきつく器用に縛られていた。
海老澤は銃をパンツの中に隠してから、投降した。横山は3人を別々にしようとしたが、木田が見張りが大変と言った。それでもなお、横山は3人で分担すりゃ訳ない。じゃ俺はこの女を………と、黒澤の腕を掴んだら、横っ面を大原が張り飛ばした。意外に紳士である。
大原はその後、二人を捜索に行かせた。横山はブチブチ文句を言っていたか、結局折れた。3人は必死に脱出の方法を模索していたが、いい考えは浮かばなかった。
エリアFー6
吉田が何とか民家に辿り着いたのは、全身を撃たれてから、10分ほど後だった。
サブマシンガンの弾なので、致命傷はないが、出血多量が本格的に来ていた。死地を乗り越えてきた吉田といえども、銃器で撃たれたのは数少ない。マシンガンで全身を撃たれたのは初めてだ。
激痛に顔をしかめながら民家に入った。
すると、陰から何者かが飛び出してナイフが自分の喉元に突きつけられた。吉田は度肝を抜かれたが、ナイフはすぐに離れた。
「無事でしたか。近くで爆発があったんで殺られたかと思いました。」後藤だった。
吉田はフラフラとベッドに倒れ込む。話し声に反応してか、奥から誰かが忍び足で様子を窺う気配が感じられた。
「貴司!!よかったあ、無事………っ!!」岩本が駆け寄ってきたが、表情が安堵から氷のように青ざめた顔になった。
「ちょっとどうしたの?!それ!!血まみれじゃない!!」岩本が吉田を揺すりながら叫ぶ。
「止めて下さい。怪我が酷くなりますよ。」後藤が警告する。後藤も無傷ではない。腹と右腕と左脚に計4発喰らっていた。腹を布で巻いていた。
「貴司君!!!!」さらに大きな叫びがして、蛯原がきた。後藤はやれやれと首をふる。
「静かにしてください。僕は大丈夫ですから……」吉田が表情を変えずに言う。
「大丈夫だって?!自分の状況わかってんの?グロいよ!!」岩本が叫ぶ。
「静かにしないと2人が戻ってきます。」吉田は威圧する目で岩本を見た。岩本は憤懣やる方ない顔をしていたが、左肩の血を拭き取り、民家にあった包帯を巻き始めた。蛯原が慌てて吉田の右腕の手当てをした。
よく見ると、後藤の脚はズボンが妙に膨れている。恐らく包帯がしてあるのだろう。後藤が二人にふきこんだらしい。
手当てされている間、吉田は疲労から瞼が重くなった。蛯原が心配そうに見ているのを、何故か岩本が不機嫌な顔で見ていた。
突如として、吉田の腕時計が鳴った。
後藤がゆっくりこちらを向く。吉田がゆっくり目を開ける。
「ありがとうございました。蛯原さん、岩本さん。」吉田がふいに立ち上がった。
「え?どうかしたの?まだ終わって………」
「あと10分でこのエリアが禁止エリアとなります。」後藤が遮った。 「急がないと、首から上が無くなりますよ。」吉田が言った。二人が青くなる。
「急いで出ます。準備はさっきのままですよね。」
後藤の問いに二人が頷く。吉田が肩を回して、痛みに顔をしかめた。
「じゃあ、行きますよ!!」後藤が扉を開けて、走り出す。怪我を負いながらよく走れる。蛯原と岩本が続く。
吉田がショットガンを持って出る。
刹那。
パラララララララララ…………長い発砲音と共に、マシンガンの弾が飛ぶ。
「!!!!」蛯原が驚いてかがみこんでしまう。
「いた!!早く撃て坂下!!」服部が叫ぶ。
「任せろい!!」坂下が蛯原めがけてマシンガンを撃つ。だがしかし。
後藤が素早く蛯原を抱き抱えた。
弾が1発、後藤の右足の指に当たった気がしたが、靴の上からだ。気にせず、後藤が走り出す。
追おうとする巨漢の坂下は吉田に気付かず、あろうことか、真ん前を通過する。怪我人とはいえ、チャンスを逃す吉田ではない。
ショットガンが放たれ、坂下の首に命中。
威力がマシンガンの弾より遥かに上回るショットガンの弾は例え腹に当たろうが、脚に当たろうが、熊さえも死ぬ。
坂下は人間、それ以前に首。首が胴体から離れ、坂下(胴体)はバタリと倒れる。 吉田がさらにショットガンを服部に放つ。服部も吉田に向かって放つ。
相討ち。
ならまだ良かった。
吉田のショットガンは外れ、服部のマシンガンの弾が吉田を襲う。
吉田は声もなく、倒れる。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!貴司くうううううぅぅぅうううううぅぅぅぅぅぅうううううん!!!!!!!!!!」蛯原が絶叫する。吉田は茂みの中にどっと倒れた。
「放して!!よくも、よくも貴司君ををををををををををを!!!」蛯原が後藤の腕のなかで暴れる。
「いま行けば貴方まで死にます。彼はそんなこと絶対望んでません!!」後藤はいつもの冷静さは一切ない声で言う。 「うるさい!!!許さない!!許さない!!殺してやる!!!!殺してやるうううううううううううううう!!!!!」
「蛯原さん!!すみません!!!」後藤はそう言うと、蛯原の鳩尾を殴る。
蛯原はうっと言ってぐったりしてしまった。
岩本が寄ってきた。
「美樹!!美樹!!どうしたのこれ!!!死んでないよね?!」後藤に聞く。
「弾を受けてショックで気絶しただけです。脈はありました!!急いで下さい!!!あと3分しかない。」後藤と岩本は禁止エリア脱出を目指してひた走る。
背後から服部の足音が近づいてきていた。
(吉田君……演技だよな?そうだよな!!)後藤は無理矢理自分を納得させ、走り続けた。その目からは滅多に見せない滴が光っていた。
エリアHー5
蛯原の絶叫が保坂と馬淵の耳にも届いた。
「殺ったらしいな。」悲鳴がすぐに途切れたので、保坂はそう判断した。
「え?生け捕りにしなきゃまずいんじゃないのか?」馬淵が言う。
「まあな。別に殺しても変わらないとは思うが、無難に行くか。」保坂は深い茂みを見つけ、乱射する。何の音沙汰もなかった。二人はさらに森の中を移動して行った。
バタン。
民家の扉が開いた。直後に、包丁が侵入してきた男の肩を狙った。
男は包丁を持つ手をとめゆっくり首を振り言った。
「細くて綺麗な腕ですね。」萩谷の声と顔が確認できた。
「なんだあ、ノックぐらいしないと………」山口がホッとしたように言う。
萩谷は無言で扉を閉め、何故か山口に背中を見せないようにして移動した。蟹歩きのような歪さが山口を不安にさせた。
「何隠してるの?」山口が聞くと萩谷は無言になった。
時計のカチコチという音がヤケに大きく聞こえた。二人は見つめあったままだ。
「小林君は?」山口がやっとのことで声を出す。朝10時を伝える鐘がなった。
萩谷は答えない。
小林と萩谷が安全対策のためカーテンを雨戸を閉めたため、室内は異様に暗い。外が曇ってなかったとしても、ここまでは暗くはない。
山口は妙な胸騒ぎを感じた。
「小林君は?!」今度は怒鳴る。
萩谷が近づいてきた。
「い、嫌………」山口は後退り壁にぶつかった。
「達也はまだ闘ってます。」萩谷がやっと言った。どういう訳か、口は笑っているのに目が鋭い。山口は一度その目をみた事があった。
駅で不良に絡まれた時に助けてくれた吉田君の目。不良を見る目は爬虫類のように冷たく感情がない。見られただけで山口は倒れそうになる。山口は声を振り絞る。
「何で萩谷君だけ帰ってきたの?」
「………………」萩谷は何も言わずに距離をつめ、ついに手が届く範囲に来た。
相変わらず、右手を背に回したまま。
「ねえ…………?」山口はとうとう泣き出した。恐怖が喉を締め付けた。
「達也は生きて帰ってきますよ。でも約束したんです。」
「何を………?」
「約束はあることが成り立てばでした。」萩谷は口すら笑いを失い始めた。
「な………」
「貴方が俺達の手助けをするか否かに懸かっていました。」
「……………」話が見えたような気がした。途端、恐怖のあまり崩れ落ちた。大粒の涙が頬を伝うが、萩谷は容赦しない。
「君が助けてくれれば、君を守る。」
「………………」
そして
「君が傍観しているようなら……………
足手まといになるようなら……………」
断罪。
「お別れする」萩谷はゆっくりと背中から石田が持っていたワルサーP77を山口に向ける。
山口は何も出来ず、硬直していた。
数秒後、民家に銃声が響き渡った。