第14章 開戦
移動中の先頭の吉田が突然伏せた。後藤が、蛯原と岩本に素早く伏せるよう指示した。茂みに踞る。だが、しかし。
「そこらにいるのは分かってる!!くらえ!!」服部が、近くの森から姿を現し、サブマシンガンを乱射した。
「奥に!!」後藤が素早く蛯原と岩本を森の奥へと押しやる。
「いたぞ!!3人いる!!手伝え!!!」服部が叫ぶと、遠藤と坂下が姿を現した。
パラララララララララ…………サブマシンガンの銃声が響いた。
吉田と後藤は岩影に隠れた。
「そこか!!」遠藤が吠え、吉田達が隠れる岩に乱射する。
「ち」吉田が舌打ちをして、飛び出した。
「いたぞ!!あそ………」ドガーン!!!吉田がショットガンで遠藤の顔面を吹っ飛ばした。
とは言え、吉田を遮る物は完全にない。
「うらあ!!!」坂下がしっかり狙いを定め、乱射する。 吉田は次の木の根本にダイブし、奇跡的にかわす。
「うぐっ………」後藤は服部が撃った弾を4発浴びたが堪える。蛯原と岩本に家に立て籠るよう指示した時に、狙われた。後藤は急いで伏せたが、相手はそれをよんでいた。
「さあて、諦めがついたか?それともまだ撃たれ足りないか………」服部が低い声で笑う。
「くそっ………」後藤は冷静さを欠いていた。焦りの余り、汗だくで、息も荒かった。やってはいけないことに、後藤は立ち尽くした。
「直ぐに済ませてやろう。せめてもの慈悲だ。」服部が低い声で笑いながら、後藤の胸を拳銃で撃った。後藤はそのまま倒れた。
「そこかっっ!!」坂下が乱射する。サブマシンガンの特性を生かし、吉田に弾を変える時間を与えない。
「うりゃっ!!」坂下が今度は手榴弾を投げる。
吉田は次の木に移動。
坂下がサブマシンガンで攻める。吉田の体力が先に尽きる。そこを攻めれば良い話。しかも、弾が大量にあるハンデがデカすぎる。吉田は顔をしかめた。
5分も逃げては撃たれ、撃たれては逃げを繰り返していた。
その時、吉田の足元に手榴弾が投げ込まれた。
飛び退く暇は与えられないように、スイッチが地面につきささった。
足元が爆発する。吉田は吹っ飛ばされ、木に頭から突っ込んだ。服部が低い声で笑いながら、坂下に加勢していた。
エリアHー5
見張りについた小林と萩谷が欧州CLについて議論していたが、小林が突然、顔をあげ、窓の外を見た。
「どうした?」萩谷が伸びをしながら聞いた。
「今、銃声が微かに聞こえた。」
「どんな。」
「衝撃波みたいな音。マシンガンじゃない。ありゃライフルか………?」
「貴司はショットガンが武器だからな、多分奴だ。」
「何で、知ってる?俺達武器の見せ合いしたか?」
「いーや。ただ、鞄にしまってたからな。輪郭は見えた。レミントン辺りのショットガンじゃないの。普通のショットガンとかライフルは鞄に収まるわけないだろ。」 「なるほど。ま、貴司だけじゃなく、後藤君もいるんだし、死にはしないさ。」
「なあ、悠人よ………」
「ああ?」萩谷がワルサーP78をいじりながら問い返す。
「何故に、山口さんに貴司の事話したんだ?」小林の口調は攻めてもいなければ、探りを入れてもいない。
「言われたからさ。『吉田君は中学生の時に………その………何か悪いこと………しちゃったん……でしょ………』って。」
「口調は真似んで良い。気色悪い。その口振りはまるで確信してるような………」
「俺もそう思った。貴司が彼女に思わせ振りなこと言ったとかは。」萩谷が自分の発言に自信がないのをあからさまに分かる口調で言った。
「ないだろうな。」小林は断言した。
「ま、良いけどよ。達也も………」萩谷が言葉をきった。注意していれば聞こえる程度だが爆発音がした。
「今のは聞こえたか?」萩谷が言う。
「聞こえた。」小林がそっと窓の外を伺う。爆発音はそれきりしなくなり、夜の静寂が訪れた。
「爆弾なんて支給されるか?」萩谷が言った。
小林がしばらく考えていたが、急に深刻な顔になり、立ち上がった。
「どこに行く?」萩谷が小林を見ながら言った。
「うっかりし過ぎたようだ。助太刀に行かんと。」小林は探知機を確認した。
その瞬間言葉を失う。萩谷が小林どうした、と問う間があればこそ、小林達の隠れる民家の窓が粉々に割られた。
外には、不適に笑う見慣れた姿ーーー 「保坂だ……!!」小林は青ざめた。
「見つけたぜ………」保坂の隣に立つ、馬淵涼太、石田宣之が舌を出して笑う。
「石田が何でここにいる……………!!」萩谷が煙草をくわえ落とし、冷静さを欠いていた。
対峙する、小林・萩谷組と保坂・石田・馬淵組。両組の間には数少ない残された窓ガラスが1枚。 エリアFー6
海老澤がまずそれに気付いた。爆発した方向を凝視し、緊張感を高めた。隣の金子が立ち上がった。
「誰か死んだか……?」どうもよく見えないらしく、目を細めたりしている。
「わからない………でも煙出てないよ…………」黒澤が言う。
「夜だからよく響いただけで、手榴弾かもな。こちら側で誰か持ってたっけ?」海老澤が言う。
「知らない。」金子がそう言った時、呻き声が聞こえた。
「今のは!!」金子が叫んだ。
「静かにしろ!!貴司かな………?」海老澤が考え込む。
「そんな………貴司君、死んじゃったの?!」黒澤が言う。
「助けに行かねえと!!」金子が我先にと動く。 「やめろ。今のが本当に貴司なら、奴ですら敵わない相手なんだぞ。標的が一人増えるだけだ!!」
「見過ごせるわけないだろ!」海老澤の制止を振り切ろうとする。
「待て!!俺がそう言ってるのは、貴司達の所までどれだけあるかって事だ!行き着く前に殺られたらどうする?」
「んな、事知るか!」 「お前が死ぬのは勝手だけどな……残された、黒澤さんが死ぬ確率がぐっと高くなるぞ!!それもわからないのか!」
「俺は………」
ズバーン。
銃声が響いた。
そこでようやく自分たちがどれほど大声で議論していたか分かった。
「見つけたぜ!こっちにいるぞ!!」そう叫んだのは大原光一。B高校の生徒だ。やがて、応援である、木田正人、横山圭介が現れた。
「遺言はあるか?」木田が言った。
「……………」海老澤達は銃を真っ正面から向かえる恐怖に耐えながら、ジリジリと後退した。
「待ちなよ。この距離なら逃げ出した瞬間撃ってやるから下手なこたあ、考えるなよ………」
木田が言う。海老澤がそろそろと尻ポケットの銃に手を何気無く動かす。
「それ以上手を動かすな。今は殺るつもりはない。後々だ。」横山が言う。そして黒澤を見た。
「なかなか上玉だな。しかも、処女に見える。楽しませてもらうぜ………」横山がヘッへと笑う。黒澤はビクッとした。
3分もした頃。
3人は背に巨木を押し当てている。逃げ場がなかった。