第12章 脱出2
吉田は冷たい目で連中を一瞬だけ見、周囲に目をやりながら近くのテーブルのオレンジジュースを飲んだ。後藤もそれに倣う。
「オイコラ、シカトすんじゃねえ。」男がまた言った。
「何の用だ?」大野がおもいっきり嫌な顔を向けて言った。
「ふん、何だその態度に格好は。そこの二人も。何処のホームレスだ?」
男の声に周りの取り巻きが大声で笑う。大野は赤くなったが、吉田と後藤はオレンジジュースを飲みながら、人間観察に忙しいようだ。
「何処のホームレスかは知らんが、間違って入ってきたんじゃないんだろう。鉄面皮もいいところだ。それに増して、怜衣様に馴れ馴れしくタメ口を聞いてみたり、セクハラしてみたり………」
そこまで言うと、男は大野に唾をはきかけた。
「何するんだよ。」大野とて大富豪同好会の会員。それしきの事で、キレたりはしない。
「身分にふさわしい物をくれてやっただけだ。怜衣様のお側にお前のような………む?」男は言葉をきった。
吉田と後藤がこちらを向いていた。
「君の話はイチイチ面白いですね。馬鹿と言うか、脳細胞が未使用と言うか…………鉄面皮どころか、鋼面皮ですな。」 「まあ、金で育ってきたボンボンだ。脳細胞があるかどうか怪しい。」吉田と後藤は本人が目の前にいないかのように、振る舞った。
「貴様ら…………生意気を言うな。今すぐ謝るなら許してやる。言っとくが、俺は少林寺拳法3段だ。それとも二度と口を開かないようにしてやろうか。」
吉田は黙って唾をはきかけた。
「ウワッ!!!てめえ!!!」男は吉田につかみかかった。取り巻き達も動き、後藤と大野に襲いかかる。
確かに少林寺拳法は強かった。先手をとったのは男で、吉田を見事に張り倒した。しかし、そこからカポエラで飛び起きた、吉田は鼻を蹴りあげ、鼻を折り、あっという間に気絶させた。
取り巻き達は驚き、男を担ぎ上げると、一目散に告げ口しに言った。
「大変なことして…………」批難するような、誉めているような声がした。
新たな登場人物に3人はバラバラに振り向き、辺りを探す。
「ナルチ、こっち。」先程とは違う岩本の声だ。3人は一点を見た。
「もう…………」岩本は一人ではなかった。隣に緑のドレスを着た美少女がいた。大野と吉田はじっとその女子を見つめた。女子は吉田を熱心に見つめ返す。見つめ合う二人が成立したが、恋愛めいたものはなく、興味本位らしい。
「あれ?蛯原さん。」後藤は女子を見つめて言った。
「後藤くん。貴方も来てたんだ。こんばんはーー。」その女子は後藤に向かって手を振った。
「知り合いの方か?ごっつぁんよ。」吉田は女子から目を離し、後藤を見た。
「ええ。同じバドミントン部の部員で、蛯原さんです。」
「蛯原美樹です。はじめまして。」蛯原は礼儀正しく、吉田と大野に頭を下げ、吉田にすらりとした手を伸ばした。
「僕は吉田です。はじめまして。」吉田は目の冷たさを抑え、握手に応じ、頭を下げた。
「よろしくね。貴司君。」蛯原はニコニコしながら言った。
「!」吉田は少なからず驚いたようだ。名を名乗らないのに何故分かった、と。
蛯原は大野と握手していた。
「岩本さんが呼ぶところに居合わせたのか………」吉田は首をひねる。
「あいつら、あたしにしつこく告るんだよね。」岩本が言った。
「なんでも、あたしに釣り合うのは自分だけとか思ってるみたい。あたしには分かる。それに多分狙いはあたしじゃなくて、財産の方だよ。全く腹が立つ!!」威勢よく岩本が言った。
「貴司君には感謝しちゃうかな。私もナンパされたことあるんだ。あいつに。あいつ、うちの高校の3年なんだ。しつこくて、しつこくて。」
蛯原が顔をしかめた。
「ああ、そうだ。正式な式が始まる前にお祝いを渡さしませんと。」後藤は思い出したように、紙袋をガサゴソやりだした。
「えっ…………」岩本が何故か驚いた表情をした。
「はい、17回目の誕生日おめでとうございます。これをどうぞ。」後藤は細短い包みを渡した。
「ありがとう………後藤くん、開けていい?」
「無論です。気に入ってくれると良いのですが。」後藤は屈託のない笑みを浮かべた。
岩本はゆっくりと包みを開き、箱を開けた。中には万年筆が入っていた。
「太宰府天満宮でお祓いをしてもらったのです。ちょっと早いですけれど、大学の合格祈願と無病息災をいのって。」後藤が言う。岩本はしげしげと万年筆を見つめ、
「ありがとう…………」と消え入るような声を出した。
「僕からもです。」吉田はそう言うとランタンを取り出した。中では小さい群青の炎が燃えている。 「グレイオスシアンの火です。月光を各所で虫眼鏡で集めて、紙の一点を焼いて作りました。その火は何をしても消えません。月光は元々聖域なもので、あらゆる危機から貴方を救ってくれるでしょう。満月の月の日が快晴でなかったら作れませんでしたよ。貴方の永遠の火(日)をねがって。」吉田は頭を下げた。
岩本は身動ぎもしない。
やがて、慌てたように
「ありがとう」と呟いた。
「次私から!!!はい。」
蛯原が岩本に直接渡したのはマフラーだった。
「私が編んだんだ。これから寒くなるから、必要になると思って。赤にしたのは、後藤くんと被っちゃうけど、勝利の赤ってことで。誕生日おめでとう。」蛯原は満面の笑みで言った。岩本は蛯原を見つめることなく、受け取り、また「ありがとう………」と呟いた。
「俺からも。」大野はズイと進み出た。
「はい、誕生日おめでとう。」大野はそう言って、岩本にヘアピンを渡した。
「金属採集から、鉄還元から、加工から何から何まで一人でやったんだ。何とか間に合って良かった。大事にしてな。」大野から岩本はヘアピンを受け取っても岩本は何も言わない。
「しかっし、あのうるさい音はヘアピンを作ってたのか………」吉田は気付かなかったらしい。
「………流石に分かりませんでした。てっきり音からルアーを作ってるのかと。」
「大野君、頑張ったねーーー」蛯原も感嘆する。
突如。
「うえーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!」岩本が地面に崩れ落ち泣き出した。
「何だ?!」吉田が目を細め、後藤が微笑を驚きに変え、大野はしどろもどろになり、蛯原は岩本に駆け寄った。 「どうしたの??怜衣、怜衣ってば!」蛯原は岩本の肩を抱いたが、岩本は何も言わない。
すると、何処からかイケメン集団、若しくは御曹司軍団が現れた。
「貴様ら、怜衣様に何をした!!」
「なんだ、この無粋なものは?」
「まさか、このような低俗な物を怜衣様に………」
イケメン集団は自分達の手で自分たちの怒りを煽り立てている。普段は無表情な吉田と後藤が怒りに顔を歪めた。
「怜衣様!!!大丈夫です。私達がついてます。危害を加えるような事は一切させません。事情をご説明下さい!!」イケメンの一人が言った。
「うう………うう………違うの…………その人達は悪くないの…………」
「?!」イケメン集団は息を呑む。
「ただ………手作りの誕生日プレゼントなんて初めてで………それも皆人一倍忙しく最中に作ってくれたなんて…………ありがとうね………ありがとう…………」岩本は大野、吉田、後藤を順に見、蛯原にしがみついて泣いた。
「納得がいかない。どう見たって、俺らの方が怜衣様にふさわしい!!!」イケメン達は吉田達を外に呼び、ケンカ腰で文句をいい始めた。吉田達はストレス解消を狙い、あっさり応じた。 「単細胞が………金の力の限界が分かったか?岩本さんは要するに、君達など眼中にない。ここにいる大野が彼女が選んだ人材だ。いい加減諦めろ。嫉妬深い負け犬ども!!」吉田が罵倒する。
「貴様…………!!」
「てめえ、控えろ。我ら宮本グループを甘く見るな。パパに頼めばてめえなんて直ぐに東京湾に沈めることだってできるんだよ。それに………」
「パパかあ、哀れだなあ………自分では何一つ、ケンカすらできない。無駄に財産を使うだけが能か。死ね。」後藤は自分より対等、若しくはそれ以上以外の人間には敬語口調でなくなる。
「てめっ…………」茶髪の男が後藤の襟首をつかむ。それを皮切りに次々とイケメン軍団は吉田達に襲いかかる。
確かにイケメン軍団は武道派だった。しかし、吉田達の例の神経だけを確実に攻めて失神させる技術には敵わない。全員があっと言う間に気絶する。
吉田達が戻ると、見慣れない大人が二人立っていた。
片方は……岩本によく似ている。どうやら両親らしい。
「君達が大野君、吉田君、後藤君かい?」男性が言う。
「はい。貴方は……?」
「怜衣の父親である、岩本浩二です。君達が怜衣をこんなにも喜ばせてくれたんだね。父親として礼を言う。」
吉田は面食らった。岩本の涙の真の意味を理解していたらしい。
「いえいえ。友達ですから………当然ですよ。」後藤がきびきびと答えた。
「ありがとうございます。今日は本当に怜衣の誕生日を祝う人が来てくれて。私からも礼を言います。」岩本母が自己紹介せずに言った。
吉田は岩本を見た。岩本は泣き止み、照れた笑いを浮かべた。すると、岩本は大野に近寄り、何か話始めた。後藤も岩本の両親と嬉々として話している。
すると、急に何かが袖を引っ張った。
見ると、蛯原が吉田を引っ張っていた。
「貴司君………ちょっとこっちに来てくれる?」
「はい?」吉田は警戒心を目に剥き出しにした。目がギラギラ光り、蛯原を見据える。
「違うって。ちょっと恥ずかしいからここでは………貴方をどうしようって事じゃないの。それに貴司君は私が知ってる人の中では誰よりも強い、そうでしょう?」蛯原は言う。
「……………小林は僕よりも上です。奴が最強でしょう。」
「それよりも」蛯原はそう言うと、外に出たので足を止めた。
「貴司君、実は私は貴方に会うのは初めてじゃないの。最初に会ったのはいつだか分かる?」蛯原が言った。
「はい?」吉田は警戒心を目に剥き出しにした。目がギラギラ光り、蛯原を見据える。
「違うって。ちょっと恥ずかしいからここでは………貴方をどうしようって事じゃないの。それに貴司君は私が知ってる人の中では誰よりも強い、そうでしょう?」蛯原は言う。
「……………小林は僕よりも上です。奴が最強でしょう。」
「それよりも」蛯原はそう言うと、外に出たので足を止めた。
「貴司君、実は私は貴方に会うのは初めてじゃないの。最初に会ったのはいつだか分かる?」蛯原が言った。
「はい?」吉田は警戒心を目に剥き出しにした。目がギラギラ光り、蛯原を見据える。
「違うって。ちょっと恥ずかしいからここでは………貴方をどうしようって事じゃないの。それに貴司君は私が知ってる人の中では誰よりも強い、そうでしょう?」蛯原は言う。
「……………小林は僕よりも上です。奴が最強でしょう。」
「それよりも」蛯原はそう言うと、外に出たので足を止めた。
「貴司君、実は私は貴方に会うのは初めてじゃないの。最初に会ったのはいつだか分かる?」蛯原が言った。 「はい?」吉田は警戒心を目に剥き出しにした。目がギラギラ光り、蛯原を見据える。
「違うって。ちょっと恥ずかしいからここでは………貴方をどうしようって事じゃないの。それに貴司君は私が知ってる人の中では誰よりも強い、そうでしょう?」蛯原は言う。
「……………小林は僕よりも上です。奴が最強でしょう。」
「それよりも」蛯原はそう言うと、外に出たので足を止めた。
「貴司君、実は私は貴方に会うのは初めてじゃないの。最初に会ったのはいつだか分かる?」蛯原が言った。 吉田は首を振る。
「貴方が私が男二人組に絡まれた時、助けてくれたの。お礼を言うまもなく、スタスタ行っちゃって………」蛯原は赤くなり下を向いて言った。
「………………」
「だから、お礼をずっと言いたかった。ありがとうね、貴司君。」
「はあ…………」
「これからも学校でよろしく。」
「はい…………」吉田は唖然とした表情で赤い頬をした蛯原を見た。
「美樹ーーーーー!!一緒にケーキ食べよーーーー!!!」岩本は泣き止み、元気に蛯原に飛び付いた。岩本は「美樹ーーなんか酔ってるみたいに赤いよーーー。」なんて言いながら、蛯原を引っ張って行った。