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第10章 融解2

午前3時。


プンッッッッ!!


「午前3時になりました。担任の嘉門でーす。みんな元気にやってるかァ?報告を始めます。」


「禁止エリアは今回はありません。プログラムはまだ始まったばかりですからね。死亡したお友達の名前言うぞーーー!」



「S高校、全員死亡!!!!」


「K高校、全員生存!!!!」


「M高校、全員生存!!!!」


「B高校、出席番号4番、川村一雄。」


「以上です。また、朝に会おうな〜〜〜〜〜。」














エリアFー6



海老澤と黒澤は部屋の片隅で、本を読んでいた。


「ねえ………海老くん………」黒澤が呼び掛けた。

「なに?」海老澤は本から顔を上げて言った。


「聞けるときに聞いておきたいんだけど、海老くんと貴司君って、初めて話したのはいつだった?」


「何で、そんなこと?」

「いいから」

黒澤はバシッと言った。下手な男子より格好いいだけはある。


「………………あれは、話すと長くなるよ………いいの?」


「うん。」


「そう………なら言うけど………………………………」



********************


1年半ほど前だった。

季節は5月。県トップの高校に通っていても、慣れてしまうと、生きがいがなくなってしまった。日常………が続いて退屈だったが、バスケと勉強は両立させた。いつか、身を結ぶと信じて。


さて、今日は日曜日。彼女にデートに誘われた。退屈しのぎには十二分だ。


彼女と、朝学習館で勉強し、昼にはマクドナルドに行き、午後は、カラオケに行った。とても楽しかった。


帰り道だった。


「電車、海老くん何時?」彼女は黒澤と同じように、海老澤をそう読んだ。

「17時12分。北口まで10分もあれば着くから、ゆっくりで大丈夫だよ、松本さん。」


海老澤の彼女の名前は松本といった。


「ありがとう。新しいクラスはどう?」


「まだ話せない人が多いけど、恐らくいいやつらばかりだよ。松本さんは?」


「うん、まだ全員は分からないけど、みんな好い人だよ。」松本はニッコリして言った。海老澤は笑った。


他愛もない話だが、楽しかった。北口まで話は途切れなかった。アイツと会ったのは、北口でだが、その前に絶対に不可欠な要素があった。それがなければ、今アイツとは初対面かもしれない。」



北口に着き、駅内に入った時だった。


「きゃ!!!!」松本が何かに躓き、転倒した。 「イテッッッ!!!」続いて男の声。


「何しやがる?!!!」その男が松本の下から言った。


「ごめんなさい!!!」


海老澤が振り返ると、松本が男から退くところだった。


「こいつ、いきなり俺に倒れかかってきて、あ〜あ、缶ジュース服かかっちまったよ。」男が松本が躓いたと思われる足の男に言った。


「マジないわ〜〜クリーニング代出せよ。」男が松本に言った。




「そんな………あなたが、私を引っ掛けたんじゃないですか?!」松本が怒った。


「ああ?何だと?因縁つけるきか??おう?」そう言うと、足を出した金髪の男が松本の肩を押した。


「待ってくださいよ。」海老澤が割って入った。ケンカは人一倍強い。自信があった。


「だれだ、テメェ?」

「俺が誰かはどうでもいい。これ以上、友達に関わるのは止めてもらう。」


そう言うと、海老澤は松本の腕を引っ張って歩き出した。


「テメェ、待てよ。」金髪の男が海老澤の肩に手をかけた。海老澤はそれを振り払った。


「テメェ、やる気か?」今の、行動で完全にキレたらしい。


「そっちがその気なら。」海老澤は楽しむように答えた。


「そうかい………じゃあ、遠慮なく!!!!!!!!」男が叫んだ。海老澤は、振り返った。



数分後………二人組の男は地面に倒れ、腕を押さえていた。

「さて、行こうか………って、松本さんに今の見せたかったな………電車も行ってしもた………また1時間待ちだぜ。」


その時だった。


「おう、大丈夫か?充?」海老澤が振り返ると、さっきの金髪の男に5人ほどが、群がっていた。


「ボス………あいつです。」

金髪の男が海老澤を指差した。「ボスだと………?」

海老澤が頭を振った。


「坊主、充を可愛がってくれたみたいだな。久しぶりに楽しめそうだ。」

そう言うが早いか、ボスは海老澤につかみかかった。猛烈に力が強く、海老澤が投げようとするのを防ぎきり、海老澤を投げ出した。


ドサッ。海老澤が倒れた。外傷はないが、背中を打ち付け、咳がでた。

間を空けずにボスが飛びかかってきた。海老澤はそれをかわした。


が、着地した場所に回り込んでいた不良がいた。


「しまっ………」海老澤は遅いと知りつつ、パンチを受け止めようとした。


ドタッ。海老澤は倒れていない。鈍い音と共に不良が倒れていた。


「お前…………同じクラスの吉田?」海老澤が驚いた。

「……………」吉田は肯定も否定もせずに、黙って不良を蹴り飛ばした。足元を切り込みを入れるようにして蹴り、不良を転倒させたのだ。


「仲間か??」ボスが新たに登場した男子を見ながら言った。


吉田はやはり何も言わない。ボスは襲って来なかった。


「まあ、今日はこれでドローにしてやる。だがな、忘れるなよ。今度、俺の仲間に手を出せば…………今日のようにはいかないぜ。」ボスは落ち着き払って言った。吉田は、じっとボスを睨み付けていた。


やがて、ボスを先頭に不良達は去っていった。


「フ〜〜〜〜〜〜。危なかった。サンキュー、吉田君。」

吉田は海老澤を見た。

(うわ、なんて冷たい目だよ………)海老澤は心の中で呟いた。


「どういたしまして。君に助けはいらなかったかも知れませんね。」吉田は言った。


「いや、吉田君が来てくれなかったら、着地した時にケガしてたよ。危なかった。」

「フン、そうですね。いや、何か女性の為に君が闘うのを見てたんですが、僕は守るものを持ちながら、ケンカで勝った人を見るのは初めてです。」


「そりゃ、どういう意味?」

「要するに、ケンカは守るものを持ちながらヤるのは不利なんですよ。人質にされたら終わりですし、さっきみたいに複数の時は彼女だけが痛い目を見る。それを君は勝った。」

「吉田君………」

「何ですか?」

「モテないでしょ?」

「はい。」

海老澤は傷つけたかと思ったが、吉田があっさり返答したことから、別に傷ついてる訳ではないと分かった。


「新しいクラスで好きな人できた?」

「いや、できません。」

「可愛いと思う人は?」

「まだ、顔と名前が一致しないんで、誰の事も分かりません。」


吉田に開き直ってる様子や、謙虚さが見えない。どうでもいいと思ってるとしか考えられない。

「そう………もういい疲れた………。」海老澤がため息をついた。


吉田は海老澤をずっと見ている。

「何だ?」海老澤が言った。


「いや、何も。」吉田は何かを隠すような言い方だった。


海老澤は吉田に軽く手を挙げると、そのまま去っていった。



********************



「ふーん。そんな乱暴な出会いだったの?吉田君て何であんなケンカ強いのかな?」黒澤が一通り、海老澤の話を聞き終え、ソファーに深く座りながら聞いた。

「あいつの中学校が県内で有名な不良校だからな。毎日ケンカして生きてきたらしい。アイツの手………」


「そう言えば、ことあるごとに、血まみれになってるね。席が隣だった時、不意に出血しだして、驚いちゃった。」

「傷があちらこちらにあるんだな………高校に入っても、そういう輩を呼び寄せちまうんだろうな。煙草は吸うし、目付きは悪いし………身なりもだらしないし。」

「でも、悪い人ではないよね。」黒澤が不安そうに聞いた。

「まあ、極力他人に迷惑をかけるような事はしないからな。」

海老澤がそう言いながら、窓の外を見た。空が白み始めていた。

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