第10章 融解2
午前3時。
プンッッッッ!!
「午前3時になりました。担任の嘉門でーす。みんな元気にやってるかァ?報告を始めます。」
「禁止エリアは今回はありません。プログラムはまだ始まったばかりですからね。死亡したお友達の名前言うぞーーー!」
「S高校、全員死亡!!!!」
「K高校、全員生存!!!!」
「M高校、全員生存!!!!」
「B高校、出席番号4番、川村一雄。」
「以上です。また、朝に会おうな〜〜〜〜〜。」
エリアFー6
海老澤と黒澤は部屋の片隅で、本を読んでいた。
「ねえ………海老くん………」黒澤が呼び掛けた。
「なに?」海老澤は本から顔を上げて言った。
「聞けるときに聞いておきたいんだけど、海老くんと貴司君って、初めて話したのはいつだった?」
「何で、そんなこと?」
「いいから」
黒澤はバシッと言った。下手な男子より格好いいだけはある。
「………………あれは、話すと長くなるよ………いいの?」
「うん。」
「そう………なら言うけど………………………………」
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1年半ほど前だった。
季節は5月。県トップの高校に通っていても、慣れてしまうと、生きがいがなくなってしまった。日常………が続いて退屈だったが、バスケと勉強は両立させた。いつか、身を結ぶと信じて。
さて、今日は日曜日。彼女にデートに誘われた。退屈しのぎには十二分だ。
彼女と、朝学習館で勉強し、昼にはマクドナルドに行き、午後は、カラオケに行った。とても楽しかった。
帰り道だった。
「電車、海老くん何時?」彼女は黒澤と同じように、海老澤をそう読んだ。
「17時12分。北口まで10分もあれば着くから、ゆっくりで大丈夫だよ、松本さん。」
海老澤の彼女の名前は松本といった。
「ありがとう。新しいクラスはどう?」
「まだ話せない人が多いけど、恐らくいいやつらばかりだよ。松本さんは?」
「うん、まだ全員は分からないけど、みんな好い人だよ。」松本はニッコリして言った。海老澤は笑った。
他愛もない話だが、楽しかった。北口まで話は途切れなかった。アイツと会ったのは、北口でだが、その前に絶対に不可欠な要素があった。それがなければ、今アイツとは初対面かもしれない。」
北口に着き、駅内に入った時だった。
「きゃ!!!!」松本が何かに躓き、転倒した。 「イテッッッ!!!」続いて男の声。
「何しやがる?!!!」その男が松本の下から言った。
「ごめんなさい!!!」
海老澤が振り返ると、松本が男から退くところだった。
「こいつ、いきなり俺に倒れかかってきて、あ〜あ、缶ジュース服かかっちまったよ。」男が松本が躓いたと思われる足の男に言った。
「マジないわ〜〜クリーニング代出せよ。」男が松本に言った。
「そんな………あなたが、私を引っ掛けたんじゃないですか?!」松本が怒った。
「ああ?何だと?因縁つけるきか??おう?」そう言うと、足を出した金髪の男が松本の肩を押した。
「待ってくださいよ。」海老澤が割って入った。ケンカは人一倍強い。自信があった。
「だれだ、テメェ?」
「俺が誰かはどうでもいい。これ以上、友達に関わるのは止めてもらう。」
そう言うと、海老澤は松本の腕を引っ張って歩き出した。
「テメェ、待てよ。」金髪の男が海老澤の肩に手をかけた。海老澤はそれを振り払った。
「テメェ、やる気か?」今の、行動で完全にキレたらしい。
「そっちがその気なら。」海老澤は楽しむように答えた。
「そうかい………じゃあ、遠慮なく!!!!!!!!」男が叫んだ。海老澤は、振り返った。
数分後………二人組の男は地面に倒れ、腕を押さえていた。
「さて、行こうか………って、松本さんに今の見せたかったな………電車も行ってしもた………また1時間待ちだぜ。」
その時だった。
「おう、大丈夫か?充?」海老澤が振り返ると、さっきの金髪の男に5人ほどが、群がっていた。
「ボス………あいつです。」
金髪の男が海老澤を指差した。「ボスだと………?」
海老澤が頭を振った。
「坊主、充を可愛がってくれたみたいだな。久しぶりに楽しめそうだ。」
そう言うが早いか、ボスは海老澤につかみかかった。猛烈に力が強く、海老澤が投げようとするのを防ぎきり、海老澤を投げ出した。
ドサッ。海老澤が倒れた。外傷はないが、背中を打ち付け、咳がでた。
間を空けずにボスが飛びかかってきた。海老澤はそれをかわした。
が、着地した場所に回り込んでいた不良がいた。
「しまっ………」海老澤は遅いと知りつつ、パンチを受け止めようとした。
ドタッ。海老澤は倒れていない。鈍い音と共に不良が倒れていた。
「お前…………同じクラスの吉田?」海老澤が驚いた。
「……………」吉田は肯定も否定もせずに、黙って不良を蹴り飛ばした。足元を切り込みを入れるようにして蹴り、不良を転倒させたのだ。
「仲間か??」ボスが新たに登場した男子を見ながら言った。
吉田はやはり何も言わない。ボスは襲って来なかった。
「まあ、今日はこれでドローにしてやる。だがな、忘れるなよ。今度、俺の仲間に手を出せば…………今日のようにはいかないぜ。」ボスは落ち着き払って言った。吉田は、じっとボスを睨み付けていた。
やがて、ボスを先頭に不良達は去っていった。
「フ〜〜〜〜〜〜。危なかった。サンキュー、吉田君。」
吉田は海老澤を見た。
(うわ、なんて冷たい目だよ………)海老澤は心の中で呟いた。
「どういたしまして。君に助けはいらなかったかも知れませんね。」吉田は言った。
「いや、吉田君が来てくれなかったら、着地した時にケガしてたよ。危なかった。」
「フン、そうですね。いや、何か女性の為に君が闘うのを見てたんですが、僕は守るものを持ちながら、ケンカで勝った人を見るのは初めてです。」
「そりゃ、どういう意味?」
「要するに、ケンカは守るものを持ちながらヤるのは不利なんですよ。人質にされたら終わりですし、さっきみたいに複数の時は彼女だけが痛い目を見る。それを君は勝った。」
「吉田君………」
「何ですか?」
「モテないでしょ?」
「はい。」
海老澤は傷つけたかと思ったが、吉田があっさり返答したことから、別に傷ついてる訳ではないと分かった。
「新しいクラスで好きな人できた?」
「いや、できません。」
「可愛いと思う人は?」
「まだ、顔と名前が一致しないんで、誰の事も分かりません。」
吉田に開き直ってる様子や、謙虚さが見えない。どうでもいいと思ってるとしか考えられない。
「そう………もういい疲れた………。」海老澤がため息をついた。
吉田は海老澤をずっと見ている。
「何だ?」海老澤が言った。
「いや、何も。」吉田は何かを隠すような言い方だった。
海老澤は吉田に軽く手を挙げると、そのまま去っていった。
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「ふーん。そんな乱暴な出会いだったの?吉田君て何であんなケンカ強いのかな?」黒澤が一通り、海老澤の話を聞き終え、ソファーに深く座りながら聞いた。
「あいつの中学校が県内で有名な不良校だからな。毎日ケンカして生きてきたらしい。アイツの手………」
「そう言えば、ことあるごとに、血まみれになってるね。席が隣だった時、不意に出血しだして、驚いちゃった。」
「傷があちらこちらにあるんだな………高校に入っても、そういう輩を呼び寄せちまうんだろうな。煙草は吸うし、目付きは悪いし………身なりもだらしないし。」
「でも、悪い人ではないよね。」黒澤が不安そうに聞いた。
「まあ、極力他人に迷惑をかけるような事はしないからな。」
海老澤がそう言いながら、窓の外を見た。空が白み始めていた。