第10章 融解
ザッザッザッ。
萩谷は緊張した面持ちで銃を構えた。萩谷達が隠れている家の鍵を開ける際にガラス戸を微少にわってある。しかも割れたまま、放置してある。もしそれに気付いたなら通過するか乗り込んでくるかである。
後者の場合はあからさまに、プログラムを『やる気になっている奴』である。萩谷は容赦はしない考えである。 萩谷が持っている銃は彼が広島に旅行に行った際、ヤクザに喧嘩を売られ返り討ちにした際、入手したものである。支給された武器ではない。
ピピピピッ。
萩谷のポケットの探知機が鳴った。萩谷が急いで見た。
『4番』 『B高校』
萩谷は更に緊張の色を顔に浮かべた。
B高校は防衛大学の附属高校だろう、と小林と吉田が言っていた。
間違いなく戦う事になる。
「どうだ?姿を確認できたか?」小林が戻ってきた。
「静かにしろ!!!15メートル圏内に入った。B高校の4番だ。」
「山口さんは、隠れさせた。Bの4番…………川村、川村一雄って野郎だ。」小林が、配られた名簿を見ながら言った。萩谷は窓枠に相手から見えないよう、小物を置き、その隙間から外を見た。
ガサガサガサ。草を踏み分ける音が次第に大きくなった。
ガサガサ………
音が止まった。
萩谷は視界に、小柄でマシンガンを片手に掲げる男を確認した。
川村一雄、その人だ。防衛大学付属高校の男子だった。
川村は一瞬、ドアを見、続けて割れたガラスを見、そして窓を見た。
パラララララララララ!!!!!!!!
男が、マシンガンを乱射した。
「出てこい、ここにいるのは分かってる。どうせ死ぬなら、殉死の方が良いだろ!!!!」
「チッ。」萩谷は手前のガラスを粉砕し、川村を狙った。
川村はそれに気付き、マシンガンを向けた。
ズダン、ズダン。
2発とも、萩谷の銃から正確に川村に飛んだ。 川村は咄嗟に身を伏せ、乱射してきた。
サッと、萩谷が窓枠の下に隠れた。
「マズイ。マシンガン相手じゃ分が悪い。このままじゃマズイぜ………」
パリン!!ゴトン!!
マシンガンが家具や、時計を粉砕し、萩谷達に落ちてきた。
「マジか?!」小林が直ぐに避け、苦渋の表情を浮かべた。
「仕方ない。一か八か、賭けよう。悠人………」小林が萩谷に耳打ちした。
萩谷は息を呑んだ。
「ダメだ。顔に当たったらどうする?」
「山口さんを守らないといけねーだろうが。」小林は不適な笑みを浮かべた。
パラララララ……カコッカコッ。
マシンガンがたま切れになった。
「今だ!!!!」小林はそう叫び、玄関を開け放った。川村が振り向いた。
たま切れでマガジンを入れ換えるのと、小林が先に川村を失神させるのとどちらが早いか…………
パラララララ………ドサッ。
答えは前者だった。何発もの弾を浴びた小林はバタリと何も言わずに倒れた。
「達也!!!!」萩谷が叫んで、銃を撃った。
川村はそれを避けた。
「なに?銃弾をよけただと?」萩谷が歯を食い縛った。
川村はマシンガンを乱射した。萩谷が、家の壁で身を守った。
「ケケケケケ。最期が近づいて来たようだな?三剣士のお二人さん?」
川村は下品に笑い、マガジンを取り替えた。萩谷も急いで替えた。
「何故その言葉を?」
萩谷が壁に身を隠し、聞いた。
「……………」川村は何も言わない。
パラララララ………マシンガンを撃ちながら萩谷と距離を詰めてきた。
萩谷は思いきって、飛び出し、銃を撃った。
パラララララ………カタン!
ダンダンダン………グッ…………ポタポタ………
萩谷が撃った銃弾が敵のマシンガンを直撃、破壊した。その代償は大きく、萩谷は足と、腹に一発ずつくらっていた。
「テメェ………」川村は萩谷を睨むと、グルカナイフを取り出した。
「ちっ。」萩谷は足を引きずり、家の中に駆け込んだ。
「逃がすか!!出てこい、腰抜け!!!」川村は下品にまた叫んだ。 萩谷は素早く銃の弾を詰め替えた。
それを見た川村は大きな舌打ちをした。
ダンダンダンダンダンダン。6発を立て続けに撃ち、萩谷はまた弾を詰め替えた。
その作業の間に、川村は玄関に回り込んだ。
その時だった。
ゴツン!!
「ぐわあああああああアアアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」世にも恐ろしい悲鳴が夜に響いた。
小林が立ち上がり!!!川村を金槌で後頭部を強打したのだ。血が吹き出して、川村はグルカナイフを取り落とし、倒れた。
「な、な、何故…………」
川村が意識を失うまいとして言った。
「ヒヒヒヒヒヒ………」萩谷が玄関から現れた。
「何故、撃たれたのに生きてるかと?」小林は残忍な笑みを浮かべながら、上着を脱いだ。
「……テメェ……防弾チョッキ………」
「そういう事だ。」萩谷がグルカナイフを拾った。
「ナァ、質問するぜ。変な真似したら………分かってるな。」萩谷が銃を向けながら言った。
「………………」
「貴様らは、このプログラムで不正をしてるな。」
「…………いや、はっきりとは………本当だ!!!だが俺自身はテメェの言う通りだと思う。」
「これに召集されたのは、強制的にか?」
「そうだ………気が付いたら、ここにいた………全部は保坂が知ってる………俺らの高校の………」
「そうか」
ズガーン!!!
萩谷の銃から、川村の頭目掛けて、銃弾が放たれた。
脳味噌がぶっ飛び、川村は、何も認識できずに死んだ。
「誰が、正直に話したら、殺さないと言った?」萩谷がせせら笑いを浮かべた。
「確かにな。」小林が言った。
「しかし、こんなに派手にやっちまったら、もう此処には居れないな。場所を移そう。山口さんももう出てきて大丈夫だろう。」
小林は割れたガラスや、銃弾のめり込んだ壁を見ながら言った。
萩谷は短く頷くと、川村の死体を坂道まで足で蹴って動かし、しまいには坂道から一気に転がり落とした。