第1章 始まりの夜
2007年の11月だった。大富豪同好会の部室はなく、代わりに吉田が属している、将棋の部室でいつも通りトランプやUNOで博打をしていた。
「ウノ!!」後藤が青の2を出しながら、周りのプレイヤー3人を見た。
大野は出せる手札が無いので、山札からカードをひいたが、出せる手札はなかった。田子は青の7を出した。
「上がりだな。」後藤の右側の吉田はそう言うと、青、赤、緑の2の三枚を一気に出し、上がった。
他の3人は呻いた。
吉田は3人の前においてある、100円玉を全て取った。
今日は定期試験の終わった日ということで、4人は伸び伸びと賭博をしていた。
「最近、依頼はありませんね。それだけ平和なのは、良いことなんだろうが、俺達は退屈だよ。」後藤がだるそうに言った。
吉田は苦笑しながら言った。
「まあ、確かにな。僕は変化のない毎日は飽きたな。」
「井坂も最近部室の見回り来ませんね。忙しいんでしょうか。」大野は山札をきりながら、言った。
「どうだか。あいつは、理想が高いからな。ここ(この高校)を規律正しい所にするんだろ。」後藤がまただるそうに言った
。
そう言うと、大野は、カードを配り始めた。
「そりゃそうと、吉田のクラスは定期試験期間会えなかったから聞いてないけど、何か変化はあったか?」カードを配りながら聞く大野は、若干、赤くなっていた。
「別に。」吉田は冷たく言った。どこか撥ね付けるような言い方だった。
沈黙が訪れた。
大野がカードを配り終えると、それまでずっと黙っていた田子が
「勝つ。」と言いながら、100円玉を机の上に置いた。そのわきには碁石があり、何回勝ったかを示していた。田子の隣には7個。後藤が6個。吉田が11個。大野が4個だった。
結局、今日は4人しか来ませんでしたね。18時を時計が指した頃、吉田たちはようやくUNOをやめた。
14時の頃の碁石は、様変わりし、吉田が27個、後藤が19個、田子が18個、大野が9個だった。
「フムフム、3500円が利益か。満足だな。」吉田がニヤリと笑いながら言った。
「俺は、300円か…………」
「私は、100円の損害。」後藤と田子は顔をしかめた。
「俺……俺……」大野は財布を見ながら呻いた。
「3700円の損害。」
「まあ、今日は運が良かったからな。」吉田が冷たく言った。
「これからクラスで食事なんだ。」大野はまだ財布を見ながら言った。
「そういやそうだ。田子君。行くよね?」後藤が田子に言った。田子は頷いた。
「じゃ、俺ら集合場所が体育館前だから。」
後藤が吉田に言った。
吉田はどうでもいいと言わんばかりの様子で頷いた。
「お疲れ。」大野が言った。
「ああ、お疲れ。」吉田はそう言うと3人とは違う方向にあるきだし、駅を目指した。
校舎はシーンとしていた。今日は定期試験終了日だがら、皆は解放感に溢れ、家に帰った。若しくは、部活だったため、校舎側に来ると、急に静寂が訪れた。
吉田は成績は上の下、運動神経は下手な運動部員よりも良いのに体育を嫌い、頻繁にサボっていた。性格は冷酷非情で世間体を気にしない、規則は真っ向から破った。
吉田は、
「人に迷惑をかけずに社会反抗をする『悪』になる。」とよく言っていた。
例えば、授業を取り上げれば、授業中に私語をするのはよくない。
何故なら五月蝿くて迷惑が他人にかかるから。
しかし、携帯をいじったり漫画を読むのは本人の頭が悪くなるだけなので、他人に迷惑はかからないから、良い。といった感じで、先生受けは全く良くなかった。但し、吉田が通う高校は県内でも1番偏差値の高い高校で、その中でも吉田は上の下だったので、先生は黙殺している部分もあるようだった。これは大富豪同好会会員全員に当てはまることだった。
大富豪同好会の会員達は全員自虐的でもあった。大野はかなりモテる方だったのに、自分の金目当てで、俺の魅力ではない、と何人も振っていた。
今日は軟式野球部に行っていた山口や卓球部の水上も何人にも告白されていたが、自分達が有名だから、という理由をこじつけ、振っていた。
吉田は告白されるような事はなかった。何しろ女子に対する免疫が微塵もなかったからだ。女子と話すときは、敬語になり、まともに目を合わせない、バレンタインデーの存在を中3の冬に知ったぐらいだ。吉田が普通の人間ならやらない、若しくはやれない事を平気でやったり、別にウケを狙ったわけではないのに、クラスメートは笑った。
そんな吉田に今日、転機が訪れるとは誰も知らなかった。