第9章 信用
〜エリアCー3〜
慌ただしい足音と共に、森に数人の男が入ってきた。
「ふう、ついに始まったな…………」巨漢の男が言った。
「俺は早くやつを葬りたいんだかな………何なんだ、坂下?」 「奴等はバラバラに別れて行動しているようだ。俺達もバラバラに別れて潰しに行かないか?」
「………大丈夫なのか?」最初の男、遠藤が言った。
「なに、こっちにはマシンガンがある。いざ、闘いになって負けるはずあるまい?」
「正論だな。俺から言い出すつもりだったが、特に言う必要もなくなった。」
「だろ?」ボスとも言える保坂の指示を得られ、坂下は有頂天になった。
「分かったが、どう分ける?」遠藤が言った。
「三人ずつに別れてじゃんけんだな。それで1位のチーム、2位のチーム、3位のチームにすりゃいい。」服部が言った。
「チームって…………スポーツかよ。」保坂がせせら笑うと、その場の全員が残忍な笑い声を出した。
〜エリアFー3〜
「よし、ごっつぁん、張ってくれ。」吉田の凄まじく小さい声がした。
「OK。」後藤が緊迫した表情で糸をピンと張らせた。
「………よし、蛯原さん。缶を窓枠の上に………」吉田はじっと作業を見ていた少女に言った。
「はい。」緊張感に押されながらも、慎重に窓枠に缶を置いた。
後藤が糸を張り巡らし終えた家の鍵を岩本のアメピンで開けようと格闘し始めた。
「貴司。これで効果はあるの?」
「まあ、こういう場合は一ヶ所に留まって迎え撃った方が良いんですよ。但しB高校の連中はそれを知りながらも、積極的に殺しあうべく、生存者を探し回るでしょうな。」
「どうしてわざわざ………?あの人たちだってバカじゃないはず。」岩本が吉田の返答に難色を示した。
「奴等の支給武器は全員が全員、マシンガンでしたからな………自信があるんですよ。不正があろうが無かろうが………」後藤がドアの鍵を慎重に回していた。今にも開きそうな気配はある。
「やっぱり不正なんだ。全員が全員、マシンガンだなんて。」岩本が怒ったように言った。
「そういえば、岩本さんの支給武器は?」吉田が辺りを警戒しつつ聞いた。 「あたし?そういえば見てなかった。」岩本が鞄をガサガサやりだした。
「自分の身を守るのに武器を出さないなんて……ちっと抜けすぎじゃないですか?」後藤が顔をしかめながら言った。岩本は苦笑いを浮かべた。
「これは………ブーメラン?」岩本がブーメランを握りながら言った。
「外れですね。出ましたよ、インチキが。やはり複数で行動して正解でしたな。」後藤が呆れたように言った。
「こんなもので何をしろって言うの?!」岩本が激怒して言った。
「声が大きいですよ。静かにしないと見つかりますよ。とりあえず、家に入りましょう。」後藤がドアをピッキングし終わったのを見て吉田が言った。
エリアGー4〜
「じゃあ、小林君と吉田君に次ぐ学力だったのに、勉強時間を確保するために、地元のH高校に行ったんですか?」澄んだ声がして、家の中で防犯装置を作っている小林の隣の煙草を吸っている男子が動きを緩めた。
「誤差が………勉強時間を確保するためにというよりサッカーがしたかったからですね。」煙草を吸っている割には紳士的な対応だった。
「小林君と吉田君達と同じように喧嘩も強いんですか?」山口が言った。萩谷が苦笑した。
「山口さん、萩谷は初対面なのに随分饒舌だね。よく未成年で煙草を吸うようなやつを信用できるなー。」小林が言った。 「煙草は吉田君も吸ってるけど、いい人だし、信用できる。それに小林君だって煙草を吸う二人を信用できるでしょう?」山口は淡々と言った。
小林は一本取られたと言う表情になった。
「そういえば、達也の武器は何だった?俺は探知機………みたいなもんだった。」萩谷がゲームボーイのような物をポケットから出しながら聞いた。
「ふんふん、俺は防弾チョッキだった。何だか守りに入ってばっか………山口さんは?」
「ウチ?ウチはアイスピックだった。説明書が入ってなかったら名前も分からなかったと思う。」
「ろくに戦えないな。素手に持ち込むしかないな。」小林は無念そうに言った。
「でも、防弾チョッキは色々使える………とりあえずは………えーと、山口さんに着せるべきだな。ようし、これで大丈夫だ。」萩谷が言った。
「案じてくれてありがとう。二人の足手まといにならないよう頑張ります。」山口が言った。
小林と萩谷は山口の強い表情に力強く頷くことで応えた。
エリアFー6〜
「よしっ。」海老澤がベレッタ(拳銃)の手入れを終え、小さく呟いた。
金子はズボンの右側にアーミーナイフを携えたまま、座りこんでいた。3人は近場の家に入り込み、身を潜めていた。プログラム開始から2時間が経過していた。今は午前1時30分。金子達が連れ去られたのは朝方だった。夜になるくらい遠く離れた県の島に違いなかった。
「3時になったら放送入るよな?」 「ああ。禁止エリアもそこから増えるわけだよな。ここが禁止エリアにならなきゃいいんだが………」
「だな。お前の婚約者がぐっすり寝てるしな。」
「瑞穂は昨日の夜から事件に巻き込まれてたんだから。」
金子はフンと鼻を鳴らした。
「恋ばなが出たついでに言うが、蛯原さん、貴司と同じ班になったな。」 「蛯原さんて貴司の事が好きなのか?初耳だな。」
「まあ、彼女の行動を見て判断したことだけどな。貴司に服部から守ってもらった時からだな。蛯原さん、可愛いから貴司も少しは恋愛感情があるはずだ。」海老澤がにべもなく言った。
「ふうん、貴司と蛯原さん、かぁ。お似合いじゃないか。片方は喧嘩の鉄人、冷酷非情。片方は温厚で優しく、か弱い。お互いを支え合う要素があるな。」
二人の話し声は、寝室の黒澤の耳にも届いていた。
「美樹、貴司君の事が好きなのかな………これが終わったら聞こう………大丈夫。皆で力をあわせれば………」黒澤は再び深い眠りについた。