第6章 合流
新たな転校生は直ぐにクラスに馴染んだ。服部は、月曜日に吉田と肉弾戦をし、応援が間に合わず、気絶させられた。
「ちっ、口の中が切れたな………」吉田は倒した敵に馬乗りになっていた。が、応援が駆けつけてきたので、吉田はどくことにした。
「服部!!どうした!?これは………」保坂翔平が急いで入ってきた。
「殺したな!!吉田!!この人殺しが!!」
バシャッ!と音がして、海老澤が服部の顔に水を叩きつけた。モゾモゾと服部が動き出した。
「服部?生きているじゃないか。応援が必要だったのか?」保坂が言った。
「ああ、もう必要はない………」服部は血走った目で吉田を見た。
「何だ?まだやるか?」吉田は残忍な笑いを口元に浮かべながら言った。
「そうだ!!」服部は吉田に向かって走り出したが、海老澤が後ろから足をかけた。服部は横転した。
「貴様!!」保坂が海老澤を殴ろうとした。
海老澤がかわし、逆に蹴りを入れた。保坂はそれをかわした。そこへ声が割り込んできた。
「やめて!!!!!!何やってるの?!!」凛とした声であった。
吉田は服部と襟首を掴みあったまま、海老澤と保坂が蹴りあいを止めて静止した。
坂本が体を震わせてそこにいた。
「………………」
4人はお互いに離れたが、黙ったままだ。
「海老澤君?貴司君?」後ろから静かな声がした。見ると蛯原が見慣れているからかシャキッとしたまま聞いた。
「何でもないよ。ちょっと行く過ぎただけ。」海老澤がそう言う最中、服部と保坂は大股で出ていった。服部は出ていく際、吉田にわざとらしく肩をぶつけた。
吉田は何も言わずに、唇を手の甲で拭った。
「ったく、朝からのケンカは止めて欲しいぜ。」金子が言った。今までただ黙って吉田達の戦いを見ていたのだ。
「ああ?敵前逃亡した奴が何いってるんだ?」吉田は金子を睨み付けながら言った。
「見てる側も結構不愉快なんだぜ。」金子はひかなかった。吉田は金子から目をそらした。
「先に手を出したのは、服部だぞ。」吉田が言った。
「ケンカは先に手を出したかどうかなんて関係ないよ。両方が悪くなって起こることだよ。」凛とした声が割り込んできた。
「君は知らないのさ。先制攻撃されたら、自分の身を守ろうとするのが当然だろ?」海老澤が坂本に言った。
「正当防衛はやりすぎると、過剰防衛になって犯罪になります。」
坂本は臆する様子なく言った。
吉田と海老澤は顔を見合わせた。
「とにかく、吉田君は服部君に謝らなきゃ駄目だよ。」 「そうですね。後でそうしておきます。」吉田はそう言ったが、海老澤も金子も単に口うるさく言われるのを終わりにするためだというのがわかった。それでも、坂本は満足したようだ。
「あのさ、俺思うんだけど、服部と坂本はできてるんじゃないか。」右隣の金子が今日の授業が全て終わり、帰りのHRの川北の話の最中に筆談で話しかけてきた。
「わからない。だが、多分面識はないはずだ。授業中だって、普通に注意を受けてたぜ。」
「つるんでるかもしれないぜ。」
「………調べてみる。今話し合っても埒が明かないから、もうヤメにするぞ。此を読んだらもう一度僕に戻せ。」
金子はやり取りを終え、吉田に返した。
HR終了後、吉田はポケットからライターを取り出すと、紙を燃やした。
「貴司。約束通りね。」吉田が部室に行くと、茶髪だが背の低い女子が話しかけてきた。
「………で、岩本さん。今日は何の依頼です?」吉田は荷物をドカッと下ろし、ろくに岩本の顔も見ないでパソコンを開きながら言った。
「ええ。弟のことで、依頼だと、後藤君に渡した手紙に書きましたよね。あれは、瑞穂が………黒澤さんが近くに来たので、第3者向けに書いたものなの。私に関しての依頼です。」岩本はわざわざ吉田に分かるよう、黒澤の名前を出しながら、苗字に変更した。
「ほう?」吉田はパソコンにUSBをさしこみながら言った。
「依頼内容は尋ね人なの。」岩本は鞄をがさがさ言わせた。
「尋ね人?岩本さん、貴方は確か何処かの会社社長の娘なのでは?自分で探すくらいできるでしょう。」吉田はパソコンから顔を上げ、冷たい視線を岩本に向けた。
「だって1000円で貴司は解決してくれるんだよ。
安上がりで良いじゃない。
」岩本は楽しそうに言った。
岩本と吉田は1年の時同じクラスだった。いつから貴司と呼ぶようになったのは、定かではないが、単に気まぐれで呼んでいるらしい。社長令嬢なのも事実だが、良い子を演じるのに疲れ、世間体を気にしない大富豪同好会に憧れ、髪を染めたらしい。それ以来、衣服は普通になり、打ち上げでファミレスに積極的に行っていたようだ。
「はいこれ。」岩本は吉田に写真を渡した。 それはとある男子の横顔だった。吉田はそれを見て、固まった。
「貴司?どうしたの?」岩本が驚いて聞いた。
「……………」
「貴司?貴司?」岩本は吉田を揺すった。
「!!ああ……すいません。この人を何故探しているのですか?」吉田は自分を取り戻すと、岩本に聞いた。
「うーん。サッカー部の人らしくてね、B組の女子みんなでサッカー部の県大会の試合の応援に行ったときに、相手チームのキャプテンらしくて………格好よくて…………」岩本が語りだしたので、吉田は写真に目を戻した。岩本は結局、ただ単に格好がいいから惚れたみたいな事を周りくどく言った。
「この人、知り合いなの?」
「いや、全く。心当たりは有りません。」
「そう。じゃ、よろしくね。いくらになるの?」岩本は立派な財布を出しながら聞いた。
「捜査できるのは僕一人ですから1000円で結構ですよ。」吉田は写真をしまいながら言った。
「分かった。はい。よろしく〜〜〜」岩本は代金を渡すと出ていった。
岩本が去った後、吉田は携帯で電話をかけ始めた。長い呼び出し音の後、相手が出た。吉田は簡単に二言三言言うと、相手は暇だから大丈夫的な事を言った。
吉田の通う県内トップの高校がある大都市から、特急が一応走る電車で30分の中都市の駅で吉田は降りた。吉田は中都市のスラムに住んでいたので自宅は更に10分ほど進んだ所にあった。小林も同じ地区に住んでいる。
駅を出ると、早速スラムのある中都市と、観衆を唸らせる出来事が起こった。
「おい、兄ちゃん!!白い服の兄ちゃん!!今、肩ぶつかったよ!!」
「悪いな」吉田は不良の呼びかけに対して、即答した。
「ああ?悪い?てめえ、俺をナメテンのか?痛い目見たくなかったら、金だしな!!」不良が言った。
「………………」吉田は無言で立ち去ろうとした。
「待てコラァ!!」不良が中柄の吉田より遥かに有利な巨体を突進させながら言った。
「グワ!!!!!!!!!!」不良は言葉では表しづらい悲鳴を上げた。
吉田はいきなり、相手の股間を蹴りつけた。
「て、てめえ!!!!」その行為に頭にきたか、不良はまた吉田に襲いかかった。
ダーン。
吉田は不良の数メートル左の壁を服部から奪ったデザートイーグルで撃った。不良が止まった。
吉田は銃口を不良に向けた。
「待ってくれ!!撃つな!!」不良は必死に言った。
「じゃあ、有り金を全部おいていけ………」吉田が低い声で言った。
だが不良は逃げたした。全力疾走する不良を吉田は深追いすることにした。
ダーン!!ダーン!!吉田は銃で相手のショルダーバックを撃ち抜いた。不良は恐れをなして止まった。
「さあ、有り金を………」
「ちょっと待て!!!」
吉田も不良も振り向いた。そこには新たな第三者がいた……………