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第5章 誘惑2

「みなさん、こんにちは。こちらの転校生の皆とよく仲良くしてくれている、と聞いています。これからもよろしく。皆でこの高校を良くしていこう。さて、新たな仲間も増えたばっかりなんだが、さらに、もう一人転校生が来るんだ。E組に入ることになっている。皆、仲良くするんだぞ。」

「さらに強力なのを送り込んできたってことか?」海老澤が金子に囁いた。

「それと。進研模試の学年平均が全国100番割れだってね。皆いくらなんでも、弛み過ぎじゃないかね。全国で………」校長がここで言葉を切った。 「校長。発言権を私に。」井坂が生ぬるい、という表情をした。

「………何かな?井坂先生?」校長は重苦しく言った。

吉田は校長が演技している事を早くも見破った。

「100番割れではありません。110番割れです。それは、皆の普段の学校生活からしたら当然の結果だよな!」井坂は体育界系を剥き出しにした。最後の言葉は生徒の方を向いた。

金子が居眠りを始め、小林は携帯をいじり始めた。遠くにいるからとはいえ、この反抗的な行動が井坂の鼻息を荒くした。

「先生ね、現状を色んな人に見て欲しくてね、デジカメで撮ったんだよ。」井坂はそう言いながら、体育館のスクリーンを出させ、自分はプロジェクタの方に歩いて行った。

「盗撮だよな?吉田……まさか………」海老澤が吉田に真剣な表情で言った。

「心配するな………奴がカメラを何処に埋め込んでいたか知らない訳ではない。」吉田が不気味な笑みを口に浮かべた。

「何処かに仕掛けてあるのか?」海老澤が憤慨した。

「それは、違うね。監視カメラみたいに固定した訳じゃない。」吉田は井坂が画像を映し出す準備をしているのを見ながら言った。

「じゃあ、持ち歩いてた?でも、井坂が廊下を歩いているときにカメラを持ち歩いてるのを見たことないぜ。ましてや、隠せるような物もないし、服には膨らみもなかったし。」海老澤が思い出しながら言った。黒澤が山口と私語をするのを止め、称賛の目でこちらを見た。

「なかなかだ。海老澤。なかなかだ………奴は授業用に黒板用のコンパスを持ち歩いてただろ。」吉田は海老澤を誉めたわりには、冷たい声を出した。

「コンパス……コンパス……あ、ああ。あの棒か?1年の時から持ってる。」海老澤が顔をしかめた。井坂は1年の時、吉田の担任だった。海老澤、黒澤、小橋などもだ。

「そう。あれのチョークを挟む部分だ。いつか見たとき、その部分が光った。チョークが光るわけないから、何だと思って………」 吉田の声が井坂のマイクで拡大した声によってかき消された。

「はい。じゃあ、皆。よくみておくんだぞ。」井坂は体育館の照明を何時の間にか落とさせ、スイッチを押した。

画面に『2年D組』と映った。途端に任天堂DSを授業中に机の下でやっている生徒が映った………顔付きで。

「おい!!」E組の隣の列の男子が立ち上がった。しかし………

ダーン!!ダーン!!2発の銃声。転校生グループが男子に向かって発砲した。

「座れ。お前に起立の権利はない。」服部がデザートイーグルを構えて言った。

「何だと!!!」

「やめろ!!!」男子の周りから手がのび、無理やり男子を座らせた。

「あれは、デザートイーグル………」吉田がボソッと言った。

「えっ?」海老澤が聞き返した。しかし吉田は首を振って黙らせた。

「次に………」井坂はニヤニヤ笑いを増させた。校門を仲良く手を繋いで歩く男女。

「なっ………!!」A組から男子の声が上がった。

「これは生徒会長のO君だよね………いい模範だよ………」井坂は呟いた。

「まだまだあるよ………ホラァ。」井坂はこんな調子で、生徒達の現実を暴いた。しかし、吉田や海老澤などのE組と大富豪同好会の写真は1枚もなかった。


「聞いたか?生活習慣を改めないと、もっとプライベートに干渉するとさ。」海老澤が言った。 「何で俺達は1枚もとられてないんだ?」 金子は安心したような、不思議がるような何とも判断し難い声を出した。

「奴は数学の担当だけど僕らのクラスの数学の担当は井坂じゃないからな。」吉田が言った。

「それじゃ答えにはならないな。井坂は俺達のクラスを一度も授業しなかったわけじゃないぜ。俺達の担当が休んだとき、代わりに来ただろ?それに、頻繁にクラスに来たじゃないか。」

「フムフム。」金子の指摘を受け、吉田は満足そうに冷酷な笑みを浮かべた。

「いいか、金子。」吉田は、周りが昼休みで弁当を楽しそうに食べているなか、話した。

「僕達の授業を担当したのは、3回だった。そのうち、カメラをつけた後に授業したのは1回だ。その時、小橋が一番前に座ってたよな。」

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「ああ………D1に座ってたっけか。」金子は遠い目をして思い出しながら言った。

「その時、小橋に命じて、歯医者なんかがよく使う小さい鏡を置かせたのさ。後で映像を見たら、自分自身が映っているという寸法さ。」

「じゃあさ」今まで吉田の説明をただ聞いていた海老澤が口を開いた。

「巡回の時に俺らが映ってなかったのは、何故だ?」

「………磁石だな。」

「あん?」

「金子、海老澤。二人とも僕と同じ東北大学のオープンキャンパスに行ったんだよな?」

「ああ。工学部だけど………」海老澤が言った。吉田が頷いた。

「僕は今は農学部志望だがな、あのときは、工学部、理学部と他も見たんだ。」吉田が言った。

「この際、それと井坂とどう関係あるんだ?」

金子が言った。

「良いから、黙って聞け。その時電磁石の実験をしてなかったか?」

「………覚えてないよ。いくらなんでも………」

「いや、待てよ。そういやそんなのがあった。何だかこの装置に近づくなら、携帯やら時計やらをしっかり鞄にしまえと言われた。」金子が思い出せないのを、海老澤が救った。

「それさ。田子に作ってもらった電磁石で井坂が廊下を歩く際、攻撃したのさ。」

「すごいぜ!!!!盗撮からE組を救ったんだ。」

金子が叫んだ。

吉田は肩を竦めた。


「皆、席につけ。さっきの学年集会であった通り、転校生をも一人紹介する。入りなさい。」

川島が言うと、転校生が入ってきた。


「転校生の坂本愛です。慣れない事が多くて、色々大変ですが、一日も早くこのクラスに慣れたいので皆さん、よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします!!!!」日頃から浮いている右端の男子が叫んだ。

坂本愛はかなり美少女というより、美女だった。右端の男子に限らず、多くの男子が目を向けている。

「さて………席だが………おう、黒澤の隣が空いてるな。底に座りなさい。」川島がてきぱきと指示した。

「はい。」坂本は凛とした声で、返事をした。よくある小説のように、転校生が隣になり、教科書やら何やらを貸すうちに、親しくなるという法則は無力だった。



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