表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VAKU  作者: segakiyui
1.霧の恐竜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/16

2

 霧………あるいは、霞、あるいは………そのどちらでもないもの。

 街灯の光の下をゆっくりと漂ってきた『それ』は、光に照らされた範囲を過ぎると複雑に動いて、何かの形を取ろうとする。だが、形を取り終わる前に、次の街灯に照らされて、ふよふよと蕩けていく。

 幾度か同じことを繰り返した『それ』は、切れた街灯の続く闇でみるみる実体化した。柔らかなゼリー状から次第に固形へ、やがて大きな長い首を持つ恐竜へ。

 底光りのする目で辺りを見回したが、真下に居る鹿子と女性には気づかないまま、どしりどしりと体を揺らせて駅の方角に去っていく。

「何……あれ……」

 駅近くの光で再び霧のようなものに戻って消えていく『それ』に、鹿子はようやく声を出した。ゆっくりと視線を上げて、自分を覗き込んでいる相手にもう一度尋ねる。

「何……? 恐竜? ………あなた……誰?」

「わたしは…」

 相手が唇を開きかけた時、

「『えん』」

 密やかな声が、街灯の光の輪の向こうから呼んだ。

 ぱっと顔を輝かせた女性が身を翻し、光の輪の側に寄る。

「『瞳』! ……無事だったのか……」

 いつの間に現れたのか、光の輪の向こうに、ジーンズにシャツ、皮のジャンパーを羽織った男が立っていた。黒い髪は耳元に被さる程度、だが、顔の中央にある二つの目が不思議な輝きを帯びていて、何色とも判別できない。どちらかというと険しい表情だったが、近寄ってきた女性に僅かに唇を綻ばせ、そうすることで別人のように優しい顔になった。 

「俺は大丈夫。実体があってないようなものだから……。『記憶』には気づかれなかったか?」

「多分…」 

 『炎』と呼ばれた相手は、光の輪の外にいる青年を眩そうに見上げ、頷いた。

「VAKUの方に気を取られていたみたいだ。わたし程度の陣でもカバーできた。それより…」 

 『炎』がちらりとこちらを振り返る。促されたように、青年が鹿子を見た。名前の由来は聞かずとも知れる、その揺らめくような色彩の瞳で鹿子を凝視する。 

「ま、待って!」

 鹿子はとっさに目を閉じて叫んだ。

「あたしに何かするのは待って。話をさせてよ。それからでもいいでしょ」

 顔に当たっていた圧迫感が薄れ、鹿子はそっと目を開いた。

 驚いたように大きく目を見張り、『炎』と『瞳』が鹿子を見ている。

 二人寄り添うその姿が、光の輪を挟んでいるだけに一層きれいで、思わずその光景に呑まれまいと気を張った。 

「巻き込んだのはそっち、よね。今、この光の輪がなかったら、あたしはどうなってたの? そもそも、あなた達は一体誰なの? 人間……普通の人間、じゃないわよね」 

「驚いたな………どうして、彼女は俺達を封じられるんだ?」

 『瞳』が鹿子のことばを無視して呟いた。『炎』がゆっくりと頷く。

「そうだろ。まるで、『護られて』るみたいだろう? だから、わたしは一瞬彼女がVAKUかと思ったんだが……」 

「VAKUなら『記憶』が見逃すはずはないな。この程度のカバーなら…」  

「あの……」

 鹿子ははてしなく無視されそうな気配に思わず口を出した。

「勝手に話を進めないでくれます? あたしの質問に答えてちょうだい。あなた達は誰? 何をしてるの? さっきのは何?」 

 一瞬『炎』と『瞳』が顔を見合わせ、やがて何事か無言で打ち合わせたように、鹿子に向き直った。『炎』がどこか憐れむように艶やかに笑った。片手がふわりと空を舞う。

 鹿子がはっと身構えた時に荷は、光の輪が溶けて、二人を包んでいた。

「待って!」

「ごめんなさい」

 微かな声が応じる。それさえも夜闇に紛れて、鹿子は一人取り残された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ