サッカー部廃部
「くっそ、何してんだよあいつら」
がっつり声に出して毒づく俺はガキの頃からサッカー一筋だった高校生、名前は左手ヌクオ。高校でも選択の余地なくサッカー部に入り、地区大会突破を目指していた。しかし何の不幸かサッカー部は廃部になってしまった。
放課後だが部室にも校庭にも行けない。寄り道しようにも元部員つるむのは嫌だ。このままあいつらと遊びながらぼんやりと帰宅部になるのは嫌だ。だがサッカー部に入る決意しか準備してなかった俺がほかの部室の戸を叩けるはずもなかった。もういっそガリ勉になろうか。
「部室で代々行われてきたえげつないホモセがついにばれたか。この学校の伝統がまたひとつ消えたな」
背後から枕もなしに廃部の理由(俺は参加していない)を説明されて振り返ると、眼鏡で背の低い男が立っていた。シャツすら出してない指定の夏服で、ブックカバーを付けた文庫本を持っている。
「私は卓球部部長の佐坂だ。左手ヌクオ君、卓球部に入らないか」
卓球部、またの名を「動く文化部」練習が楽でオタクが多い。機会がなければ興味もない連中だ。
「いや俺、卓球に興味ないんで」
「ヌクオ君、長年のサッカー経験で鍛えられた瞬発力とサッカー部仕込の体力を持つサウスポー。キミほどの逸材はいないのだ。だから頼む。少しでいいから来て、体験してみてくれ。ちょっとだけ、先っちょだけ、先っちょだけでいいからお願い」
何の先っちょかは不明だが、若干狂った部長に興味が湧いたので行ってみることにした。部長は体育館までずっと女子スキップで何度かうふふと笑った。間を持たせようとして道を踏み外したのか素なのか、どちらにしてもすごい人だ。
蒸し暑い体育館の中、ネットとスポーツ用品風のついたてで仕切られた四分の一のスペースが卓球部の練習場だった。十人くらいの部員が球を打ったりだべったりしている。
「キミの相手はあの自主的に点付けをしている女子、泡島さんだ。女子の人数が奇数なので点付け係になることが多いがなかなかいいモノを持っている」
部長曰くぼっち気味の泡島さんは少しふくよかで自己主張の少なそうな、サッカー部のマネージャーにはいなかったタイプの女子だ。
生まれて始めて台の前に立ち、泡島さんの指導どうりに球を打つ。少ししたらラリーが続くようになった。
「で、ピン球はネットの高さより高く上げて」
「えっとサーブは、自分コートと相手のコートにバウンドしなきゃいけないの」
「もっと腰を回すかんじで打つといいから」
After a few minutes
「どうだいヌクオ君、卓球は楽しいだろう」
「部長、入部届けをください」
俺は脳裏に、泡島さんの揺れる胸と汗で透けた体操服を思い出しつつ、次の青春を見つけた。