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第95話 白雪姫蘇生の瞬間――メイドへの反対尋問(その2)

「りんごの芯に、齧った跡が、ない?」


 テールが怪訝な表情をメイドに向けて、尋ね返す。


「間違いなく」


 メイドはキッパリと断言した。

 酒挽(さかびき)は、表情を変えることなく思案する。

 気になったのは、証言の直前にメイドの視線が一瞬だけこちらに向けられたことだ。


「証人は、被告人に不利な証言をしているという自覚があるのですか?」


――普通に齧ったのでは、なり得ない形状のりんごの芯が、白雪姫の口から飛び出してきた。

――飛び出してきたリンゴの芯には、齧った跡がない。


 白雪姫がりんごで意識を失った原因となった時の証言と、ことごとく矛盾する。メイドのあの視線は、こちらに対する挑戦の意味が込められているのだろうか。


「しかし、それが私の()()()()事実です。もとより、私は個人的な価値観で白雪姫様の有利、不利を判断する立場にありません。なので、私は極力客観的な視点で、()()()()()()()()()に努めているつもりです。おそらくそれが、白雪姫様にとって、最善手だと信じております」


 そして再びメイドがこちらを見て来る。

 あまりにあからさまで、意味深な発言。当然テールが見逃すはずもない。


「事実に反しない、とは、どういう意味ですか?」


「所々に私の見解を挟んで証言させて頂いておりますが、極力私の個人的な思いを排除している、とご理解ください」


 そう言い終わると、メイドは深々と頭を下げる。

 結局のところ、メイドは客観的な事実を述べることを優先していると主張したのだ。

 その結果が白雪姫を勝利へと導くのか、敗北へと誘うのかは、自分の与り知らないことであると。

 メイドの言葉を単純に捉えて、酒挽に飛ばしてきた視線を考慮すれば、「後はお任せします」といったところだろうか。

 もっとも、メイドの立場がよくわからない以上、過度の期待はできないわけだが。


「では証人。先程、あなたは、棺の運搬人の一人について、『その瞬間に何をしていたのかは、私もはっきり覚えておりません。私が話せるのは、仰るもう一人が白雪姫様の口から飛び出したりんごの芯を確保したという事実だけです』と証言しましたが、それはつまり、被告人の口から、りんごの芯が飛びだす瞬間を、あなた自身は目撃していない、ということでしょうか?」


「いいえ」


 メイドは首を横に振る。


「白雪姫様の口からりんごの芯が飛び出したことは、私自身が目撃しております。ただ、その現物を一次的に確保した者が、棺を運んでいた者の一人だったということです。そのため、それより前にその者が何をしていたのかまで、私は覚えていないという意味で申し上げました。むしろ、見ていなかった、と申し上げたほうが理解が容易かもしれません。」


 メイドは、見ていたはずなのに記憶がない、と主張したいのだろう。覚えがないのなら、見ていないも同然ということだ。


「この証人の証言を整理すると、被告人が『りんごを一口齧った』はずなのに、被告人が一口で食べるのが到底不可能な大きさのりんごの芯が被告人の体内に入り込み、被告人の意識を失わせた。そして、到底蘇生不可能な時間が経過しているにもかかわらず、そのりんごの芯が被告人の口から飛び出したことで、息を吹き返し、記憶障害もなく現在に至る、ということになります」


 一瞬「到底不可能」は、テールの主観でしかない、と異議を申し立てようかと考えた酒挽だったが、それをやめた。

 白雪姫の蘇生自体が荒唐無稽な事象であることは疑う余地がない。その上、当事者であるメイドが、異議も訂正の申し入れもしなかったのだ。


「こんなバカげた話がありますか? 一体、誰が正しく証言していて、誰が嘘の証言をしているのか、というレベルの話ではありません。最悪、被告人の証言を元に、各証人が別々な証拠を捏造しているとしか考えられません!」


 自席に戻ったテールは、机を苛立たしげに叩く。


「……失礼」


 一つ咳払いをしたテールは、今しがた大声を上げていたのと同一人物とは思えない、穏やかな口調でメイドに尋ねる。


「ところで証人は、王子から、被告人を守るようにと命じられているのですよね?」


「はい」


「では、本件裁判の審理に置いても、同様の立場と考えてよろしいですか?」


「その理解で差し支えないと存じますが、先程も申し述べたとおり、私個人が私自身の価値観に基づいて、白雪姫様の有利、不利を判定できる立場にはございません。なので、私は己に認められた裁量の範囲内で、事実と考える内容を、極力客観的に述べることこそ、白雪姫様に最も有利になるものと信じて証言をしております」


「つまり、被告人に殊更有利になるような偽証や、事実の歪曲はあり得ないと?」


「あり得ません」


 メイドは、断言した。

 テールは、右手の人差し指でこめかみ付近で円を描くような仕草をして、目を閉じる。

 ほんの一瞬の思案。


「検察側は、以上です」。


 そう言って着席した。

長台詞が多いため、整理のため書き直すかもしれません。

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