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第81話 なぜ王子は破片から芯へと証言を変えたのか

「幼女検事が、何も言わなかった?」


 酒挽(さかびき)が、裁判の状況を説明すると、理香が首を捻った。

 白雪姫が「()()()()()()()」と証言したりんご。それで意識を失ったわけだが、白雪姫の口から飛び出してきたのは、()()()()()

 この矛盾証言に対するテールの反応を、理香は聞き返してきた。


「どう思う?」


 童話世界の裁判所から戻ってきた酒挽とキイナは今、理香の部屋にいる。

 理香はイスに座り、酒挽とキイナはベッドに腰を下ろすという定位置。「一旦夕食を食べに戻ったらどうだ?」という提案が理香からあるほど、戻りの時間はいつにも増して遅かったが、検討の時間を確保して貰うために、先に軽い報告をしているところだ。


 理香は一度腕組みをしてから右手だけ持ち上げ、口元を隠す。伏し目になり、眉間に少しだけ皺が寄る。


「……小人の家に姫がたどり着いたとき、用意されていた食事に手を出した、と言ったよな?」


「そうだな」


「姫は、7人分用意されていた食事から、()()()()食べた」


「うん」


「実は一品ずつ食べられていたのではないか? 一口でガバッと」


「小人さんはそのあとで『少しずつ食べられていた』と証言しているのです。白雪姫の一口は、ごく普通の一口サイズのはずなのです」


 キイナが真面目に反論を試みる。

 酒挽もキイナの意見には賛成だったが、理香の言葉が冗談であることがわかりきっていたため、何も言わなかった。


 理香は両手を頭の後ろに回す。


「……わからん、と答えておこうか」


 しばしの沈黙の後、理香は答えた。

 ということは、彼女の頭の中では、いくつかの仮定が導出されている、と酒挽は確信を持つ。この幼馴染は、これ以上尋ねても「憶測の域を出ない」という理由で、その先を答えないだろう。酒挽は経験則でそのことを知っていた。


()()()()だから確認しなかったのではないですか?」


 確かに王子は、白雪姫の口からりんごの芯が飛び出した場面に遭遇していない。

 白雪姫の意識が回復してから「これが出てきた」と見せられたのが、りんごの芯だった、というだけだ。

 りんごの芯を目撃してはいるが、それが白雪姫の意識を奪った原因と推定可能な現場に立ち会っていない以上、テールが尋問しても、王子から引き出せる事実は、誰それから聞いたか、あるいは、見せられたか、という情報だけだ。


「いや、それはない」


 理香がきっぱりと断言する。


「どういうことだ?」


「幼女検事が証拠品として提出してこなかったことを加味すれば、物は存在しない。ならば、当利が確認しなかった、形状等や大きさを、『りんごの芯』を目撃した王子に確認するのが検察側の戦略のはずだ」


「戦略?」


「考えてもみろ。王子が一見して『りんごの芯』とわかるほどの大きさだぞ? そんなものが姫の口から出てきたのであれば、噛みもしないで丸呑みしたのか、という反論をしてもおかしくない。

 結果的に『あり得ないこと』と一蹴して、りんごによる殺人未遂における姫の証言は信憑性に欠ける、と主張することが可能だ」


 理香の言うとおりだと、酒挽は思った。

 そもそも、王子は最初の証言では「りんごの破片」と言ったのだ。

 それを酒挽の質問を受けて「りんごの芯」と変えた。


「キイナ。悪いんだが、第一審で王子が、りんごについてどう証言したか確認してもらえないか? 『破片』『芯』、何て言ったのか」


 酒挽の依頼に、キイナは、


「わ、わかったのです」


と応じた。




 酒挽は、夕食のために平家(たいらけ)を後にし、理香とキイナが部屋に残る。


「さて、キイナ。もう一つ頼まれて欲しい」


「何です?」


「当利の件のついででいいから、裁判記録で『魔法の鏡』について言及している証人がいるかを確認して欲しい」


「魔法の鏡、ですか?」


 キイナが首を傾げる。


「……その様子だと、()()()なさそうだな」


「やはり、なのです?」


 理香は頷く。


「空気を読まず、馬鹿正直に真実だけを述べる『魔法の鏡』を王子が証人として召喚し、事件の真相をすべて証言して貰えば、姫が極刑を受けることもなかったと思わないか?」


「た、確かにそうなのです!」


 王妃の「誰がこの世で一番美しいか」という問いに「白雪姫」と答えてしまう魔法の鏡。今のところ誰もその存在に言及していない。

 その存在があるがために、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()羽目に陥った。

 王妃の白雪姫に対する殺意を煽った存在。それが魔法の鏡だ。


「少し慎重に確認して欲しい。物語の中で、魔法の鏡は、王妃しか接していない。だから、王妃が死んだ今、その存在を知る者は皆無でなければならない。少なくとも、その存在は隠蔽されなければおかしいのだ」


「なぜです?」


「物語の時代背景だよ。ボクは『森の姫君』を17世紀に設定した。当時は魔女狩りが当たり前のように行われていた時代。まかり間違って、魔法の鏡と接してしまおうものなら、魔女認定されて、火炙りにされてしまう。

 登場人物らは、本当にその存在を()()()()か、存在を()()()()()()にしているか、そのどちらかになる。

 そんな中で、魔法の鏡の存在を示唆するような証言をしている者がいたら、当利にじっくりと話を聞いて貰わねばならんからな」

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