第10話 起訴理由
白雪姫が訴えられている理由が、ようやく判明します。
2019/04/15 「女王」を「王妃」に変更しました
2020/02/23 フリガナをふりがな(カタカナをひらがな)に変更しました
中に入ってみれば、なるほど確かに監獄だった。到る所に牢屋があって、その造りはまるでRPGのダンジョンを思わせる。廊下に面した壁一面の鉄格子。だが、不思議なことに、中には誰一人収監されていなかった。
とある一角でキイナが兵士のような格好をした人物と二言三言話すと、部屋へ案内される。
そこは、監獄には馴染まないまるで応接間のような部屋だった。中には三人の人物がいた。女性が一人に男性が二人。女性は、女の子、と言った方がいいくらいの年の頃。男性は、初老の人と、青年。男の人の頭の上には王冠が、女の子の頭の上には、豪華そうなティアラが載っていた。
「お取り込み中です?」
知り合いなのか、キイナは中にいる人物に尋ねた。三人は一斉に酒挽たちの方を見る。
「いや、大丈夫だ」
年配の男性がそう返し、女の子に向き直って言った。
「じゃ、白雪姫。私たちはこれで」
「はい。お父様も、お体に気をつけて」
……白雪姫とお父様?
酒挽がそんなことを考えている間に、男性二人は酒挽たちのすぐ横を通り過ぎて部屋を出て行く。
「彼女はもしかして……」
部屋の扉が閉まったのを確認してから、酒挽が尋ねると、キイナはにっこりと笑った。
「そうなのです。こちらが白雪姫なのです」
予想外に若い。むしろ幼い、と言った方が正しいだろう。
中世の王族が着ているようなドレスを身に纏ってはいるが、どうひいき目に考えても小学生にしか見えない。
白雪姫は最後王子と結婚することになる。中世の結婚は随分若くして行われることを加味しても、酒挽は自分と同じぐらいの年齢だと考えていた。実際、アニメや絵本もここまで幼く描写されていなかった。
酒挽が呆然と白雪姫を見つめている間に、キイナは「こちらが、酒挽トーリなのです」と白雪姫に紹介をしていた。
白雪姫は、スカートを両手でつまむようにして軽く持ち上げて広げながら、酒挽に向かって頭を下げた。
「初めまして、白雪姫と申します」
外見に比べてしっかりしている。
酒挽は慌ててそれに応じて頭を下げる。
「あ、初めまして。酒挽当利です」
「私はキイナなのです」
自己紹介する必要のない人物が、トリを飾った。
「ごめんなさいなのです。王様と王子様を追い出すような形になってしまったのです」
「いえ。構いません」
白雪姫はそう言いながら、二人にイスを勧める。
キイナは座る直前、酒挽を示して、
「白雪姫に説明しておくのですが、トーリは『人間界』から連れて来たのです」
「あら、そうでしたか」
という白雪姫の返事に続いて、背後から別の反応が返ってきた。
「へぇ。人間ですか」
確かに『童話世界』は物語の世界。住人は創作上の登場人物ばかりなのだから、酒挽を『人間』と表現するのは正しいのかもしれない。
だが、白雪姫なんて、外見にほとんど違いはないし、普通に会話も成立する。「人間ではない」と言われる方が、よっぽど違和感がある。
少し不機嫌な気分で振り向くと、入口に幼稚園の年少組か小学校低学年ぐらいの女の子が立っていた。薄水色のワンピースを着ている。小脇には赤い本、というよりも紙の束を綴っているようなものを抱えていた。
女の子は後ろ手にゆっくりと扉を閉めてから、言葉を続ける。
「失礼。先客がいるとは思わなかったもので」
外見に比べて大人っぽく感じるのは、落ち着いた物腰での話しぶりのせいだろう。
少女はニッコリと微笑んでいた。だが、その笑みは可愛らしいと言うよりは、不敵と言った方がしっくりくるような、作られた笑顔だった。
「謝罪など必要ないのです」
一方のキイナは、警戒心をあらわにしながら女の子に言い、酒挽に呟くように説明した。
「彼女は検事のテールさんなのです」
「……検事?」
キイナに言われて、酒挽は一瞬眉をひそめてしまった。どう見ても幼すぎる。
「初めまして、人間の方。童話裁判検事のテールです。『白雪姫』裁判を担当しています。以後お見知りおきを」
そう言うと、テールと名乗った少女は右手を出してきた。酒挽の腰ぐらいの身長。手を前に出すというより、少し上に伸ばしていた。
酒挽は求めに応じて手を握り返して応じた。
「酒挽当利です」
「驚かれるのも無理はないのでしょうが、こう見えましても、人間界の時間で17年は生きています」
酒挽の反応で自分がどのように見られたのか察したのだろう。テールはそう説明をしてきた。
17歳。ちょうど酒挽と同い年だ。
「しかし、キイナさん。確かに可能性として童話を知っている人間がいるかもしれませんが、それで必ずしも事を有利に運べるわけではありませんよ。そもそも、この方は正確に『白雪姫』を知っているのですか?」
『人間界』から『白雪姫』の記憶が抹消されていることを言っているのだろう。
「当然なのです!」
少し怒ったように口をへの字に曲げて、キイナは反論したが、酒挽は違和感を拭えなかった。
なぜ『正確に』と強調したのだろうか。
「まぁ、キイナさんがここまで連れてきた方です。相当な実力の弁護人候補なのでしょうね。法廷でお会いするのを、楽しみにしております」
笑顔のまま言うと、テールは「また後ほど参ります」と白雪姫に言い残し、さっさと部屋を出て行ってしまった。
酒挽には、テールが随分と自信満々のように見えた。
それを裏付けるように、キイナが呟く。
「テールさんは、未だかつて負けたことがない、天才検事なのです」
白雪姫が被告人である今回の裁判でも、検察側圧倒的不利という下馬評をひっくり返し、勝利をもぎ取ったと言う。
「……あれ? そもそも、なんで白雪姫は裁判を受ける羽目になったんだ?」
『白雪姫』は、白雪姫が継母である王妃の嫉妬のせいで殺されかけている。つまり、被害者であって加害者ではないはずだ。
だが、キイナは信じられないことを言い出す。
「白雪姫は、王妃を殺害した容疑で裁判を受けているのです」
「え?」
「白雪姫と王子との結婚式の会場で、王妃は真っ赤に熱せられた靴を無理やり履かされ死ぬまで踊らされたのです。それをやらせたのが白雪姫だ、というのが、今回の裁判なのです」




