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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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099 幼女、帰路につく

「これが、穂乃香ちゃん家の船かぁ~」

 連絡船が接岸するのとはちょうど反対側に位置する桟橋で、帰り支度に身を包んだクルミが、大型クルーザーを見上げながら、ため息まじりに呟いた。

「うん、すっごいはやいんだよ!!」

 クルミのつぶやきに、みどりが嬉しそうに自慢の言葉を口にする。

 窓に映る波しぶきがどんどん後ろへ飛んで行ったのをしっかりと覚えているみどりは、一生懸命その速さを語って見せた。

 身振り手振りで解説するみどりの姿を一人離れたところで撮影していた彩花に茉莉が話しかける。

「みどりちゃんは、一般の子だからね」

「大丈夫、個人のコレクションだから」

 警告を発した茉莉に、彩花は表情一つ崩さずに問題は起こさないと断言した。

 茉莉自身、くどくどいう気はないので、言質を取った以上突っ込む気はない。

 普段は澄ましているが、実は可愛いモノに目がない彩花が、シレッと撮影を始めるなんてのは日常茶飯事だし、これまでに問題を起こしたことはなかったので、そこは仲間として信頼をしているところだ。

「まあ、人の趣味にとやかく……」

 茉莉が切り上げようと言葉を発したところで、彩花がスマホのカメラをみどりに向けたまま器用に振り返る。

「大丈夫安心して、ちゃんと茉莉にも見せてあげるわ」

 普段は決して見せない生き生きとした表情で、彩花は目をキラキラ輝かせて微笑んだ。

 茉莉は瞬時に余計な発言は危険だと判断して「ありがとう」と短く返す。

 それに満足したのか、彩花は再び撮影へと集中するが、その時には無表情に近いものへと変貌していた。

 知る者は少ないが、最高に熱中したり、集中するほど表情を失うのが彩花の奇妙な特徴である。

 若干の不気味さを感じながらも、別に問題行為でもないので、茉莉は苦笑を浮かべるのみだった。


「桟橋から落ちないように一列でお願いします」

 エリーが桟橋にかかる渡り板の前に立って、一人ずつ手を取りながら先導していた。

「ありがとう、エリー」

「はい。気を付けて乗船ください穂乃香お嬢様」

 穂乃香のお礼を柔らかく受け止めながら、エリーは渡り板に送り出す。 

 直後、先に乗り込んでいたゆかりが、エリーが支えるのとは逆の手を取って穂乃香を導いた。

「ありがとう、ゆかりさ……ゆかりお姉ちゃん」

「……まだ、やるんですか?」

 不意打ちに少し頬を染めたゆかりを見て、穂乃香はしてやったりと微笑む。

「でも、私、お姉ちゃん欲しいし」

「……しかたないですね、たまに、だけですからね……」

 基本榊原家の、特に護衛隊の面々は、ともかく穂乃香に弱いので、嫌とは言わないのだが、身分を越えてしまう呼称の変更はその限りではなかった。

 みどり、奈菜、そして、加奈子と由紀恵の協力を経て、なし崩し的に勝ち取った姉扱いなので、穂乃香としても簡単に手放すのは惜しい。

 もっとも、後で思い返してお姉ちゃん呼びに身悶えるのが自分だということをすっきり忘れ去っていた。

「次、私いいですか!」

 穂乃香の次にみどりと奈菜を差し置いて、千穂は名乗り出る。

 大人げないと、千穂を除くウィッチメンバーの視線を集めるが、本人はそれよりもすぐに穂乃香の横に行きたいという気持ちでいっぱいだった。

 そして、同じように穂乃香が大好きなみどりも奈菜も、幼稚舎などで顔を合わせる自分たちと違って、なかなか会う機会が持てないであろう千穂を思って次を譲る。

「いいよー先乗って~」

「私はお母さんと乗るので!」

 みどり、奈菜と口々に譲られて、千穂は「ありがとう二人とも!」と満面の笑顔で両腕にそれぞれを抱きしめた。

「ずるい」

 思わずつぶやかれた彩花の嫉妬の声は、波の音に消えるほどの小ささだったが、それでも耳に届いた茉莉は苦笑を浮かべる。

 その間にも、意気揚々と乗り込んだ千穂は、ゆかりに配慮してか、穂乃香を挟むようにして反対側に立った。

「さあ、皆、乗り込んでー!」

 声を弾ませて千穂は、桟橋に残る一同に手を振る。

「「はーい!」」

 声を揃えて手を上げるみどりと奈菜に、うんうんと満足そうに頷く千穂を見て、穂乃香は苦笑を浮かべた。


 青海島を離れ海原を走り出した船の上では、陰陽がはっきりと分かれていた。

「やっばい、これ、超楽しいかも!」

 波に合わせて乱高下する船の中で、クルミは楽しそうに声を上げる。

 その傍らでは、顔を真っ青にしたアリサがソファにめり込むようにして横たわっていた。

「うりゅさいれすよ、クルミしゃん」

 苦痛に呻きながら苦々しそうに声を発するアリサは、船酔いという苦痛の中にいる。

 元気そうでしかも甲高いクルミの声は、地味にダメージだった。

「え~~なぁに~~~」

 それを分かった上で、ちょっかいを掛けるクルミに、アリサは忌々し気な視線を向けるだけで、報復行動に移れないでいる。

「うーーーー」

 唸るアリサに、クルミは「なぁに? どうしたの? ねぇ」と追い打ちを全力で掛けた。

「さすがに追い打ちは自重してあげて」

 船酔いする他のメンバーを介抱していた茉莉が、溜息を洩らしながら困り顔でクルミを止める。

 すると、誰かに止められるのを期待していたクルミが、あっさりと身を引いた。

「それじゃ、ちょっと、薬貰ってくるよ」

 クルミは茉莉とアリサにそう告げると、同じく客室内で青い顔をしているメンバーを数えてから、エリー達使用人の元へ向かう。

「最初から素直に行けないのよね」

 一同が集う船室を後にするクルミの背を見ながら茉莉が苦笑した。

 傍らで彩花が「そこが可愛いのよ」とポソリと呟く。

 それに頷きながら、茉莉は「ホント、癖の強いメンバーよね」と苦笑しつつ、船酔いに苦しむメンバーの介抱に戻った。

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