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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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098 幼女、誘われる

「イベント?」

 首を傾げた穂乃香に、千穂が大きく頷いた。

「そう、私達、プリッチフローラルのコンサートだよ」

「こんさーと?」

 今度はみどりが首をかしげる。

「コンサートって言うのはね。私達がたくさんのお客さんの前で、踊ったり、歌ったり、簡単な劇をしたり、お話をしたりするの」

 全身を使って踊ってみたり、マイクを握る真似をしたりとコミカルに動きながら、クルミは笑顔でみどりに説明して見せた。

「すごい! たのしそう!」

 ピョンピョンと席から立って飛び跳ねながら、みどりが表情を輝かせる。

「もちろんです。私達は来てくれたお客さん皆が楽しくなるように頑張るつもりですからね!」

 アリサが得意げに胸を張った。

「穂乃香ちゃん……」

 うずうずとした気持ちをわずかに表情に覗かせながら、奈菜が言外に穂乃香の同意をねだる。

 だが、穂乃香は少し困った顔で、首を左右に振った。

 一瞬で分かる否定の反応に、みどりも奈菜も表情を暗くしてしまう。

「行ってみたいですし、すっごく興味はありますけど、そう言った多くの人が集まるところには、お爺様の許可が下りないと思います」

 遠慮というよりは申し訳ないと言った風で返した穂乃香の言葉に、彩花が「そうかしら」と笑みを浮かべて返した。

 穂乃香は彩花の態度に少し首を傾げながらも、理解をしてもらおうと言葉を補う。

「えと、ちゃんと、お爺様やゆかりさんに相談とお願いはします……けど、これまでもダメだったから……」

 珍しく年相応の少女の様に俯いてしまった穂乃香からは、諦めめいた空気が滲み出ていた。

 咄嗟に、みどりと奈菜が慰めようと、穂乃香の肩にそれぞれ手をのせたほどに落胆の色は濃い。

 けれども、彩花は態度を変えることなく、いや、むしろ笑みを深くして、会心の一言を放った。

「大丈夫だと思うわ。だって、今回のコンサートの運営や警備を担当するのは『榊原グループ』だもの」

「え?」

「つまり、穂乃香ちゃんが私達のコンサートへ参加できるように、菊一郎さん……というよりは陽子さんかな? が、あらかじめ動いてくれてたんじゃないかなって思うよ」

 彩花の説明に穂乃香が目を丸くする。

「じゃ、じゃあ……」

 震えながら縋るように声を発する穂乃香を、背後にいつの間にか回り込んでいた千穂が抱きしめた。

「そうだよー。だから来て欲しいな。私たち皆のお願いだよ」

「はい! 行きます、絶対行きます!!!」

 穂乃香が普段あまり発さないほどの大声で嬉しそうに断言する。

 そして、心の中で密かに、お爺様じゃなくて、陽子さんに相談すれば、裏から協力してくれるかも……などと、無邪気な表情とはあまりにもかけ離れた発想を、胸の内でメモしていた。

 そうして、はしゃぐ千穂と穂乃香にみんなの視線が集まったところで、茉莉がみどりと奈菜の手を握りながら膝を折って視線を合わせると微笑みかける。

「もちろん、2人も招待するから、あとで、お母さんたちに説明するね」

 茉莉の爽やかな笑みに、みどりは「ありがとう!」と嬉しそうに頭を大きく振って頷いた。

 一方で、奈菜は顔を赤らめてフリーズしてしまう。

 プリッチメンバーの中では爽やかでカッコいい役どころの茉莉は、女の子が憧れやすいタイプの王子系なので、恋愛という観点では穂乃香、みどりよりも成長している奈菜には、その微笑みかけは猛烈な威力であった。

 結果、口を真一文字に結んでしまった奈菜に、更に茉莉が意識を向ける。

「どうしたの、奈菜ちゃん? 嬉しくなかったかなぁ?」

 シュンと眉を下げて悲しそうな顔を向けてくる茉莉に、奈菜はキュゥっと心臓を掴まれるような感覚を覚えて、思わず抱き付いていた。

「う、うんうん。すごく嬉しいです。だからそんな顔はしないでください!」

 首に抱き付かれたので、必然と肩に着地した奈菜の頭が必死に左右に動くのを感じて、茉莉は優しくその頭を撫でる。

「良かった。嬉しいなら、私も嬉しいよ」

 安心させるために大丈夫だよと囁きながら、茉莉がポンポンと慰めるように頭を何度か軽く叩いたところで、ようやく奈菜は顔を上げた。

 そうして不意に視線を交わし合った奈菜と茉莉は、お互いに笑みを交わし合った後で、ハッと同時に視線を同じ方向に向ける。

 慌てて確認した視線の先では、微笑ましいものを見たと言わんばかりの表情で、穂乃香と千穂が微笑んでいた。

 自分たちを見る目に嫉妬の類がなかったことに安心した二人ではあるが、反面、心の中にわずかな落胆の想いもある。

 そんな複雑な心情に、奈菜と茉莉は再び視線を交わし合った。

 穂乃香と千穂も、それに釣られるように、自然と視線を交わし合う。

 すると、図らずも穂乃香と奈菜をメンバーが抱きしめるのを見て、少し羨ましくなったクルミとアリサが、ただ一人フリーなみどりに手を伸ばそうと動き始めていた。

 競い合いながらも、みどりを驚かせないように注意を放ちあう二人の牽制は、しかし、目標喪失という結末で幕を下ろす。

 横からスゥッと入り込んだ彩花がシレッとみどりに腕を絡ませたのだ。

「「あっ!」」

 クルミとアリサが仲良く声を上げたところで、勝ち誇った笑みを浮かべた彩花がそれを見る。

「私達も穂乃香さんや奈菜さんとお揃いです、ね、みどりさん」

 彩花に言われて、みどりは「ねーー」と無邪気な反応を見せた。

 完全に勝負がついた状況で、アリサはフッと軽く笑う。

「仕方がありません、かくなる上は!」

 アリサの暴走を察知して、茉莉は奈菜を庇う様に、彩花は挑発するように、それぞれが抱きしめる手に力を籠めた。

 だが、彩花と茉莉の警戒は徒労に終わる。

「クルミに抱き付かないで!」

 不服そうな顔のアリサに、抱き付かれたクルミがじたばたともがく。

 プリッチで最も身長差のあるコンビなので、クルミを抱くアリサという図式は、穂乃香達ほどではないが割と収まりが良かった。

「意外に抱き心地がいいですね。クルミさん」

「コラ、バカアリサ! へんなとこさわるなぁ!!!」

 もにゅもにゅと手や腕を動かして腕の中のクルミの抱き心地を堪能するアリサに、悲鳴と怒号が飛び出す。

 だが、一見楽しそうにじゃれ合ってる二人の様子に、それを囲む穂乃香たちからは笑い声が沸き起こっていた。

 無邪気なみどりのうしろで、何かを操る彩花さえいなければ、とても心温まるシーンになったに違いない。

 その場で唯一彩花の動きに気が付いた茉莉は、そう結論付けた。

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