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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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097 幼女、水着になる

「あ、わたし、みずぎじゃない!」

 アリサやクルミ、彩花につられて、ワンピースを脱ごうとしたみどりが途中でその事実に気が付いて、大声を張り上げた。

 折角、クルミに誘われたのに、母親に服のまま海に入ってはいけないと習っているみどりはどうしたらいいのかわからずに、涙目に変わる。

 しかし、そんなみどりに颯爽と手を伸ばすものがいた。

「大丈夫だよ、みどりちゃん」

 みどりが視線を挙げれば、そこには頼れる親友、穂乃香の笑顔がある。

「ほんと?」

 そう問いかけた時には、もうみどりの心に不安はなかった。

 もちろん、と力強く頷いた穂乃香は、ゆかりに視線を向けると、更にゆかりはその後方に用意したものを指し示す。

「更衣室代わりに、テントをご用意してます。もちろん、水着もです」

 ゆかりがそう説明をし終えると、テントの中からみどりの母由紀恵と、奈菜の母加奈子が顔を出して、手招きをして見せた。

「じゃあ、着替えに行こう、みどりちゃん、奈菜ちゃん」

 左右の手で、それぞれ親友の手を握った穂乃香が駆け出す。

 みどりは嬉しそうな笑みを全開にしながら、奈菜は少し気恥しそうにしながら、穂乃香につられて走り出した。

「あ、穂乃香ちゃん、私は~? 私は?」

 慌てて後を追いかける千穂に向かって、茉莉は「アンタは少し自重しなさいよ」と苦言を呈す。

「え? そう言うこと言うと、宿題付き合ってあげないよ?」

 笑顔なのに黒い何かが混じった千穂の切り返しに、茉莉は「うぐっ」と声を詰まらせることしかできなかった。

 別段勉強ができないわけではない茉莉だが、一人で宿題をこなすという作業が、どういうわけだかとても苦手で、横に誰かがいないと、つい他のことに浮気をしてしまう。

 親友であり幼い頃からともにいる千穂は、宿題処理の際に横にいることが自然と多い相手であり、このロケ中も付き合ってくれる予定だったのだが、穂乃香が現れてしまったことで、その計画は破綻してしまっていた。

 千穂が穂乃香にかまけている間に、予定していた宿題処理が進まなかった茉莉は、多くを積み残すことととなってしまっている。

 穂乃香と別れ、帰った後は付き合ってくれると表明している千穂だが、それを脅しに突っ込んできたのだ。

 自分の性格を熟知しているからこそ、そして千穂は意外にやりかねないことを知っているからこそ、茉莉は言葉を詰まらせる。

 そんな黙ってしまった茉莉に、千穂は「何て、冗談だよ、ちゃんと付き合うよ」と笑いかけた。

 全く信用できないと心の中で叫びながらも、女優茉莉は「ありがとう」と微笑み返す。

 茉莉の反応に満足そうに頷くと、千穂はくるりと踵を返し、穂乃香たちが着替えの為に入り込んだテントの中へと突入していった。


「それーーーー」

 クルミの声と共に、ビニール製の大きなボールが宙に舞う。

 穂乃香たちまだ小さい子がいるので、浅瀬で軽く海水浴を済ませたところで、ビーチボール大会へと状況は移り変わった。

 大きく高く舞ったボールがユラユラと揺れながら落ちてくる。

「ああ、こっち、あれ、そっち?」

 ふらふらと落下点でワタワタと左右に忙しなく揺れるアリサが、全身で苦手を醸し出していた。

「アリサおねえちゃん、がんばって!!」

 見ているだけで不安を抱かせるおぼつかない足取りに、思わずみどりが声援を送る。

 だが、それに気を取られて「任せてください!」とみどりへと振り返ったアリサの後頭部に、ボインとボールが着地した。

 そのまま転々と転がるボールに沈黙が訪れたが、彩花が「ぷふっ」と噴き出す。

 一度堰が切れてしまうと、流れはなかなか止められず、彩花はお腹を押さえて可愛らしい笑い声を立て始めた。

 普段クールで動じない彩花が発端だけに、笑いの波はあっという間に全員に伝播していく。

「ちょっとぉ~~笑わないでくださいよぉ~~」

 そう言っては見るもののそれを口にしているアリサですら笑っているのだから、笑いの波は止まらなかった。


 ジュウウウウ。

 鉄板と食材が奏でる焼ける音と香り、わずかな水蒸気が砂浜に舞い上がった。

 浜のはずれに設置された簡易テントの下で、普段はメイド服に身を包むゆかりやエリー達が水着にエプロン姿で、食材を調理している。

 その音と香りが堪能できる距離に設置された屋根付きのテーブルの下では、穂乃香や千穂たちが席についていた。

 一応客人でもあるが、保護者枠である加奈子や由紀恵、そしてゆかりはエリー達が仕上げた料理をテーブルに移動させたり、飲み物を配ったりと給仕に回っている。

 当初、千穂たちもこれを手伝おうと申し出たのだが、そんなに人手が要らないこと、それに明日帰路に就けば、しばらくは会えないという理由で、穂乃香たちと一緒にいて欲しいと言われ、席を囲んで会話を交わしていた。

「じゃあ、穂乃香ちゃんはあんまりお家から出ないんだ」

「幼稚舎以外には出かけないです」

 その何気ない穂乃香の返しに、千穂達五人がわずかに表情を強張らせる。

 穂乃香の不自由を可哀想と断ずるのは簡単だが、大人の世界に足を半分以上踏み込んでいる千穂たちには、しっかりと背景にある身の安全の為という理由も理解できているため、返す言葉に戸惑うほどに心境は複雑だった。

 少なくとも、ゆかりも、菊一郎も、陽子も、そして、エリー達も、誰もが穂乃香を慈しんでいたのを見ている以上、愛情がないなんてことは決してないのはわかっている。

 それでも、千穂たちは仲間たちと全国を回っていることもあって、知らない場所に行くワクワクも知っていた。

 だから、千穂たちは自然とお互いを見合いながらコクリと頷きあう。

「ねぇ、みんな。お家の人がいいって言ったら、私達のイベントに来ない?」

 千穂が代表して、穂乃香に、みどりに、奈菜に順番に視線を向けながら、招待の言葉を告げた。

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