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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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096 幼女、見送る

 ボーーーーーー。

 大きな汽笛を鳴らして、撮影クルーの乗り込んだ定期船がゆっくりと、桟橋から離れていく。

 甲板にはあおいを始めとする撮影スタッフが立ち、桟橋の穂乃香たちに向かって大きく手を振っていた。

「穂乃香ちゃん、またあちらで会いましょう!」

 あおいの言葉に、穂乃香は「はーーーい」と大きな声で答える。

 実は菊一郎の滞在中に、あおいは自分の担当回で穂乃香の再登場があるので、と穂乃香本人と保護者一同から了承を取り付けていた。

 もっとも、その穂乃香の再登場はその演技の出来を見て、急遽、あおいの脳内で決めたことで、上層部会議にも掛けていないし、承諾も得ていない。

 脚本が完成していようがねじ込む気満々であるし、撮影スケジュールですら無茶をしてもかまわないと言い切れるほどに、あおいは穂乃香に惚れ込んでいた。

 無論、それはあおいだけの話ではない。

 千穂は当然ながら、彩花、クルミ、アリサ、そして茉莉も穂乃香には強い関心を持っているので、内々に穂乃香再登場をねじ込もうとしているあおいの後押しとして、戻ってからの上層部の説得工作に参加を表明していた。

 とはいえ、あおいも、千穂たちも、それほど難しくはないだろうと確信している。

 何しろ、まだ編集作業すらしていないにもかかわらず、圧倒的な存在感を示す映像が撮れているのだ。

 映像作品の作り手として、これを見て、穂乃香の起用を検討しないなら『ウソ』である。

 だからこそ、会議に掛ける前なのに、あおいは穂乃香の再登場を断言して、菊一郎らに承諾を取り付けたのだ。

 十分に離岸して、船が本土に向けて速度を上げ始めたところで、あおいは青海島に背を向けると、口角を目いっぱい吊り上げる。

「さあ、忙しくなるわよ!」

 それはスタッフへの布告であると同時に、失敗できないミッションが始まったことを自分に言い聞かせ、自身を鼓舞するための言葉だった。


「いっちゃったねー」

 船を見送っていたみどりが、しゃがみこみながら少し寂しそうに口にした。

 わずかな期間とはいえ、共に過ごしたメンバーとの別れは、やはり寂寥感を伴う。

 だが、それを笑顔で吹き飛ばすものがいた。

「いやいや、帰ったら打ち上げですぐ会うよ」

「え、そうなの?」

「そうなのです、クルミちゃんはウソつかない~」

「やったーー」

 クルミの明るい対応に、みどりもすぐに表情を輝かせ始める。

 そうして、2人が盛り上がっているところで、穂乃香が本来はこの場にいないはずの五人を見た。

「皆さんは、あおいさん達と一緒に帰らなくて大丈夫なんですか?」

 千穂たちとのおしゃべりを連日続けていた穂乃香は、何度か彼女たちがスケジュールに縛られていることを聞いていて、この場に残ることがものすごく大変な事なのだと理解している。

 そのせいもあって、表情は暗めだ。

「大丈夫…………だよね?」

 笑顔で穂乃香に応えようとしたところで、千穂が何かに思い当たったのか、表情を引きつらせて不安げに視線を茉莉に向ける。

 茉莉は苦笑気味に「まあ、撮影スケジュール的には問題ないよ」と返した。

「だよねぇ、よかったー」

 千穂は茉莉の返答に安堵の溜息を漏らす。

 だが、穂乃香は言葉の微妙さに、眉を寄せて突っ込んだ。

「撮影スケジュール以外には、問題があるんですか?」

 その問いに茉莉は口を閉ざし視線を外す。

 代わりに彩花が、穂乃香の問いに答えた。

「個人的に問題がある人がいるかもしれないってことです」

「え!? ダメじゃないですか!」

「そうです、ダメです……だって、撮影を言い訳に、少しずつでもやっていれば何の問題もない学校の宿題を溜めているだけですから」

 彩花がとてもいい笑顔で言い放つと、茉莉とアリサがガクリと膝をつく。

 その様子に、穂乃香はなるほどと頷きながら、小学校への進級を果たしたら、ああはなるまいと心に誓うのであった。


「今更悔やんでも仕方ありません。遊びましょう!」

 桟橋の上で、着てきた白いTシャツとデニムのホットパンツを脱ぎ去ったアリサが、自分の演じるローズのイメージカラーでもある赤のビキニ姿を惜しげもなく披露した。

「え、でも、宿題……」

 穂乃香のセリフに、アリサは「日本語ワカリマセーーーーン!」と言い放つなり、桟橋から浜辺へと駆け出していく。

 まさしく敵前逃亡なのだが、続くものがあれば、それは先陣を切ったともいえた。

「ずるいよ、アリサ! みどりちゃんも行くよ!」

 シュパシュパとアリサに負けじと、シャツとパンツを脱ぎ捨てたクルミが身に纏うのは、紺のワンピースタイプの水着で、胸のところにはわざわざひらがなで『くるみ』と書かれた白い布製のゼッケンが張り付けてある。

 それを見て、みどりが少し驚いたように「おなまえがかいてある!」と指摘した。

「そうだよ、みどりちゃん、これはスクール水着という、小学校や中学校の水泳の授業では伝統の授業スタイルなんだよ」

 なぜか誇らしげに胸を張るクルミに、容赦なく茉莉のツッコミが炸裂する。

「こら、変なこと教えるな!」

「え、だって、事実だし?」

 悪びれもせずに言い放つクルミに、実際間違っているとも言い切れないせいで、茉莉はどうしたものかと眉を寄せた。

 そのタイミングで、いつの間にかヒマワリの描かれた水色のワンピース水着姿になっていた彩花が、みどりの横にしゃがみ込んで、茉莉の代わりに話し出す。

「みどりちゃん、クルミの格好は昔の水泳の格好なの。今は学校ごとに同じかもしれないし、違うかもしれないから、学校の先生に聞いてね」

「はーーーい」

 元気よく右手を挙げて応えるみどりに、彩花は普段は見せない満面の笑みで頷いた。

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