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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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095 幼女、確立する

「千穂、落ち着いて」

 いつのまにかそばに立っていた茉莉が、手にした小さなハンドタオルで、千穂の涙を拭う。

 その頬に触れる感触に、自分を取り戻した千穂が、タオルの主である茉莉を見て抱き付いた。

「茉莉ちゃん! 穂乃香ちゃんが、お別れしましょうなんて言うの!!」

 千穂の口から飛び出た言葉に、目を点にした穂乃香が「は?」と間の抜けた声を漏らす。

 どうしてそんな風に伝わったのかわからずに、自分の過去の発言を思い起こそうとしたタイミングで茉莉が千穂を引きはがしながら断言した。

「そんなことを穂乃香ちゃんは言ってないし、千穂も言われてないから……」

「え……だって……」

 自分の言葉に戸惑いの声を漏らす千穂が、どうにか聞く姿勢に移ったと察した茉莉は、口調を和らげて幼子を説得するように丁寧に説明を始める。

「いい、千穂? 穂乃香ちゃんはもうすぐ島から帰ることになるから、お別れだねって言ったの。別に貴女を嫌っていないし、さらに言えば絶交発言もしていないわ」

 言葉は言い聞かせるように丁寧で穏やかだが、それを言う茉莉の口元が若干引きつっていた。

 それでも、丁寧さを欠かないのは、茉莉の責任感の表れである。

 一方、千穂はボロボロと零れ落ちた涙を瞳のダムにどうにか押し留めて、穂乃香に視線を向けた。

「ほん……とぅ?」

 縋るような千穂の目と申し訳なさそうな茉莉の目が、自分に向いたところで、穂乃香は大きくわかりやすく頷く。

「もちろんですよ。私ももうしばらくしたら夏休みが終わりますし、千穂お姉ちゃんたちもそうじゃないですか?」

「…………そだよ、お揃いだね」

 なぜか満開の笑顔で答える千穂は相当に幼児退行しているようだ。

 そんな感想をぐっと飲み込んで、穂乃香は茉莉が納めてくれた場を乱さぬよう細心の注意を払いながら言葉を選んでいく。

「はい! でも、そうなると、こうして同じところでお泊りは出来なくなっちゃいますよね?」

「……そう、だね……残念だけど……」

 シュンとわかりやすく意気消沈した千穂は、捨てられた子犬の様に手を差し伸べたくなる寂寥感を抱かせる雰囲気を醸し出していた。

 それが、演技力由来なのか、それとも、単に素の行動なのかはわからないが、少なくとも穂乃香の心を揺さぶるには十分な威力がある。

「でも、も、もう、私達はお友達なので、毎日は無理ですけど、機会があれば、会えると思うんですよ……」

 穂乃香は思わずそう言ったが、相手の千穂は子役とはいえ正式に女優業をしている少女であったし、自身も大グループ直系の娘なので、そう簡単に会えるとも言い切れなかった。

 そのことにいち早く気付いたのは、この場で一番冷静な茉莉だったが、それを口にするのに躊躇ってしまう。

 何しろ暴走過多になっている千穂に、ネガティブな情報を与えれば、再暴走しかねないのだ。

 その隙に、千穂が嬉しそうに再度穂乃香に抱き付いてしまう。

「そっか、そうだよね、会おうと思えば会えるよね!」

「はい……たぶん」

 穂乃香の答えの語尾がものすごく小さかったのは、会うことの難易度に気付いたからで、茉莉と同じようにネガティブな情報がもたらす影響を誤魔化そうという思考が働き、思わず語尾が先細った。

 だが、穂乃香の同意を得た千穂はそんな些細な変化など気にも留めない。

 喜色満面で「じゃあ、帰っても一緒に遊ぼうね」と無邪気に微笑んだ。

 その眩しさに、穂乃香は思わず何か答えなければと頭を回転させて、一つの妙案を思いつく。

「あの、千穂お姉ちゃん」

「なぁに?」

「あの……私、スマホも携帯も持ってないけど……」


「ダメかな、ゆかりさん」

 衣装から普段着に着替えた穂乃香は、早速とばかりに千穂と連れ立って、ゆかりに上目づかいでお願いをしていた。

 穂乃香たちのお願いに、ゆかりは眉を寄せて少し悩んでいる素振りを見せると、穂乃香ではなく千穂に視線を向ける。

「穂乃香お嬢様と直接は許可できませんが、私宛に送っていただいたものをチェックした上でお見せするというのであれば、この場で了承できます」

「ほんとうですか?」

 ゆかりの言葉に千穂が嬉しそうに顔を輝かせた。

「はい。要は事前に内容に問題がないかチェックをしてからでないと、穂乃香お嬢様にはお見せ出来ないというだけです。その……教育的視点で」

 最後に付け加えられるように足された言葉でちらりと穂乃香を見たゆかりが、心中ではどう思っていたかはともかく、菊一郎や陽子も踏まえての基本姿勢なので、使用人のいずれかが目を通せば、私信は許可される。

 ただ、穂乃香の為人を知っている千穂と直接のやり取りは、本人を疑うわけではなく情報の流出などで、副次的に被害が発生することを考慮して許可が下りない可能性が高いとゆかりは踏んでいた。

 とはいえ、間接的とはいえ、メールでのやり取りは許可されそうだと、穂乃香は胸を撫でおろす。

「これで、帰ってからも、連絡取れますね」

 やり遂げた達成感に浸りながら、穂乃香は千穂に微笑みかけた。

 対して、千穂も大きく頷いて「改めてよろしくね、穂乃香ちゃん!」と抱き付く。

 嬉しそうに盛り上がっている二人の様子を目にしながら、千穂自身が道を踏み外すのではないかという破滅の予感と、穂乃香に悪影響を与えるのではないかという悪影響に、ゆかりは若干の危機感を覚えていた。

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