093 幼女、笑い合う
「彩花ちゃん~」
満面の笑みで手招きするのは千穂だった。
次いで、アリサが「そういえば、変わり身の術とか言ってましたよね」と笑顔で千穂の横に並ぶ。
「まさか、逃げれるとは思っていませんよね」
三人目の素敵な笑顔を見せるのは穂乃香だ。
「私も洗う側に回ることにしたよ、あやや~」
両手に泡まみれのスポンジを握り、ぽたぽたと泡を滴らせるクルミは笑顔満面で参加を宣言する。
そして、穂乃香の左右には、みどりと奈菜の二人もスタンパイしていた。
「えーと、ゆかりさんはいいの?」
彩花が視線を彷徨わせながら逃げの口実を模索する。
だが、穂乃香はきっぱりと「ゆかりさんは大人なので、最後に始末します」と断言した。
「じゃあ、茉莉ちゃんを代理に……」
シレッと同じく湯船につかっていた自分を差し出す彩花に、茉莉は溜息を零す。
「ちゃんと自分で終わらせなさい」
茉莉は首を左右に振って拒否を示すと、彩花はザバリと水を滴らせながら湯船から出た。
「仕方ありません」
そう言った彩花の手をみどりと奈菜が引いて、湯船から離れた位置に置かれた椅子に座らせる。
「あややー覚悟~」
クルミは声を弾ませて宣言すると、自分の弱点である首を狙って、彩花にスポンジを押し付けた。
「あ、あやや、て、手強い!?」
「全然声をあげませんね!」
クルミとアリサが彩花をもみくちゃにするものの、彩花は平然と無表情でそれに耐える。
あの手この手で彩花をもみくちゃにする二人を見ながら、穂乃香たちは傍観体勢に入っていた。
「なんか、さんにんともたのしそうだね」
みどりの言葉に、奈菜が「うん」と頷く。
そんな二人にニコニコと笑みを向けながら、穂乃香は言い放った。
「それじゃあ、あっちは二人に任せて、次は奈菜ちゃんだね」
「え?」
「え、じゃないよ、私達が洗ってあげるよー」
「えええ!?」
驚きの中に多分の嬉しさを混ぜながら、奈菜は驚きの声を上げる。
そんな奈菜の手首をしっかりと握って捕まえると、穂乃香は命令を下した。
「みどりちゃん、千穂ちゃん、かかれーーー!」
「「おーーー!!!」」
スポンジが舞い泡が飛び交う、はしゃぐような悲鳴を放ちながら奈菜もあっという間に泡まみれになる。
「はい、じゃあ、次はみどりちゃんね」
「え? みどりも?」
「あたりまえーー」
現れていた奈菜もスポンジを受け取って、みどりに襲い掛かる楽しい洗いっこはさらに盛り上がりを見せた。
「そうですね、次は背中の少し下を、そうです、そこです」
木椅子に腰かけたゆかりを取り囲んで、スポンジを振るう穂乃香たちであったが、相手が一枚上手であった。
巧みに指示を出し、自分の体を洗わせる所はどことなくご満悦である。
クルミやアリサはおかしいなと首を傾げながらも、目の前ではちゃんと泡まみれになっているゆかりを見るにおかしなところは目につかなかった。
つい先ほども「綺麗にしてくれてありがとう」とのセリフを残して彩花は浴場を後にしているので、そんな人もいるかと、とりあえずは指示に従って洗い続ける。
結局最後まで頭から疑問符は取れなかったが、まあいいかとクルミもアリサもハシャギながらみんなで、ゆかりを洗い上げた。
「まったく、なにしてるんだか……」
湯船につかりながら苦笑を浮かべる茉莉の横に腰を下ろした千穂が、微笑みかける。
「えー、楽しかったよ? 茉莉ちゃんも参加すればよかったのに~」
「いや、あれに混じるのは、ちょっと」
フルフルと頭を左右に振って拒否を示した茉莉は、視線を千穂の両腕の中に向けた。
「どうでもいいけど、穂乃香ちゃん、離してあげなよ」
「えーーーやだーーー」
茉莉の提案に、自分の腕の中に抱え込んだ穂乃香をギュウッと抱きしめて拒否を示す。
「千穂、穂乃香ちゃんに嫌われても知らないわよ?」
「え!? えーーー!!!」
驚きの表情を見せた千穂は、穂乃香から体を離すと、目にいっぱいの涙を溜め始めた。
「あー、大丈夫ですよー嫌いになりません」
「よかったよー」
穂乃香の返しに感極まった千穂が再び抱き付く。
「穂乃香ちゃん、ほんとごめんね」
「気にしないでください」
茉莉の謝罪の言葉に、穂乃香は苦笑混じりにそう答えた。
一応は、自分がユラの手を借りて、羞恥心のリミッターを完全解除してやらかしたのが原因なので、大人しく受け入れる構えである。
そこへザバザバと豪快にお湯を割りながらクルミとみどりがやってきた。
「なになにー、クルミも混ぜて~」
「みどりもみどりも~!」
二人は波長が合うせいか、いつの間にかシンクロするような動きでブンブンと両手を振りながら、最終的にみどりは穂乃香に、クルミは千穂に抱き付く。
次いで、寄ってきたアリサと奈菜が、出遅れたとばかりに、急にジャンプしておなかからダイブしてきた。
直後大きな水しぶきが上がって、一同はお湯まみれになってしまう。
「こら、アリサ、奈菜ちゃんも!」
真っ先に湯船の中で立ち上がった茉莉は、発端の二人を叱るが、クルミとみどりを起点に上がった明るい笑い声の波に飲み込まれた。
「「「あははははは」」」
いくつもの明るい笑顔が飛びかう様子に、茉莉は「まったくもう」と大きなため息をついて見せる。
それから「ほんと、しょうがないな」とこぼして、周りのみんなと同じように明るい声で笑い出した。
一方、脱衣場では、彩花が両膝をついて四つん這い蹲っている。
まるで効かないとばかりに振る舞っていた彩花だったが、実際には敏感な肌質なので、クルミやアリサの執拗な攻撃で蓄積された感触に苦しめられていた。
どうにか、荒い息を零しながら、立ち上がった彩花は、浴場から伝わってくる皆の笑い声に、新たな試練を覚悟で再度踏み込むか、このままくすぐりに弱い事実を包み隠して撤退するか真剣に悩み出す。
季節が夏でなければ、風邪をひいてしまっていただろうが、独特の感性で仲間との付き合い方を決めている彩花には、とても重大な問題だった。




