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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第三章 幼女と夏の孤島
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089 幼女、引っ張る

 撮影にこもる熱は、あらゆるものをより高めていく。

 セリフのキレ、表情の切り替え、カメラアングルの意識、そして、演者同士の空気感と、カメラを通してすら強く感じるのだから、二人の天才がぶつかり合う場において、未だ心身共に幼女であるみどりと奈菜は完全に呑まれてしまっていた。

 穂乃香を中心に美少女と幼女たちが侍る姿は、中世の絵画に描かれる女神と天使の戯れのようにも見える。

 そんな一種独特の雰囲気を醸し出した甘くも柔らかな空気の中で、自分を取り戻した千穂と穂乃香は最高の饗宴を見せていた。

「ねぇ、凛華おねぇちゃん……」

 穂乃香が幼い両の手で千穂の頬に触れ、立ち上がりながら、ソファに身を預ける千穂の顔を上に向けて行く。

 自然と穂乃香は見下し、千穂は見上げる格好となり、支配しようとするものとされようとするものの構図が際立った。

 さらには二人に当てられたみどりと奈菜も、誰に言われたわけでもないのに、千穂を引きずり込むかの如く、その体に抱き付き身を寄せる。

 その四人が生み出した構図は、モニターを真剣な顔でチェックしながら推移を見守るあおいをも容易に唸らせた。

「ねぇ、ずっとこうしていましょうね?」

 ゆっくりと穂乃香が自らの顔を千穂に近づけていく。

 そこで、わずかに首の角度を変えて、自らの髪が自分の顔はもちろん、千穂やみどり、奈菜の顔を隠さないように微調整しながら、カメラの映像を完璧に考慮して、穂乃香は唇を千穂の耳元までたどり着かせた。

 と、同時に、誘われるように穂乃香たちを抑えるすべてのカメラが、穂乃香の口元に絵を寄せる。

 あおいから演出の指示が出ていたわけでないのに、穂乃香と千穂の表情のアップを取らねばならないと、カメラマンの無意識に訴える何かが場の雰囲気にあった。

 そして、その判断が正しかったことを示すように、ほんの小さな、それでいて息を飲むほどの圧倒的な演技が、千穂と穂乃香の間で交わされる。

「私たち皆で、いつまでも」

 穂乃香のセリフをきっかけに、まどろむような目をしていた千穂が、わずかに表情を曇らせる。

 戸惑い、恍惚、苦悩、幸福、表情がころころと変わっていく様を、眉と目の動きだけで千穂は表現しきっていた。

 それは自在に顔のアップを切り取れる撮影という形式でしか、本領を発揮しない演技だが、それゆえに爆発的な説得力を持ってモニターを見守る一同に、葛藤の最中にあることを理解させ、同時にやきもきさせる。

 ほんの数分前のテイクでは、了承して台無しにしてしまったのと同一人物が、見せる演技だとは到底思えないほどの映像に、もはや声を発せられるものは皆無だった。

「どうしたの、凛華おねぇちゃん」

 声は無邪気なのに、浮かべる表情に妖艶さとそして僅かに黒さが乗る穂乃香の言葉に、千穂は目をトロリと蕩けさせる。

 その反応に、ニヤリと穂乃香が口角を吊り上げた直後だった。

 フルフルと始めは小さく、徐々に髪が舞うほどに強く左右に首を振った千穂が、消え入りそうな声で苦しそうにセリフを口にする。

「ちが……う……みんな……わたしのいうみんなは……ちがう……」

「あら、違わないわ、凛華お姉ちゃん、みて……」

 スゥッと千穂のカメラ側に添えていた手を離し、穂乃香はその手で、カメラを指さした。

 その動きで我に返ったカメラマンたちが、自分のカメラの抑える絵を思い出したかのように、ズームを調整して、最初のあおいが指示じた構図へ戻したタイミングで、ウィッチ四人組がシーンにカメラに背を向けた格好で登場する。

「みん……な?」

 視線を促された先に、穂乃香たち精霊と同じ白いワンピースに身を包んだ4人の仲間たちが立ち並んでいた。

シーンは居並ぶ四人の仲間たちを視界に収めた千穂が、笑みを浮かべて終える。

 だが、カットを掛けるあおいが目の前の光景に目を奪われてしまっていたせいで、シーンは止まらなかった。

 止まらないということは、シーンが続くということである。

 だが、穂乃香と千穂の演技は、見ている全員の目を釘付けにするほど、凄まじいものだった。

 それゆえに、出番に合わせてカメラに入れただけでも、ウィッチ組は頑張ったのだが、カットが掛からない以上はその先も求められてしまっていると演者は理解する。

 何かしなければという焦りと、ここでどう動くのかというプランがうまくまとまらず、ウィッチ組四人は無言のままそれぞれが焦りで顔色を青へと変えた。

 そこで、幼い声が響く。

「沙百合」

 穂乃香に名前を呼ばれた沙百合役の彩花が反射的に歩み出た。

「桜花」

 次いで茉莉の演じる桜花の名が呼ばれて、彩花に続いて茉莉も踏み出す。

 そこで、穂乃香がアドリブで始めた一方的に名前を呼ぶというシーンは、精霊の姫が支配する存在なのだと言外に物語るシーンを演出しようとしているのだと、居並ぶ四人が同時に理解した。

 そう理解すれば、アドリブだろうとそれに合わせて自身の中で演技を組み立て直せるだけの地力があるメンバーは見事に合わせてみせる。

 だが、遥か年下の少女にうまく乗せられたことに思うところはあるが、それはシーンが跳ねた後の話だと、四人はプロ意識を優先して見せた。

「菊乃」

 穂乃香が呼ぶ順番は、番組中で仲間になった順番であり、劇中で順番に役割が回る場合は基準となるものである。

 熱心なマニアでもある穂乃香がそのお約束通りに名前を呼び、一同がそれに従うことで、シーンとしても成立していた。

 とてもアドリブだとは思えない計算されたシーン展開に、台本を知らないゆかりや菊一郎を始めとする観客たちは、違和感を抱くことすらない。

「ローザ」

 クルミ、アリサの順で、一歩踏み出し、再び4人が一列に並ぶと、穂乃香は千穂に視線を戻した。

「どう、凛華お姉ちゃん? 皆いるでしょう? だから、安心して、一緒にいましょう?」

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